Ep.130 ある忙しい日に
「はっ………くしゅ!」
学園のサークル活動の後、予定時刻になったのである場所に向かって歩いていたナツトだが、唐突にくしゃみが出た。
風邪かもしれない。
もしかすると今日はいつもより気温が低いのが原因かもしれない。
最近は、サークルの活動で作った魔法道具の発表会に向けた準備とか、修学旅行の準備とか、魔法大会と言った頑張らないといけない事柄が連続している。
そして、そこに畳み掛けてくる勇者関連の報告。とても気になるが、「仮にも初代勇者という立場なのだから衝動だけで下手に聖国に行くなんてことしたらダメだよ?」とアルティオからキツく釘を刺されている。まぁ、勇者達はまだ公の場に現れていないそうなので、行っても会えないだろうし、ここは機を待つって感じだ。
「……まさか、誰かが噂していたり…?」
日本ではよく聞いた話なのだが、こちらの世界にはそのような言い回しはどうやら無いようである。
仮にも有名な勇者だし、噂されていても不思議ではない……が。
「……無いな。風邪に気をつけよ」
もしそれなら、噂されまくりでくしゃみが日常茶飯事になっているはずだ。
今でも巷では「勇者復活!」とか言われていたりするそうだ。
見ず知らずの人に噂されるのは何か変な感じがするが、まぁ損する事は特に無いし、好きにやっといてくれって感じである。
……さて、時間もおしてるし、変なことは考えずにさっさと集合場所に行くとしよう。
「来たわね、こっちよ」
「これが?」
集合場所には生徒会の面々と学園の長であるミューカがいた。
今日は、前々から作られていたとある施設が完成したという事で、先んじて学園の一番上の学年の生徒会の面々に紹介してもらう事になっていた。
学園に隣接する形で作られた新たな施設『拡張型競技場』。
正直、名前はどうでもいいのだが、新技術を導入して、様々な機能を搭載したスゴい施設なのだ。
目玉の機能は何と言っても、空間拡張技術。魔法と科学力のタッグによって実用化できるレベルに仕上がったそれは、かなり激しく戦闘を行なってもそう簡単には壊れないのだ。
施設内は複数のホールが設けられており、独自の映像技術によって、他のホールの立体映像を任意で別のホール内で投影することが可能であるのだ。
これにより、観戦部屋と戦闘部屋を区別することができ、かつ観戦する者たちには一切の被害が及ぶことなく安全に戦闘を観戦することが可能なのだ。
という感じのスゴい施設を何に使うのかというと……数年前から生徒から案として出ていた「魔法大会」の実施だ。
魔法大会。わかりやすくこう呼んでいるが、その名の通り魔法を用いた大会である。案として出ているのは、魔法での戦闘で競い合う案や魔法の見栄えを競い合う案などなど。
下級生は上級生の魔法技術を直で見ることができ、参考になるし、上級生はこれまでの研鑽の成果を発揮するまたと無い機会だ。
それに企業や騎士団とも連携すれば、優秀な人材を見つけ出す参考になるだろう。
こんな感じでメリットもそれなりに考えられ、何より面白そうだし悪くない案だったが、いかんせん施設が不完全であった。
下級生ならいざ知らず、上級生ともなるとその魔法の技術はかなりのものとなる。
過去にも似たような大会があったのだが、観客が必ずしも安全とは言えず、ちょっと危なかったのだ。
そんな過去の反省もあってかしばらくは見送っていたのだが、今回この施設ができたことで試験運用も兼ねて再び行おうという流れになったのだ。
しかし、開催予定日は修学旅行の一週間後。
準備する側にとっては、中々にハードだ。
「おぉ〜」
全員が集まったので、早速試運転が始まった。
予想はしていたが、やはり中々にスゴいものだった。
空間拡張は、戦闘には十分過ぎるくらいには拡張できるようだし、思い思いの地形、天候、時刻を再現できるようだった。
満点の星空なんてものも、お手のものだ。
一体いくらかけたのやら。
様々なシチュエーションに対応した訓練が出来そうだ。
