Ep.119 絡繰の彼女
一行は、目の前にいる存在に警戒をしていた。
この時、ナツトは一瞬、背筋がゾクッとした。
「ゼクタ、まさかコイツが依頼の……」
リアムがゼクタに耳打ちする。
確かに状況からしてもその可能性は高い。
目の前の存在は明らかに魔物ではなく、人工物であった。
「……ああ、可能性は高い」
ゼクタもその考えに賛同した。
腰にかけていた剣はとっくに抜刀しており、戦闘体制を完了している。
「聞こえていますよ。失礼ですが依頼とは……?」
機械音の混じった綺麗な女性の声が玉座の間に広がる。
緊張が走る。それなりに距離も離れている上、かなり小さな声での会話であったが、聞こえていたらしい。
作り物であったとしたら、かなりの高性能であることは明白であった。
「……この遺跡に現れた謎のゴーレムの調査だ」
そんな謎の存在の質問に対してゼクタは正直に答えた。
「おい!ゼクタ!」
敵かもしれない存在に対して、こちらの目的を言うのは危険じゃないかと思い、リアムはゼクタを静止しようとした。
……が、それをゼクタはジェスチャーで大丈夫だと伝えて止める。
「いいんだ。勘だが言うべきだと感じた」
「ありがとうございます。ゴーレムの調査ですか……ふむふむ私は厳密にはゴーレム…ではないのですが…何も知らぬ人から見れば確かにゴーレムに分類されるかもしれませんね」
彼女…と一先ずはそう呼ぼうか。
意外にも彼女は流暢に話す様だ。機械だから、話す内容は少ないと言うわけではなく、何と言うか人みたいな話し方をする。
「依頼元はこの遺跡の調査員だ。白衣に丸メガネをかけた白髪のお爺ちゃんだ。見覚えないか?」
意外に話せる相手だと、感じたゼクタは警戒を緩めずに、彼女に問いかけてみた。
「ふむ?………ああ、ありました。データに残っていますね。五日ほど前にこの遺跡に来ていましたね。私に気付いてそそくさと逃げていった所を見ておりました」
「では、依頼の目的はお前で決まりと考えて良さそうだな。ついでだが、ここに来た目的を聞いてもいいか?」
やはり、会話は成立する様だ。
そして、彼女が今回の依頼の目的であることもこれでほぼ明確であると言えるだろう。
依頼の目的が話もできず、人を見かけたらいきなり襲って来る様な輩ではなくて一先ずは安心である。
加えて、会話が成り立つと言うことは情報源としては非常に助かる。もちろん、嘘等の注意は要るが、それでも会話が出来ないとでは雲泥の差である。
「私の目的は、ここの調査です。殆ど終了しましたが。……太古の文明は我が本体が御興味を持たれている物事ですので」
彼女の目的はすんなりとわかったが、それに付随して何やら重要そうなワードが出た。
「我が本体?どう言う意味だ」
ゼクタも同じ場所に引っ掛かったらしく、それについて訊く。
「言葉通りです。仕事で動けない本体に代わり、私達分体がこうして調査を任されている訳でございます」
本体……か。創造主とかではなく、か。と言うことは彼女にここを探らしている存在は彼女と同じく、機械のような存在ということだろうか。
「では、お前の本体は過去の文明を知って何をしたいのだ?」
随分と飛躍した質問だ。だが、それは気になる質問でもある。
本体という存在がどの様なものかわからない以上、その行動目的を知ることでその特徴を掴めるかもしれない。
「本体制限権限に抵触します。回答は出来ません」
だが、そう上手くはいかない様だ。意外と情報を教えてくれたが、そういう部分は教えてくれないらしい。
「急に機械みたいな言い方をするな」
確かにこれまでの人の様な話し方とは打って変わって、急に定型文のような決まりきった文章を読み上げたみたいな言い方であった。
「そういうものです。というより機械ですから」
そういうものなのか、成程。
「……それでは、今度はこちらの質問に答えて下さい」
「質問?」
