Ss.8-7 このときの気持ちを忘れることはない
「リーダー、あのガキは一体…」
「村の生き残りだ。遠慮はいらん、殺すぞ」
「はい」
タドラは一層不機嫌になっていた。宴の邪魔をされたことはもちろんの事、死んだと思ったやつが生きていて、こうしてやり返しに来ている。
子どもの死亡確認をこれからはもう少し丁寧にやる。その点は反省だが、それも含めて受けた怒りはすべて返す事に決めた。
「だが、折角拾った命をわざわざ捨てに来てくれるとは随分と馬鹿だな。えぇ?」
圧をかけて挑発するが、少女は全く動じる様子はなかった。
ここまでだんまりだと、流石にウザくなってける。タドラの怒りはより積もって行った。
騎士団とか熟練の相手ではないと知り、少し気が緩むが、先程の高火力の魔法の事は忘れてはいけない。
確かに元々魔力量が多い子どもであり、魔法の扱いもそれなりにはあったが、タドラの足元にも及ばない。恐らく家の中にでもおいていた秘蔵の魔道具を持ち出して使ったのだろうが、あれだけの威力の魔法を出した後では魔力の残りは殆どないだろう。どんな魔道具を使ったかは知らないが、あの一撃でやれなかった時点で目の前の子どもに勝ち目はない。
一度目の戦いで彼女の実力を知っていたタドラは、そう考えた。
「魔力がもうないんじゃないのかァ?だが、その判断は間違っちゃいないぜェ?俺達に勝つには不意打ちしかねェもんなァ!?よかったじゃねェか、二十人ぐらいは殺したんだし、十分仇討ちは出来てるぞ?……だが、俺には届かなかった。それだけだ。俺が手を出すまでもねェ。お前ら、やれ!今度はこっちがアイツらの仇を取れ!」
『うおぉぉぉ!』
幹部以外の全員が少女へと殺到する。タドラはもう興味は無いと振り向き歩き出した。幹部達を呼び今後の動きについて話そうとした。
…が、背後に聞こえる部下の叫び声は途端に絶叫へと変貌した。
急いで振り向き、少女を見た。
そこには、部下だった者達の死体が転がっていた。皆一様に武器ごと横に真っ二つにされていた。
「…そう言うことかよ」
少女のお尻に当たる部分から細く鋭利な尻尾のようなものが現れていた。
「何の因果か知らねぇが、死体をそこら辺にいたスライムに喰われたか。だが、仇撃ちをしてくれるスライムなど随分とお優しいじゃねェか」
タドラは察した。目の前にいる少女は、姿こそさっきのガキだが、あの後死体をスライムに食べられてそのスライムが擬態したものだと考えた。スライムは喰った対象の記憶を知る。死体の記憶を知れるのかは知らないが、死後時間が経っていなかったから知れたと言うことでいいだろう。そして、少女の記憶にあったタドラ達を探し、食べに来たと言った所だろう。
そしてこれなら、少女の体や服に血が付いていない事にも説明がつく。
「だが、所詮はスライム。話にならん」
タドラは嗤う。Sランク冒険者であった頃、スライムなど数え切れないほど倒している。勿論、危険種とされる脱核したスライムも含めてだ。
「囲め、お前ら」
今度は幹部に指示を出す。手足のように彼らは指示に従い、あっという間に少女を囲む。
「剛結界!」
タドラの能力である「権能:防御」を乗せた結界で少女を取り囲む。通常の結界とは異なり、この結界はより強固である。防御手段としてとても優秀であり、攻撃手段としても優秀だ。潰せるし、今のように檻にもできる。
「よし、魔法…放てッ!!」
スライムは遠距離から完全に蒸発させるぐらいの高火力魔法にて叩く。これが最も簡単な倒し方である。
三人の幹部の魔法が結界に激突するその瞬間に結界を解除する。
魔法は全て直撃し、大爆発を起こす。幹部達はタドラが信頼を寄せるからこそ幹部でありその実力も申し分ない。
例え、生き残っていたとしてもこれは確実に致命傷だろう。
勝利を確信したタドラは、魔力反応を見ておこうと思い、魔力探知を行おうとした。
その瞬間、幹部の首が同時に飛んだ。
「は?」
突然の事過ぎて、タドラは本気で動揺した。
タドラの最大の間違いは、人に擬態するのはスライムだと決めつけていた事。そして、少女の正体が魔物だとわかった瞬間に先程の魔法は魔道具に頼ったものではないと気付かなかった事。
目の前の存在の危険度を正確に把握出来ていなかった時点でタドラの運命は決まっていた。いや、仮に気付いていたとしても、結果は変わらなかっただろう。
「…今なら苦しまずにおくってあげるよ?」
「……何だと?」
これまで無言を貫き通していた少女が話した。いや、それよりもタドラはその内容を聞いて自身の怒りが再び高まるのを感じた。
「ただの魔物風情が。人間様に対して随分と偉そうじゃねェか!」
「べつに。ただ、けーこくしてあげてるだけ。…それで?答えは?」
「お願いします、と答えるとでも思ってんのか!?」
タドラは怒りつつも冷静だ。下手に相手の間合いに入らないように、怒りで突っ込むような愚策はしない。狙うはカウンターだ。大剣を握り締め、機会を伺う。
「あれ?来ないの?」
「フン、お前こそ来ないのか?それとも怖くて動けねェか?」
「そ、じゃあまっすぐいくね」
「ハッ、馬鹿正直に____ 」
タドラの言葉はそこで切れた。いや、続けられなかった。