……ぶっちゃけ、騎士団とかそっちの方に導入した方がいいのではないだろうかと思ってしまう。
という考えはさておき、この施設が日常的に使えるようになればそれはとても有用なものになるだろう。
……まぁ、その頃には卒業間近の可能性が高そうだが。
ざっと一時間ほど施設の試運転を見た後は、普通に解散となった。
日も傾き始めたので、今日のところはさっさと家に帰る事にした。
「お帰りなさいませ」
「うん、ただいま」
転移魔法で即帰宅すると、すぐにゴルマがやって来た。
「アルティオ国王より先程ご連絡がありました。都合のいい時に城に来て欲しい…との事です」
「わかった、お話相手ね。今日行くよ」
「畏まりました」
アルティオが都合のいい時に、というときは普段の愚痴を聞いてくれの合図である。
たまに、ミューカ、オルウェル、マーヤも顔を出すのだが、基本は二人で城の空き部屋を使ってのんびり話し合うのだ。
いつからか始めた愚痴やら近況やらをゆるーく話す雑談会だが、やはり気兼ねなく話せることは心地が良く、定期的に行うようになった。
国王という立場は想像もつかないようなストレスと一緒にあるのだろう。
だからこそ、こういうふうに誘いが来たら出来る限り最速で応える事にしている。
という訳で、時間を多く確保するため入浴や晩御飯を早めに済まし、さっさと城へ赴いた。
いつもの部屋に直接転移する。
確か城の南の方に位置する部屋だ。
物置部屋として使われている部屋だが、密会の為に用意されたソファやカウンター席があるというなんだか変な部屋である。
物置部屋というだけあって物が積み重なりその上、埃くさそうな感じがあるが、掃除が行き渡っており、物は整頓されかつ埃一つ積もっていない。
馬鹿でかい城だと言うのに、こんなところまで掃除が完璧にこなされているのは、ひとえに城のメイド達の優秀さゆえだろう。
「待たせたね」
しばらくして、アルティオがやって来た。
久しぶりの雑談会開始の合図である。
「おや、それは発表会のものかい?」
「そうそう。小型遠隔操作ドローンのやつ。既知のドローン技術と魔法陣小型化の技術を参考にして作った魔法発動を補助する魔法道具だね」
ナツトは近況を話し始めた。
アルティオが来るまでそれなりに暇だったので、ナツトは近くにあるサークル活動の発表会の試作機の調整を行っていた。
前世のアニメで見たことのある意識とリンクして自由自在に動くアレ。
何とか作れないものかと長いこと試行錯誤していたが、先行研究とか関連の魔法道具を調べまくってようやくここまで漕ぎ付けた。
とは言っても、既に似たような物は作られており、その差別化がかなり難しかった。
取り敢えず目指したのは、既存のものより小さくすることだ。
既存のものはその機能を十分に発揮する為にバスケットボールぐらいのサイズがあった。
使うにしては少し大きい為、これのサイズをもっと小さくできれば便利だろうと至極当たり前なことを考えた訳だ。
魔法陣を組み込むのは割と得意な方なので、既存の製品の回路の一部を魔法陣で代用したりしながら改良を加え、最終的には野球ボールくらいまでには小さくできた。
そして、動力源として自身の魔力で染めた魔石を用いる事で、この装置と意識を接続した時に割と思い通りに動かすことができるようになった。
まぁ、自身の魔力を魔石に込めるのは得意不得意があるので、駆動時間は使う人によってまちまちになるのが良くない点だ。
これに気合いでオプションを組み込んだ結果、三台ほどあれば空中に三次元的な画像を投影出来る便利な装置の完成である。
この空中投影技術は、要は多方向からうまい具合に光を照射することで写真は勿論のこと、実践等で使える立体魔法陣を簡単に作ることができるのだ。
これがミソで、立体魔法陣が苦手な人でもデフォルトと装置に組み込んでおけば簡単にその魔法が行使出来るのだ。
ここまで漕ぎ着くのに約二年。
卒業までに出来てよかったと思っている。
勿論、改良の余地があるが、それなりに満足のいく結果となった。
「発表会が上手く行くことを願っているよ。……そうだ、そういえばだけど……」
