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千年ぶりだね、大英雄  作者: 十五夜
【第8章】現代の勇者
153/214

Ep.122 不穏な年明け

朝と昼の間ぐらいの時刻。

その日は、急に慌ただしい日になった。


それまでは、年末ののんびりとした空気の中、ナツトは家で寛いでいた。


年末のちょっとした休暇で学園は休み。

特に出かける用事も無し。

……と言うわけでいつもより少し遅めに起床し、我が家の執事とメイドであるゴルマとシュリアの二名とお茶していた。


いつもこの二人は僕の事を主人として扱うので、年の最後ぐらいそう言うのはナシでいたかったのだ。


とまぁ、そんな感じで「そう言えば世紀末だなー」とか考えながら、ボケーっとしていた。

地球では、割と世紀末関連の事でざわざわしていたみたいだけど、僕の生まれる前の事だし、話程度にしか知らないが。

それに比べて、こちらの世界はそういう感じはあまり感じなかった。

恐らくだが、この世界で一番力を持ってるカーリエ教が次の世紀は、人類にとって転換の年だ、希望の年である……と、言っていたのが一番大きい要因なのかもしれない。

総本山とも言える聖国はラーテル王国とは仲が宜しくないらしいけど、カーリエ教いや、真聖カーリエ教の信者は世界人口の半数を超えると言われているし、その影響力は凄まじい。

まぁ、補足ではあるが残りの半分の内約二割が旧カーリエ教、約一割がその他の宗教、残り約二割が無信仰者である。

カーリエ教という括りだけで見ると、実に七割となっていることからも、実に根強い宗教だと言える。


話が逸れたが、要は彼等が世界が滅ぶとか言って変に大衆を煽ることがなくてよかったということである。





そんな事を窓の外を眺めながら、考えていたその時、僅かながら異変は起きた。


「ナツト様」


「うん、わかってる」


同じく異変に気付いたゴルマがナツトを呼んだ。シュリアも、空を窓越しに見ながら難しい表情をしている。


「何処かで大規模な魔法が使われたね」


今し方、大気中に広がる魔素が魔力によって蠢いた。

間違いなく、これは魔法を使った証拠である。


全ての魔法を使う際、その余波と言うべきか魔法を使った際に拡散した魔力が、微弱ながら魔法を行使した地点を中心に同心円状に周辺の魔素を揺れ動かす現象、通称「魔力波」が起きる。

その現象は、行使する魔法が大規模であればある程、余波の届く範囲が広がる。


観測さえできれば、この魔力波はその性質上、発生地点を割り出すことができる。


今起きた魔力波が、来た方向は……。


「……まぁ、そうだとは思ってた」


来た方向から大体の地点を割り出す。百パーセント正確に、と言うわけにはいかないが十分であった。


それに、アルティオからも度々そのことは聞いているので、これはもうほぼ「アレ」で確定だ。




「揃ったな。早速だが、先程勇者召喚が行われた」


王城の特別会議室。全員揃い、席についた瞬間、アルティオはそう言った。


会議の出席者は、国王アルティオ、王妃ミューカ、三勇オルウェル、マーヤ、ナツトに加え、ナツトとは面識のない三人のイケオジ、ボサボサ頭の丸眼鏡をつけた白衣を纏った若い男性、そして、アルティオの専属執事であるフィーディースの計十名である。


イケオジ三名は面識こそないが、顔は知っている。確か、数年ごとに国民の総意で決められる人達だ。国民の意見を反映させるために国王に政治面等での意見係的な存在である。

最終決定権は王であるアルティオが持つが、国民とのズレを減らすと言う点で重宝されている役職である。


名前は、この際端折るとして、もう一人の白衣の方は一体誰だろうか。

少なくとも記憶にはないので見たことはない。


と言うか、恐らくであるがここにいる人はナツトの正体に気付いているみたいだ。15歳と言えど、学生であるナツトは見た目は紛うことなく見た目はまだまだ少年である。そんな者が明らか場違いなこの場にいる。しかもそんな人物がマーヤやオルウェルのような三勇と同じ場所に座っている。何も知らなければ、疑問の視線を向けられるところなのだが、彼等が入室してきたとき、割と深めのきっちりとしたお辞儀をされた。それも一人とかではなく、全員だ。

