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千年ぶりだね、大英雄  作者: 十五夜
【第8章】現代の勇者
167/214

Ep.133 発表会と密会と……

「よし、到着っと」


ナツトは転移魔法である場所に到着した。

既に多くの人で溢れており、その殆どが道を進んだ先に見える大きなドーム状の建物に向かって歩いている。

よく見るとナツトと同い年ぐらいの人が多い。

つまりは、学生が多いのだ。


ここは、とある広大な敷地を持つ自然公園の中。あのドーム状の建物は、文化記念館と呼ばれるもので、年に一度学生を対象とした、様々な分野の発表会及び表彰式が行われているのだ。


今日はその発表会当日。

ナツトは学園のサークル活動の一環で来ていた。

ナツトが参加しているのは開発部門。

やる事を簡単に言えば、魔法陣を非常にコンパクトに詰め込んだドローンの発表である。

生徒会やら、王様関連の用事など何かと忙しい日々の中で作った物だが、こうした場で評価されるのは嬉しい話である。


「シャック先輩!こっちです!」


会場に向かって歩いていたら知っている声に呼びかけられた。

声の主を見ると、サークルの後輩だった。

邪魔にならないよう道の端のほうにいた。

彼の周囲には、同じくサークル仲間が集まっていた。どうやらここが集合場所らしい。


「お早う」


「さっき部長から連絡がきまして、もうすぐ入場手続きが終わるそうです」


「相変わらず仕事が早い」


以前までは部長をしていたナツトだが、今では一般部員である。

最高学年になるにあたり、一個下の後輩に引き継いだのだ。今の部長は真面目で几帳面な人で、適任だと感じている。


手続きが終わるまで、適当に世間話をした。

サークル活動はこうして後輩との話す貴重な機会に恵まれる。普段の生徒会とは違った楽しさがあるのだ。


手続きが終わるとすぐに入場作業を始めた。

入場作業が行われる会場エントランスは多くの人で溢れていた。

掻き分けるようにして進んでいき、入場の列に並ぶ。

先に準備が必要な発表者が入場する。


今日来ているのは、発表する人とその他である。その他はどんな発表があるのか見に来た者達だ。参加は任意だったが、出席率は高く、彼等の意識の高さを感じられた。

その他は人も多いためか、発表者より少し遅れての入場になる。




中に入れたら人の密度はマシになった。

人の隙間を素早く通り抜けて行き、入場の際に教えられた発表場所に向かう。


場所は会場四階のとある大部屋。どうやらこの階層は同じ構造のものがいくつも並んでいるようだ。

一部屋あたり大体十人程が与えられたスペースにて発表を行うようだ。

準備自体はすぐに終わる。周囲の名も知らない人達がせっせと準備するのを眺めながら、ナツトは収納魔法の中に入れておいた水筒を取り出し、温かいお茶を飲んでいた。


人が来るのを待つこと三十分程。ようやく始まったようだ。徐々に廊下が騒がしくなるのを感じる。

とは言え、ここは四階。沢山の人がいることや、建物自体の構造からして、下の階の発表から見る人が多いようだ。

そんな訳で最初の方は人は少ない。だが、上の階から見始める効率的な人もいる訳で、まぁ人それぞれだ。

発表者は見物人がやって来て、説明を求められたら説明する的な感じだ。

勿論説明以外にも、実際に動かしてみたり、触ってもらったり、アピール方法は沢山ある。


聞いた話では、学生の他に企業の人も来ているそうで、若者の柔軟な発想を見に来ているそうだ。


まぁ、誰が来ても別に関係ないのだが、注目度が高いイベントであるということだ。


「君、是非とも君の発明品を紹介してくれないかな?」


「あ、はい」


そんな事を考えていたら、説明を求められた。

少し前にこの大部屋にやって来た人で、入口で渡されるパンフレットを見ながら真っ先にナツトのところに来た。

別に知り合いという訳でもなく、初対面なので不思議な感じだ。

その人物は、パッと見の印象が三十代ぐらいのイケオジだ。鼻下の髭が特徴的だ。あえて無造作に見えるぼさっとした髪型はラフな服装に似合っていた。服越しだが、シルエットはかなり細い。