ナツトが近況を語り終えた後、アルティオが切り出した。
どうやら、今日は愚痴を聞くこと以外に目的があったようだ。
「二つほど、伝えておきたいことがあってね。まず一つ目が…ギルドのトップ、ティアメシアからだ」
ティアメシア・サーラ・アーティアゴ。
今となっては稀少なエルフの女性。長い間ラーテル王国と密接に関わり、ナツトも所属する所謂冒険者ギルドを創設した人物だ。
「彼女から連絡があってね。以前、ナツトが古代の遺跡に赴いた際に、壁に書かれた謎の文字があったよね?」
「あったね」
忘れもしない。謎に満ちた何千年も前の古代の遺跡の文字。
遺跡調査後、「アズ」の一件が強く印象に残りがちだったが、見つけた文字が重要な遺物であることは確かだ。
しかし、このタイミングでそれに関して言うとは……もしかして、だろうか。
「察しもついていると思うけど、その文字について心当たりがあるそうだ。向こうの都合がつき次第、すぐに会うことになっている。そこにナツトも一緒に来て欲しい」
「勿論いいよ」
断る理由がない。ずっと気になっていた事であるし、何かヒントが得られるならば是非とも出席したいものだ。
「ありがとう。一つ目はこれで終わり。それで二つ目だけど、こっちは勇者関連の情報だ」
「!」
勇者関連と聞き、無意識に反応してしまう。
この話題はナツトが今最も関心を寄せていると言っても過言ではない。
それ程までに気になる理由があるからだ。
「召喚された彼等の中で三名が初代勇者……つまり君の事について色々調べているそうだ」
「………へぇ」
「調べている者の名は、リクノアキラ、ヒノミチサクラ、そしてウミネミハルだ。そうだ、写真もあるよ」
名前と共に、召喚された人達の顔写真を見せてもらう。
それを見てナツトは半ば知っていたかのような表情をした。
あぁ、そうか。やっぱりそうだよな……。
「どうかな?」
「確定だね。前世の、地球での親友だよ」
「そう、か」
そう言うアルティオの言葉は、友との再会が出来ることに対する祝福の意と、その友も家族や友達との縁を無理矢理引き裂かれてこの世界に召喚されたことに対する哀愁と僅かばかりの同情の意を含んでいた。
報告を聞いた時から確証こそないが、ほぼ確信していたようなものだ。
一人ならいざ知らず。二人も聞き覚えのある名前があれば、察する。
「状況から察するに向こうも初代勇者の正体を何が何でも知ろうとするはずだ。そうなれば、必ずこの国へ来ようと考えるだろう」
アルティオの言う通りである。
ナツトとこの国、ラーテル王国は密接に関わっている。千年前のナツトの軌跡を追っているならば、この国は避けては通れない。仮に自分自身が同じ状況になったとしたら、必ずこの国へ行く方法を模索するはずだ。
「彼等と出会うチャンスは必ず訪れる。もどかしいかもしれないが、それまで待って欲しい」
前々から言われていた事だ。特に渋る事なく、ナツトは頷いた。
数十年ぶりに聖国が勇者を召喚し、魔王を倒すという大きなアクションを起こそうとしている。
同じ大国として、慎重に見極めようとするアルティオの姿勢をナツトは感じていた。
それからと言うもの。
二人は色々と語り合った後、時刻を見て流石に解散する形となった。
身体は意外にも疲れていたのか、気が付いたらベッドの中で横になっていた。
ナツトは、すぐに眠りについたが、その日は少し……いや、かなり不思議な日であった。
いつもなら能力のせいで、その日見た夢の内容も全て記憶する。会話をしたのなら勿論その内容も全てだ。
しかし、この日は見たはずの夢の内容をまるで思い出せなかった。
夢を見ていないなどではない。
夢は確かに見た。夢の中で、誰かと何かを話したことを漠然と覚えている。
ただ見渡す限り真っ白な空間で……ダメだ、なぜか思い出せない。
……僕は夢の中で誰と会って何を見て話したのだろうか?
今年も残す事後少し……。
来週の更新は予定によってはお休みになるかもなので、先に言っておきましょう。
皆様、良いお年を。