これは、ナツトの正体を知らなければ出来ない行動だろう。


流石にナツトという世界的にはデカイ存在の事は上層部にはリークしていたということだ。

まぁ、アルティオの判断だろうし、説明の手間も省けるので特に問題はない。

僕自身、割と正体がバレることに関しては別にいいかと最近は思って来ているしね。


「ケナント」


「はい。観測結果ですが、こちらのスクリーンをご覧下さい。えー、魔力発生地点は聖国の中心拠点であるラス・ド・シル教会だと特定しました。魔法行使時刻は、現地時間で白永暦2000年1月1日の0時ちょうど、年明けと同時です。……あと今回用いられた魔力は前回に引き続き、星の魔力が殆どでありましたが……えー、使われた量は前回の倍以上という予測が立っています」


白衣の男性はケナントと言うらしい。

魔道具を使って、空中に画像を投影している。SFとかでたまに見るアレである。立体的にものを見ることができ、便利なものだ。


「なんと…」


「倍以上、か」


「ケナント殿。使用する魔力の量が増えると何が変わるのか、教えてもらっても良いですかな?」


イケオジ三名が各々の反応を見せる。基本的にその魔力の量に対する驚きが大きいようだ。


「えーはいもちろんです。そうですね、簡単に言うと余裕ができます。えー、あくまで予測算出なのですが、前回はこの世界と召喚する向こうの世界を繋ぐために、半分以上の魔力を消費していたとしましょう。


そして、魔法陣を召喚完了まで維持する分、都合の良い人物を特定する分、こっちに連れてくる分…と言う風に召喚魔法はかなりコスパの悪い魔法なのです。


だけど、使用できる魔力の量が増えると先に言った分の魔力消費した上で、魔力が余ります。となれば、残った分で、より多くの人間を呼ぶ事も、探査時間延ばすや条件を厳しくするなどしてより強力な者を召喚することが可能になると考えられます」


「成程、説明感謝しますぞ」


「仮にその説明が正しいのであれば、あの国は数か質、どちらを取るか?」


「……質であろうよ。数は確かに脅威ではあるが、それはある程度のレベルまでだ。数ではどうしようもない存在はこの世界には多くいる」


「えー、はい、ワタシもその意見と同じです。尤もあの国が勇者を戦力源として求めているなら、ですが」


「では、一人の協力な勇者を召喚したと言うことか?」


聞いているだけで、話はサクサクと進んでいく。そして、流石は国民の代表。気になる事をズバズバ言ってくれる。


「いや、それは無い」


イケオジの一人の言葉を否定したのはアルティオであった。


「失礼ながら、王よ。理由を聞いても?」


「うむ。過去の調べで、彼の国は勇者の力という未知なる力の存在を知り、その力が一人に集中することを嫌ったのだ。何かの拍子にその力で反旗を翻される、そんな事がないようにするためにもリスクの軽減を図っているそうだ」


「リスクの軽減ですか……しかし、彼の国の実力は未知数。見立てでは我が国とも引けを取らない可能性があるとも聞きます。もしそうならば、謀反が起きたとしても抑え込めるのでは?」


