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千年ぶりだね、大英雄  作者: 十五夜
【第8章】現代の勇者
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Ep.135 高等部修学旅行②-最初の出会い-

「涼しい!丁度いい温度!海外来たぞー!」


聖国の国際間転移魔法陣を管理する転移魔法管理局の建物から出るや否や、ガルノラルクが叫んだ。前世、今世含めて二度目の海外で、非常にハイテンションのご様子だ。


「温度……?景色とかじゃなくて?」


その内容に違和感を覚えたウルヴァロがつい突っ込んだ。


「なーに言ってんだ、ウル。温度は大事だろ?」


そのツッコミに対して、何当たり前なことを聞くんだ?……と言うふうに真顔で返す。


「そう…なの……かな?」


「何で疑問系なんだよ?前行ったトコは暑過ぎてぶっ倒れそうになったんだぞ?暑いのはその国の大事な特徴なんだけど、温暖な気候に慣れた俺は暑いのはどうも苦手なんだよ」


「そ、そうなんだ」


「お!景色もいーな!」


「い、忙しいね……」


後ろが騒がしいが、気にしない。


……真聖カーリエ国。この世界最大規模の一大宗教、カーリエ教を信仰する宗教大国だ。

数百年前に革命が起きて、派閥の入れ替わりが起き信仰する神が変わったが、国としての形は千年前から残っている。いや、それよりも前からだ。

国土も広く、海に面しているため貿易も盛ん。

そして、総本山たる巨大な教会がある首都ルンドルヴァラガの真下には、星の魔力が湧き出すポイントがあり、その膨大なエネルギーを用いて発展を遂げてきた。

この点は、ラーテル王国と同じだ。

ラーテル王国も星の魔力の力を利用して世界一の技術大国にのし上がった。ちなみにその湧き出る場所は王城の真下にある湖の湖底であり、この地点には『永久の迷宮』も合わせるように存在する。


聖国の管理局の近くには既にバスが停まっていた。それぞれ決められた車両に乗り込み、バスは出発する。

まぁ、バスといっても空を飛ぶバスだ。タイヤなんてものはなく、進む道も地上の道ではなく、地上五十メートル程の高さを維持して、目には見えない空路を走行する。


目指すは首都ルンドルヴァラガである。


三十分程進んだところで、首都がその姿を見せる。中心に向かって標高が高くなる地形のようで、その中心にとりわけ大きな建物が聳え立っている。

あれが総本山、中央カーリエ大教会。勇者達のいる場所だ。

首都の建物は一言で言うと尖っている。白を壁の色にしている家が多く、その屋根はかなり鋭角であり、まるで帽子をかぶっているようだ。

家の大きさは勿論のこと、屋根の色は様々だが、一軒一軒がサイズ関係なく、どこかお城のような印象を受ける。

ラーテル王国は、技術がイカれて建物が浮いていたりして「ファンタジー?SFじゃなくて?」となるが、聖国は、順当に発展してきたファンタジーだと素直に感じられる。


バスから街の様子を見ていると、街の至る所に装飾が施されている。

当然だ。明後日に待ちに待った勇者が大教会から初めて出てくるのだから。

国総出のお披露目会をするぞ、という強い活気と意思がダイレクトに感じられる。


これからの予定だが、大教会に行く。

こんなにも行きたい場所にすんなり行けるとは日程表を渡されるまで思わなかったが、嬉しい話である。

というわけでこのバスは大教会直通の特別便なのだ。

お披露目会の準備で忙しいはずなのに、入れてくれるのは有難い話だ。

まぁ、入るのは観光名所としても知られる大聖堂までなので、勇者に会えることは期待していない。一般客もいるだろうし、飽くまで観光だ。


おっと、考えている間に到着したようだ。

バスのすぐ下に大教会が見える。こうしてみると本当に大きい。ラーテルの王城よりかは多少小さいが、それでもナツトがこの世界で見た建物の中で二番目に大きかった。

建物の随所に施されたステンドグラスの装飾がいい味を出しており、建物の美しさを醸し出していた。


「ようこそ」


入場許可が降りて、順番に入る。

出迎えたのは、なんと教皇ギフト。

にこやかで親しみやすそうな笑みを浮かべていた。

例年だと、出迎えるのはこんな上の立場に立つ人間が学生をで迎えるなんて事はあり得ない。だが、今年は他国の王族……いや、ラーテルの唯一の王女がいる。

言い方は悪いが、下っ端に任せる訳にはいかないと言うことだろう。

……まぁ、それでも忙しいの極みにいるであろう教皇が出て来るのも相当な話であるだろう。


そしてこの予想の通り、教皇は王族組の対応をしている。今は、チェルーティアを値踏みするように見ている。二人とも親しげに挨拶を交わして、歩きながら話しているが、腹の探り合いとはまさに目の前の光景のことを言うのだろう。


