Ep.137 高等部修学旅行④-祝祭-
騒がしい朝だ。
決められた起床時刻の前から、外は賑やかであった。
遂にやって来た、勇者達の御披露目会。
世界中の人間が色んな意味で注目して来た存在。この日に合わせて各国も情報を得るべく、遣いを寄越している。
メディア関連の者達もありとあらゆる情報を逃さぬよう、数日前からいいロケーションを確保しており、既に中継が始まっているところもある。
勇者達は今日、パレード方式で聖国首都周辺の大きな街道をぐるっと一周する段取りである。
当然、警戒体制も凄まじく多くの護衛、衛兵等が街中に配備され、万が一の事が無いように目を光らせている。
さて、そんな息が詰まるような今日なのだが、そのお披露目会という名の祝祭を楽しむというのが、今日のスケジュールである。
国を挙げての祝祭だ。朝から晩まで止まる事なく行われる。
出店も出ているし、楽しみ方は自由だ。
しかし、兎に角人が多い場所が多い。自由にすると言っても、何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性も大いにある。
そこで、生徒達は複数人での移動、発信機兼通信機であるブレスレットの装着が決められている。また、治安が芳しくなく危険な道は事前に知らされ、通行禁止とされている。
普段から魔法の訓練ばかりさせられている生徒達だ。卒業後は騎士団に入る予定の者も多い。通信して教員を呼ぶ迄の時間稼ぎの自衛くらいできるだろう。
「では、先程説明した時刻までにここに戻ってくる事。遅れたら、旅行から帰った後に罰則だ。肝に銘じるように。…….では、解散!楽しんでこい!」
いつもは厳格な強面教師が快く生徒を送り出す。事前に決められた班ごとに集まっていた生徒達は皆移動を開始する。
やはり多くの生徒達が勇者に関心があるようで我先にと、勇者達がよく見えそうな場所へ向かい始める。
「……さて、屋上にいきましょうか」
「そうだね」
「そうですね」
ナツトは班員と共に残っていた。
メンバーはチェルーティア、イアノンとナツトの三人。
結局、いつものメンバーになるんだなぁ…と感じつつ、事前に決めた場所へ向かう。
ホテルの屋上。緑が多く落ち着く空間であり、憩いの場として使われている。
ベンチも設置されているので、ゆっくり腰掛けながら街を一望することができる。
また、このホテルは勇者が通る予定の街道のすぐ近くにあるため、変に人混みに入るより、ずっと楽に勇者達を見ることが出来るはずだ。
そして極め付けは、このホテルのある一画は学園が貸し切っている状況であり、名も知らぬ他の一般客の邪魔はあり得ない。
まさに灯台下暗し。自由にしていいと言われて、ホテルの屋上に行こうと判断出来る人間は一体どれだけいるのだろうか。
多分だが、ここまで好条件が揃う場所なんて他にないだろう。
それに、だ。
ブレスレットをしているとは言え、チェルーティアやイアノンという人達を押され引かれる人混みの中に連れてはいけないだろう。
連れ出すならせめて、勇者達のパレードが終わり、少し人が落ち着いてからだ。
絶賛、お茶会中である。
屋上に丁度良い円形のテーブルと椅子があったので、三人で向かい合うように腰掛け、昨日の観光中に購入したお菓子をお茶請けとして、紅茶を飲んでいる。
「あら、このお茶美味しいわね。酸味が少しあるのもいいアクセントになってる」
「昨日、色んな種類の茶葉を売っていることで有名なお店を見つけて買ったんだー」
「シャックは相変わらず抜け目がないね」
好評そうで何よりである。前々から気になっていた店だったが、他国へ行くことは少し抵抗があった。転移魔法でちゃちゃっと行けたら楽なのだが、国際間の転移魔法は「国際間転移魔法装置」の使用が義務付けられており、破れば逮捕されてしまう。そして、高い。兎に角高い。他の交通手段との兼ね合いや圧倒的時間効率の観点から転移装置は使用料金がアホである。
だから、今年の旅行費は馬鹿高く、各家庭は驚愕したらしいが、流石に学園から転移魔法分の料金は支払われており、例年通りの旅費になっているそうだ。
かと言って空路は時間がかかる。
という訳で、行けてなかった。
いつも生徒会で使っているのは王道な茶葉なのだが、たまにはこういう物もいいかもしれない。他にも買ってあるし、舌は確かな生徒会の面々に味見してもらおう。ははは。
