Ss.12 真夜中の勧誘
暗き夜の闇の中に、思わず腕で目を守ろうとしてしまうほど強い閃光が発せらる。
そして、その直後に轟く爆発音。
煙が晴れた頃には全てが片付いていた。
「す、凄い……!」
荷物を運んでいた行商人の男とその護衛達は、その光景に圧倒される。
先程まで、彼等は野盗に襲われていた。
行商人の男はこの近辺を活動の拠点としている齢五十を超えるベテランである。
ここいらは、整備こそされているが、治安は決して良くない。
最近は、野盗の目撃情報も寄せられており、いつも以上に警戒はしていた。
雇った護衛四名も決して弱くはなく、冒険者ランクBの手練れ達である。
警戒を緩める事なく、順調に進んで来たが、真夜中という時に襲撃された。
急いでギルドに応援を申請したが、街からも距離がある上、こんな時間に動いてくれる冒険者が果たしているのだろうか。
後手に回った上、二十を超える集団に苦戦していた。
完全に囲まれたというのに、戦いになっていただけでも護衛達の優秀さが伺えるのだが、それでも数の利には叶わなかった。
護衛の一人が、包囲網に穴を開けることに成功し、完全に囲まれている最悪の形からは脱すことが出来た。しかし、その間に一番多くの相手をしていた前衛の護衛が派手に吹き飛ばされてダウンした。
幸い、死んでいなかったが、かなりの重症でありすぐに治療が必要なのは確かであった。
だが、野盗はそんなことをさせてくれるわけがない。
どうやら荷車に積んである荷物以外にも自分たちの身包み全てが目的のようで、見逃してくれそうには無かった。
後ろには護衛の一人が突破してくれた事で出来た逃げ道があるが、怪我人一人抱えた状況で下卑た笑いを浮かべる二十名弱の野盗を相手するのは不可能であった。
ジリジリと追い詰められる。万事休すかと思われたそんなときだ。
どこからか現れた一人の少女が、男達と野党の間に舞い降りた。十歳にも満たなさそうな実に幼い少女だ。微かに水色がかった白髪と真紅に染まる瞳孔は見る者を魅了してしまいそうだ。身に付けている白いシンプルなワンピースも少女の特徴を際立たせていた。そして、その雰囲気というかその佇まいはどこか神聖味を感じさせた。
少女は行商人達と野盗達を交互に見て、野党の方を向いた。
そして、少女がその右手をおもむろに野盗達に向けた瞬間、眩い閃光と爆発が生じ野盗達を吹き飛ばした。
まさに一瞬の出来事。
圧倒的な力を以ってして野盗達は実に呆気なく倒されたのだった。
しかし、意外なことに野盗達は皆、五体満足で生きていた。
あそこまで派手な魔法を見せられたらてっきり消し飛んでいるのかと思ったが、全員気を失っている状態で生かされていた。
そこからわかる、この少女の技量。
見た目に惑わされていたら到底気付けないであろう、恐ろしいまでの力とそのコントロールの精度。
その実力を垣間見た男達は背筋が震えていた。
「あの、だいじょうぶ…ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。助けてくれてありがとう」
「よかったです」
あまり話し慣れていないか、それとも人見知りなのだろうか。少女は若干ぎこちない感じであったが、にっこりと微笑み男達に丁寧に話しかけてきた。
その可愛さに先程まで戦闘していたことを忘れてしまいそうになる。
「助けてくれたのは感謝するが、君は誰だ?」
「おい!」
そんな落ち着いた雰囲気を壊す者がいた。行商人が振り返ると、護衛として雇った者の一人が、鞘に収めた剣に手をかけながらそう言っていた。
残りの二人のうち、一人は警戒を緩めない護衛の一人を制止しようとしており、もう一人は負傷したもう一人の治療にまわっていた。
「こんな場所でかつ真夜中に、こんな歳の女の子がいるのはおかしい!ギルドの救援だとしてもこんな子どもを一人寄越すのは常識的に考えてあり得ない!」
行商人の男は、それを聞いて納得する。
確かにそうだ。
忘れていたが、今は真夜中もいいところなのだ。最寄りの街までも相当な距離があるため、確かにこんな場所にこんな子どもがいるのは不自然である。
再び走る緊張。
だが、全員が理解している。
もし、目の前の少女が敵ならば、打つ手がないと。