……というか、今更だが、世継ぎが一人しかいないラーテルという国は大丈夫なのだろうか。

普通は何人もいるはずだが……まぁ、肉体を捨て悠久の時を生きられるようになったラーテルの上層部からしたら、さしたる問題でも無いのかもしれない。一人の王がその座に座り続けるのはメリットもあるしデメリットもある。

それでも、千年は続いているのだし、民からの信頼も厚い。

アルティオがどう考えているかはわからないが、王座を譲るつもりは無いのかもしれない。


……ん?


教皇が一瞬だがこちらを向いた。チェルーティアに続き、イアノンと挨拶するその前、本当にほんの一瞬だったが、確かに目線が合った。


あぁ、そうか。確かにその可能性もあったな。

何せ、召喚魔法を世界に齎した国だ。千年前だと間違いなく世界に先駆けて魔法が進んでいた国だ。

ここにいるシャックという人間の正体に勘付いている可能性もある。


もし気付いているなら教皇が出て来た目的はチェルーティア、イアノンそしてナツトの確認か。


……しかし、シャック=ナツトだとわかっているなら、この国はシャックは初代勇者の生まれ変わりだ!とか言いそうなものだ。

その場合、間違いなくラーテルとの関係は過去一番に悪くなるだろうし、面倒な事になるのは間違いない。現状、ラーテルと聖国は仲が良くないだけで、聖国は別に悪い事をしているわけではない。……裏では知らないが。

だが、ナツトを奪い合う展開になればどう足掻いても二国間の関係は悪化するが、勇者に固執するこの国なら、全然やりそうなことではある。

魔王を倒したいのなら、不確定要素しかない召喚よりも、過去の実績があるナツトを引き込もうとしておかしくない。

そうしないということは、わかっていないか、確信が持てていないのか、何か意図があるの三択だろう。


前二つはいいとして、意図があるとしたら何だ?ラーテルとの決定的な確執を避ける為?無知な人達を喚んで思うままに動かす為?それとも召喚する事に意味があるのか?

どれもそれらしい考えだとは感じるが、正解かなんてわかるはずもない。


だが、聖国がナツト関連の事で騒ぎ立てていない現状はナツトにとっては好都合であるので、その点はいいことだ。


「お!ボクと同じくらいの人達だ!絶対学生だ!」


そんな時だ。この場に相応しくない大きな声が、大聖堂に響いた。

一瞬、場を弁えない輩が現れたのかと思ったが、直ぐに違和感に気が付く。

聞こえた大声が、日本語である事に。


バッと勢い良く声のした方向を見る。

そこには、高そうな服を見に纏い、宝石で装飾の施された長剣を腰に掛けていた。誰から見ても、いかにもな見た目であり、極め付けはその顔立ち。間違いなく日本人である。


その姿を確認するや否や、ナツトの脳内では事前に知らされていた勇者の情報との照らし合わせが行われていた。


髪型は整髪剤で整えられて多少異なっているが、間違いない、この人物は赤河流星だ。確か、情報では有する力は「永続」で、自意識過剰なところがあるとか。


かなり大きな声だったから、生徒のみならず周囲の一般の人からも注目を集めていた。

人々の中には、この世界の住民とは異なるその姿を見て、もしかして……と勘づいている者もいた。

流星は、それに関しては気にせず、学生を左から右に見ていく。そして、あるところで目は止まる。どうやらとある生徒に釘付けになったようだ。


そして彼は視線を気にせずズカズカとその人物目掛けて歩いて行く。


「や、やぁ!こんちには!君の名前は?」


その人物の前で止まった彼はいきなりそう日本語で切り出した。


「………え………」


その人物は、チェルーティアであった。まさか、自分に話しかけて来るとは思っても見なかった彼女は困惑で一瞬固まる。しかも、知らない言語で、だ。魔素を介しているので、意味はわかるが、急に知らない言語で話しかけられると、そりゃ困惑するだろう。