「でも、シャック……本当は近くで見たかったよね?ごめんなさい、私たちの都合を押し付けちゃって」
「え?あぁ、気にしなくて大丈夫だよ。ここから見た感じ、規制線があるし街道の中心部からも離れている。勇者達がどう来るかは分からないけど、見辛いのは確かだと思う。なら、楽に一望出来る屋上が一番いい」
「そう……」
それでも何か思うところがありそうなチェルーティアであったが、それ以上この話題については言及しなかった。
それから三人は他愛もない世間話をして時間を潰していた。
屋上には、護衛と数名の教員こそいるが、状況的にはいつもの学園内と同じ。よって、ここでは口調に気を配る必要もなく楽に話せる。二人もこの場は堅苦しいのはやめてくれと、護衛に聞こえるように露骨に大きな声で言って来たし、王族命令とあれば逆らうわけにもいかない。
それに、この二人が狙われる可能性もある。屋上という開けた場所であるし、念のため、いつどこから襲撃されても対応出来るように準備はしている。
「……そろそろ出て来てもおかしくないが…」
「確かに…もう二十分も過ぎてる」
三人とも薄々感じていた事を、イアノンが言った。事前に知らされていた時刻は過ぎている。イベントにトラブルは付き物であるが、国を挙げてのイベントが遅延するというのはそれなりの理由があるはずだ。
まぁ、一見物人からしたら中止にならない事を祈るぐらいしか出来ることはないだろう。
「あ、出て来たみたいね」
教会周辺に花火が打ち上げられた。流石にコレは勇者達が出て来た合図だと見て間違いないだろう。
定刻は過ぎたが、祝祭が行われるようで取り敢えずは一安心だ。
予定では一時間後に勇者達が一番近い場所を通る。
つまり……待ちである。
「勇者として召喚された人達だが、噂では全員私達とそう歳が変わらないそうだ」
と、イアノンが言った。
ナツトはアルティオ経由で聞いているが、勇者の事は隠されている。そのため、噂程度までしか勇者のことは言われていない。年齢はもとより、名前、人数すら発表されていないのだ。
「昨日見た人も確かに同い年ぐらいだったね」
なので、一昨日流星が公の場に現れたのはかなりやばい事なのである。
「申し訳ないなっていつも思う……親や友達といった向こうで築いてきた繋がりを一切断ち切って、魔王を倒すというこちらの星の事情を一方的に押し付けて」
チェルーティアがそう言葉をこぼす。
「ラーテル王国と聖国の関係が悪い要因の一つだね」
「そうね。規模が大きい人権問題。多くの人が気付いてないフリをして見ていない問題」
「カーリエ教に勇者が救世主だとした記載しているから、聖国としてもやめるわけにはいかないのだろう」
「聖女みたく、育て上げるのは無理なのかな?」
「難しいだろうね。勇者の定義に召喚の有無が関わっている」
こんな聖国に怒られそうな話題をわざわざ聖国でやっている三人だが、そんなことを気にするものは一人もいない。
「魔王なんてこの世界にいる戦力だけで勝てそうなものなのに」
丁度いいので、この世界の戦力について、みんなの考えを教えてもらおうと考えた。
「実際そうだろう。私もラーテルへ留学する際に国王陛下に謁見したのだが、身も震えるほどの力を感じたものだ。魔王がどこまでの実力を有していたとしても、あのお方を越えるとはとても思えない」
「お父様は力の凝集体みたいな人だからね。お父様とお母様、そして三友の方々は存在自体が理不尽みたいなものよ」
「三友……そう言えば、かの有名な初代勇者ナツト様も私達と同じぐらいの年齢で召喚されたそうだね」
懐かしい話だ。あの時は十六歳だった。
確かに学園の最高学年の年齢は十五から十六歳だ。ほぼ同い年であるのは間違いない。
「ナツト……」
「巷では転生説や復活説等言われているそうだが……実際のところどうなんだろうね」
これまた懐かしい話だ。最近はあまり聞かない話だが、ナツトの死後千年後の節目の年にかなりホットだった話題だ。
まぁ、結局噂止まりの話だ。
「可能性は十二分にあると私は思うわ。ねぇ、シャック?」
「え!?あぁ、そうだね。僕もそれには同意かな」
急に名指しで振ってくるものだから驚く。
「成程。実際に会ってみたいとか思うかい?」
「うーん……まぁ会えるならって感じかな」
会いたいか?と言われても僕がナツト本人なのだから……ねぇ?普通になんと答えるべきか分からない。取り敢えず適当に言ったけど、違和感はないかな?
