Ep.132 人を知る
「うぉぉぉぉ!!永遠なる光線!!」
非常にアレなネーミングだが、その性能は凄まじいものであった。
本格的に始まった、現代の勇者達の「能力」の訓練。その中でも注目されていたのは、赤河流星の宿す『権能:永続』だろう。
一般魔法の訓練のときとは異なり、今の流星の目は自信で満ち溢れていた。
全てを思い通りにできてしまいそうな万能感を感じ、自身の可能性に酔いしれている。そんな様子だ。
それもそのはず。彼の力は端的に言えば、彼によって引き起こされた魔法を永続させるものだからだ。
今の所は、簡単な魔法を持続させるだけだが、それでも十分なぐらいの実践的な強さを証明していた。
どんなに弱い魔法であっても、彼の意思でやめない限り、永遠に発動し続ける。
つまり、彼が光線を撃ったとして、それを真正面から受け止めようものなら、光線の威力によってはその瞬間詰むのだ。
魔法を魔法で受け続けるには当然その分だけ魔力を要する。しかし、攻撃側である流星は魔力切れが起きない為、一度そのような状況となれば受け手側の魔力が無くなるまで魔法を撃ち続ければいいのだ。
魔力が無くなれば守る術はなくなる。そうなれば、流星の勝ちがほぼ確実なものとなる訳だ。
そして、当然この力は同様の運用法で守りの面でも無類の強さを発揮する。
詰まるところ、流星の能力は攻めでも守りでも何でもこなせる便利な能力であり、実践での応用法は非常に多岐にわたるのだ。
覚悟云々の話で遅れていると感じていた流星だったが、この力によりすっかり自信を取り戻していた。
目に見えて彼の力が強かった。
まだまだ成長途中であるから、最終的にどうなるかはわからないが、単純な破壊力で考えると、彼を超えるとは到底思えなかった。
やはり、勇者の中でもさらに選ばれた存在なのだと実感する。
以前は倒せなかったホーンラビットも、彼の力の前にはまるで敵にもならなかった。
ただ真っ直ぐビームを置いておくだけで敵は消し飛ぶ。
流星は、この「永遠なる光線」をもっと磨いて、自分を代表する技にし、世界中に己の名を轟かせるアピールポイントにしようと考えていた。
使い易い攻撃だし、いかにも勇者らしいと思うからだ。
それに数日前、扱いをミスってしまって、つい天高く伸び続ける輝く光線を放ってしまったが、これにより国中から「勇者様の力だ」と噂されていると聞き、悪い気がしない。
勇者ここにあり!って感じだし、逸話の数個ぐらい持ってないと主人公じゃないだろう。
「この力があれば、魔王なんて楽勝だ!」
魔法の初歩で躓いて落ち込んでいた時とは一転、転生時のような調子にすっかり戻った彼は訓練中己の力を試す度にこのような事を言っていた。
「……クソがっ!」
それを側から聞いていて不愉快だと感じているのが、皇次郎であった。
力任せに壁を叩き、怒りを露わにする。
わかりやすく強い流星の能力とは異なり、彼の能力『権能:段階』はどのように運用するのが正解なのかわからなかった。
勇者などと一緒くたにされているが、日に日に周りと実力が引き離されているようなそんな気がしてならない。
ゲームのようで思いのままに魔法が放てるのは楽しそうだと最初は感じていたが、魔法というモノが自分自身には合わないかもしれない。
そう思い始めていた。
魔法も上手くいかなくて、能力も使い方がわからず役に立たない。
ゲームでもそうだ。まともなプレイングが出来なければ、面白いなどと言う感想すら言えない。
ストレスだけが溜まる日々。
力で決まる世界と言うのに、その力が無い。
日本にいた時も彼の世界は、力こそが全てだった。
そして力が無い者は立場も全て失う。
このまま行けば、例え喧嘩は得意でも魔法が絡んだ瞬間、目の前で有頂天になっている流星にも勝てなくなるだらう。
このままでは、本当にただの口だけの、何も出来ない弱者の自分に戻ってしまう。
そんな焦りが彼を追い詰めつつあった。
加えて、彼らはずっとこの建物から外には出られていない状況が続いていた。
無意識のうちに閉鎖的空間で心身ともに疲弊しているのだ。
「!?何だっ!?」
そのとき背後から唐突に彼の肩に何者かの手が乗せられた。
反射的に、彼は怒鳴った。拳も握り、振り返ると同時に殴ったが、背後にいた人物は思ったより身長が低くて、彼の拳は当たらなかった。
「こんにちは。良かったらあちらにいるリュウセイ様と一緒にお話でもしませんか?」
「んだ、このチビは……」
ここまで言って、皇次郎は思い出した。
目の前の中学生程度の背丈の人物。
見覚えがあった。
当然だ。その人物は、召喚された時に教皇とか言う人物の後ろにいたからだ。
あのとき、一人だけ歳若く見えたので印象に残っていた。
「メベリータです。さぁ、着いて来てください」
「おい!」
皇次郎の言葉には意を介さず、半ば強引にメベリータは皇次郎を連れて行った。
「……ッチ!」
皇次郎はソファに力任せにどかりと座った。
何処かの応接間のようだ。
「どうしたんだい、皇次郎君?そんなに怒って。ストレスは体に良く無いぞ」
様子から察したのか、一緒に連れられて来た流星が話しかけてくる。
「うるせぇ、お前は喋るな!」
「そこまで言わなくたっていいじゃないか!」
いちいち口に出すから、腹立たしい事この上ない。
今最も一緒にいて腹の立つ人物が隣に座っていることも相まって、皇次郎のイライラ度はピークを迎えようとしていた。
「仲がよろしいんですね」
二人の様子を見たメベリータがそう言った。
「は?そう見えてるならお前の目は腐ってるぞ。変えたほうがいいんじゃないか?」
これは本気でそう思ったことだ。
流星と自分が仲がいい?何処をどう見たらそう言えるのか。
間違いない。メベリータの目は節穴だ。
「あっはは、冗談ですよ。……しかし意外です。ストレスが限界を迎えている貴方なら殴り掛かって来ると思っていましたが」
「あ?」
つまらない冗談だ。
コイツは敢えて煽ったてのか?