この勇者様は、召喚されてからそれなりに時間が経つのに言語を習得すらしていないのか。いや、しようとしていないのか。


「ご機嫌よう。ラーテル王国王女、チェルーティア・オル・ラーテルで御座います。それで……貴方様は?」


しかし、すぐに切り替え王女様モードで美しい笑みを浮かべて挨拶を返す。服装や見た目からこの人物が勇者だと判断しての王女様モードだろう。だが、その丁寧な物言いの最後には、遠回しで「……で、貴方は誰ですか?先に名乗りなさい」と言う辺り、彼女は少し怒っているようだ。


「あ、ボク?ボクは流星!赤河流星!勇者パーティのリーダーでこの世界の主人公だ!」


……ん?????

何言ってるんだ、コイツは?

聞き間違いかな?いや、記憶を何度振り返ってもそう言っている。

主人公?ごめん、ちょっと待って。自意識過剰気味って聞いていたけど、そう言うことか。

現実にそんな事を真顔で言う人は初めて見た。


少なくとも彼の表情、言い方からして、「みんな一人一人が主人公」といった励ましの意味での自分は主人公だって言う感じではない。


そう言う意味だとわかるからこそ、受け手側は反応に困る。彼の勢いも相まって余計に、だ。

ホラ、チェルーティアなんて笑顔のままだけど固まっている。きっと、どう返せばいいか悩みに悩んでいるだろう。あんな彼女は初めて見る。ある意味、レアではある。


しかし、情報で聞いていた人物像とは随分と異なるな。話だと、人の喧嘩に割って入ったりするような人物と聞いていたので、てっきり人を引っ張るような情熱があるような生徒会長的な人だと思っていたのだが、環境で人が変わったのか?


そして、彼の「勇者」宣言に場が騒然とする。まさか、お披露目会を前にして人前に姿を現すとは思っていなかったらしく、先生方でさえ困惑している。そして、チェルーティアの護衛でさえ、相手が勇者となれば下手に動けなくなっているようだ。


「そうなのですか」


そして、出て来た言葉がこのザマである。非常に淡白な感想で、とても王女のものだとは思えない。


「それにしても王女さまだなんて、凄いな!どうりで可愛いわけだ!」


「…あ、ありがとうございます」


凄いな、コイツ。王女と知って尚、そのノリで話を続けられるとは。


「……ホントに可愛いな〜。……っ!そうだ!君、ボクとつきあ」


「勇者様!失礼ですが、それ以上はお控え願います」


ちょっ、あっっぶな!コイツ、危なすぎる!

自分自身の影響力をご存知ではないのか!?


次の瞬間には何をしでかすかわからない爆弾みたいな奴だ。

思わず会話に乱入してしまったが、後悔はしていない。寧ろ言い切る前に邪魔できて安堵している。

このまま放置していたら間違いなく大問題になっていた。もしかすると、自身が思い描いた言葉を言わなかったかも知らないが、人の目が多くあるこの場で、そう言う噂話が立って仕舞えば面倒な事この上ない。

……全く、護衛は何をしているんだか。勇者相手に下手な事はできないかもしれないけどさ、王女を守れよ。仕事だろう?


「何、君?勇者の言葉を遮るなんて不届きだよ。これは、ボクと彼女の会話だ。失礼だろ?」


まぁ、怒るよな。しかも告白の瞬間を邪魔されたら。

……彼の言葉の最後の方に関しては、どの口がって言ってやりたいが……落ち着け、ここは我慢だ。

先ずはこの場を切り抜けるのが先だ。

周り一般人から向けられる、うわあいつ会話を邪魔したよ……って言う突き刺さるような視線もなんか嫌だし、変な外聞が付く前にちゃんと対処する必要がある。


「それは申し訳ございません。王女様が可憐なのは確かですが、そのご身分ゆえ、たとえ口約束でも、その御身おひとつで国際間のバランスを崩す恐れがあります。どうか御理解の程お願い致します」