「そうです。先程言ったでしょう?そこの貴方がこの場所に何かしら気付いたことがあるようだと。さあ!」
機械というよりかは、AIみたいなものかもしれない。彼女に顔はないので表情を見ることは叶わないが、何というかその……グイグイ来る感じというのが、人間味を一層感じさせる。
それよりも、だ。どう答えるかの方が大事だ。
話せると言っても、相手は未知の存在。下手に情報を渡すわけにはいかない。よって、ここは飽くまでとぼける。相手の出方次第であるが、先ずはこれで様子見だ。
「う〜ん、最初は覚えがあると思ったんだけど、よく考えたらそうでもなかったんです。役にたてなくて申し訳ない」
「ふむ、人が偶に感じるデジャヴというものですか?体感してみたいものですね」
ピュアなのか、何やら勝手に納得してくれた。否定する理由もないのでそういうことにしておく。
「では、この場所で先程感じた魔力の揺らぎは何でしょうか?」
「魔力の揺らぎ?何だそれは」
聞き慣れない言葉に対し、ゼクタが聞き返す。
「おや、ご存知ではないですか?まあ、周辺の魔素が微弱な魔力によって僅かに振動する現象です」
「俺たちは感じてないが?」
「ふむ、実に弱い反応ではありましたし、人間では感じないレベルのものでしたか。では、少しここを調べさせてもらいますか」
知らないのなら仕方がない、と言った感じで、彼女は一人動き出した。玉座の間を歩き回り何かを調べているようだ。
「ああ、やっぱりここですね。ココ」
しばらくして、彼女はある場所の前で立ち止まった。その場所は玉座の前に設置されている青い球の台であった。
「あ、あそこって……」
ナツトと台を交互に見ながらガルノが呟いた。
「……む、この残滓の魔力波長……記録がありますね……成程これは実に興味深い」
こちらには聞こえない程度の大きさの声で、彼女はブツブツと何かをいっている。
「なぁ、あそこって、さっきシャックがいた所だよな?」
「……そうだね、何かあったのかな……」
ナツトは内心少し焦る。後で皆んなに何と説明しようか今から考え出していた。
「提案があります」
台の方からこちらに振り向くや否や、彼女はそう言った。
「突然どうした?」
「戦いましょう」
「「「「は…?」」」」
突然そんな意味のわからない話を持ちかけられたら誰でも戸惑うだろう。
「待て、なぜそうなる」
「ざっと皆さんを鑑定した感じ、なかなかの強者ですね……私自身の性能テストも兼ねて実戦データを集めたいのです」
「鑑定を…だと?断る。俺たちにメリットがない」
やはり鑑定魔法をかけられていたのか。先程感じた背筋がゾクッとしたときだろう。
咄嗟に抵抗したが、ワンチャン情報を抜かれているな。どれぐらいの精度の鑑定魔法かは不明だが、ナツトだとバレていないといいな。
しかし、他三人に気付かれることなく鑑定魔法を使うとは相当な腕だ。普通は勘付かれるが、そうなっていないということは、そういうことである。
「そうですか。では、戦ってくれたら私はこの遺跡に二度と来ないと誓いましょう」
「……それだと意味ないだろ?お前は先程調査は殆ど終わったと言った。仮にも機械のお前がデータを記録し忘れることなんて無いはずだ。次なんてなくても充分なくらいデータは得た。ここにはもう用事は無い。二度も来なくていいんだろ?」
ゼクタは冷静だな。情報を整理して、的確に返している。
「……ほぉ、鋭いですね。正解です。……ふむふむ、困りましたね。……では仕方ありません。私が今から暴れるので皆様は是非止めて下さい」
彼女の手が変形して、よく切れそうな刃と化す。残念だが、戦闘は避けられそうになさそうだ。
「……チッ、結局そうなるのかよ!仕方ない、やるぞ!」
「大規模な破壊魔法は使わないのでご安心を」
かくして、遺跡の最奥での戦いが開始された。
「うわっ!」
「ガルノっ!大丈夫か!」
「……何とか!」