記憶を全力で探すが、やはり知らない人物だった。

……誰だっていいか。どうせこれから下の人達が押し寄せるし、今日のナツトの仕事はひたすらに話し続ける事なのだから。


余計な思考は排除して、準備していた説明を始める。実際に装置を動かして、説明を行う。予め装置に仕込んでおいた今日の為の資料を、装置にデフォルトで付けてある三次元的な立体投影システムを用いて見せる。

その他魔法の運用やどう言った場面を想定しているかなど色々語った。

粗方語り終えると今度は質問だ。この手の専門の人なのか、なかなか難しい質問を投げかけて来た。

そして、その質問に出来うる限り丁寧に説明を行う。そんな調子でお互い話し合うものだから、ついつい長くなってしまった。


「おっと、もうこんなに人が……長くなってしまった。済まない」


気が付いたら大部屋の中には多くの人がやって来ていた。装置を使って目一杯説明していたからか、かなりの注目を集めているようだ。


「いえ、沢山の質問ありがとうございました」


「こんなに話し込んだのは久しぶりだ。……是非ともウチに来て欲しいが、勝手に勧誘したら王様に怒られてしまうから、ここいらでお暇させてもらうとしよう」


周りに聞こえないようにナツトにだけ聞こえるように小さな声でその男性は言った。

その言葉で、察する。なぜこの男性が沢山発表者がいる中、真っ直ぐナツトの場所に来たのか。


「……成程、そういう事でしたか」


アルティオ関連だったのだ。しかも話ぶりからするに、シャック=ナツトのことを知っているようだ。となると相当信頼されている人物だ。アルティオも話しているのはごく少数と言っていたし、まさかこんな場で出会うことになるとは。