深々とお辞儀をしながら、それらしい言い訳を並べる。チラリと勇者の表情を見ると、残念ながら納得していない様子。

これは、長期戦覚悟かな……と思ったが、思わぬヘルプが入る。


「そうですね、リュウセイ様。私からもお願いしましょう」


教皇である。ここまでまるで空気になったかのように振舞っていた彼がナツトに助け舟を出して来たのだ。


「教皇さん……でも」


「リュウセイ様、彼の言う通りです。下手に約束を取り繕うものなら、愛娘が為に彼の国の王が何をするかわかりません。私達からしても、ラーテル王国という大国との関係悪化は避けたい事ですから」


「…………」


依然不服そうではあるが、見知った教皇から直々に言われると流石に言い返す事はないようだ。

何故、傍観していた教皇が助けて来たのかはわからないが、両国間の安寧は一先ず守られた。


「貴方様が彼女と親密な関係になりたければ、それこそ箔が入ります。貴方はまだ、何も成していないただの勇者なのですから」


流星にだけ聞こえるように彼の耳元で呟いた、非常に小さな台詞が無ければだが。


聴力を強化してなければまず聞こえなかっただろう。

だが、それを聞いて不機嫌が治ったようだ。教皇の遠回しでの魔王を倒せと言うメッセージ。

仮に彼が魔王を倒したと言う実績が出来たら、再びアプローチしてくるのだと考えたら、憂鬱でしかない。

チェルーティアからしたら、是非ともやめて欲しい話だろう。


「それでは、引き続き我が国での観光をお楽しみ下さい」


やる事は終わったのか、教皇は後の事を引継ぎの者に託したら、流星を伴って大聖堂の奥へと消えていった。


「ふー、なんか疲れた」


教皇が介入してくれた事で、周りの嫌悪するような視線は多少はマシになった。

生徒からのそう言った視線は少なくほぼ無いが、やはり何もナツトのことを知らない一般人からの冷たい視線はどうしようもない。

でも、その辺りをわかっている人からの賞賛の視線も感じられるので、結果としては上々だろう。


にしても、勇者はあれでいいのか?

第一印象は既に最悪だ。自身の後任とも言えるのに魔王討伐以前の問題がありそうだ。


「あの、シャック……その、ありがとう」


「気にしないで下さい。自分が出来ることをしただけです」


「……うん」


妙に塩らしい。普段の勢いがない。

いきなり詰め寄られて、彼女も少なからず怖かったのかもしれない。


「災難だったね」


「イアノン…様。……どちらにいらっしゃったのですか?」


そしてこのタイミングでイアノンが戻って来る。全く、今の今までどこで見ていたのやら。


「済まない、教皇に捕まってずっと話し相手にされていたんだ」


と思ったら、教皇に捕まっていたのか。

なるほど、あの教皇……イアノンと話すと言う口実を作って会話に口を挟まなかったのか。

自分が介入しなかったから、最後まで傍観するつもりだったのか?

関係悪化がどうこう言っていたが、嘘だらけだな。


「だが、あの状況はシャックじゃなければ抑えられなかった。他国の王子である私が口を挟んだら、かえって話をややこしくした筈だ」


「まぁ……確かに、そうですね……」


イアノンの言う通り、確かに彼が介入した場合余計面倒な事になりそうだ。

チェルーティアとイアノンは別に恋仲でもなんでもないが、会話の流れがそういう感じだったので、王子の彼が会話の輪に入った場合、完全に三角関係にしか見えなくなる。

色んな方面に迷惑をかける事態になっていた事は確かだろう。


「それに、私には婚約者がいるからね。変な噂が立ったら彼女に殺されてしまうよ」


「……えっ!!?」


「うそっ、いるのっ!?」


先の流星とのやり取りを忘れてしまう程の衝撃を喰らった。


「君達、失礼な反応だね。公表してないけど、私は仮にも王位継承者だ。いるに決まっているじゃないか?」


言われてみれば……ではなく、そりゃそうだ。

そうだよ、普通はいるに決まっている。ラーテルが例外なのを忘れていた。

外の国は、世襲制だ。王の寿命は有限だし、世継ぎは必須。


「じゃあ、いない私は一体……」


隣でチェルーティアが何か言っているようだ。


確かに、常識に当てはめるとこの歳になっても婚約者どころか付き合っている人すらいないチェルーティアはかなり可笑しいのだ。アルティオは過保護が過ぎるのではないだろうか。


そんなこんなで、色々あった大教会の見学は、イアノンの衝撃発言を以てして幕を閉じたのだった。


いつもより長くなってしもうた。

変に切るのもアレだし、別にいいケド。

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