Ep.116 いつもと違う雰囲気
五人の生徒が集まる生徒会室でそれぞれの仕事をしていた。だが、最近の生徒会室の雰囲気はいつもとは異なっていた。
『………………………』
何とも言えない無言の室内。
集中して仕事ができるのか、と言われたらそうではない変な雰囲気。
……というのも、チェルーティアがなにやら小難しそうな表情を常にしており、たまにナツトをチラリと見るのだ。何か悩み事ないしは気になる事があるのは明白であった。
だが、流石は王女というべきかそのことに囚われて仕事に手がつかない……と言う訳ではなく、ちゃんと仕事をした上で悩んでいるという何とも器用な悩み方であった。
そして、チラチラ視線を向けられるナツトの方は、絶対に気づいている筈なのに、気づいていないフリ……つまり無視を貫いている。
絶対に何かあった。
ここまで露骨だと誰でも察する。
だが、それが何かまでは流石に予想しかできない。
いつもの魔法論争が発展したもの…とか、シャックに関して余程気になる事があったのか…とか、まさかそういう…みたいな考えなど三者三様の予想がされていた。
だが、会長がそんな様子であるので、その他からしたら仕事がやりづらい空気である為、役員達はどうにか出来ないものかと視線でやり取りしていた。
それに、もし生徒会を運営する中で、支障となるような悩み事ならば早急に共有して解決しなければならない。
言い出せないのなら、言いやすい雰囲気作りからだ。生徒会の仕事がひと段落した時に副会長のイアノンがさりげなく訊いた。
「……会長。何かあった?悩みがあるなら聞くよ?」
その一言が発せられたその瞬間、ナツトの作業による音以外すべての生徒会室における物音が無くなった。
ナツト以外の全員が何を知りたいかが一目瞭然であった。
皆、沈黙しチェルーティアの言葉を待つ。
「……別に何もありませんよ?」
しかし、残念な事に帰ってきた答えは彼らが期待していたものではなかった。
彼女にこう言われてしまっては、殆どの者は言い返せない。
階級意識が強いロックバードは当然のこと、ナツト以外の所謂平民組も、チェルーティアとは生徒同士ではあるが、王女と国民という関係性の方が優先度が高く、ある一定の距離感を取っている状態にあるので何も言えないのだ。
つまりは、ナツト達能力保有者仲間の距離感がオカシイのだが、それは今はどうでもいい。
そして、そんな距離感異常のナツトは無視を貫いているので使えない。
それならば、唯一対等の立場にいる者が頼りとなる。つまり、必然的に彼女と対等の立場にいるイアノンへ視線が集中する。
「まぁ、そう言わずに。ここまで君が悩んでいると、流石に周りも気付く。そして、心配してしまう。そうなれば、各々の仕事の進捗具合に影響が多少なりとも起きる可能性がある。それは、君にとっても不本意ではないだろう?」
上手いこと言い訳し、彼女の悩みを引き出そうとするイアノン。
しれっと、他のメンバーも売りながら……。
「…………それは…確かにそうだけど……」
お、いけそう。
全員がそう思った。
「……いや、言うのは流石に……」
だが、イアノンの意見に賛同はするも、何やら遠慮している様子。
「男子は一旦外に行こうか」
「そうだね!」
生徒会のメンバーの一人である女子生徒が言った。そして、すぐにもう一人の女子生徒もそれに同意する。
どうやら、何かを察したようだ。
「あっ、おい!」
ロックバードが何やら言おうとしたが、勢いで追い出される。
男子全員を外に追い出すと、流れるようにバタンと生徒会室の重厚な扉が閉ざされ、完全にシャットアウトされてしまう。
そしてロックバードがすぐに気付いた。
「あいつら…ご丁寧に盗聴防止の結界まで……」
「器用だね」
「副会長!そんな呑気に褒める時ではないですよ!」
「仕事終わらなかったな。もう少しだったのに……………ん、何?」
今、外にいるのは男子生徒三人。イアノンとロックバード、そしてナツトである。
残念がるナツトに二人の視線が集まった。
「シャック。折角だ、私達も話すとしよう」
どこか圧を感じさせながら、ナツトに詰め寄るイアノン。
「え、いや……ことわ」
「ダメだ。お前に拒否権はない」
「えぇ……」
見事な連携で拒否という選択肢をロックバードに握り潰された。
半ば無理矢理、ナツトはチェルーティアがああなった理由について話す事になった。
「今日は大変だったみたいだね、ナツト」
ナツトが来るや否やその人物は、「ははは」と笑いながらそう言った。
「他人事だと、気楽でいいね……」
その日の夜、ナツトは王城に来ていた。今日は国王であるアルティオと会う予定であったのだ。
「全く…疲れたよ。これでもかと言う程根掘り葉掘り聞かれた」
チェルーティアがなぜ、ああなっているのか、なぜお前の方をチラチラ見ているのか、とにかく色々訊かれたものだ。
それで結局、その日の仕事が完全に終わらなかった訳だし、本当に疲れた。
「あの子は、それなりに大きな悩み事があると案外引き摺るからね」
「……と言うか、その情報誰から?つい三時間前の話だよ」
「それは勿論……」
アルティオがチラリと視線を移す。扉の方だ。
「私よ」
ベストタイミングで入室してくる綺麗な女性。
ミューカである。
「……やっぱり。ていうか、何その登場の仕方。地味にシュールなんだけど」
「あら、私は結構好きよ。シュールなのは人数が少ないからかしら」
そう言うものなのか?多くてもそんなに変わらない気もするが……。
そう思いながらも、その事は口には出さずに話を進める。
「それで、どこから聞いていたの」
「ふふ、学園は私の魔道具みたいなものよ。色んな仕掛けがあるの」
魔道具……サークル活動で作るヤツだな。魔法陣等の仕掛けを施した道具のことである。
学園が魔道具……それってつまり……盗ちょ……
「盗聴では無いわよ」
あれ、声に出てた?いや、顔か。
「学園を運営する上で、異変にいち早く気付く必要があるでしょう?そんな異変に対して瞬時に知り、把握できるシステムが学園の建物には搭載されているのよ」
そうなんだ。それは凄い。
……でも、結局。それを利用して聞いていたのなら、盗聴では無いだろうか。
「盗聴では無いわよ」
「…………」
「何か?」
「いや、何でもない」
「そ、ならいいわ」
この件に関してはこれ以上突っ込まないようにしよう。
それにしても、顔に出やすいのかな。
気を付けないと。
「ははは!面白いなぁ」
静かに様子を見ていたアルティオが笑う。それに釣られてつい笑ってしまう。
「今日は時間がある。ゆっくり話そうじゃないか」
「ええ、そうね。あの子の思春期の悩み、当事者から是非聞きたいわ」
「当事者って……まぁ、そうだけど」
二人はお酒。ナツトはジンジャエールを片手に、かなり遅くまで雑談を楽しんだ。




