Ss.9 次代の聖女達
ウチ……ああいや、私は、私達は血が滲むような特訓を強いられる。
でもそれは、人の役に立つため、人を癒すため、人を救うためという目標があるからこそ、乗り越えられるものなのだ。
私という見窄らしい生活を送っていた存在が、その才能を見出された結果、世の中のために出来る唯一の方法。
貧しい生活をしている家族のために私はここで成るんだ。
人々の支えとなる、聖女に。
ナツトが学業に励んでいるちょうどその時、遠く離れた地、宗教国家真聖カーリエ国のある場所で未来ある少女たちが全力でその力を磨いていた。
「今度の聖女達はどうだ?イデリス」
「おや、これはこれはギフト教皇様。わざわざこんな所にまでいらっしゃるとは、彼女達もきっと喜ぶことでしょう」
ここは秘匿された聖女を育成する施設の中にある訓練場の一つ。いつの間にか隣にいた教皇に対し、特段驚いた様子も見せずに、そこにいたイデリスがそう言った。
「余計な前置きはいい。質問に答えてくれ?」
「これは失礼。……中々悪くはないのでは、と言った具合ですな」
「…そう、か」
二人の視線の先、そこには三人のまだまだ子どもな少女達が必死に訓練していた。
「今は、見ての通り戦闘訓練です。回復要員とはいえ、動けなければ足枷ですからな」
「……ま、戦闘は大丈夫だろう。何せ、アイツが指導しているからね」
三人の少女には、立ち向かっている相手がいた。その人物こそ、歴代の聖女を鍛え、世に送り出している張本人である。
「あの娘……カテラキアも何だかんだ後輩である幼い聖女の卵を気にかけているということでしょう」
「彼女の訓練は中々スパルタだが、乗り切ってこそ真に使えるというものだ。聖女は大事な歯車の一つ、だからな。……それにしても、イデリスお前、前の聖女の時も同じ事を言っていたぞ?」
「おや、そうでしたかな?ほほほ、歳はとりたくないものですな。そんなことより、彼女たちは現状まだまだですが、必ずや成長してくれることでしょう」
二人はそれから少しの間談笑していたが、予定が詰まっているギフトは、これまた気が付いたら居なくなっていた。
「ハァっハァっ」
まるで身体が悲鳴をあげているようだ。出来ることなら、このまま地面に倒れ楽になってしまいたい。
もうずっと長い間、難しい魔法を常に発動したままで、戦闘を行っている。身体能力自体には自信があるが、魔法が絡んでくると、そっちの維持に意識を割いてしまい、結果的に無駄な体力を使う羽目となっている。
「ホラ、サルビア!それで終わり?二人はまだ立ってるわよ!」
「はぁっ、まだいけます!」
一瞬、膝をつき戦線から離脱してしまった少女の名はサルビア。光を受けて煌めく美しい銀の長髪は、前髪のところで一部三つ編みにされている。そして、ちょうど頭のてっぺんにぴょこんと生えてる猫耳と、細長い尻尾が彼女が獣人であることを決定付けている。彼女は十三歳の少女であり、獣国で偶々イデリスによって見出された次期聖女候補の一人である。
彼女は努力家であるが、他の二人との差に焦りを感じていた。その背には故郷の人々からの期待と、聖女にならなければならないという重責がのしかかり、訓練に中々集中出来ずにいた。
他の二人……キョウとカンナは、この聖国で選ばれた次期聖女候補である。二人とも髪の色は金に近い色で、年齢はサルビアと同じく十三歳である。
魔力量とか、そういう方面が特殊な人は珍しい容姿になることがある、という事を過去にイデリスから教えられた。髪の色はそれを判断する上で最も簡単な判断方法の一つであり、この世界では、一般的な髪色は茶色なので、この二人も特別な部類に入るわけだ。また、当然サルビアもその特別な部類に入る。猫の獣人は様々な色の髪や毛が報告されていることは有名であり、血の繋がった家族でも毛の色が全く異なるということはザラにある。……が、銀の髪というのは百年単位でしか例がない超希少な色なのだ。だからこそ、サルビアはここにいる訳だが。