先程見せた魔法だけで、この場にいるすべての者よりも上だとわかっているからだ。
「あの……これ、わたしのギルドカードです。これでいいですか?」
警戒が強まる中、少女は一枚のカードを見せて来た。
行商人は、恐る恐るそれを受け取り確認した。
「コァ・ダイアモンド……Dランクの冒険者……カードも本物のようだし、顔写真も同じ顔だな」
「はい、そうです!コァです!」
「ふー……」
場の緊張が緩む。護衛達もひとまず安心した。
向こうが敵なら、カードを見せる意味がないし、いつでも自分達を屠れる筈だ。
そうしないと言うことは、それ即ち向こうに敵対の意図がないからだろう…そう判断したのだ。
「というか……D!?嘘だろ」
緊張が無くなれば、気になる事が次から次へと浮かんでくる。
「いや、それよりも何でこんな所にいたんだ?」
「それは……」
敵じゃなかったのはよかったが、何でこんなに早く助けに来られたのかは謎である。
気になって聞いてみたところ、この少女コァは世界中を見て回ることが夢の冒険者との事で、今回は本当に偶々近くで野営していたから、助けに来てくれたそうだ。ギルドの救難要請で来たわけではなかったようだ。
「さいきんは、わるい人が見てわかるようになったんです!」
その途中で彼女が言っていたこの台詞に、先程警戒を促していた護衛は身震いした。
他のみんなは気付かずスルーしていたが、この台詞には「前までは善悪も関わらず相手にしていた」と言う意味が含まれているかもしれないという事に。
あんな恐ろしい魔法の使い手がでいきなり突っかかって来たら、災難なんてものじゃない。意思を持った災害がやって来るようなものだ。
護衛の男は、その相手が人ではなく魔物であったと強く願うことにして、この事は聞かなかったことにした。
「大丈夫ですか!」
それから間も無く、転移魔法で二人の男性と一人の女性がやって来た。
「Aランクパーティの『夢の守人』です!全員ご無事ですか!?」
有名なパーティだ。パーティ全員が同じ学校の同級生で、三人という一般的には少ない部類に入る人数であるが、世界中を巡りながら色々な依頼をこなし、多くの人々を助けている若くして実力者揃いの冒険者達である。
話ぶりからするに、彼等がギルドから送られた救援部隊なのだろう。
「……って…あれえ?」
魔術師と思われる女性は、状況を見て素っ頓狂な声をあげた。
それもそのはず。居るはずの野盗達は全員縄で縛られ、仲良く並べられていた。
彼女が想像していた状況とはまるで異なっていたのだ。
「えーと……終わってるね」
「終わってる」
「終わってるよねえ?」
状況を飲み込めず、三人は互いに確認し合う。
「えー、状況を説明してもらってもいいでしょうか?ギルドに報告もありますし」
リーダーと思われる男性は、行商人へ説明を求めた。
「ああ、わかりました」
行商人も特に断る理由がないので丁寧に順を追って説明を始めた。
「成程、つまり……この女の子がすべて解決してくれた…と言うことですか」
「まあ、そうなりますな」
説明を聞いても尚、彼等は俄には信じ難いと言った表情であった。
視線の先には眠そうに欠伸をする少女がいる。
本当にこんなあどけない少女が一撃で野盗を倒したというのか。
しかも、Dランクという。
いや、真の強者はランクで判断するのは間違いであるが、さっきの話が本当なら誤魔化しもいいところだ。
だが、行商人は嘘をついている素振りはない。
リーダーの男性はこの話を信じる事にした。
「コァちゃんだよね?」
「はい、そうです」
「……君、俺達のパーティに入らないか?」
「え!?」
「ちょ、リーダー!?」
あまりにも唐突な勧誘。
パーティのメンバーにも一切の相談無く、リーダーの独断で行われたため、コァよりもパーティメンバーの方が困惑している状況になってしまった。
「えー……と?」
そして、コァも困惑する。何と返すべきか悩んでいた。
「話を聞いた感じ、君は世界を見て歩きたいそうじゃないか。俺達も世界中を旅しながら冒険者活動をしている。国によってはDランクだと融通が効かないところもある。だが、俺達となら、問題なく行ける。そして何より、仲間と一緒に旅するのは楽しいぞー」
周りの混乱を無視して、リーダーは熱弁する。
魅力的な利点を伝えていく。