すんでのところでガルノは彼女の刃を回避し、後退する。もう少しで鼻が無くなっていただろう。
彼女の両腕が変化した刃。液体金属のような性質も持っており伸びる。間合いとかそういうのを見切ろうとするのは無理であった。というか、突然身体から刃も生えてくるし、ギミックだらけだ。
四対一という不利状況にも関わらず上手く立ち回っている。
戦況は一旦落ち着き、両者共に距離を取っている。
「……何となく察してけど手強いですね」
「ああ、それに人型だからと言って人と同じ動きじゃないな。人間の剣術じゃねえ。関節の曲がる向きとか挙動全てが無茶苦茶だ。あれ、初見殺しだろ」
ゼクタの言う通りである。まるで、スライムを相手している気分だ。
「……と言いつつ、対応できているじゃないですか。正直驚きです。それに戦闘が始まって十分弱ですが、誰も脱落しないのはひとえに皆様の優秀さ故でしょう」
「…お互い本気は出していないみたいだしな」
「それはそうですね。では……」
彼女の右脚が光ったと思ったら、その脚を中心に、瞬間的に離れた位置にいるナツト達も飲み込む程の巨大な魔法陣が展開される。
大きくて、見辛いがこの魔法は……。
「これはっ!?」
「大規模魔法陣か!?」
「使わないって言ってなかった!?」
周りが少し焦る中、ナツトは脳をフル回転し、分析を進めていた。
「大規模"破壊"魔法は使わないと言いましたが、この程度の普通の魔法は使いますよ。はい、発動です」
「何だ!?」
発動すると一瞬の出来事であった。玉座の間が途端に静かになる。
魔法陣の中心にいる彼女を除いて、全員が何処かに転移する、そう言う魔法であった。
「……流石ですね。やはり貴方だけは残りましたか」
魔法陣による輝きが晴れた時、彼女はその場に残った人物に対して、そう言った。
「知ってたみたいな言い方だね」
「それは勿論です。貴方だけは鑑定魔法の結果に違和感がありましたし、何より先程観測した魔力の波長……千年ほど前に存在した人物と一致しましたので、是非ともお話がしたく、他の皆様には強制的に遺跡の外へ行ってもらいました」
「…へぇ」
こっちが本命だったか。偽の目的である性能テストで場を乱し、適度なタイミングでナツトとの二人きりの場を作った。性能テストも恐らく目的であったのだろうが、上手く相手の狙い通りに誘導されたと言う訳か。
「結論から言います。貴方は、初代勇者のナツト様でしょう?誤魔化しは要らないですよ」
……バレていたか。何となく察してはいたが、そうかあの球体に触ったのが悪手だったようだ。
……いや、どのみち触るつもりだったものだ。今更後悔しても意味は無い。
それに、相手が態々一対一で話す場を設けてくれた。さっきみんながいる時でも話すことは出来ただろうに。その点は素直に感謝である。
「……正解。まさかデータとして記録に残っていたなんて驚きだね」
「お褒めに預かり光栄です。さて、勇者ナツト様、私の本体が貴方にもし会えたら聞いてみたかった質問があります」
「……何かな?」
「貴方はこの世界が憎くありませんか?」
「憎い?……いや、特には」
何が来るかと少し身構えたが、随分と変な質問だ。質問の意図が見えないが、普通に答える。
「そうですか、では質問を変えます。約千年前貴方はいきなりこの世界に召喚され、更に無責任にも世界を救えと言われた。その様な理不尽に合いながら何故この世界の為に戦ったのですか?」
成程、理不尽に付き合わされた挙句、結果的に死んだという事に対して、「この世界を憎んでいるか」と言う訳か。
確かに面倒な事に付き合わされたと思ったが、それもずっと昔の話だ。それに、僕を召喚したおっさん達は少し鬱陶しかったけど、この世界は最初から憎んじゃいない。
「うーん、確かにあれは理不尽だったけど、起きた事は受け入れるしかなかったね。それにあの時は、誰が敵なのか不明だった上に、どの道戦わないと死んでいた。状況を整理する時間を作る上でも、従順に従っておくべきだと判断したんだ」
