Ep.129 繋ぎ合わせ
それからと言うもの、秋楽と美春そして桜は「初代勇者ナツト」に関して情報を得るべく奔走した。
一番の情報源になりそうな教皇ギフトとメベリータの二名に会うのは意外と簡単ではなかった。
国の中枢にいる存在であるのはそうなのだが、丁度多忙期なようで中々時間を取れないとの事らしい。
意外と言えば意外なのだが、勇者の優先順位はそこまで高くないのかもしれない。
一応サルビアに頼む形で話は行っているそうなのだが、こればかりは機を待つしか無かった。
と言うわけで、この間はいつもの図書室で歴史の勉強をしつつ、勇者に関する記述が他にもないか探す日々が続いた。
そして、その機会が巡って来たのはそれから一週間後のある日だった。
「どうぞお掛けください。すぐにお茶を淹れましょう」
部屋に入り、言われた通り秋楽、美春、桜三名は設置されたソファに腰掛ける。
その部屋の主は、手慣れた手つきでお茶とお茶請けを用意し始めた。
部屋の中は、木製の物で統一されておりどこか 落ち着く空間であった。どうやら、ここは仕事部屋らしく応対の為のソファと横に長い机、部屋の隅には難しそうな本が並んだ背の高い本棚に、書類仕事の為の両袖机が部屋の一番奥にざっしと設置されていた。
あと気になると言えば、部屋の奥の方の壁にある扉。恐らくは寝室だとは思うが、流石に何かと聞くことは躊躇われた。
そして、準備が終わった部屋の主人は三人と対面する位置に腰掛けた。
「改めまして、私、大司教補佐のメベリータです。普段は大司教の書類仕事の補佐やその他雑務を担当しています。お見知り置きを」
その人物は丁寧に自己紹介した。
見た目は、正直に言えば年下に見える。
中学生くらいの男の子のような見た目の人物であり、丁寧な雰囲気こそ感じるものの国の中枢にいる人物とはとても思えない。
しかし、その雰囲気は只者じゃないと感じさせた。魔法を学んでまだ日は浅いもいいところだが、それでも直感でわかるぐらいには、目の前の少年がヤバそうだった。勿論、実力的な意味でだ。
それこそ勇者なんて要らないだろと思わせるぐらいには。
首脳陣は化け物揃いか?
秋楽は内心ヒヤヒヤしながらそう思っていた。
「それで、聞きたいというのは初代勇者の事ですね?」
「そうです」
サルビアの話はちゃんと届いていたようで、余計な話は挟まず早速本題に入った。
「初代勇者のフルネームはご存知ですか?」
一番聞きたい事を美春が問う。
補足で図書室で探しても見つからなかった事も告げる。
「成程、確かにあの部屋に置いてある本はそこまで詳しくは書いていませんでしたね。勿論、知っていますよ。彼の名は「キゾラナツト」で間違いないです」
「…………っ!!」
「やっぱりか……!」
美春と秋楽は、望んでいた答えを得ることができた。
ここまで全然見つからなかったのに、こんなにあっさりとわかるなんて嘘みたいだ。
同姓同名。
珍しい苗字であるし、九割方、本人であると断言しても問題はないだろう。
「その初代勇者ですが、彼について詳しく教えてもらうことは出来ますか!?」
やや興奮気味だが、秋楽は初代勇者=ナツトを断定するために更に情報を引き出そうとする。
「いいですよ」
特に言い淀んだりすることはなく、メベリータは聞いた事をすんなり教えてくれた。てっきりこういう情報は何となく秘匿しているイメージが強い情報なので、隠そうとするのではないかと危惧していたが、杞憂であったようだ。
身体的特徴、雰囲気、言動。
他にもいくつか聞いたが、やはり二人の知るその人物によく合致していた。
だが、同時に話とは別のことが気になった人物がいた。
それを尋ねたのは場の空気を読んでとても高そうな茶菓子を美味しく頂いて、静かにしていた桜であった。
「メベリータさん、まるで見て来たような話ぶりですね?」
それを聞いてハッとする秋楽と美春。
夏翔の事でつい熱くなっていた二人は、確かにメベリータが何も見ずに夏翔のことを話していたことに気が付いた。
「それは勿論です。私、長生きなので」
隠す気も無く、メベリータは軽く笑いながら自信満々に事実のみを答えた。
「えっ!?」
桜は驚く。
勿論他の二人も。
メベリータのこの言葉の意味すること……。それは即ち、少なくとも目の前にいる彼は初代勇者が活躍した千年以上前から生きて来たという意味である。