「……私は会って一対一で話したい」
「へぇ、何故か教えてもらっていいかな?」
「単純に聞いてみたいことがあるだけ。それは内緒だけど」
笑みがなんか怖い。
さっきから含みのある言い方しかしないよ、この王女サマ。
イアノンにバレないように上手くこっち見てくるんだけど、半ば確信までには至っているようだ。
「来たね」
気が付いたら、人々の歓声が大きくなって来た。すぐそこまで勇者達が来ている証だ。
遠視魔法を行使する。そこいら中に警備の者達の気配があるが、流石に遠視魔法を行使するだけで何かしてくることはないだろう。
他にも使っている人はごまんといるし、堂々と使っているので何も問題はない。
そして遂にその視界に勇者達を捉える。情報のみで悶々としていた日々。ようやく直接その顔が見られる訳だ。
情報通り、全員若くナツトと同年代ぐらいだ。
勇者達はテーマパークのパレードみたいに大きな乗り物に乗って、手を振っていた。
先頭…進行方向に流星が立ち、忙しなく左右に笑顔を振りまいている。
もう一人男性がいるが、どこか不機嫌そうだ。
まぁ、こんな大変そうな行事は、積極的に参加したい派としたくない派で分かれるものだ。きっと彼は後者なのだろう。
名前は確か、皇次郎だったかな。
そして、後二人は女性だ。
一人は知らない人だ。名前は桜。緊張している様子がよくわかる。
もう一人は…………そっか、情報通りなんだな。間違っていて欲しかった。美春……君も来たのか……。
…………あれ?一人いないよね?
情報通りなら秋楽という人物がいるはずなんだが、姿が見当たらない。
厳密には彼は勇者じゃないから省かれた?いや、でも軋轢を生みそうな原因を今作る必要があるのか?
じゃあ、なんだろう。体調不良かな?いや、そんな訳ない。例えそうだとしても、魔法が何かで誤魔化す。今日という日に御披露目しないのは変だ。それに勇者じゃないにしても、召喚者である彼を別で分けるよりかは、勇者として公言して置く方が楽なはすだ。
と言うことは、それに値するだけの理由があるはず。
……もしかして、開催が遅れた理由は秋楽関連なのか……?
秋楽のことを考えながら、祝祭を見守る。勇者達は皆、特注の装備を身に纏っており、それぞれが持ちやすい武器を腰に掛けたり、背負ったりしている。
流石は聖国。いい武器だ。一眼見ただけでも一級品であるのは確かだ。
ナツトは勇者達が見えなくなるまで、見続けていたが、結局最後まで秋楽らしき人物を目撃するには至らなかった。
そこから先は、人がそこまで多くない通りを狙って、王族お二人様と観光だ。
念の為、髪の色や目の色を変えて、地味に見えるように変装してだ。
二人とも、楽しんでくれたみたいで良かった。
まぁ、ただ護衛の気持ちはよくわかった気がする……とだけ、言っておこう。
「はあーーー」
自室のベッドに倒れ込む。湯浴みも済み、明日のスケジュール確認の時間も終わり、寝る支度も済ませた。
後は寝るだけだっていう状態である。
今日も今日とて、疲れた。
日中は疲れ知らずで回っていたが、やはり人の多いところに居続けると後に疲れが来るものだ。
とは言え、まだまだ修学旅行は続く。
寝るか……そう思った時、ズボンの右ポケットに入れているものが振動した。
通話着信である。
相手は、もちろんアルティオだ。
今日は早めだな。まだ消灯時間ちょっと前だ。
幸い、同室のウルヴァロはすでに寝ている。良い子だ。
「お疲れ様」
前と同じように、周囲に防音結界を張り、通話を始める。寝るのは少しお預けだ。
「毎度急で済まないね。早速本題だが、今からなら大教会に行って欲しいとお願いしたら、君は行くかい?」
さっきまであった眠気が一瞬にして無くなった気がした。いや、実際無くなったのだろう。
「理由を聞かせてもらっていいかな?」
寝るのは当分お預けだな。
どうやら、今夜はまだまだ長いようだ。