「申し遅れました。ザラトマラと申します。またお会いしましょう。発表、応援しています」


イケオジ……いや、ザラトマラは名刺をナツトに渡して去って行った。

ちらりと名刺に視線を落とすと『技術省機密開発部 副局長』と書いてあった。凄い人だった。

無くさないように名刺を収納魔法の中に仕舞う。


視線を戻すと、沢山の人がいた。その目線から説明を欲しているのは明白であった。


そこから先は怒涛の説明ラッシュであった。時間が過ぎる事さえ忘れるぐらいにひたすら話し続けた気がする。

数時間があっという間に過ぎ去り、表彰式さえも気が付いたら終わっていた。ここまで時間の経過が早いと感じるのは久しぶりだった。


疲れた。あ、でも今日はアルティオと話す約束を入れていたな。まだ時間はある。お風呂に入って軽く仮眠を取ろう。

疲れたとは言え体は若い。多少の休憩さえ取れればすぐに回復するだろう。もし、それでも疲れているようなら疲労回復魔法でも掛けて誤魔化しておこう。


何はともあれ、これで高等部の修学旅行前の大きなイベントは終わりだ。まだ大きなイベントが控えているというのに、やり切った感を感じる。
















「……また、あの部屋明かりが……」


まだ深夜までとはいかないが、それなりに夜遅くと言った時刻。

自室にいたその人物は、再びそれを見た。

城の遠くのとある部屋。今は物置として使われている場所だ。

たまにあそこの部屋に明かりが灯る。いつもそれは夜で、人の目を避けているような感じがするのだ。まるで誰かの密会が行われているような……。

いつも見に行ってみようかな、という好奇心が湧いてくるが、間が悪く、彼女が気付いて少ししたら灯りが消えるのだ。

経験上、日付が変わるぐらいに明かりそうは消える。

だが、今日は気付くのが早かったので、日付が変わるまでまだ余裕がある。


ドクン……と心臓がいつもより大きく鼓動した気がする。

抑え込んでいた好奇心が湧き上がる。ずっと気になっていたあの部屋の真実を知りたいという気持ち。一体誰が何の目的で使っているのか。非常に興味がある。


「ふふ、部屋を抜け出すなんて子どもの時以来だなぁ……」


彼女……チェルーティアは静かに部屋の扉を開けながらそう呟く。幼い時は夜の城を探検するのが楽しくよく部屋を抜け出していた。

学園に入学してからは、その頻度は次第に少なくなり、数年も経つ頃には抜け出す事はしなくなった。

こうして、人がいないか確認しながらコソコソするのは童心に帰った感じがしてどこか懐かしい。

だが、あの頃とは明確に違う点はある。日々の能力やら魔法の訓練で、学園前の頃とは比較にならないほど魔力の扱いが上手くなった。

そのおかげで、完璧に気配を絶って廊下を進むことなんて朝飯前だ。

魔法が使えないから、明かりの部屋まで行くのには徒歩限定になるが、下手に魔法を使ってバレるよりかは何倍もマシだ。


月明かりを頼りに廊下を進む。

部屋を抜け出しているというハラハラ感こそあるが、過去の経験からこの時間は殆ど人には会わない。ましてや物置代わりの南館など滅多に夜間の監視はないだろう。


「ふう」


少し息が上がっているが、問題ない。

十分ほど早歩きで来たが、城の広さに少しだけうんざりする。幼い頃も感じたが、こんなに広かったら逆に不便なものだ。


「ついた」


目的地が見えた。視線の先数十メートルにあるあの部屋だ。今は扉が完全に閉まっているから光は漏れていないが、自室から見た位置的にこの部屋で間違いない。

さて、問題はここからだ。中の様子を見るには扉を開ける必要があるが、バレるリスクがある。かと言って聞き耳ができる薄さの扉でもない。ここは、リスク承知で扉を少しだけ開けることにしよう。

バレたら中にいた人だけでも確認して全力で逃げよう。

手には持って来た聴覚を強化する魔法道具がある。使用者にしか作用しない物なので、自己の魔力制御の範疇で操作が可能だ。そう、これならば気付かれずに聴力の強化が可能となる訳だ。


準備は万端。後は扉を如何に静かに開けられるかに掛かっている。

心臓の動悸は今日一番の大きさになっていた。

だが、それでも扉を開ける手は慎重さを保っていた。幼い頃嫌と言うほどバレないように静かに扉を開けていた。その経験がここに来て活きる。

見事な腕前で彼女は扉を無音で開けることに成功した。


チェルーティアは扉を覗き込む。

視線の先には二人の人間の背が見えた。座っているが二人とも男性のようだ。どうやら扉を背にしていたために気付かれずに済んだらしい。

一見隙だらけに見えたが、これ以上踏み込めば気付かれると直感が知らせてくる。

もどかしいが、この位置で様子を探ることにした。


……あれ?もしかしてお父様?


観察してみて気が付いた。背中越しだが、二人のうち一人は他でもない自身の父親である国王アルティオに似ていた。

いや、似ているじゃなくて本人だろう。

そして、同時に気になる。こんな時間に父が誰と密会していたのか。


もう一人もどこかで見覚えのある背中だった。脳裏にはある一人の男性が浮かぶが、そんな筈はないと否定する自分がいた。

だって、可笑しい話だ。一学生が国王と一対一で話すなんてあり得ない。

だが、「彼」は何かと不可解な点があるのも事実だ。ますます混乱する。しかし、見れば見るほどよく知るあの人物に似ていた。


そうだ、会話を聞かないと。


気が動転していた。何を話しているのかわかれば幾らかの謎は解けるはずだ。

そう思い、会話に集中する。どうやら近況報告のようだ。


「ザラトマラと会ったのか。いつかは紹介しようと思っていたが、確かにいい機会ではあったね」


「急に来たから吃驚したよ」


「それは済まなかった。彼はね、能力の魔法化を専門にしていてね。ミューカともよく議論を交わしているよ。最近だとそうだね、学園の新設された競技場の空間拡張技術も彼の研究が活かされている」


「そうだったんだ」


……どう言うこと?


