Ep.112 問い
前学期以前より、課題の量が増え何かとそれらの対処で時間は潰れていく。
面倒ではあるが、あぁ学生だなぁ……と誰目線で言ってるんだと突っ込まれるような思いを抱きながら、日々が過ぎて行く。
「シャック、ここがよくわからん。教えて下さい」
ナツトは今はガルノラルクと一緒に学園の図書室の個人ブースを予約して使用していた。ここなら自由な会話が可能で、とても便利なのだ。
ここ学園の図書館はとにかく広い。階層で言えば三階分あり、蔵書数は数百万にも及ぶのだとか。まぁ、それだけ参考文献等々があるのでレポート作成にはうってつけの場所である。
「どこ?」
「ここだ。「この魔法陣が何に関する魔法か説明しなさい。そして、この魔法陣の魔力効率を理論上、十パーセント以上上がるように改変させると共に、なぜそのようにしたか説明も示しなさい」ってトコ」
「基礎陣魔法学」という科目にて課された課題の紙を広げながら、ガルノは該当箇所を指差す。と言っても、課題の紙に書かれている問は一つしかなく、その問の部分を除けば真っ白な空白があるだけで指差すとしたらその問のどこかしかないわけだが。
「…つまり全部かな?」
「いや、陣魔法が苦手と言っても流石に何の魔法陣かは何となくわかった。ズバリ、水を水素と酸素に分解する魔法陣だろ?」
「うん、正解!」
彼の言う通り、ガルノは陣魔法があまり得意ではなく、寧ろ苦手の部類に入る。しかし、この科目は結構大事なので頑張って単位を取るしかないのだ。今回の課題の魔法陣はそれなりにややこしく描かれており、わからなくても仕方ないのは部分もあるが、彼にはわかったらしい。苦手とは言え、知識はちゃんとあるようだ。
「やったぜ。……で、どうやって魔力効率を上げるんだ?てか魔法陣は出来てるし、発動もするんならこれで良いだろ、って思うが」
「ダメです」
「だよなー……では、ご教授願います、シャック先生!」
「はいはい」
お互いが転生者と知る前はもう少しキチッとしてるのかなと感じたが、あの件以来こういう時はどこか調子のいいやつになる。そう思いつつもナツトはできる限り丁寧に自身の考えを説明し始めた。
転生者同士という考えてみたらなんとも不思議な巡り合わせの二人は、ある意味隠す必要がなくて気が楽である。今みたいに砕けて自習したりすることはそう珍しくはない。
「……という訳だから、ここをこう変えると効率はニパーセント程良くなる。……けど、ここでファーメアの変換法を使うと更に三パーセント効率が良くなる、と」
「二段変形かよ!?ヤバすぎだろ、あの先生!」
難しすぎだろ!と叫びながらもメモを取るガルノ。
「何となくはわかったが、ファーメアさん云々は書かないでおくか。俺の理解の外だ」
三パーセント効率が上がるというのは課題をさっさと片付ける上でとても魅力的な話であるが、この授業の先生は、授業中説明を求める事が多々ある。その時、先生の満足のいく説明が出来ないと、「うん、理解していないね、よし減点だ!」という先生の特権をフルに活かした攻撃が繰り出される事になる。
その経験があるガルノは、以来どこまでが自分の分かり得る範囲かしっかりと線引きするようになった。
そこからもある程度説明を続けた後、二人は少し休憩することにした。
「俺さ、魔法ってもっと感覚で扱えるものだと思ってた」
何かを思ったのか、唐突にガルノが切り出した。
「ほぅ」
「魔法がなかった地球ではさ、当然魔法ってものはファンタジーの中のものでしかなかったけど、想像したら何でも出来る万能な力だと思ってた。実際あれが出来たら…これが出来たら…って考えてたし、憧れてた時もあった」
そして、社畜に……とぼそっと言ったのが確かに聞こえたが、聞かなかったことにした。
ガルノは焦点の合わない両目で天井を眺めながらそう言った。その瞳はどこか遠くを見ているようだ。