「成程、やはり記録通り環境に対する適応力が高い様で。…では仮に魔王側に正義があったならば向こうについていたかもしれないと言うことですか?」
面白い質問だ。
確かにいきなりこっちに喚ばれたが、喚んだ人達が正しいとは限らない。
だからこそ、さっき答えた状況を整理する時間が必要だった訳だ。
「正義……と言うのはお互いが掲げているものだと思うからちょっと違うと思うけど、当時自分なりに世界の状況を調べ上げて、正しいと思った方に加担した…それだけの話だよ」
「ふむふむ……成程。おや…」
「どうかした?」
「いえ、本体より帰還命令が下されました。それと、「続きはまた今度。次は直接会って話そう」と貴方に伝える様に言われました」
「本体が聞いているの?」
「はい。我ら分体全ては本体と同期しています」
それもそうか。本体がもし彼女と同じく機械ならば、同期しているのが普通か。
「ふーん…それで、その本体は何処にいるの?」
「本体制限権限に抵触します。回答は出来ません」
「流石に無理か」
「本体の場所は教えられませんが、本体が貴方に興味があるのは事実です。その上で、本体の居場所に関して一部発言の許可が降りました」
「それは有難いね」
何処にいるかもわからないのに、会いたいと言われても困るだけだ。少しでも、その本体とやらがいる場所が知れると言うなら実に有難い話である。
「我らが本体は、とある場所の地下深くにいます。お手数ですが、そちらから出向いてきて欲しいとのことです」
「地下深く……もう少し詳しく、は……出来なさそうか。……了解した。いつか頑張って会いに行こう。僕個人としても気になるしね」
居場所に関する情報は本音で言うと殆ど役には立たない。
…が、目の前の彼女からして、相当な技術。都市部や技術が発展した場所の地下等の可能性は高そうだ。
勿論それ以外の場所の可能性も大いにあるが、今後は訪れた場所の地下とか少し注意深く探ってみるとしよう。
「有難うございます。それでは私はこれで……」
「あ、ちょっと待った」
「どうかされましたか?」
「…君達は一体何?」
「ああ…!そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はただの分体ですので名はありませんが、我らが本体の名は"アズ"。どうかお見知り置きを」
「アズ……ね」
「それでは、ご機嫌よう」
そう言い残し、彼女は身体の中に仕込んでいた転移魔法を起動し、どこかに去っていった。
「……転移場所の座標を探れるかな、と思ったけど流石に対策しているか」
残った魔力を調べて転移座標の逆探知を行うも、座標部分を探れないように細工されていた。
知ってはいたが、そう単純にコトは進まないらしい。
恐らくだが、ナツトに会いに来てもらうと言うのは、ナツトを試す意味もあるのだう。
少ないヒントの中、「アズ」という存在の元へ辿り着けるのかどうか。
「面白いね、俄然会ってみたくなって来た」
ナツトの魔力波長のデータを持っていたこと、そして何かを行っているから自ら外に出歩けないこと。この事から「アズ」は、何か重要な情報を持っている気がする。
謎の存在の場所を突き止め、会いに行く。
いつ達成されるかはわからないが今後の目標の一つが定まった瞬間であった。
あっぶな!
ついこの前、ちょっと田舎の方まで出掛けていたのですが、夜、真っ暗闇にあった深さ2.5 mくらいの側溝に思いっきり落ちてしまいまして、一瞬死んだかと思いましたよ!ガチで!
奇跡的にスマホはセーフで怪我も打撲と擦り傷だけで済み、骨折等は無かったので笑い話にできますが、いやーほんと恐怖ですよ。朝見た時、こんなに深かったのかよ!?って吃驚しました笑(そしてよく出て来れたな)
皆さんも、溝には気をつけましょう!足元…掬われますよ!では!