聖女候補三人の関係は現在のところ良好で、仲が良い。初めて会った時は、初の獣人からの聖女候補の選出ということで、てっきり敵対心バチバチに向けられるものと思っていたが、意外にもそうではなくサルビアがどんな人間なのか二人は興味を示したのだ。
キョウとカンナの二名は普段の訓練のストレスをサルビアの耳と尻尾をモフることで発散。モフられるサルビアはというと、モフるのが日々上手くなる二人の技術に満足感を得ることで、ストレスを忘れていた。
三人は仲間でありライバルである。それは、出会った時からそれぞれが予想していたそれぞれの関係性であった。
だが、成長の度合いは個人差が付きものだ。ここ最近は、サルビアの成長が他二人より遅れていた。
サルビアはそのことを強く自覚しており、その心の深奥に少しずつ実力が離されていくことに対する焦りが積もっていた。
早く追いつかないと、早く追いつかないと…早く早く……
「サルビア!」
「……きゃぅっ!?」
急に耳元で叫ばれて変な声が出た。とてもびっくりした。
「…大丈夫?」
耳元で叫んだ声の主が心配そうにサルビアと呼んだ少女の顔を覗き込んだ。
「キョウ、耳元で叫ぶのは良くない。サルビア疲れてる、早く休んだ方がいい」
「でも、カンナ……意識はあったみたいだけどボケーってしてて返事なかったし…………うん、そうだね。ごめんねサルビア、うるさくて…」
サルビアの耳に向かって叫んだのはポニーテールが特徴的なキョウであった。そして、呼びかける方法があまり良くないと指摘したのがツインテールが特徴的なカンナである。
「…….うぅん、ありがとう。あっ!そうだ訓練は!?」
サルビアの最後の記憶は訓練の時のものだ。そのことを思い出し、二人に聞いた。
「終わったよ」
「…実は意識飛んでたんじゃ?」
二人の反応から本当に終わっているようだった。言われてみれば、先生もいなくなっている。
「ウチ…あ、私…一体……」
「先生は急な用事でいなくなったから、普通に話して大丈夫」
「あ、ありがとう」
「何があったかは後でゆっくり教えるから。ほら、立てるか?」
「ありがとう、キョウ」
疲労のせいかサルビアの脚は重しを付けたかのように重かった。キョウの手を貸してもらいながらゆっくりと立ち上がる。
「焦ったら、何事も上手くいかないよ」
立ち上がる途中、カンナにそう言われ、思わず身体が硬直した。
「えっ?」
「気付いてないと思った?サルビアが一人焦っていることくらいお見通しなんだから」
ばれてる……内心そう感じていたサルビアは、その心の中の感情をそのまま顔に出していた。
「焦らなくて大丈夫。サルビアはちゃんと強くなってる。サルビアは出来る娘なんだから」
そのままどうするべきかわからなさそうな顔をしていたサルビアを見ながら、キョウは言った。
「うぅ……ありがとぉ……ふたりともぉ……」
キョウのその言葉は嘘偽りはないとサルビアは瞬時に感じ、気が付けば目から涙が流れていた。
いや、キョウはそんな酷いことは言わないのだが、動物的な勘が強いサルビアは人一倍、相手の感情を察するのに長けていた。
「ホント、泣きやすい娘なんだから……これからはちゃんと相談しなさいよ。私達三人は互いの成長のために競い合う関係でもあるけど、それ以前に仲間なんだから。私は誰かが困っている時苦しんでる時、間違った時正してあげられるような……そんな関係を築きたい。二人は私の考えに賛成してくれる?」
「勿論」
「うん、するぅ……」
「……ありがとう。じゃあ、神殿に帰りましょうか」
彼女達は強い絆で結ばれた。同じ境遇に立ち、より人々を救うという同じ目標を掲げる同志として。そして、支え合う大切な仲間として。
後に名実共に聖女となった彼女達に与えられる最初の仕事は、後に良くも悪くも彼女達の運命を左右し、世界の行く末にも関わるかもしれない。
だが、彼女達がこれを知るのは、あとほんの少し先てある。あと、ほんの少し。
うーん、7月中は更新キツそう。今回ばかりはガチな感じで。というわけで暫くお休み頂きます。
時間避けないというのは誠に不本意なのですがね。
では、8月に更新できたらまたお会いしましょう。