いいぜ、殴られたいのなら……。
「失礼。アキラ様からお二人の地球での人となりと言うのを聞いていましてね。何でも貴方は人に嫌がらせをしていたとか」
とことん煽ってくる野郎だ。年下の見た目して、舐めた真似してくれる。
それよりもアキラだと?あの陰キャメガネ、余計な事を言いやがって。
「それが何だよ?謝れってのか?」
今更過去の話を掘り返しやがって。嫌な事を思い出させる。
「いえ、私に謝られても仕方のない事です。そう言う事は当人同士が行わないと意味の無さない事です」
帰って来た答えは少し予想と違っていた。
問答無用で殴ろうと握っていた拳が行き場を見失う。
「私はこれまで多くの人を見て来ました。それを踏まえてコウジロウ様、貴方は人一倍承認欲求が大きいのでしょう」
「……は?」
「貴方は人に認めて欲しくて、人の視線を集めるような事を、人より優れているぞと示そうとする行為をしてきたのでしょう?」
「んな訳……」
「そして今、魔法に行き詰まっている事で危機感を覚えている」
「!」
明らかに皇次郎の身体が反応した。
それを見て、やはりなと言う表情をメベリータは浮かべた。
「やはりそうでしたか」
「テメェに何がわかるってんだ!」
感情が昂る皇次郎。
それとは対照的に、メベリータは冷静に返す。
「わかりませんよ?ですが、仮にも私は聖職者。困っている人がいたら助けるのです。という訳で、ちょっと失礼しますね」
それだけ言うと、目にも止まらぬ早業でメベリータは皇次郎の胸の辺りに右の掌をかざした。
「なにすんっ……!!?」
手を払い除けようとするが、それよりも早く皇次郎の身体の中で何かがグイッと動かされたような感覚がした。
「……どうです?身体の中の魔力の流れを少し改善してみましたが?」
それを言われて気が付く。確かに体内に流れる魔力の流れが良くなっていることに。
さっき迄とまるで異なり、スムーズに動く。
感覚だけでもわかるぐらい、魔力の操作が楽になった。
「飽くまで統計的なデータですが、魔法の扱いに関しては女性の方が男性より秀でている…という物がありましてね。身体がより柔軟である事が多い女性の方が魔力の流れが良いという報告もあります。これは、力や体格で勝る男性を相手取っても、魔法があれば女性も負けずとも劣らないという事実にも合致している話でして……。おっと話が逸れましたが、要は、コウジロウ様は取り分け体が凝り固まっていたと言う事ですね。上手くいかない様子の訓練を見ていましたが、これで多少はマシになるのではないでしょうか?」
「おお……」
メベリータが長々と話しているが、皇次郎は聞いていなかった。自身の体の変化の方が優先されており、彼はそっちの方に集中力を使っていた。
「……勿論これが全てではありませんよ。捻くれずに継続して努力してみて下さい。才は有るんですから」
少し不服そうな表情を見せたメベリータだったが、すぐに切り替えて励ましの言葉を告げた。
「お前……なかなかやるじゃねぇか」
皇次郎は数年ぶりに人に感謝した。
年下の見た目で煽って来たのは、腹が立ったが、これでチャラにしようと思った。
「ありがとうございます」
「良かったな!皇次郎君!」
「黙れっての」
そういえば、流星もいたんだった。
常に騒がしい流星が珍しく黙っていたことも相まって、皇次郎は、完全にその存在を忘れていた。
「放っておいてしまってすみません、リュウセイ様。さっき迄の彼は放っておく良くなかったので」
「いえいえ!立派なお仕事の邪魔はしませんよ!それに勇者リーダーとして仲間の危機は見過ごせませんしね!」
「お前、誰様のつもりだ……」
「何か言った?」
「何も言ってねぇよ。で、お前の目的は結局何なんだ?まさか呼ぶだけ呼んでお悩み相談所で終わるつもりか?」
騒がしい野郎は放っておいて、皇次郎は気になっていた質問を投げかけた。
皇次郎の魔力の流れを改善するだけなら、流星を呼ぶ必要はない。
意外にも彼は、態々二人を呼んだ理由があることに気付いていたのだ。
「ほう、鋭いですね。そうです、今日はお二人に聞きたい事があったのです」
「聞きたい事……」
「はい。ああ、畏まる必要はないですよ。同じ事を既にアキラ様やサクラ様、ミハル様にも聞いていますから。簡単な質問です」
「勿体ぶってないで早よ言え」
「失礼。では、お聞きします。お二人の夢は?」
