Ep.121 歴史動かす最後の歯車
場所は、真聖カーリエ国。通称、聖国。
時は、白永暦1999年の最後の日。数時間もすれば新たな世紀となる千年に一度の歴史の区切り日である。
国の中心地に聳え立つ城のような見た目をしている巨大な白い建造物がある。そここそが、真聖カーリエ教の聖地であると同時に、この国の政治も担う中心機関である。
そんな場所のある空間に五百は優に超える人々が集まっていた。
そこにいる人々は皆、暑苦しそうな白いローブを着ながら、慌ただしそうに何かの準備をしていた。
この場所の名は、『召喚の間』。長きに渡り、勇者を召喚する為に使われてきた神聖なる場所である。
「聖女は?」
管理職の男が、報告に来た男に話しかけた。
「三人とも既に予定通りの位置に!」
その報告を聞いて男は満足気に頷き、続けてこう言った。
「よし、他の者も急いで完了させろ!もうじき教皇様がここへ来られる!それまでに儀式がいつでも始められるようにしておけ!」
準備は進む。今回はこれまでよりも大規模だと事前に知らせがあったが、過去の召喚時の例に倣い、特に問題は起きなかった。
少しして、男が言った通り召喚の間に教皇ギフトが入ってきた。その後ろには、枢機卿イデノス、この国初の聖女カテラキア、大司教ジャッコア、その補佐メベリータが続く。
「教皇様!」
そのことに気づいた男が礼をしようとしたが、ギフトは右手でそれを制止する。
「よい、そのまま開始に備えよ」
今は、儀式を執り行うことの方が優先度が高いからだ。
「はっ!」
「大司教代理、星の魔力は?」
「予想通り、膨れ上がっています。このままこの国周辺に放出予定の星の魔力をこの場所に集中させます」
畏まった場である為、メベリータは堅い言い方である。普段はもう少し砕けているが、真面目な奴なので、こう言う場でちゃんとする奴である。
他の奴らも是非とも見習って欲しいものだ。
「いつから始められる?」
「今すぐにでも」
相変わらずの手際の良さである。メベリータは普段はジャッコアの補佐をしているが、召喚時のみ、彼は中心的な役割を担うことになる。
メベリータは魔力操作に長けており、その技量はこの国でも随一である。
この星の力の源とも言える星の魔力を制御するのはかなりの難しさがあるが、それを何なく制御可能まで準備できるのは、メベリータの技量ゆえだろう。
因みに、この間やる事がないその他三名は魔法陣発動の補佐に回っている。
「わかった。……全員!そのままでよく聞け!只今より第35代目勇者召喚の儀式を執り行う!今回は以前の倍以上の星の魔力を使用する予定だ!気を引き締めろ!」
この召喚が成功すれば実に35代目の勇者となる。これだけの回数をこなせば、召喚の儀と言うものはかなり効率化されている。
最初の方こそ、人間の魔力のみで召喚を行なっていたが、集めるのだけでも非効率極まるため、星の魔力に注目した。
これならば、比較的楽に集められるからだ。
以降、星の魔力を用いた召喚法の開発が進められてきた。
近年では国周辺の星の魔力の流れを短時間ながら制御する術を得たため、勇者召喚時に星の魔力をこの場に集中させることが出来るようになった。
これにより、ムラなく安定した魔力供給を行う事が可能となり、結果勇者召喚の成功率が飛躍的に上昇した。
また、勇者召喚において聖女も重要な働きがある。これまで、民衆の支持を得る目的で育てていた彼女らを、勇者召喚でも利用してみようとしたのがきっかけであった。魔力が豊富でかつその扱いに秀でた者を育て上げ、魔法陣の重要な部分の制御を行わせることで全体の安定性向上を図った。結果それは成功し、以降聖女は勇者召喚に必須の存在となった。
また、召喚する勇者であるが、過去は一召喚につき一人であったが、技術力向上と使える魔力が増えたことにより、複数人を召喚するのが常となっている。
この理由に、力を一つに集中させないと言うものが含まれている。
勇者は、扱えるか扱えないかは別として、皆『勇者の力』と言う能力とはまた違う謎に包まれた強力な力を有している。相反するかのように存在する『魔王の力』に対抗するために存在しているかはわからないが、その力の強さは先の魔王及び初代勇者ナツトが実証済みである。
仮に召喚した勇者がその力を振るって暴れたら厄介であるので、複数人召喚することで『勇者の力』の集中を避け、分散することを目的としている。
何より、今年の召喚はこれまでと異なり使用する星の魔力の量が倍以上である。単純に一度の儀式に使える魔力が多いので、より安定して素養ある次代の勇者を召喚できるだろう。
星の魔力が湧き出る量は年々異なっており、世紀の区切りである今この時、予想されたその量はこれまでよりずっと多かった。
元々近くに召喚する予定だったが、世紀の区切りに喚ばれた勇者というものが、民衆に対して実に聞こえが良いだろうという意見が出て、その意見が可決された訳である。
