Ep.120 世紀の区切りに世界は動き出す
結局、「アズ」の事はみんなには言わずにラーテル王国へ帰った。
先に転移魔法で遺跡の入り口付近まで飛ばされていた三人にこの事を伝えるにせよ伝えないにせよ、先にアルティオやティアメシアに伝える方がいいだろう…そう判断したのだ。
実際その非常に興味深い存在については、公務が忙しい国王アルティオも、ギルド総帥ティアメシアも話を聞くなり大きな関心を寄せ、数日も経たないうちに、ティアメシアの方から非公式でラーテルまで脚を運び、ナツトの話を聞くことになった。
また、面白そうな話をすると聞きつけたのか、これまた忙しいはずのミューカ、マーヤ、オルウェルまでもがナツト達三人のいる場所まで乗り込んで来て、ギルドのトップとこの国の最高戦力が一堂に会する豪華な報告会となった。
分かっているのは、記録でしか残っていない太古の文化を探ろうとする謎の存在であること。かなりの技術力を有していること。そして何よりナツトのことを知っていること。
個人としての興味は勿論のこと、国やギルドという単位で見ても無視できない相手である。
そして、話は進みやはりその存在の居場所に焦点が当たる。
与えられたヒントは「どこかの地下」というもの。
意外にも、広大なこの星の何処の地下を探れば良いのか、皆目見当がつかない……と言うわけではなかった。
この世界のことをよく知る彼等が話し合えば大体の予想はすぐに立てられた。
「一番可能性が高いのは、やはり聖国だろう」
真っ先に候補に挙がったのは聖国。真聖カーリエ国という名であるが、略して聖国と呼ぶのが割と一般的である。
数百年前にクーデターが起きて色々あったそうだが、千年以上この星に名を残し続けている国だ。
そう言えば、自分をこの星へ喚んだ時もいかにもな服装をしていた人達が聖国の人達だったな。
現在、聖国とラーテルは少し仲が悪いようで、度々脅威となる魔王に対して、事あるごとに勇者召喚を行っているとのこと。
ラーテル王国としては、この星の戦力を考えれば勇者召喚で異界の者を無責任に召喚しなくても、魔王の一人や二人ならなんなく対処できる筈だから勇者召喚を止めろと主張しているが、一方の聖国は勇者はずっと人々の希望で有り続ける存在であり、人々の安心と安寧のために喚ばなければならないと主張しているそうだ。
魔王が未だに存在し続けている事は驚きだが、勇者と同じく代を重ねているそうだ。
気になるが、話の腰を折ることになるので別の機会にでも聞く事にした。
アルティオ曰く、聖国の戦力は未知数であるそうだ。特に上層部はアルティオ達と同じくずっとその地位に座り続けているそうで、普通に考えて寿命を超越している存在である。
もし、彼等が元は人間であるならばアルティオ達と同様に肉体を捨て、精神的な存在であると考えているようだ。
さて、そんな怪しさ満点の聖国だが、勇者や聖女といった象徴的な存在と魔法の発展を大事にしていると言う。
……だが、千年もラーテルと睨み合いをしている以上、ラーテルに負けないよう技術力も鍛えている筈だ。いや、鍛えてないと国としてヤバいだろう。ラーテルの発展ぶりを見れば嫌でもその分野に力を入れようと考える筈である。
そう言う背景があるため、一番怪しいのが聖国であるのだ。
確かにその通りだと思う。
遺跡で出会った彼女は見たことのない技術の塊であった。ちゃんとした研究施設等で造られたと考えるべきだし、そうなれば長く知識と経験を積んでいる国だと考えるのは必然だろう。
取り敢えず、修学旅行で聖国に行くことが確定しているし、向こうでしっかり確認するとしよう。
「さて、他の候補だが……三域かな」
三域。それは畏怖の三域と呼ばれる人類未開の地である。『消失の樹海』『未開の樹林』『魔の領域』の三つであり、いずれも強力な魔物が蔓延る場所である。
何かしらの組織がこれらの場所に研究施設を作っている…という仮説である。
この組織というのは適当に考えた設定であるため無視して構わないが、確かに三域ならば邪魔は入りづらいだろう。
魔物からの被害を抑えるため、施設を隠すためという目的のため施設を地下に作ったというのは理にかなってはいる。
「三域にあるとしたら、魔王の可能性も考えられるわね」
ミューカがそう指摘した。
「魔王って三域にいるの?」
思わず質問をした。今度聞こうと思っていた魔王に関して少し興味深い情報が出たからだ。
「ええ、現状大陸の殆どが人の手によって管理されている状況にあるから、魔王と何処かの国が繋がっていない限りは、魔王は三域で潜伏していると考えるのが自然ね」
「成程」
「ま、魔王とひとえに言っても、魔物から派生した魔王と魔族から派生した魔王の二つのパターンがあるからな。ナツトが知っているのは魔族から派生したパターンだろ?ここ数百年の魔王は三域内の魔物が成長して人々に魔王と呼ばれる程にまで力をつけるパターンが殆どだ」
と言うのが、オルウェルの補足説明だ。
成程成程、そう言うことか。確かに自分が知っているのは魔族の王様だったあの魔王だ。
だけど、それとは別に魔物から魔王になるみたいなケースもある訳か。
要は括りだな。強力な個体と成った魔物がいれば魔王というカテゴリーに入れられる。そういうことだろう。そして、強力な魔物が多い三域においては、そういった個体が発生する可能性が高い。だから、魔王は三域にいるとされているわけだ。
「三域の調査については、ギルドが引き受けます!」
「頼むよ、ティア」
「任せてください、アルさん!…あ、とすると…後の…」
「聖国は、難しいだろうね……少しずつ探っていくぐらいしか国としては無理だろうね」
まぁ、それはそうだな。「調査させて下さい!」とか言って、「いいですよ!」っていう返事が返ってくるわけがない。お互い仲が悪いのに尚更だ。
やはり、自分が現地に赴いて可能な限りの調査をするべきか……?