飛んできた質問は勿体ぶっていた割には、予想もしなかった変な質問だった。
まさか、こんな場に来てまで、夢を聞かれるとは思っても見なかった。
「ゆめ?」
「は?小学生じゃねぇんだぞ」
これには流石に二人も困惑である。もっと難しい質問だと思っていたからだ。
「ショウガクセイとやらが何かはわかりませんが、お二人がこの世界で達成したい事という意味で大丈夫です」
「達成したい事だあ?」
どうやら、一概に夢と言ってもかなり幅が広い意味での夢のようだ。
「ちなみに、サクラ様は元の世界に帰ることで、アキラ様とミハル様は初代勇者の事を知る事だそうです」
「……初代勇者?」
そのいかにもなフレーズに流星が反応する。
「おや、ご存知ではないのですか?簡単に言うと、今から千年程前にこの世界で最初に召喚された勇者で、見事世界を魔王から救った伝説の英雄ですよ」
「千年前…………そうか、決めたぞ!ボクの夢は、その初代勇者よりも凄い活躍をして未来永劫語り継がれるような真の主人公になる事だ!」
流星は意気揚々と宣言した。
「はっ、バカみてーだな。頭ん中、お花畑か?」
それを鼻で笑う皇次郎。仮にも高校生の人間が幼稚園児でも言わなさそうな馬鹿げた夢……いや、理想だと感じたからだ。
「何言ってるんだ?千年前の人間にできた事がボクに出来ないはずがないだろ?それに俺の力さえあれば出来る決まってる!」
「素晴らしい夢ですね。確かに貴方の力なら可能性はあるでしょう。しかし、具体的に主人公とはどう言う感じなのですか?」
「そうだなー、当然勇者パーティのリーダーとして、魔王を倒して世界を救い!更にそこから知識を使って様々な技術革新を起こす!そして、俺の国を作って、美人の女性を何人も妃にして、永遠の国にするんです!」
「……………何言ってんだコイツ」
この世界に来てから、いや日本にいた頃から流星が相手にするのが面倒な奴だと感じていた皇次郎だったが、今その認識を改めた。
日本にいた頃はその妄想を表に曝け出してないから、まだ真面目な生徒だったが、今は違う。
コイツはヤバい奴だ。それもかなりの度合いで。
漫画の読みすぎでも、こんなに自信満々に欲望だらけの理想を言う奴はまずいないだろう。
本格的に避けた方がいいのだろうかと真剣に悩むぐらいだ。
「凄いですね。知識と言うのは?」
この馬鹿げた理想を前にしても、メベリータはニコニコとした笑顔を崩さず、流星の夢を深掘りしていく。
「それはまだ秘密です!現代日本で学んだ異世界無双の叡智ですから。そう簡単に教えられませんよ。魔王を倒してからのお楽しみです!」
「はは、リュウセイ様の未来が楽しみですね。それで、コウジロウ様は?」
何やら色んな含みを持っていそうな言葉でメベリータは話を締め、皇次郎に逸らした。
「俺はねぇよ。流星のアタマオカシイやつで腹一杯なんだよ」
「おい!」
「では、コウジロウ様、是非夢を探してみて下さい。悪い事はないですし、何かを夢見て追い求めている時の人は、とても輝かしいものですから」
「そうかよ。じゃあ、テメェの夢は何なんだ?」
態々聞いて来たんだ。じゃあこっちも同じ事をしても問題ないだろう。
隣でギャーギャー言ってる流星を無視して皇次郎は質問を投げ返した。
「そうですね、私の夢は世界の神秘を解き明かす事ですかね。まだまだ世界には謎に包まれた事が沢山ありまして、それを自らの手で解き明かす事が楽しみであり、夢であるのです」
「普通だな」
「何でもいいんです。今日は皆さんとお話ができて良かった。忙しくて中々勇者方を見る機会に恵まれませんでしたが、やはり人となりを知るには直接話すに限ります」
そう話すメベリータは満足気だ。
「……ああ、そうでした。これも伝えておきますね。一月後、皆さんのお披露目会が国を挙げて行われます。世界中が注目する日になるはずなので、そのつもりで準備をお願いします」
最後の最後に伝えられる超重要事項。
それを聞いた瞬間、流星がニィッと大きく笑う。
「いよいよですね……ボクの物語が始まるっ」
世界が動き出すその時は、そう遠くないところまで来ているようだ。
長々と続く日常回もそろそろ終わりが見えつつありますね。
気持ち的にはぐわーっと、投稿しまくってさっさと本題に行きたいのですが、いざ書き始めると何故か進まないと言う。
もう少しだけこののんびりとしたペースにお付き合いください。では。




