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千年ぶりだね、大英雄  作者: 十五夜
【第6章】初代勇者の学園生活►高等部編◄
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Ss.8-3 復讐者

「じゃーん!そういえば見せた事なかったね!」


コァはご機嫌な様子で、何かを白き竜に対して見せつけた。

それはコァの「ギルドカード」であった。


竜にとっては微塵価値もないものであるが、コァの様子を見るに大事なものなのだと竜は察した。

一人コァは説明する。これがあれば、世界中色んな場所に行けるのだと。まだ見ぬ世界の様子を思い描き、そこを見て回るのが彼女のもう一つの夢であった。「父のような冒険者になる」という夢も大事だが、色んなものを見て色んな経験を得るということはきっと自身にとってかけがえのない宝物になるはずだ、と。




「今日も魔物図鑑の続きを見よ!」


竜とコァが出会って今日がちょうど一週間。竜の尻尾は完全に治っており、細くしなやかな尻尾がそこにはあった。だが、竜は何処かに行こうとする素振りはなく、コァの話に付き合ってくれていた。

コァはもちろん喜び、毎日のように竜と本を一緒に読んでいた。


昨日に引き続き、今は父がつい三日前に買って来た最新の魔物図鑑を一緒に見ていた。ギルドによって確認されている魔物の図鑑。写真付きで解説がついているためわかりやすく、誰でも楽しめる。


「わっ、このスライム、透明だ!水みたい。…えっ、人を食べて人に化けるの!?こわーい。……スライムなどの純魔は対象を食べることでそのいでんじょーほーから対象にぎたいする…か。近年ではまりょくじょーほーではないかという説もある」


図鑑には竜が見慣れた魔物も多数載っていた。ブツブツとコァが魔物の説明文を読むのを聞きながら、魔物一匹一匹を注意深く竜は見ていた。


「ドラゴンさんって純魔だよね…。ということは、ドラゴンさんも私を食べたら私になれるのかな…?…あっ!ドラゴンさんが載ってる!これ、そうだよね!」


一瞬恐ろしい事を言ったコァだが、すぐに別のものを見つけてそのことを考えるのをやめた。

コァの指差した場所には、間違いなく白き竜が載っていた。竜はそれをじっと見ていた。

ギルドの情報は早い。白き竜の姿も図鑑に載せてしまうのはとても手際のいい事だ。


「えっと、なになに?能力を有している…。…えっ!ドラゴンさん、能力あるの!!凄い!」


コァは高揚しながら能力が何かわかっていない竜に、別の本を開けながら丁寧に教えた。


「いいなぁ…コァもあったらよかったんだけど」


コァは羨ましそうに言った。それもそのはず。能力を有している者などごく少数だ。持っていないことの方が多い。





「これでおしまいだね!」


気が付けば夕暮れだ。ちょうど図鑑も読み終わり、コァは帰る事にした。


「そういえば、今日は祝いの日だっけ?早く帰らないと。じゃあね、ドラゴンさん!また明日!」


ブンブンと腕を振り、コァはいつものように森を走り抜けた。

村に着くと、ちょうど祝いの日の村総出のお祭りが始まっていた。お祭りといっても、とれた収穫物を大人が料理し、それをみんなで食べるというものなのだが、地域の仲を深めるものとして、皆、楽しみなのだ。大人たちは久々に集まって酒を飲めるし、子どもは特別に夜でも友達と遊べる。誰にとっても嬉しい日という事である。


「コァ、遅かったな」


「お父さん!ちょっと遠くに行っちゃって」


「そうか。仕事熱心なのはいいが、ちゃんと気を付けろよ?」


「はい!」


「よし、祭りを楽しんで来い!父ちゃんはあっちに呼ばれているからそっちに行ってくる」


「………今日は飲み過ぎはダメだよ」


「はっはっは、誰に言ってる」


変わりない親子の会話。笑いながら大人の集まりに向かっていく父の背を見ながら、少女は友達のいる場所へと向かった。



それから数時間経った。

時間的に子どもたちはそろそろ家に帰り、寝る時間となった。大人たちは……言うまでもないだろう。

そんな時間に村の端の方が明るくなった。


「何だ?もしかして火事か?」


「おい、一旦中止だ!動ける奴は確認に行くぞ!」


もし火事ならば一大事だ。何人かの大人を、まだ家に帰っていない一部の子どもを見て貰うためにここにいてもらい、大多数の動ける大人は現場の様子を見に走って行った。


コァの父親も現場へと向かった。コァは先に家に帰ったが、方向は真逆だ。仮に火事だとしても、巻き込まれる事はないだらう。


大人達が走っていった後、残された子ども達は残った大人に大丈夫なのかと不安に駆られながら聞いていた。


妙に静まった空気の中で唐突に悲鳴が響いた。


「おい、大丈夫か!?誰だ!?お前達!」


「動くな!」


「黙れ!早く治療しないといけないだろ!俺の女房だぞ!」


「そうか、ならばともに逝くがいい」


「ドムジさん!!くそっ!テメェらァ!」


一瞬の出来事であった。闇に紛れてやって来た謎の集団はここだけでも十人はいる。そのうちの一人が、手に持っていた剣で二人を斬りつけた。斬られた位置からも助かりそうにないだろう。


「動くなといっている!」


「皆、落ち着け!これ以上犠牲を増やすな!」


酔いが完全に覚めた男の一人が、冷静になるように呼びかける。下手にこいつらを刺激しても死しかない。大人しく従うべきだと判断した。それにここにはまだ子ども達がいる。彼らを守らなければならない。


「なぁ、女は貰っていいよな?」


謎の集団の一人が口走る。


くそっ、やはり盗賊か!?