「確かにその可能性は十分に考えられる。しかし、彼の国が聖女と並び人々の希望と位置付ける勇者に謀反を起こされたと信者に知れたら、どうなる?」


「な、成程。信者の信頼を大きく失いかねないですな」


「そうだ。他には……勇者いや、力を集めた勇者は短期間で凄まじく成長するという過去の例からも、単体で召喚することは避けるだろう」


「……た、確かに」


イケオジ、いやこの場にいる全員がナツトをチラリと見てはアルティオの言葉に納得した。


自分自身の例が、その後の勇者召喚に影響を与えていたとは少し驚いたが、よくよく考えてみれば、自分は最初の勇者だ。

聖国からしても実験的な部分もあったのだろう。


しかし、当時は強くならないと死ぬことになる状況だったし、今とは全然違う。

所謂環境的な要因だが、今のこの世界で召喚された勇者は果たして追い込まれる程の状況下に晒される事はあるのだろうか。


「……では、結局のところ何人召喚したのだ?」


「えー、ワタシの勝手な考えとしては、それなりの素養を持つ人間四〜七名程だと思います」


「七!?多いですな」


「落ち着け。考えた言っていただろう。それに情報は必ず洩れる。不確定要素の部分で議論してもしょうがないだろう」


「その通りだ。それらの情報は入り次第知らせよう。今は、今後の対応を話し合うぞ」


「「「はっ!」」」


そこからは、コテコテの政治関連のお話が展開された。聖国への対応や、メディアへの対応。今後の世界情勢はどうなるのかや、それが国に齎す影響。更には勇者が表立って動く際の対応、魔王が何処にいるのかによる各国への影響の違いなどの議論が繰り広げられた。





時間にして四時間弱と言ったぐらいだろう。

一先ず会議は終了した。

会議が終われば、イケオジ達は決めた事に関して、対応するべく動き出すのだが、その前に態々ナツトの前に来て跪き、「ナツト様、お会いできて光栄でございます」と言って来た。

急に跪かれるものだから、吃驚した。が、日本人の性が残っているというべきなのか、驚きつつも丁寧な挨拶には丁寧な挨拶で返した。

そこから、ほんの少しだけお話をして、彼等は仕事に戻って行った。


イケオジ三人が退出した会議室だが、当然その他は残っている。


「フィーディース」


「は」


「伝えていた通り、十色の全構成員に勇者召喚時の対応を始めさせろ」


「畏まりました」


命じられてすぐ、フィーディースは消える。実に精錬された転移魔法だ。


しかし、十色か……。聞かない名前だな。察するに特殊な集団のようだが、十人で構成されているのかな。


「ケナント」


「はい、いつでも実行可能です」


「よろしい。そうだ、ナツト……ちょうどいい機会だし紹介しておこう。彼は、ケナント・マチネ。技術省機密開発部の頭であり、国王直属特殊部隊『十色』の構成員だ」


「ケナント・マチネです。えー…十色では中堅ぐらい…です、ね。ナツト様、どうぞお見知りおきを!」


ナツトの手を握りブンブンと振るケナント。見た目は大人しそうな印象を受けるので、若干のギャップを感じた。


「うん、宜しくお願いします…」


「あんまり堅苦しくしないほうがいいよ。十色の中には三勇の狂信的な奴もいるからね」


「そ、そうなんだ……」


なんだろう、なんとなくだが会いたくないな。

チラリとマーヤやオルウェルを見ても、「ああ、あいつかぁ…」みたいな表情をしているし。


「さて、今のところ伝えられる情報は全て伝えた。年末の昼から済まなかったね。一旦解散だ」


その言葉を合図として、皆退出していく。

年末といえど、国の中枢を支える人達に休みはないらしい。素直に感謝しておくとしよう。




……勇者、ね。

自分自身と同じ境遇の人間。赤の他人ではあるが、どこか気になる。


これまで勇者の影響で悪い事があった例はないらしい。

普通に考えるならば、今回もただただ召喚しただけであって、召喚された彼等は魔王を倒すためだけにこの世界へやって来たことになる。


だが、これまでよりずっと多い魔力の量。そして、世紀が変わるこの瞬間。

本当にこれまでと同じ結果で、勇者召喚という騒動は落ち着くのだろうか。





ナツトは心にもやっとした蟠りのようなものを感じながら、年明けを迎えたのだった。



これまで、時差のこと完全に抜け落ちていた話をしましょうかね笑


すっかり忘れていて、気づいた時は「あ、やっべ笑」となりました。

タイムラグなしで瞬時に移動する転移魔法って、やっぱりチートなんだな、と思った次第です。

これからはしっかり気を付けなければ……。

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