地球の常識で考えて来た三人は、見た目も相まって、まさか目の前にいるメベリータが自分達より遥かに年上とは信じ難い話であった。
(いや、確かに歴史の本に教皇ギフトの名が出たのは数百年前から……てっきり一世二世みたいな感じかと思ってたけど…この世界はそうか、エルフみたいなよくある長命種じゃなくても長生きする方法があるんか……)
思い出すように秋楽は思考し、ここまでの日々で得た知識を繋ぎ合わせる。
だが、「ギフト」という名の教皇が公の場に出て来たのは数百年前。千年単位で見れば全然最近の部類だ。
つまり、公の場に現れる前は裏方で今の地位に上り詰める為のプランニングを行っていたと言うことだろうか。
背筋がゾクリとする。
地球の常識では到底測れない、異世界の常識。
認識を早急に改めないと足元を掬われそうだ。
そんな気がする。
そして同時に歴史の本に書かれていた、世界を牛耳る大国の一つと言うのは確かにその通りだと納得してしまう。
「……話ぶりから察するに、お知り合い…いや、それ以上の関係だったのですか?」
あからさまな態度だったため、流石にバレたようだ。
だが、それは織り込み済みなので特に否定することもなく正直に答える。
「ご友人でしたか……いや、しかしそれは……凄い偶然ですね……。召喚のシステムは未だ完全な解明は出来ていませんが、召喚する相手…つまり勇者はランダムで選ばれるとされています」
メベリータは素直に吃驚と言った感じである。
そんなゲームのガチャみたいな不確定なもので傍迷惑な勇者召喚なんてするなよ……という言葉は一先ず飲み込んでおきながらも、秋楽もその偶然にメベリータと同様に凄いなと感じる。
「それにしても、驚きました。事故で亡くなったナツトがまさかこっちで勇者だったたなんて」
「亡くなった?そちらの世界でですか?」
秋楽がふと話した内容に気になるところがあったのか、首を傾げながらメベリータは質問をした。
「え?……はい、そうです」
「少し、その話詳しく教えてもらえますかね?」
何か引っ掛かりがあったのか、メベリータは喰らいつくように聞いて来た。
その勢いにやや押されつつも秋楽は話した。
「成程……お葬式もそちらで行ったと。身体もそちらにあった……成程、やはり特殊な例だったか」
メベリータは何やら一人で納得した様子だ。
「何が気になったんですか?」
しかし、何に対して納得したのか全然わからない秋楽達は答えてくれる事を願って聞いてみることしかできなかった。
「ああ、失礼。実はですね、彼が召喚された時、彼は衣類や荷物を一切持っていなかったのですよ」
「え?」
「それは……つまり……」
衣服が無かった。
それは、つまりそういうことである。
「ですが、貴方達はどうでした?」
「一緒に持って来ましたね……」
内心夏翔と同じ目に遭わなくて助かったと思ってしまったが、確かにその違いは気になる点だ。
なぜそんな違いが生まれたのか。この話の真偽はわからないが、こんな内容の話で嘘をつく理由なんて特に無いため、ここは素直に信じる事にした。
「でしょう?ですが、彼も貴方達と同じく外出時に召喚されたと言っていました。そしてもう一つ、召喚魔法の根本は千年前も今もさほど変わっていないのですよ」
つまり、入浴中に召還された訳ではなく、かつ召還魔法もそこまで大きな違いがなかった……と。
「え、じゃあ何で夏翔だけ……?」
そこから浮かび上がる疑問はまさにコレである。美春のこの言葉が、召喚に関する最大の疑問であった。
「そこです。彼だけ他の召喚と何かが条件が異なっていた。そして、それが長年謎のままだった……」
メベリータは勿体ぶるように間を置く。
「そして、その答えを導く為のヒントが、そちらの世界に彼の肉体が残されていたという事です」
パズルを解く子どものようにメベリータは楽しそうに話を続ける。
「これは私の推論ですが、転移魔法にて召喚されたのは貴方達は身体も持ち物を含めた全てであった一方、彼は彼の魂のみが召還された。何かしらの要因によって彼の肉体と魂が召喚直前に分かれ、魂のみが召喚され、こちらに来る際にこちらの世界により適した肉体が構築されたと考えられます」
「だから、服がなかった……」
自信満々に話すメベリータの仮説は確かに説得性はあった。
……が、魂というのは地球出身の彼等には受け入れ難い考え方であった。
魂と肉体が分かれることなんてあるのか?
というより、魂ってどういうものなのか?実在するものなのか?
