Ep.140 高等部修学旅行⑦-捜索開始-
昼前までには学園一行は、入国手続きを終えて、獣国へ足を踏み入れていた。
自然と共に発展してきたこの国は、街の中にも多くの緑が見られる。
ナツトが今いる獣国の首都も、都市部なのに至る所に背が高く幹の太い木々が至る所に立ち並んでおり、どこか田舎のような落ち着いた時間が流れているような感覚に陥る。
普段が、建物が浮いていたり、人々が忙しなく往来している国にいるものだから、まさに真逆。異世界に来たみたいな感じだ。
そんなこの国は建物の多くが木造であり、平屋だったり、アパートみたいな数階建てだったり、建物自体の高さはまちまちだが、横や縦に長いものが多く、全体としては平べったい印象を受ける。そして、当然これらの材料はこの土地にある潤沢な木材資源から賄っている。
木造と言えば、鉄やコンクリートといった材料に比べ耐久性に劣りそうに感じるが、ここは魔法の世界。
自然のいろいろな作用によって、鉄に匹敵する硬さを誇る木材も、耐久性が凄まじ木材もあるのだ。
それに加えて、この国独自の技術により、これらの材料に撥水性や耐腐食性など様々な効果を追加で付与することができるそうだ。
また、この地域は地震が多い事でも知られている。ここまで見れば、環境的に日本と近しい部分も多少なりともある訳で、この国が木材主流で発展してきたのはある意味必然とも言えるかもしれない。
そんな獣国だが、国の頭は王様だ。一応世襲制ではあるのだが、王は皆が納得するだけの力を有していなければならない。また同時に、他国とも渡り合える知能も求められる。
皆が納得すると言うのは中々曖昧な言い方であるが、王として相応しい力を持っている事という当たり前な話である。
なければ、国を挙げての次期国王選定戦という、国一番の力を持った者を決定する戦いが行われるそうだが、ここに三百年は行われておらず、とある一族が王族として君臨しているそうだ。
……という説明を今し方、獣国歴史記念館にて知った。
獣国への旅行が一般的になって来たのが、ここ数十年の話であり、それ以前はそうでもなかった。
一般化にあたり、この歴史記念館が設立され、訪れた人々に獣国の歴史のみならず、多くの魅力を伝えるべく、様々なPRポイントが説明されている。
自然に囲まれて、居るだけで心が落ち着く国として、現代技術に辟易とした人々から親しみを寄せられている……と言うのが、一般的な獣国の評価である。
そして、獣国を語る上で忘れてはいけないのが、畏怖の三域の一つ『未開の樹林』だ。都市部は割と平和なのだが、樹林に近づく程、魔物の脅威は身近なものとなる。
平均的な魔物の強さは、ギルドの本部に隣接する『魔の領域』と比較すると弱いが、それでも未だ人類が開拓できていない領域として、その脅威度は本物である。
だが、先程の獣国旅行一般化に伴い、他国の中級以上の冒険者達も多く訪れるようになった。中でも、それなりの実力者ではあるが、『魔の領域』に行くには実力がまだ不十分な冒険者達の格好の腕試しの場として、重宝されている。
魔物が強いと言うことは、それだけ得られる素材は強力なものとなる。
コスパという観点からも、『魔の領域』より『未知の樹林』の方がいいと言う意見もかなりあるみたいだ。
まぁ、無理のない範囲で安定した稼ぎが得られるのなら良いことである。
そんな獣国で予定されているのは、観光プラス獣国の学校との交流である。
獣国に着いてすぐに、ちょっとした観光タイムが始まったのだが、後二時間ほどで獣国一と名高い学校へ向かうことになっている。
獣国に滞在するのは後三日と半日程。そして、交流は今日を含め三日間に渡って行われる。
……と言う事は、だ。
聖国から逃げて行方不明中の二人を探すとしたら、交流以外の時間に限られる。
可能な限り早く二人を確保しておきたいところだが、時間的に制限がある。
アルティオが秘密裏に捜索隊を派遣しておくと言っていたが、場合によってはそれを頼る形になるかもしれない。
聖国からの追求が考えられるため、旅程などガン無視で捜索にあたる……というのも選択肢としてはあるが、流石にバレずにやり通すのは不可能だ。