チェルーティアの頭の中はクエスチョンマークで溢れていた。

声から察するに、もう一人はチェルーティアのよく知る人物である「シャック」に間違いがなかった。彼とは普段よく魔法陣の効率化だったり、性能向上で議論する。生徒会では会計を任せており、優秀な人材だ。

相手はシャック。だが、それはもういい。問題は、父の話ぶりだ。

最初はシャックが自分自身を守る為に父に護衛として秘密裏に投入されたのではないかと考えたが、父はそのシャックに普通に謝ったり、どう考えても主従の関係ではない。

そもそも、そんな関係ならこんな場を設ける必要はない。ただ通信機器とかで伝えるだけで良いはずだ。態々城で談笑する必要なんてないはずだ。


チェルーティアの中でシャックという存在がわからなくなっていく。

シャックは父にとってどんな存在なのか思考する程わからなくなる。


「そう言えば、学園を出たらどうするつもりだい?君の事だ、進路を考えていないわけではないだろう?」


「うん、一応は考えているよ。魔法関連の資格も充分あるし、魔法道具関連の仕事をしようかなって考えているけど、先に勇者関連の事に集中したいかな」


「君ならそうだろうね。でも、私の手の届かないところに行くのはやめてくれよ?」


冗談臭く言っているが、父のその言葉にはやけに感情が乗っているような気がした。


()()しないって。二度もするのは流石に悪いし」


何か過去に二人の間に何かあったのだろうか。声のトーンが若干低くなり、場の雰囲気も少し重くなる。

シャックの何やら含みのある言葉も気になるが、話を続けて聞くことに意識を向ける。


「……今後もし引き抜かれそうになったら城勤めになったと言っても良いよ。私が許可しよう」


「はは、急にどうしたの。それ、逆に言えないやつだ」


「いや、君の事だ。学園でも進路は隠しているだろう?君の将来性を見て他国の引き抜きがあるかもしれない」


「ないない……って言いたいけど、そうなったら面倒だね。その際は使わせて貰うよ」


「ああ、そうしてくれ」


「……まぁ、先ずは修学旅行だね」


「そうだね。ちょうど勇者の御披露目とも被るしタイミングがいいね。ああ、そうだ。これを渡しておこう」


何かを渡そうとしているようだが、背中越しでは流石に見えない。


「これは?」


「魔法道具を詰め込んだ物だ。保険的な物だから仕舞っておいてくれ」


「了解」


父はシャックに何を渡したのだろう。とても気になるが、聞くわけにもいかない。

何とも言えないもどかしさだ。


そんな時、特大の爆弾が投下される。


「頼りにしているよ、()()()


「こちらこそ」


…………え?え?

お父様は今何て?聞き間違い…?いや、でも確かに……。


理解が追いつかない。突如として投下された大きな情報という名の爆弾が頭の中で破裂したみたいだ。


「……ん?」


動揺からか、僅かながらに物音を立ててしまう。シャックはその小さな音に瞬時に気付いたようだ。

しまった!と思った時にはチェルーティアは既に扉を閉めて闇夜の廊下を全速力で駆け抜けていた。


走っている最中に、先ほどの会話の記憶が頭の中で何度も繰り返し流れる。


ナツト、ナツト、ナツト……。


それが答えなのだとしたら、彼に纏わる謎の全てに合点がいく。


だけど、結局彼女はその日のうちに答えを出す事は出来なかった。










「……絶対誰かいたよね?」


扉の方を指差しながらナツト言った。

確かに物音がした。一瞬だが、人の気配もした。しかし、ここまで隠しているとなると相当な手練だ。


「どうだろうね」


会話を聞かれたので少し焦っていたナツトだったが、アルティオの様子を見て何かに気付く。


「……もしかしなくても、アルティオ気付いてた?」


「さあ?ナツトは疲れていたみたいだから気のせいじゃないかな」


やはり気付いていたな、コイツ。たまに子どもみたいな嘘をつく。

結構大事な話をした気がするが、アルティオが余裕そうな雰囲気を醸し出しているし、知られても良かった人物なのだろう。


しかし、城にいて、ここで話した内容ならば知られても良い人物……。物音からの逃走の速さ。そして何より、疲れで魔力探知を切っていたとは言えナツトを出し抜けるレベルで気配を消せる人物。


大体誰なのか察しがつく。


「別に知られても良いんだけど、このタイミングかぁ……面倒事が増えたな……」


「面白くなってきたね」


一人楽しそうなアルティオ。


これからは疲れていてもちゃんと魔力探知を使おう。

アルティオを他所にナツトはそう心に誓った。



これで修学旅行前のイベントは消化ですかね。

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