Ss.9 再調査
「………はぁ……」
私……いやチェルーティアはため息を吐いた。
「悩み事…ですか?」
側にいたメイドが訊いてくる。
「そう、ね。でも、大体わかった気がするけど……」
「そうなのですか?その割にはまだ…引っかかっている様な雰囲気ですが」
「流石ね。その通り」
相変わらず、このメイドは私のことをよくわかっている。思った通りの返答が返ってくる。
「ふふん、何年殿下の側にいると思っているのですか」
褒められた彼女は、自慢げだ。
彼女は私よりずっと年上だけど、こういうところは可愛いなと感じる。
「そうだったわね」
釣られて微笑みながら、そう返す。
前置きが終わったので、彼女は私に訊いてきた。
「それで、どのようなものだったのですか?差し支えなければ是非訊きたいです」
「いいよ」
私は、ここ最近悩んでいた事について彼女に丁寧に話した。
「…なるほど。その男子生徒の恋事情を訊いたら、言ってきた付き合えない理由ですか」
少し長くなってしまったが、一番大事なのは彼女が言ってくれた通りの部分である。
「そう」
私はそれを肯定し、彼女の考えを聞こうと目線で促す。
「殿下が下手に誰かと付き合えない理由……」
うーん…と唸りながら彼女は真剣に考えている。
私はそれを黙って見守り、彼女なりの答えが出るまで待つ。
「…そうですね。位が高すぎるからとかですかね?」
しばらくして、彼女が出した答えは自分自身が考えた理由の一つであった。
その考えを聞き、やはりそういう方向であると、ある程度の確信を持つ。
「私もその可能性は考えたわ。他にも……仮に私が誰かと付き合うとなれば、周囲に相当な影響を与えることになる…ことだとも考えたわ」
彼女の答えに同意する。
彼女の言うその考えが最初に行き着くものだろう。
続けて、私なりの考えも述べた。
それを聞いた彼女は、「なるほど」という顔をし、頷いた。
「それは確かにそうですね。仮に殿下が他国の王子様と婚約したら、とんでもない騒ぎになりますね」
その光景を思い浮かべているのか、彼女は「大変そうですね」と小さく呟いていた。
「でしょ?」
「……それに関しては納得しました。ですが、引っ掛かりますね」
やはり、彼女も気付いたようだ。この考えに至った場合の更なる疑問に。
そう。私がずっと悩んでいたのは、シャックが言った「付き合えない理由」が何なのか…ではなく、その先にある事だ。
「そうなの。何故彼が…」
「「その事を理由にしたのか」」
意見が一致した。やはり、ここが謎なのだ。
「やっぱりソコよね。私もここがずっと気になっていたの」
「……その彼は、実は他国の貴族とかじゃないのですよね?」
一応確認…という感じで彼女は私に問う。
「ええ、その筈。生まれも育ちもこの国よ」
「重鎮の子どもって可能性は?」
彼女は考えられる可能性を順番に挙げ、その可能性があるかどうかを私に判断させる。
「ない…とは言えないけど、彼の両親はもう居ないと聞いているわ。……というか、以前調べてもらった子よ。ほら、シャック・クルシャウト」
「……あ、彼ですか。でも、以前の彼の調査では特段変な部分はありませんでしたよね?」
「そう。でも今回気になる事を言った」
「もう一度、調べてみてもよさそう…と言うわけですね!」
「ええ、前以上に念入りにお願い。執事とメイドがいるって聞いたわ。両親の死後も面倒を見てくれているって。彼らについても、ね」
そう、前回はシャックのことを詳しく調べたが、今回は彼の周辺環境も以前よりもっと徹底的に調べる。
「それに、これでは私のプライドが許さないですね」
そう言うと思った。
彼女はそういう人物だ。過去に調べた人間に、怪しい事があった。このことは彼女にとっては、納得がいかないだろう。
「お願いできる?」
「任せてください!……それにしても、何と言うか不思議な少年ですね」
「……そうね。意味深だし、ホント謎だらけ」
「……あと殿下。最初のわかりやすいほど思わせぶりな態度は可愛かったですよ」
「あら?何のことかしら?忘れたわ」
あからさまに惚ける私に、彼女はにこやかな笑みで返した。
「ふふ、殿下の依頼確かに承りました。数日程、お時間を下さい。その彼について今一度調べて参ります」
期待通りの返事が返って来て、満足である。
「助かるわ。ゆっくり調べて」
急ぐ用事ではない。彼女ならば、日常業務に支障が出ないようにやってくれるだろう。
「それはそうと、殿下」
話は終わり…というタイミングでふと思い出したかのように彼女は言った。
「なぁに?」
「就寝のお時間です」
言われて気が付く。確かに現在時刻はいつもならばもう寝ている時刻だ。
「本当ね。じゃあ寝ようかしら」
起きている理由もない。ちょうど言いたいこと
「お休みなさいませ」
「うん、お休み。メルリア」
部屋の明かりが消され、窓から入る光のみがこの部屋を微かに照らす。
あら………?
ベッドから見る事ができる窓の景色に、一つ気になるものをチェルーティアは見つけた。
彼女はベッドから出、窓際へと歩いた。
彼女の目線の先には、かなり向こうの城の南側に位置する、通称南館と呼ばれる場所があった。そして、彼女が気になった場所というものは、そのその南館のある階。
そこは、普段物置として使われており、物を取りに行く時以外使うことのない場所。
ましてや、こんな時間に明かりが点いているなんてことは絶対とまではいかないが、殆どないことであった。
「あの場所……一体誰が」
その部屋は、その後二十分ほど明かりが点いていた。
明かりが消えると、まるで何もなかったかのように南館の窓は夜の闇を写した黒い硝子へ変わった。
今し方見たその光景が気になって仕方なかった彼女は、その日、しばらく寝付くことが出来なかった。




