Ep.124 夜明けのずっと前に
休めと言われても、そう簡単に休めるか!
……と言うのが、彼等の大半が心の奥底で思っていることである。
その理由は、言うまでもない。
多少それぞれで異なるだろうが、大体が、「まさか自分がこんなことに巻き込まれるのか」という混乱ゆえだろう。
俗に言う「異世界モノ」。いつから流行り出したのかは正確には知らないが、いつの間にか色々な方向へ開拓されているジャンル。最早、一言で「異世界モノ」と呼ぶには大き過ぎるまでには膨れ上がっていると言っても過言ではないだろう。
興味本位で読んでみてハマる者もいればそうでもない者もいる。
非現実が描かれて、そこで展開される話を楽しむ。だが、噛み締めるように楽しむものというよりかは、ファーストフードを食すようにササっと僅かな時間で楽しむことが多かったりする。
それはさておき。
非現実だからこそ、現実と大きく異なるその世界に憧れたり、羨んだりして、「自分だったら……」と妄想を膨らませることがあるかもしれない。
だが、それは飽くまで創作の世界を楽しむだけであって、現実にそのような世界に放り出されると話が違ってくる。
もう家に帰れない。
いや、もしかすると帰れる方法があるかもしれないが、常識的に考えて態々召喚した自分達をそう易々と返すはずがない。
この何もかもが知らない世界で、平和ボケした自分達が「魔王」とやらを倒さなければならない。
ふざけるな。冗談は大概にしろ。
常人ならそう思うはずだ。そう言うことは、そっちで勝手にやって欲しい。何故自分達を他の世界の者を巻き込むのか。迷惑極まりない話である。
こんな状況を素直に喜べる奴は、よっぽどの馬鹿だし、現実が見えていない愚か者だ。
「ふ、ふふふ。ふっ、ふふふふふふ………」
そんな現実が見えていない愚か者がここにいた。
流星である。
連れられるままに案内された広い部屋のベッドで一人横たわり、ずっと笑っていた。
「勇者……魔王……夢にまでに見た剣と魔法の世界!……ボクは勇者で、魔王を倒す英雄になる。ボクのための世界だ!」
興奮で震え上がる自身を抑えて、瞼を閉じる。脳裏に浮かぶのは、地球での記憶だ。
いいことなんて無かった。
小学校中学校は自身の趣味や妄想を話したら馬鹿にされる日々。彼等が自身の趣味に対して理解がなかったのも大きい。
心を入れ替えて、高校へ進み自身と同じ趣味を持つ人達とコミュニティを作り、更にみんなを率いていこうと思い立って委員長になった。
……が、蓋を開けてみれば話の聞かない奴ばかり。趣味を話すのは楽しいが、それ以外の時間は楽しくなんて無かった。プラスよりもマイナスの方が大きいのだ。
それに顔は悪くないはずなのに恋事情は全くの無縁だった。
そんな日々だからこそ、通学の時間や暇な時間に見る架空の世界に憧れてた。
架空の世界の主人公達は皆、他者から尊敬、信頼される人格と圧倒的な力を持っていた。
そんな架空の人物達に憧れて憧れて憧れ続けた。
そして、今それは現実となった。
『権能:永続』
直感でわかる。これは強い力だ。地球では感じなかったけど、身体の中に渦巻く膨大な力を感じる。
「この世界の設定はまだわからないけど、ボクなら圧倒的な力を持った勇者になれるはずだ。それこそ世界で一番強くにだって……。まずは魔王を倒して、現代知識で無双だ!」
と、流星は期待に満ちた独り言を部屋で叫んでいた。
「なんか、隣うるさいんだけど……。委員長か」
部屋同士の壁は薄くはない。それでも聞こえると言うのは、隣にいる奴が相当騒いでいるからだろう。
やれやれ、と秋楽は思っていた。
彼は見たこともないほど豪華でフカフカのソファにもたれかかり、「この座り心地の良さだとつい寝てしまいそうだな」と感じながらも思考を続ける。
部屋に来てから小一時間程が経過し、ようやく状況を飲み込めてきた。
唯一勇者ではない彼にも部屋は準備された。
てっきり彼は、「力のないお前は要らないから、追放だ!」的な展開を考えていた。
そう言う展開のラノベは読んだことがある。
と言うより、過去にアイツがアイツにラノベを滅茶苦茶推していたタイミングに出くわして、運悪く巻き込まれて一緒に読まされたことがある。そのためもあってか、一通り多岐にわたる異世界系をアイツと読み、王道な展開は把握しているつもりだ。
まさか、その知識を現実で使うことになるとは全く思っていなかったが、感謝は一応しておこう。
今の自分に一番近しい展開のラノベだと、俗に言う「追放系」だろう。
力のない主人公がいて、仲間や召喚主から要らないと追いやられるが、実は力があって後にそいつらをギャフンと言わせる。追放時の胸糞さが後のやり返す時の爽快さの大小に密接に関わるのだが、今のところ自分はそんな状況にはなっていない。
