Ep.125 伸びる才能、進む日々
長い夜が明け、彼等は室内の広い訓練場に集められていた。
そこで、改めてこの世界の状況を説明され、勇者の意義を説かれる。勇者ではない者も一名いるようだが、現状彼一人だけ除け者にする意味もないため、一緒に聞くことになった。
皆、思うことはあるようだが、比較的素直に聞いている。
「先ずは、魔力を扱うところから始めていきましょう。魔力は魔法の源。コレが使えなければ話になりません。皆様は魔法を知らないかと思いますが、過去の勇者様の例からも勇者様達は魔法に対する適応力が高く、すぐに慣れることができるでしょう」
魔法教育担当の男が魔法のイロハについて、初歩の初歩から丁寧に説明する。
教皇達と言った、お偉い方は別にやることがあり基本的にこの場にはいない。ただ、大司教補佐であるメベリータが監修という体で、仕事の合間に経過を見に来ている。
また、広い訓練所を一定の間隔で囲むようにして立派な鎧を着た人達が並んでいる。護衛にしても、少し数が多いので落ち着かない雰囲気である。
だが、そんなことはお構いなしに勇者育成は進んでいく。
戸惑いながらも教えの通りに、彼等は真面目に実践する。
彼等の本能的な何かが訴えかけていたのかもしれない。
ここで、これを習得しないと先にあるのは死である、と。
依然、考えがまとまっていない者、混乱がなくならない者はいる。
だが、怖くて何も出来ないという小心者では無かったわけだ。
「いいですぞ!流星様は筋がよろしいようですな!」
「そうですか!嬉しいなぁ」
男の教え方は上手かった。過去の勇者の例や普段からも教育係を任されている経験もあるからか、魔法のない世界を生きていた勇者達がどういったポイントで躓くのかなどを熟知し、上手くいっていれば、褒める。褒めまくる。
叱りつけて、プレッシャーをかけて鍛える方法は二百年以上前に不適だと結論付けられており、以降適度に間違いを指摘するが基本は褒めて伸ばすスタンスになっている。
そして、褒められた側も、程よく煽てられることでやる気が引き出される。
この歳の人間は基本的にチョロいのだ。
中には多少調子乗りすぎる者もいるが、それは仕方のないことなので、この際はスルーである。
変にその事を指摘して、落ち込むよりかは、その自尊心でモチベーションを維持してもらう方が都合が良いという理由だ。
「皆様その調子です。この様子ならば、魔法を少しずつ使い始めても問題ないでしょう。ああ、そうでした。皆様魔法訓練を始める前にこちらの腕輪を付けてください。これは能力を封じる腕輪です。……と言っても、能力を長く扱ってきた者には効果は薄いのですが、今の皆様なら十分に効果が期待できるでしょう。皆様の安全な魔法訓練のためにも是非」
魔力訓練が始まり、数時間後。
休憩を挟んだのち、早くも魔法訓練が始まった。当初の想定を遥かに上回る早さであるが、過去に例がないわけではないので、このまま行う事になったのだ。
それだけ、彼等の飲み込みが早いということでもある。
「魔法を使う」というその言葉に彼等が期待の表情を見せる。無理もない。これまで空想の産物としてしか存在しなかった魔法を遂に扱えるのだ。一度は憧れたことがあるもの。期待しないわけがない。
そして男の説明の通り、腕輪が配られる。
念の為、能力を有していない秋楽にも配られた。
この腕輪は確かに男の説明した通りの効果が施されているが、もう一つ「着けた者の魔力量を正確に数値として測定する」という効果もあった。
長年の研究で、ステータスが見えない勇者の魔力量を測定できる装置の開発が行われていた。
本音を言えば能力もわかる装置を作りたかったが、それは依然上手くいっていない。
話が少し逸れたが、この装置を付けさせておく事で、勇者であろうともその保有する魔力量がわかる。
魔力量がわかれば、適切な訓練の調整が可能となり、より短期間で強力な勇者を育てることにつながるのだ。
「そうです、その調子です。魔法とは世界の至る所にある魔素を介して発動させます。難しい話なので、今は省略しますが、想像力次第で様々な属性の魔法を使うことができるでしょう。そして、皆様の扱い易い属性魔法、それこそが最も適性のある属性であります」
魔法には属性という分類がある。
水、火、風、氷、雷、地、光、闇……これらはあくまで一例ではあるが、一般的な属性といえばこのあたりのものとなる。
突き詰めていけば、真の意味で魔法に属性なんてものはない。
魔法とは、使用者の想像したものが魔力を介して魔素に伝わった結果、起きた現象であり、魔素がその創造物を忠実に再現しただけのもので、所詮は魔素。実際の水や火本物ではないのだ。