自分一人いないだけで、多大な迷惑を他全員にかけることになるし、ナツト自身それは不本意である。
かと言って、逃げている二人を無視するわけにもいかない。
難しいところだが……取り敢えず観光の二時間は捜索に充てている。
今朝の聖国で使った魔法から、聖国における二人の逃走経路をある程度把握している。
二人は聖国を南に突き進んでいた。
聖国を南に進んでいけば、やがて海に辿り着く。そして、海を挟んだ先にあるのが、ここ獣国である。
予想では、聖国の国境を抜けてから転移魔法を行使して海を越え、獣国へ向かった。
だが、獣国の北部にあるのは『未開の樹林』である。
身を隠すという意味ではリスクこそあるが、『未開の樹林』はアリな選択肢だ。
そして、仮に抜け出し、街まで来ようと考えていたとしても、まだそこまで来れていないはずだ。
転移魔法を使えば、来れなくもないが、転移魔法を使えば転移魔法を管理している管理局に特定される上、二人は不法入国の身であるので逮捕は免れないだろう。
そうなれば、聖国に居場所が完全にバレるし、ナツトとしても手が出せなくなる。
よって、二人が『未開の樹林』に留まっていることに賭けて、捜索を行う。
しかし、簡単に捜索をすると言っても、人類未開の地。舐めてかかれる相手ではない。
「まぁ、どちらにせよ、始めない事にはどうしようもないけど」
自由時間が始まると共に、適当な理由で離脱したナツトは、真っ先にギルドに行って『未開の樹林』の探索許可を取り、転移魔法や身体強化魔法を駆使して、その地の前まで来ていた。
『未開の樹林』はソロなら最低Aランク、パーティでも全員がBランク以上の冒険者である必要がある。
しかし、先の『魔の領域』の件にてAになったナツトには関係のない話だ。
特に問題もなく許可を貰い、無事足を踏み入れる事が出来た。
許可が出るまでもっと時間がかかるものと考えていたが、『魔の領域』探索済みのAランクということもあってか、大した待ち時間もなかった。
許可が降りるのが遅ければルールを破って無視してでも行こうかなと考えていたが、これに関しては嬉しい話である。
早速魔法を使う。
使うのは、聖国でも使った「空の見た記憶」である。
『未開の樹林』の領域を四分割し、それを一つずつ順に見ていく事にする。
見立てでは魔力量的には一気に全域出来なくもないのだが……一度の情報量がヤバそうだし、魔物とエンカウントする可能性がある為、一度に大量の魔力消費をしてしまうのは避けるべきだと判断した。
そして、当然逃げている二人も潜伏するなら魔法の行使は最低限度に留めるはずだし、その僅かな魔法の行使の跡を見逃すわけにはいかない。
……にしても、わかってはいたんだけど……。
「魔物……多っ」
夥しい数の蠢く魔力反応。
一体一体は弱いが数が多く厄介なモノ、強力で広い縄張りを持つモノ。
……これは、小分けにして正解だったかもな。
押し寄せる膨大な情報。
街の中で同じ手を使った時と比較すると、こっちの方が厄介だ。
小分けにした一範囲だけ見ても、魔物の数は聖国首都で使ったときに感じた人の数とそう対差ない。
これが後三つ。単純計算で、魔物の量は聖国の四倍の量だ。多い。
だが、見つけ方は簡単だ。魔物は本能で魔法を使うが、人はある程度型の決まった魔法を使う。
魔素の魔法履歴……と言うべきか、魔素の持つ過去の情報をひたすら見ていって、秩序だった魔法を使っていた履歴を見つける。そこから逆探知方式でそのときの情報と位置がわかれば、ほぼ勝ちみたいなものだ。
その近辺を重点的に調べれば、いずれは二人に追いつく……と言う訳だ。
……が、人間の魔法が染み付いたナツトの脳みそは、魔物達の使うぐちゃぐちゃな構築がなされた魔法の情報をスムーズに処理するのは難しかった。
結局、一時間半くらい処理するのに掛かり、自由時間の終わりがすぐそこまで迫っていた。
そして、今調べた範囲内には探している二人はどうやらいないようだった。
本当に残念だが、ここは一旦引き上げる事にした。
どうやら思った以上に先が長くなりそうだ。
なんかなろうの仕様変わってる………!
日付設定どこじゃい!?