「まだ」と言うことも考えられるが、召喚時の周りの様子を思い出すに、自分自身の扱いに困っていると見えた。
今、この時間は彼等が自分達をどう扱うのか話し合っている時間でもあるだろう。
力がないと尚早に切り捨てるのではなく、まずは話し合ってからその扱いを決める。
実に良い対応だと感じる。
それにこちらとしても、初歩的な魔法のノウハウぐらいは知っておきたい。最終的にここを離れるとしても、この世界では普通に存在する魔法の事を全く知らないというのは流石にまずい。
言語もそうだ。
聞いたことの無い言語を話していたが、聞き取れたし意味もわかった。恐らくだが、これも魔法の影響だろう。
つまり、やるべきなのは魔法の使い方をマスターすること。
後は、情報だな。
異世界モノでも定番ネタであるように可能な限り情報を仕入れることが必要不可欠だ。
召喚時一緒に持ってきたスマホは、使い物にはならない。自らの手で脚で探し回るしか無い。ただ、恐らく読めないだろう。
日本語で書いてあるとはとても思えない。
他の世界から人を連れて来られる魔法があるんだ。翻訳魔法みたいな読むことが出来るようになる魔法もあるはずだ。
窓の外を見る。まだまだ世界は深い闇の中にあって、街の景色や今いる場所がどんなところなのかもよくわからない。
だが、部屋の内装、窓から見える高い位置まで明るく輝いている街の光を見るに、技術力はかなりありそうだ。
皇次郎は、寝ていた。
混乱しながらも、部屋のベッドに横たわり、あれこれ考えていたら寝てしまっていた。
この状況で寝られるのは割と図太いのかもしれないが、これは彼なりの状況適応手段であった。
口では喧嘩腰だったが、突如場所が変わり彼は内心ひたすら焦っていた。
もう帰れないのでは無いか。
そんな考えたら不安で押し潰されそうになる疑問を考えてしまわないように、彼の防衛機構が働いた結果なのだ。
悪ガキで嫌われていたが、家族は、家は彼にとっては居場所であった。
先の不安は、同行できるものではないが、寝ることで多少は和らぐことだろう。
桜と美春は同じ部屋にいた。
元々は一人一部屋あると言われていたが、無理を言って一緒にしてもらい、少し大きな部屋へと案内されたのだ。
実際それによって二人は不安が少し薄まっていた。先の皇次郎と同じだが、帰れないかもしれないという潜在的な恐怖は一人の時ほど強くなるだろう。知っている人が一人でもいる。このことの安心度というのは、ことこのような状況だと想像を絶するほど大きいものだろう。
「ねぇ、美春ちゃん……なにしてるの?」
ソファで縮こまっている桜は、部屋を物色するように見て回っている美春に問いかけた。
「んー?物色?」
物色するようにではなく、物色であった。
美春は入口以外の部屋にある扉を開けてその向こう側を見る。
「あ、トイレだ」
そのうちの一つは、トイレであった。広過ぎず、狭過ぎず。ちょうどいい広さである。
環境は良さそうだと、美春は感じたが、ここでふと思う。
「水洗式?コレ」
ふと感じた違和感。それはトイレが日本とそう変わらないレベルで完成されていることだった。日本では見ない魔法が絡んでいそうな装置も付いているみたいだが、概ね似たようなものだ。
「技術力、相当ありそう…」
美春は部屋を物色してこの事を察し、秋楽と同じような結論に至っていた。この世界いや少なくともこの国はかなり発展していることに。
部屋に飾っている装飾品は絵もあるが、写真で撮ったようなものもある。
娯楽にお金を回せるだけの余裕がある、と考えることが出来る。
「桜ちゃん、寝よっか」
「えっ……この状況で…?」
「悩んでも仕方がないよー。それに寝たら少し不安も紛れるよ」
動じていないようにしているが、美春も不安という感情はある。だけど、自分もそう振る舞ってしまうと、桜の不安をより煽ることになるだろう。
桜がその性格も相まって、今不安だらけなのは間違いない。
ここは、多少無理してでもいつも通りを演じるのだ。
そう、美春は心に誓う。
「あ、そういえば制服のままだったね。シャワー室見つけたし、先に身体綺麗にしておかないと」
ふと自身の姿を見て思い出す美春。そういえば、自分達は下校途中であったのだ。外が夜なので、寝る雰囲気が出ていたが、まだまだ身体は夕方ぐらいのつもりなのだ。
部屋にはご丁寧に自分達のために準備された着替えもあるようだし、お借りするとしよう。
案外、彼女が一番図太いのかもしれない。
翌日、この世界では元旦のその日。未だ世界が勇者召喚に気付き、騒いでいる頃。
彼等はある場所に呼び出されていた。
一度に動かす人が多いと大変じゃあ〜。