「あの……魂って存在するん_____ 」
「ありますよ」
「あっ、はい……」
それはあまりにも早い肯定であった。秋楽が言い切る前にまるで話を逸らすなと言わんばかりの圧を伴っての即答。
これは、魂はあるのだと無理矢理納得して、彼が話し終えるまで待つべきだと頭に言い聞かせることにした。
「……という訳で!この魂のみ召喚された説ならば、ならば彼と他の勇者の差別化が可能となり、彼が追随を許さない程の成長の速さを見せたことの要因であるかもしれないと言えるでしょう。いやー、実に有意義な話を聞かせて貰えました。感謝します」
語り終えたのか、メベリータはすっごくやり切った感を出している。
長年の……いや、それこそ千年来の悩みが晴れた、そんな状況なのだ。
喜ばしい事なのは間違い無いだろう。
「…………それでなんですが、今彼は……!」
ここで秋楽は、避けて来た質問した。
一瞬にして、場の雰囲気が変わる。急にどっと重くなった気がした。
「……歴史を勉強されたのならば、ご存知でしょう。彼は戦いの末、相打ちとなり既にこの世を去っています」
突きつけられる現実。
「…………そう、ですか」
知っていた。知っていた事だ。
千年前に活躍していたのなら、とっくに死んでいるだろう。
こんな事、調べるまでもなく気が付くことだ。
たが、彼等はその事実から目を背け、ナツトという一人の人間の活躍だけを追っていた。自分達が知っている彼だったらいいなと思いつつも、もし彼だったら自分達は二度も彼が死んだという事実に直面しなければならない。
だが、今この場で、千年以上も生き続ける方法があると知った。
それならば、書物に死んだと書かれていても、生き延びている術がないだろうか、という一抹の希望があった。
しかし現実はそう上手くはなかった。目の前の少年は嘘をついている様子はなく、歴史書は正かったのだ。
結局、彼の跡をどれだけ追いかけても、彼自身は手の届かない遥か先にいるのだ。
この何とも言えないやるせなさは何で例えることができるだろうか。
「……ですが実際のところ……」
そんな雰囲気の中、メベリータが喋り出す。
「実際のところ、彼について一番詳しく知っているのはこの国ではありません。歴史を学んだのなら知っていますよね?初代勇者と深く関わる国の事を」
「……ラーテル王国……」
「そうです」
ラーテル王国。まるでそのまま動物の名前を取って来たような可愛い名前の国だ。しかし、その可愛さのとは裏腹に凄まじほどの技術力を有している強大な国である。
勿論、秋楽達はその国の存在を知っている。
というか、知っていないとおかしい。
それぐらいには、魔王討伐後の世界で強い影響力を持つ国なのだ。
確かに、初代勇者が建国に関わった事や、その後しばらくその国にいたなど、気になる情報が沢山であった。
実際、気にならない訳がなかった。
行けるものなら直接行ってみたい。
だが、召喚者や勇者という肩書きが厄介なものだった。
秋楽も含め、召喚者達はまだ公の場に出ていない。刺客から守る為と言われており、戦える強さになるまでは外に出れない状況なのだ。
当初こそ反発があったが、「死にますよ?」と凄い形相で言われたので、全員が渋々納得する形になった。
外は非常に興味深いが、死ぬリスクを冒してでも行きたいか、と言われたらまだそこまでではない。
今の所、召喚された事以外、処遇に不満はないし時が来るまで真面目に訓練する事にした。
という訳で、外に出られないのだが、メベリータの言い方は、抑えていた外に出たいという欲求を再起させてしまうようなそんなものだった。
「彼の国ならば、初代勇者について何か知っているかもしれません…………が、皆様は修行中の身。そう簡単にはここから出られないでしょう」
彼等の読んでいたのか、メベリータは秋楽達が考えている事を正確に言い当てた。
「ですので、こうしましょうか。貴方達が魔王を討伐したら、ラーテルへ行けるように手配しましょう」
取引……いや、魔王を倒すのは元から決まっている事だ。
これは……魔王討伐に向けて今以上に真剣になれという意味だろうか。
流石は大司教補佐だ。
飴の使い方が上手い。
「面白いお話を聞かせて貰ったお礼です。……あぁ、ご安心を。私、意見を通すのは上手いので、皆様が魔王を討伐出来たら、各地を巡る手筈ぐらい整えられますから」
メベリータのその言葉から、真面目さの中に隠れた狡猾さを秋楽は感じた気がした。
そろそろ、動かしていこうと思いつつ、思い…つつ………
……zzZ




