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千年ぶりだね、大英雄  作者: 十五夜
【第8章】現代の勇者
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Ss.14-1 止まらぬ緊張、追いつく者は

崖の剥き出しになった岩肌を魔法で削り簡易的な洞窟としたその場所を秋楽とサルビアは拠点にしていた。


辺りは薄らと霧がかかっていた。

尤も、夜の闇の中だと霧があろうとなかろうと関係ない。

星の光こそあるが、魔力による強化を施さなければ、常人には辺りを認識できない。


隣に居る獣人の彼女はそうでもないらしいが。


「目で見える範囲には魔物はいないようです」


猫の獣人である彼女……サルビアは、夜目がきく。追っ手の存在も考えられる為、魔法の使用は最低限に留めつつ、周囲の警戒を怠らない。

それに魔法の使用は近くにいる魔物を呼ぶ可能性もあるそうで、尚更下手な使用は避けるべきであった。


神経がすり減っていくのを感じていた。


国という存在を相手にしての逃走劇だ。

社会に反する行為とも言える。


俺は兎も角、サルビアは聖女という大事な人物のはずだ。

聖国という大国がそのような存在を放っておくとは考え辛い。それに、自分達は聖国の闇の部分かも知れない秘密を多少なりとも知ってしまった。

……だから逃げているわけだが、もし見つかった時、どのような扱いを受けるかわかったものではない。

何せ、俺はこの星では本来存在しないはずの人間。身元の保証なんてどこにも無いのだから。

それこそ、非人道的な扱いを受けても誰も助けてくれない可能性の方が高いだろう。


身震いが止まらない。恐怖だ。

今この瞬間に闇の中から追っ手が現れてもおかしくない。

この状況からどう転べば助かるのか全く想像がつかない。

逆に自身の終わり方は幾らでも想像できた。

追っ手に捕まる、太刀打ち出来ないレベルの魔物に襲われる、極限状態で憔悴しきって倒れる……。


人間、追い詰められたらこんなにも弱いなんて今の今まで思いもしなかった。


まだ、二日目の夜だというのにこのレベルだ。


お互い励まし合っているが、この先の事は話題にするのを避けている。

言ってしまったら、終わってしまうかもしれない。

直面したくない絶望が、突き付けられたくない現実が、その話題には含まれていると直感が理解していた。


唯一の救いは衛生面は心配しなくていいという事だろう。

聖女として訓練されて来たサルビアは、身体や服を綺麗に保つ魔法や水を浄化し飲み水として利用できるようにする魔法などを知っていた。

彼女がいなかったら……というのは想像したくない。

食事もサルビアが収納魔法を習得していたため、数日分の備蓄はあり、腹を満たすことができていた。

だが、いつまでも頼るわけにはいかない。いつかは底を尽くし、最悪魔物を狩って食べるぐらいはしないといけなさそうだ。


「……よし……」


覚悟を決める。


「……?」


急に声を出したからサルビアは何だろうと、こちらを見てくる。


「……話そう。これからのこと」


終わりに直面するかもしれない。でも、この話はいつかはしなければならないのだ。

このまま隠れていても疲弊していくだけ。

なら、少しでも余力があるうちに話し合って決めておくべきだ。


「……そうですね」


サルビアも覚悟を決めた表情で同意してくれた。そして、その表情の中にはどこか安堵が含まれているような気がした。

察するに彼女もいつかは言おうとしていたのだろうか。

彼女が言い出す前に自分から切り出せたのは良かった。


「外の状況がわかんない以上、いつまでも隠れているわけにはいかない。もうすぐ朝になるだろうし、どこかのタイミングで街に行って少しでも情報を……」


先ずは今の立場を客観視しながら話を進めていこう……秋楽はそう考えていた。

だが、そんな秋楽の言葉は遮られることになった。

この場にいるはずのない第三者の声によって。


「こんなところに居たのか。まったく……苦労した」


「!!!?」


「えっ!!!!?」


声の方向に目を向けると、丁度入り口のところに黒のマントを羽織り、白い仮面を付けた謎の人物が立っていた。声は機械音声のようで、声では男性なのか女性なのかも不明だ。だが、背丈からは何となく男性な気がした。


二人は警戒し、いつでも迎撃出来るように戦闘態勢を取る。

気配を全く感じなかった。只者ではないことは確かであり、その雰囲気からも明らかに実力者のようだ。


「ちょっと待った」


「何だ?」


警戒する二人を見てか、マントの人物は待ったをかけた。

秋楽はそれに答えながらも、警戒を緩めない。依然刺すような視線を送り続け、相手の一挙手一投足を見逃さないように細心の注意を払う。手をかけた剣をいつでも抜刀出来る。

少しでも怪しい動きをしたら、即斬るつもりだ。


「戦う理由はない。僕は君達を保護するために来た」


「保護?拘束の間違いだろ?」


「違う。僕はラーテル王国の人間だ。聖国の人間ではない」


「信頼出来ない。嘘なんて幾らでもつける」


「……じゃあ、そうだね。僕はナツトだよ。秋楽、久しぶりだね」


そう言ってマントの人物は、フードを外し、仮面を取って素顔を晒した。

髪の色や目の色こそ違えど、確かにそこにいた人物の顔は秋楽がよく知る夏翔であった。


「…………は……!?夏…え……」


あまりにも唐突な自己紹介だ。理解が追いつかず、何度も何度も目の前の人物の顔を確認してしまう。


「ナツト…!!えっ、初代勇者様!?」


サルビアも秋楽程ではないが、混乱していた。


「これで信じた?」


夏翔を名乗る人物は自信ありげに言った。


「夏…翔……いや!夏翔は千年前に死んだはずだ!」


そうだ、聖国の記録では夏翔は約千年前に死んだはずだ。顔が似ているからと言って、それが本人である証拠にはなり得ない。


「転生したんだよ」


淡々と答えるマントの人物。


「……だとしても、変装の可能性がある以上っ、信頼出来ない!」


本心では本物だと信じたい。死んだという事実が本に記載されていても、心のどこかで生きていて欲しい、生きているのではないかという希望的観測はあった。

だけど、もし偽物だったら、全て嘘だったら……信じた結果、たとえ別人でも親友そっくりな人物に裏切られるのはとても耐えられない。


「……はぁ…気持ちはわかるけど、そこまで拒否されると流石に凹むよ」


マントの人物はとても残念そうだった。

そりゃそうだ。形はどうあれ、誰だって親友だと思っている人に疑われるのは悲しいことに違いない。


「……何を言っても納得してくれなさそうだし、時間も限られている。悪いけど少し手荒く保護させてもらうよ」


場がピリつく。警戒度が一気に上がるのを肌で感じる。いつでも向かい打てるように剣を抜き、構える。サルビアも魔法を展開している。


マントの人物は決めたようだ。二人と戦闘する事に。

再び仮面を付け、フードを深く被った。


「多少の怪我は覚悟してね、二人共」


負けるつもりが毛頭無いことが伝わる台詞だ。

秋楽は柄を握っている両手が汗で僅かに湿るのを感じていた。


3月ももうすぐ終わりですか……。

早いものですね、1ヶ月も1年も。

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