「……でも、想像した事は割と出来るよね」
「確かにそうだけど、それをやろうと思っても多くの知識が必要になってくるし、一番感覚的に使える詠唱系も思うように発動出来るようになるまではかなりの訓練は必要だし、より効率良くするための陣魔法は専門文字だとか、大きさとか、バランスとか知識だけじゃなくセンスも問われるわけじゃん。なんかこう……魔法も法則の下に成り立つ理論めいたものなんだなって。お陰で絶賛苦手教科だよ」
確かに、思っていたものとは違うという感覚はナツトも無かったわけではない。それだけ、想像の産物でしかなかった「魔法」と言うものに期待していただけかもしれない。
「……それでも、僕はこれで良かったかな。法則もなしに何もかもが出来ちゃうものなんて、制御が効かなくなるに決まってる」
「まぁな、制御が効かないのは危ないことこの上ないしな。まぁでも実際、地球より便利なのは間違いないわけだ。……ま、この課題に関しては水を電気分解すりゃよくないか?って個人的には思うが」
「それは確かにってなるけど、電気で管理していた反応が魔法でも出来るってのは中々興味深い話だよね。魔法があれば地球のエネルギー問題も解決出来るかもね」
「あー、それは思ったことある。生物から得られて、それでいて使いやすいエネルギー。もしも地球にあって発見できたら、世界がひっくり返るだろうな」
完全にイフの話になるが、本当にガルノの言ったことそのままだ。比較的得やすい供給源、熱や電気といった別のエネルギーにも簡単に変えられる。話だけ聞いたら魔法……いやその原動力となる魔力とはまさに夢のようなエネルギーである。
実際、この世界の特に大国はエネルギーに大して困っていない。国民から効率良く魔力を集めるシステムの構築がされているし、国によっては星から溢れてくる「星の魔力」をそのままエネルギーとして利用している国もある。
いや、本当知れば知るほど都合の良すぎる代物だ。
地球には魔法を使う上でなくてはならない魔素が無いからな……使えないのはざんね……ん?
あれ、何だ?何だこの違和感。何かが矛盾しているようなこの感覚。
……何だ?
「シャック!聞いてた?」
「あっ、ゴメン。聞いてなかった」
ハッとする。どこかに行っていた意識が呼び戻される。周りも見えずに考え事に集中してしまうのは随分と久しぶりだった。
「珍しいな、シャックが聞き漏らすなんて」
「……そうだね…気をつけるよ。ごめん、それで?」
「あ、いや。別に大した話じゃ無いんだけどな。…‥魔法って一体何なんだろうなって」
「わからないことだらけだよね。陣魔法は大体一万年前に使われ始めたって聞くし、通常の詠唱魔法はそれよりもっと前からかもね」
「あーそうじゃなくて、本当に魔法って自然で生まれたものなのかなってこと。勝手にこんなにも人に都合のいい物なんて生まれるものなのか?」
これらの質問は、気付いた人には一生その答えを知りたいと思わせる何かがある。「魔法」とは何か。「人為的」なものなのかそうでないのか。当たり前のように隣に在る魔素に纏わる根源的な質問であり、魔法を研究するものにとっては最大級の疑問。それらの答えを知ることができれば、きっと見える世界が全く異なるだろう。
「……何とも言えないね。魔法以外にも人間に都合のいいものも自然外に存在するからね。もしかしたら誰かが作った物なのかもしれないし、本当に最初からそこにあった物なのかもしれない。僕たちに出来るのはせいぜい、こうかな?って推測するだけだよ」
「……それもそうだな」
「よし、じゃ続きやろうか。このまま話し込んでたら、日が暮れちゃうよ」
「はは、違いない」
他愛無い会話も終わらせ、二人は再びペンを取り、課題に取り組み出した。
話の進まない所謂日常会。
だけど、個人的には……。