だが、属性として分類する事で、似た系統の魔法を纏められ、区別できる。
管理する上で便利であるから、属性などという括りが設けられているのだ。
「良いですよ、どんどん行きましょう!」
今回な勇者達は実に飲み込みがいい。指南役の男の声も楽しいからか声がハキハキとしていた。
それから数日と言うもの。
ここ、ラーテル王国でも年もすっかり明け、学園の講義はいつも通り再開していた。
「……ここまでは、大丈夫だな?座って書いているだけでは暇だろう?質問をしよう。魔法の属性の内、私がその二つを分類する必要があるのかと思う一般的な属性がある。それが何かわかるかね?……そうだな、じゃあ……」
その教師は、持っていた出席名簿を見ずに適当に指差した。
その様子を周囲に座る生徒達がゴクリと喉を鳴らしながら見守る。
居眠りしていた者も、雰囲気を察し、起きる。
「シャックか。答えを」
「……あっ、はい。えー…っと、水属性と氷属性です」
指名されたシャックことナツトは、少しだけ答えるのに遅れたが、直ぐに答えを考え述べる。
「正解だ」
その教師はパチパチと拍手する。
「スゴいな、よくわかったな」
隣に座っていたガルノラルクがボソリと囁く。
「図書館にある先生の本に似たような事が書いてた」
「流石、あんなにある中からよく見つけるな」
「あの先生は、魔法学では有名な研究者だからね、念の為読んでたんだ〜」
「ほー、ていうか何か考え事か?上の空って感じだったぜ、一瞬だったけど」
「あー、昨日少し寝るのが遅くてね。そのせいかも」
「そうか」
ガルノは、それで納得してくれたらしい。
……が、本当は嘘である。本当はとある事をずっと考えていた。
「さて、彼の言った通り、私は水と氷、この二つを分けて分類する事にいまだに納得がいかない。何故、実際の分子で考えたら同じモノを状態で分けて考えるのか。どちらも水なのだから、水でいいじゃないか。もっと言うなれば、何故水なのか。当然、この世の中には水以外にも液体の物質も固体の物質はある。単に水属性と言うのはあまりに狭義な分類だと思わんか?」
「始まったな、熱弁」
ガルノラルクがボソリと言った。
この教師は研究者であることからも分かる通り、魔法が大好きで、授業中取り扱ったトークテーマで時たま熱く語ることがあるのだ。
「水などと言う狭い括りで考えず、固体魔法、液体魔法、更には気体魔法で考えるべきだ。水が一番身近にあるから、一番イメージしやすいからと言う実に短絡的な理由で分類するのではなく、水以外の物質の性質も取り入れ、広く網羅的にその状態における魔法を考えるのだ。そうすれば、魔法の更なる応用が臨めるだろう」
一理ある。
水属性魔法……ではなく、液体魔法の一つとして水属性魔法を捉える。液体というのだから、水以外のものもイメージの対象に含んで、より特殊な、より複雑な魔法を行使する。
その考えの下、魔法を使えば色々と面白く出来そうだ。
是非参考にさせていただこう。
まぁ、この考え方の欠点としてはちゃんと教養を受けていないとイメージが難しいと言うところか。
少なくとも水が、自然界だとかなり特殊な物質であると知らないと、少し難しい分類方法であるだろう。
そういう意味で、水属性、氷属性という括りが一般的なのだろう。
「化学もそれなりに学んだ君達なら、この捉え方も出来ないことはないだろう。今度、魔法を使うときは意識して使ってみるといい。以上だ、時間もちょうどいい。本日の講義はこれまでとする」
十五分ぐらい持論熱く語ったその教師はやり切った感を出していた。
そして、そんな彼の終了宣言と共に、教室から生徒がドバッと溢れて行く。
次の講義の教室が少し遠いため、我先にと足早に生徒達は廊下を歩いていく。
だが、それとは反対にナツトは何やら考え事をしながら歩いていたため、周りよりもずっと歩くのが遅くなっていた。
考えているのは、勇者召喚のこと。
向こうの時間で年明けに行われた、儀式。
自分も勇者であることからも、関係がないとは思えないもの。
……いや、それよりも。
それよりも、あの「報告」が常に頭の中に蟠りを残し続けていた。
「なあ、やっぱ何か悩み事でもあるのか?聞くぞ?」
「えっ」
ガルノである。それなりに長い付き合いからわかるのか、さっきの嘘では誤魔化せていなかったようだ。
「いや、大丈夫!何かあればその時は頼るから」
「そうか、わかった」
「それはおいておいて」
「ん?」
「最後の修学旅行、迫ってきたね」
「おう!楽しみで仕方ないぜ!」
そう言う彼の表情を見れば、本当に楽しみにしているのだと実感させられる。思わずこちらも笑ってしまう。
学園高等部の最大級のイベントである、高等部修学旅行。
それまで、後三ヶ月を切っていた。