「まあ、伝手が無いわけではない。可能な限り調べてみよう」
と思っていたらアルティオにはどうやら何か手段があるらしい。
そんなこんなで話はまとまり話し合いは終わった。
その後は久しぶりにみんなが集まったので一緒に夕食を食べ、忙しいティアメシアはその日中にギルド本部へと返って行った。
「そうだ、ナツト。チェリーの側仕えが君の事を調べ直している件だけど」
家に帰ろうと思っていた時にナツトはアルティオから話しかけられていた。
「あ、あったね。そんなこと。遺跡のことですっかり忘れていたよ」
チェリーことチェルーティアがナツトのことを調べているという事を当たり前のように知っているアルティオだが、その事は別に良い。どうせ知っているだろうと思っていたし、わざわざ説明をしなくても済むのでありがたい。
尤も、アルティオからその話題を振ってくるとは思っていなかったが。
「彼女、先ずはゴルマとシュリアについて調べたけど、良い情報は得られなかったけど、次にナツトの既にいないとされる両親について頑張って調べてね、そこでその存在が不可解であると気付いたみたいだ。それもそうだよね、存在しないもんね」
「これなら、ゴルマとシュリアを両親役にでもしておいた方がよかったかな」
「はは、それも面白そうだね。それで、続きだけど君の両親のことが不審になった彼女は、そんな可笑しな隠し事が果たしてこの国で可能なのかと疑問を持ったみたいでね。恐らくだが、そう遠くないうちに君という存在が国家ぐるみで隠された存在であると気付くだろう。そして、そこから君と言う存在が何なのかある程度の察しはつくだろう。……流石はバラだ」
話を聞く限り、やはり非常に優秀な者らしい。だが、そんな彼女の動向を知り尽くしているアルティオの情報網もかなりやってる領域にあるだろう。
「国が隠していると彼女が知ると、チェリーには君の正体はわからなかったと伝える」
アルティオは随分と確信を持って言った。まぁ、よく考えれば城の人間はアルティオの息がかかった者達だし、王女の側につける程の存在なら特に、だろう。
国が隠しているという事は即ちアルティオが絡んでいるという事。幾ら王女の側仕えだとしても、王の意向を破ろうとはしないだろう。
「そういう訳だから。じゃあ、お休み」
「うん、お休み」
ナツトのチェルーティアへの問いかけは、結果的にチェルーティアはナツトに関して新たにこれと言う大きな事は何も知れずに終わることになった。
ナツトの秘密を知ってしまったバラという側仕えは苦労が増えそうだ。いつか、労いの品でも贈ろう。
アルティオは深く腰掛ける。
今日は久しぶりに面白い話が聞けた。
太古の遺跡に、それを調べる未知のゴーレム。そしてそれを纏める存在。
アルティオも過去の文明には興味があった。未だ謎多き文明。
過去に大繁栄したが、何かしらの原因によって滅び、遺跡や僅かな資料ぐらいでしか残っていない文明。
収納魔法を発動し、透明な板のようなものを取り出す。サイズはちょうどスマートフォンぐらいである。アルティオがそれに触れると、それは淡くが光り、起動した。
しばらくして、その道具は何処かと通信が繋がった。
「……私だ」
「エイさん、こんばんはー」
アルティオの事をエイと呼んだ通話越しの声は気さくな雰囲気がする男の声だ。
アルティオは、その事を特に気にする様子はなく、しばらくその声の主と世間話をした。
「そう言えば」
「お?」
「近頃、庭のモンドラシナの花が枯れてきてね、秋の到来を感じるよ」
「あー、残念だ〜。レアな花なので久しぶりに見てみたかったなー」
「これから寒くなる。風邪をひかないように、あったかくしなよ」
「はーい。じゃーまた今度」
通話が切れる。
これでいい。
モンドラシナは花が枯れると、根の一部が大きく膨らむ。その部分は高級食材として有名であるのだ。
先程の会話は、暗に地下を調べろという指示である。
ついでに、用心して調べろとも伝えてある。
世間話のついでに沢山の情報を得ることができた。
潜入させている国が国だけに、大変であるだろうが、彼ならば、何かしらの情報は掴めることだろう。
それからと言うもの、チェルーティアがナツトに対する不信感というものは増えたが、それ以外は大していつもと変わらない日常が過ぎた。
ギルドの依頼も受けていないし、ただ日々の学生生活を送っただけだ。
そして、高等部の修学旅行まであと半年ほど前となった。
ちょうどその時世界は白永暦2000年になろうとしていた。
世紀末が終わり、新たな世紀を迎える。
遂に世界を、歴史を動かす決定的なきっかけとなる「あの日」が訪れる。
ようやくって感じかなー。
前座に120話て……想定より延びすぎた。
この章、卒業までとか書いた気するけど、そろそろ切ります。章に対する見立てに関しては嘘しか言ってない気がするなぁ……。今更だけど。では!




