Ep.14 転生魔法
「どう?」
地上に降り立った夏翔は核の様子について尋ねた。
「特に変化はないね」
アルティオがそう言った時だった。ピシリと核から音がした。よく見ると二つとも少しずつヒビが広がっていっていた。そしてヒビが行き渡った瞬間弾けた。そして、弾けた瞬間に核の内部にあった膨大過ぎる魔力が一斉に解き放たれる。
「ッ!さ、下がれッ!」
近くにいると危ない。皆が急いでその場を離れる。
解き放たれた魔力は黒い煙のようなものになり渦巻きながら人の大きさほどの球形になった。その球からは何とも言えない威圧感が感じられ、放置するのは危ない気がした。
「なんか、聞こえないか?」
オルウェルが何かに気付いた。
耳に意識を集中させると確かに何か小さくかすれた声が聞こえる。さらに意識してそれを聞く。どうやらあの球から聞こえる。聞いているうちに夏翔はある可能性に思い当たる。
「…これは…もしかして詠唱?」
「……不味いわ。確かにこれは詠唱だわ。でもこれ内容的に途轍もない呪いを詰め込んでいるわよ…」
「仕方ない、魔法で抑え込むしかッ!?な!?これは!?ま、不味い!体の維持が!」
アルティオが魔法を準備しようとした瞬間、煙から細かな粒が周囲に散開し、そこからある力が放たれた。それは紅い光を帯びる『魔王の力』であった。
その効果で魔王は強制解除。魔王の力を中和できる勇者の力を所持していない夏翔以外は魔法化の効果を打ち消され無理矢理肉体に戻る必要があった。崩れていく皆を取り合えず風魔法で遠くまで避難させる。
魔王の力を開放したから、煙が詠唱していたものもなくなってないかと一瞬期待したが、自身には影響の出ないように上手く解放したみたいで、見た感じ完全に詠唱終了している様子だった。
そして放たれる暗黒の魔法。煙自体が魔法と化しているみたいだ。解放された瞬間その魔法を見た夏翔は理解する。この魔法はこの世界を破壊するだけの威力を持っている。威力というのは少し違うかもしれないが、この魔法は生あるものすべてを死滅させるような魔法だ。
この至近距離では回避は不可能。それに今転移して逃げてもこの世界にはもう逃げ場はないかもしれない。後ろにいる友も全員死んでしまう。
そんなことはさせない。夏翔は全力を振り絞る。魔王の力は魔法発動とともに解除された。僕は能力を使って、自身に魔法をすべて誘導する。魔力体は素の肉体より強靭とは言え、限度がある。感じたことのないほど膨大な魔力の流れ。能力がなければまったく制御すら敵わず秒で終わっていただろう。体内を駆け巡る滅亡の魔法。それを心、つまりは魂に宿る勇者の力で片っ端から全力で中和していく。形容しがたい痛みが全身を襲う。魔法で作った体が侵食されすぐに限界を迎えてしまう。それでは、わざわざ抑え込んだ意味がなくなりただ単に多少時間を稼いだだけで終わってしまう。収納魔法に入れておいた自身の本来の肉体を取り出し、うまく移り変わる。
移り替えてすぐに再び耐え難い痛みが全身に襲う。
そこからはただ無心に中和を試みた。中和できるのは魔法だけなので、本来魔法で使われたはずの魔力は夏翔の体内に残ったままだ。時間が経つにつれ体が破壊されていく。頭が真っ白になって周囲の状況もわからなくなる。上下間隔も消え失せ、体の感覚も感じなくなり、自身の体がまだ存在しているのかそれともとっくに消え失せてしまっているのかさえ分からない。
どれほど時間が経っただろうか。実際にはほんの短い時間だったのかもしれない。
周囲から見知った声が聞こえる。彼らだ。声を聴くにどうやら無事だったのだろう。よかった。
眼を開けてみる。どうやら体はしぶといながらも残っていたようだ。視界はすべてがぼやけていたが、視界は一面青かった。そうか、今は空を見上げるように倒れているのか。今は手足の感覚どころか体の感覚すらない。もっとも、まだ手足が付いているのかすら不明だが。
もう長くはないだろう。直感でわかる。体内も魔法で修復不可なレベルだろう。痛みを通り越して何も感じないのはせめてもの救いなのかもしれない。
でも、もっと皆とワイワイしたかったな。やっと国もいい感じになってきていて今からだっていうのに。
「おい!ナツト!しっかりしろ!」
この声はアルティオだな。奇跡的に耳が生きているなんて本当にラッキーだな。最後は共に見送ってもらえるなんてなんてありがたいことか。
走馬灯かな?両親が突如消えた当時、小学生だった自分が近所の祖父母の家で暮らし始めて、すべてに絶望していたあの頃やっぱり手を差し伸べてくれたのも友達だったっけ。幼稚園からずっと一緒だったあの二人は元気にしているだろうか。祖父母は今どうしているだろうか。高校でできた新しい友達は…。
駄目だな。思い出していたらキリがないや。
(おい!返事しろ!口が動かなくても、こっちなら話せるだろ!)