「……よし、始めろ」
ギフトの言葉を聞き、一層引き締まったこの場を様子を見て、ギフトはメベリータに言った。
「承りました。星の魔力、充填開始」
地下から供給される星の魔力が、徐々に召喚の間の床いっぱいに刻印された魔法陣を淡く光らせて行く。
そのまま、一時間ほど経過した。依然、魔力の充填は完了していない。
「充填率35 %」
「魔力制御は?」
「良好です」
「続けろ」
魔法陣に充填された魔力はメベリータの管理から離れ、聖女やその他の者の管理下へ置かれる。メベリータは陣に注ぐ魔力の量を調整している訳だ。
「充填率80 %超えました」
充填開始から二時間と少し。常に集中している彼等から徐々に疲労が見え出す。だが、中断は出来ない。これだけは頑張ってもらうほか無い。
この段階までくると、魔法陣はかなり強く輝いている。
また、魔法陣に仕込まれた仕掛けも発動し、魔力は召喚の間という空間内に満たされていく。それに合わせて、床という平面にだけ広がっていた魔法陣は空間にも拡張される。つまり魔法陣は二次元の平面魔法陣から三次元の立体魔法陣として展開するのだ。
「もうすぐだな。最後の発動のタイミングはいつも通り任せるぞ」
魔法陣を発動する時は全員のタイミングを合わせる必要がある。しかし、五百を超える人間がタイミングを合わせるなんてまず不可能である。しかも長時間極限の集中を強いているこの状況下においては尚更である。
ならば、どうするか。
それを解決するのが、このメベリータの有する能力である。
彼の能力を用いれば、全員がタイミングを合わせるという難題を難なく行う事ができる。
その点でも彼の存在は勇者召喚を行う上でも必須であるのだ。
「心得ています」
当然、メベリータはその事をわかっている。心強い返事で何よりだと、ギフトは思っていた。
「はぁ…はぁ………っっ!」
魔法陣の重要な場所に配置されている聖女達にはかなりの負荷がかかり、疲労度も他とは比べ物にならなかった。
「みんな、もうすぐよ!頑張るよ!」
彼女達は励まし合い、それぞれを支える。一人なら心が折れていたかもしれないが、一緒に厳しい聖女教育に受けてきた仲間となら乗り越えられる。生まれが違えど、彼女達はいつしか姉妹のような関係になっていた。
「「うんっ!」」
そんな彼女達の頑張りもあり、召喚の儀はいよいよ最終段階へ入ろうとしていた。
「充填率99 %…魔力制御良好、魔法陣発動準備完了…………充填率…100 %!召喚魔法陣、発動します!」
召喚の間いっぱいに広がった魔法陣の輝きは最高潮に達する。そのタイミングで、メベリータは能力を発動し、召喚魔法陣を問題なく発動させた。
その瞬間、魔法陣の中心部分は凄まじい光を発し、その光は場を埋め尽くした。
光が収まると、その場所には五名の若い男女がいた。
「…………成功、だな」
召喚は成功した。召喚された彼等は何が起きたのかとキョロキョロ辺りを見渡している。
役目を終えた魔法陣はその輝きを徐々に失っていき、消えていく。
「ふぅ、慣れたものです」
「ご苦労。……さて」
未だ混乱している召喚者達を見て、ギフトは魔法陣の中心に向かって歩き出した。
「オイ、何が起きたッ!?」
一人金髪のチャラい少年が苛立ちながら言った。
先程まで高校から家に帰る途中だったというのに、いきなり光に包まれたと思ったら知らない場所にいたのだ。
全くもって意味がわからなかった。
「……え……!え……」
金髪の少年と同じ服装をした爽やかな雰囲気の少年は、何やら心当たりがあるのか若干の期待に満ちた表情をしていた。
「何だ、この人達……怪し過ぎんだろ」
同じく、服装が同じの眼鏡をかけた根暗そうな少年は周りを見て、状況を理解しようとしていた。白い服の人達が全員彼等を見ているので、普通に怖いなと感じているようだ。
「頭が……」
少年達とは色が違うブレザーを着ている髪を後ろで束ねている少女は目眩がするのか、少し体調が悪そうだ。周りの状況も気になるが、気分が悪くそれどころではなさそうであった。
「大丈夫!?」
もう一人のショートヘアの少女はそんな彼女に駆け寄って心配していた。こちらの少女も少年達とは色の異なるブレザーを着ている。
「……世界の救世主たる、勇者諸君よ。よくぞ我等に答えてくれた。どうか、悪しき魔王を討ち滅ぼし、この世界に安寧と希望を齎してくれ」
混乱する彼等に構わず、ギフトはそう高らかに宣言した。
彼等の視線もギフトに集中する。
この言葉を言うのは何回目だろうか。
此度の勇者はいかほどの力を有しているのか。どこまでやれるのだろうか。
ギフトは一人一人を見ながらそう思っていた。
世界の歴史という途方もなく大きな概念を動かす最後の歯車が今、ここに揃った。