チラリと少女の方を見ると、かなり興味を持ったようで、目を輝かせている。
いけそうだ。彼はそう判断した。
「どうだ?一緒に来ないか?」
「うん!行く!」
「ようこそ、夢の守人へ。歓迎しよう」
割とサクサクと勧誘が完了する。
周りはそっちのけで、あっという間にコァのパーティ加入が決定したのだった。
置いて行かれていた行商人は、ふと思っていた。
若いとはいえ、大人が子どもを誘う。普通に考えてこれは大丈夫なのか。いや、パーティに女性もいるし大丈夫か、と。
ここまで、思考した行商人だったが、もし何かあっても彼女の実力を以ってすれば問題ないか、と結論付け思考を停止した。
勧誘とかそういう話は、自分には関係ない。
トラブルが起きても、それは他人事なのだから。
「という訳で、みんな新しい仲間だ!」
リーダーは、和気藹々と親睦会を始めていた。
チームバランス的に、魔法を扱える者が欲しかったのもあり、もしも話通りの実力なら、超大型新人である。パーティの安定性向上に繋がるし、願ってもない話である。
それに、直接彼女の実力を見るという点でもパーティ加入が出来たのは大きいだろう。
「全く、いつも先走る。このリーダーは」
パーティメンバーの一人である男性は、リーダーに対して呆れている様子だ。
どうやら、リーダーの独断専行は割といつもの事らしい。
「……今更じゃない?私としては、もう一人女の子、パーティに欲しかったし、歓迎するわよ。可愛い妹が出来た気分。よろしくね」
「はい!」
「かっ……か、可愛い〜!!ねぇ、抱っこしていい?」
メンバーの一人である女性はそういうや否や、コァの返事を聞くより先にコァを抱き抱え、流れるように膝に乗せる。
ちょこんとおさまる少女に大層御満悦の様子である。
「さて、俺達は街に戻ります。野盗を街の騎士団に引き渡す必要もありますし」
「ああ、わかった。遅い時間にありがとう」
「いえ、俺達は遅れた身なので礼なら……」
「そうだな」
行商人は、リーダーの言葉に同意してコァの方へ向かった。
「ありがとう。お陰で助かった」
「…いえ…よかったです」
真正面から感謝を言われるのに慣れていないのか、コァは照れくさいようで、恥ずかしそうに視線を逸らした。
その後、護衛の人達からも感謝され、更に恥ずかしそうにしていた。
「では、良い旅を祈っています」
「ありがとう」
別れの常套句を告げて、Aランクパーティの彼等は転移魔法で並べられた野盗を引き連れ街に去って行った。
「この世界に生まれて半世紀以上になるが、世界は新たな驚きに満ち溢れているのだな」
行商人の男は、先程までコアがいた場所を見つめながら、しみじみとそう感じたのだった。
お早う御座います。
やる気が出たので、2話更新出来ました。
ふぅ、これで来週もゆっくりではありますが本編進められますね。
さて今回の番外編はコァの動向でした。随分と社交的になったものです。
子ども成長は早いとかナントカってやつですね!
以下は、コァを勧誘していった彼等の紹介です。
では、また、来週〜。
Aランクパーティ【夢の守人】
とある学校の同級生三名で構成された仲良しパーティ。ここという活動拠点は設けず、世界中を旅しながら依頼をこなす系の冒険者達。人気も高く、特に若者からの支持が大きい。ちなみにメンバーは全員二十一歳である。パーティ名は、世界中の人々の夢を守るという意を込めている。
ファブラ 男
パーティのリーダー。Aランクの実力者であり、剣を持って前線でバリバリ戦う。独断で物事を決めることがそれなりにありメンバーから呆れられている。イケメンであり、誰とでも仲良くなれるような正確なため、ファンもかなり存在する。
ドーシュ 男
パーティの搦手役。比較的真正面からしか戦えないリーダーの隙を補完する前衛職。細身だが、身体強化魔法が得意であり、タンクもこなせる器用な人物。パーティの財布は彼が管理し、またご飯も彼が作る。
ラルカ 女
魔法担当。一応魔法は一通り使えるが、補助だったり防御の方が得意である。そのため、攻撃が得意な魔法使いが前々から欲しいなと感じていた。可愛いものが大好きで、旅先で探しては笑えない金額を使ったことがある。見た目の美人さと楽観的な性格が人気で、ファンが多いのだとか。