その声で現実に戻る。アルティオのやつ死にかけの人間になかなか無茶を言う。口調もいつもの落ち着いた感じが随分と崩れている。
(…あぁ、…こっち、なら辛うじていける、よ)
(意識は大丈夫とは言い辛いがあるみたいだな!待ってろ、今助ける!)
(いいよ、もう助からない、のは…自分が一番、わかってる。できたら皆と国造り、楽しみたかったけど、皆が無事なら、それで、いいよ)
(弱音を吐くな!絶対に死なせないぞ!何か、何か方法はないのか!?そうだ転生魔法はどうだ!?あれなら可能性が…)
(無理だよ…。あれは、あれをするには、魔力が足りない。それに、あんなものに縋っちゃ、駄目なんだ)
(できるわ。おそらく)
((…え?))
僕とアルティオの声がハモる。まさか、死ぬ直前に誰かと声がハモるとは思ってもみなかった。
(ほ、本当かミューカ!!)
(ええ、私たちの魔力だけでは全然足りないけど、今ナツトの体内に邪神の魔力がほとんど集約されているわ、まさに奇跡的なバランスで。それを使えばもしかすると…)
(わかった、可能性があるなら今すぐにでも取り掛かろう!魔法陣は?)
(覚えているわ。皆、私の言うように動いて)
(よし、耐えろよナツト)
そこからは皆てきぱき動いた。肝心の夏翔の意見は一切聞かずに徐々に地面に魔法陣が展開されていく。夏翔自身も生きたいので別に不都合はないが。いや、生きると転生するは全然違うような気がするが、体がほとんど死んでいるし、魔法も完全に処理はできていないかもしれない。世界に影響を及ぼすまでとはいかないとは思うが、放って置いたら夏翔の魂をも破壊してしまうかもしれない。
なら、ここでいう生かすとは魂的な話かもしれない。
でも、今更ながら自分に自己犠牲の精神があったことに驚く。元々そんなものを持ち合わせているつもりはなかったのだが、自分にもそんな面があったのだろうと思う。それとも、この世界に来て自身が変わったのだろうか。審議はわからない。自分のことなのに何も知らないんだなと内心小馬鹿にする。
あれこれ考えているうちに準備が整ったようだ。自分の体はなんとかもってくれたようだ。自覚はなかったが頑丈だったかもしれない。
青い魔法陣が魔力を吸う。夏翔は体内にあった膨大過ぎる魔力がどんどん吸われていくのがわかった。そして、ある時魔法陣が黄金に輝きだす。どうやら、足りたようだ。あとは、起動するのみ。
(ナツト!またね!)
マーヤから順に一応最後の挨拶が始まった。
(うん、またね)
(その、あぁなんも思いつかねぇ…ナツト、助けてくれて、ありがとう)
(オルウェル、そんな小さいこと、気にすんなって)
(また助けられました。…ありがと)
(素のしゃべり方のミューカ、随分久々に見た気がするよ、こちらこそありがとう)
(…いつまでも待っててやるから絶対国に帰って来いよ。約束だ。何年経ってもいい、ナツトの居場所は必ず守っておく。素晴らしい国を作って見せるさ)
(ああ、楽しみにしておくよ。じゃあ、それまでしばらくお別れだね)
(そうだな、ありがとう、友よ)
転生魔法が起動する。魔法陣から光の粒子が浮かび上がり、夏翔が光に包まれる。黄金の光が空に向かって飛んで行った。光が晴れるとそこにはもう夏翔の姿はなかった。
「ありがとう」
アルティオは空に向かって友にもう一度感謝の言葉を言った。
これにて、一章、完!まさかここまで伸びるとは…。一日で二話更新することになるとは、ね。
いやぁ首が痛い。
ホント、書き始め当初はここまでの内容が序章の予定だったのですがねぇ…。
この後は、少々補足説明とか、人物まとめとか一応入れておこうと思います。
つたない文章で読みにくいかもしれませんが、今後とも頑張って更新していく所存であります。
では、さらば。