話してる途中に少女の姿が歪んだ様に見えたその直後、途轍もない衝撃が腹部に与えられ、気が付いたら壁に激突していた。痛みは後から猛烈に押し寄せた。
「ガハァッ!!?」
血を吐く。何が起きたかまるで理解できなかった。仮にもSランクの実力を持つ自分が、だ。だが、鍛え抜かれたその身体のお陰で、身体はまだ動く。
痛みが多少マシになり少女を見る。少女はタドラが直前まで立っていたその場所に無防備で立っていた。
「まっすぐいくって言ったよね?なんでまもらないの?」
不思議そうに、首を傾げる少女。
遊ばれている。手加減されている。その事実を突きつけられタドラは腑が煮えくり返る。
「潰れろッ!!!」
タドラは左足で足踏みをした。それに合わせる様に、少女の真上にタドラの剛結界が形成され、少女に向かって落ちた。このままいけば確実に潰れる事だろう。
「なにこれ?…えっと…かざびらきっ!」
「…は……?」
一体どれだけ動揺すればいいのか。これまで一度も破られたことのない「権能:防御」を乗せた剛結界は、少女がその右手に咄嗟に纏った風属性魔法による斬撃により見事に両断された。
絶対の自信があった技が破られる。それも、雑魚だと考えていた魔物にだ。
「う〜ん、ちがう。こんなのじゃなかった……でもやっぱり、能力があったんだろうな」
少女はブツブツと何かを言っている。タドラは何に関して言っているのかは理解出来なかったが、誰かが使っていた魔法に関してのことであることはわかった。
それよりも、最早タドラに興味がないかの様な態度に尊厳を失いかけていたタドラは怒り、立ち直れた。
「クソガキが!一体何なんだお前ェ!?俺を、俺を見やがれェ!」
「…?みてるよ?」
まただ。気が付けば、タドラは再び壁に激突していた。血反吐を吐き、地面に倒れるタドラ。だが、二回目とあってか、今度は見えた。
少女は本当に真っ直ぐ詰め、タドラを殴っているだけであった。ただ、今度はガードが間に合ったのだ。大剣にて拳の直撃を防げたのだ。
「何度も通用すると思うなよ」
煽る様にタドラは言う。
「そう?ちゃんときいていると思うけど。その剣もこわれちゃったし」
そう少女が言うと、大剣が音を立ててヒビが広がり、バラバラと崩れた。
だが、タドラは動じない。武器の代用ならば結界でも出来る。
結界で作った武器は重さを殆ど感じない。
故に先程の大剣よりずっと大きなものを作っても問題ないのだ。
「潰す」
剛結界を重ねられるだけ重ね、自身の周りに張る。そして、ちょうど真後ろにある壁をヒビが入るほど強く蹴り、出せる限りのスピードで一直線に少女に向かって突っ込む。
コイツは避けない。ここまでの戦闘で全く避ける動作をしなかったので、これはほぼ確信であった。全力を以てこの敵を排除する。ただその一心でタドラは剣を振るった。
そして、少女の方もタドラの予備動作辺りから準備を始めていた。
少女から魔力が放たれる。その放たれた魔力は緻密に操られ、少女の右手の人差し指へと集まる。
少女はその人差し指を体の正面に持って来て、一回転クルンと、円を描いた。
その軌跡に集められた魔力が残り、光る。僅か半径十センチメートル程の小さな円。そして、そこに込められた膨大な魔力は少女の落ち着いた一声と共に解き放たれた。
「天冠」
これは、ナツトとの戦いの最後に見せた技の超・簡易版。しかし、最大の違いは「能力を明確に乗せた」ということである。
これまで、本能で、何となくでと感覚で魔法も能力も使っていた。だが、今は違う。コァの全てを受け継ぎ、魔法とは何か。能力とは何か。竜はそれらを知り、そしてそれらを正確に認識した。感覚で扱っていたものを、意識的に使った。その違いは雲泥の差である。いや、比べるのも馬鹿馬鹿しいくらいに違うのだ。
洞窟の入り口、及びその後の炙り出しに使った竜吐息には能力の効果は乗せなかった。タドラに死なれたらつまらなかったという理由でだ。
一方で、タドラの踏み付け結界を壊す時、そして今放った「天冠」には自らの意思で効果を乗せた。
「権能:補正」の効果を百パーセント受けた、超火力の魔法。理不尽の権化ともいえるそれは、タドラの「権能:防御」の練度では到底太刀打ちできるものではなかった。
何もかもが消し飛んだ場所で一人立っている少女は言った。
「……そういえば、おまえは何だって言ってたね。わたしは…コァ。コァ・ダイアモンドだよ」
少女……コァは一人歩き出す。
心の中には、今の自分と全く同じ姿の少女がいた。少女は自分に向けてニッコリと微笑んでいた。
「………」
コァの頬に何かが伝った。
反射的にコァはそれに触れた。それは涙であった。
今コァが感じている感情はまだ純粋に竜の時だった自分が感じたことのないものであった。
しかし、己に宿る彼女がその感情の名は「悲しみ」であると、優しく教えてくれた。
何か、こやつだけで一つの物語作れそうな気がする。
いや、第2…第3か。構成では第3の主人公ぐらいの立ち位置だし、あながち、間違ってないか。
(因みに第2はまだ出てきてすらいない)
とまぁ、それはさておき。これで番外編は一先ず終わり。
次回より本編に戻ります。では。