それを聞いて、皆を落ち着かせた男は心の中でそう思った。心底腹立たしい事を言っているが、実力的には向こうが上。火事の様子を見に行った者達が戻れば数は逆転する。それまで待つのだ。


「ダメだ。殺せ。あいつが戻ってくる時に何人か残っていればいい。殺れ!女も子どもも関係ない」


と思っていたらだ。一人だけ仮面を付け、禍々しい大剣を担いだ大柄な男が闇より現れ、そう言った。


「りっ、リーダー!!すみません!!」


それを聞いて、この男がこの集団を引き連れて来たことが判明する。


「申し訳ないと思うなら働きを見せろ」


「はっ、はいぃぃ!」


「くそッ!このまま殺されてたまるかよォォ!」


絶望的な戦いが始まった。いや、始まってしまった。敵は形振り構わず目に留まった者を斬りつけ、または銃で撃った。




時間にして僅か五分程。ほんの少しの間であった。しかし、その時間は長すぎた。ようやく、村の端に行った者達が帰って来た。その先頭にいた男は様子を見るや、その状況を把握し、怒りの魔法を繰り出した。


獄雷(トニトルス)!」


「おっと、剛結界!……帰って来たか。随分と遅い到着じゃあないか。えぇ?ゼルト・ダイアモンド?」


「今の結界…お前、タドラだな!?何だそのダサい仮面は…いや、それよりもお前、よくもこんな真似を…!」


「ハ!わざわざ覚えていたのか?それはそれは嬉しい事だな」


もう隠す必要がないので、男はその仮面を取り、魔法で灰になるまで燃やした。

男の顔には斜めに大きな傷跡があった。


「答えろ!なぜこんな悪逆非道なことが出来る!?お前の故郷だろ!?」


ゼルトはタドラに向かって叫ぶ。

タドラはそれに対して冷たく言葉を返した。


「フン!俺を陥れたお前のいる村など故郷だろうと許せん。死、あるのみだ!」


「ゼルト、話し合いは無意味よ。誰であろうと倒さなければならない敵よ」


「カミラ……そうだな。みんなの仇、取らせてもらうぞ!」


死闘が始まった。

Sランク冒険者であるゼルト、カミラとタドラのニ対一の戦いである。普通に考えれば、人数的にタドラに勝ち目はない。しかし、タドラには二人が持っていないものを持っていた。


能力である。

タドラの能力は『権能:防御』。その名の通り、守りを司り、またそれを大幅に強化する力を持つ。


「どうした?さっきまでの威勢はどこに行ったんだァ?あの時の強さはどこに行ったァ!?随分と生ぬるい攻撃だなぁ?お二人さんよ!」


事実、タドラは強かった。能力もさることながら、その戦闘センスも抜群だった。能力を使いこなし、適切な場所で守り、反撃の機会を作る。言葉では相手を舐めているように言い放っているが、動きでは全く油断していなかった。

そして、攻撃も上手かった。能力を有していない二人はタドラの結界を突破することは困難を極めていた。まったくと言っていいほど、記憶にあったタドラの強さが参考にならなかった。


「ハァ…所詮、平和ボケしたカス共は弱くなるしか道はねェ訳だ。だが、もう少しやると思っていたんだがな。俺を陥れた時のお前の強さはずっと強かった。全く、とんだ肩透かしを喰らった気分だ。人質を取る必要もなかったとはな。えぇ?村の守護者サマよ。おい、お前等そいつらはもういらん。やっとけ」


「なっっ!?やめろォ!!」


地面に膝をついていたゼルトは全速力で駆け出し、人質を斬ろうとするタドラの部下を止めようとした。しかし。


「お前ももう用済みなんだよ」


「ゼルトっ!!!」


ゼルトより速く移動したタドラによって、ゼルトは深く斬られた。大量の血飛沫が飛び散る。ゼルトはその場で為す術もなく倒れた。


「代々祀り上げられた英雄一族にしては、あっけないものだな。いや所詮、盛者必衰。滅ぶときは滅ぶものだな」


「ゼルトっっ」


ゼルトのすぐ近くにタドラがいるため、寄り添うことができないカミラはその場で崩れていた。


「…さて、カミラ。ここらで生き残っているのはもうお前だけだが、お前には特別に選択肢をやろう。」


「……選択…?」


「俺に服従するならば、殺さずにおいてやる。もうこのゼルトは死んだし、問題ないだろう?」


「…何をっ!?」


「わからんか?お前は俺が惚れた女だ。俺のモノになるなら特別に生かしてやるって言ってるんだ」


「…に、げろ………カミ、ら」


「あぁん?」


「ゼルト!?」


「しぶてぇ、野郎だな。そんな状態で生きていて何になる?即死していた方が楽だっていうのによ」


「タドラッ!そこを退きなさいッ!」


「……それは、俺に対する反抗ってことでいいんだな?」


「退きなさい!!」


カミラは全身全霊を込めて、発動出来る限りの魔法を発動し、タドラに突っ込んだ。


……フリをした。

本命はその数多の魔法の中に仕込んだ転移魔法。これでゼルトを助け、逃げる。そして後は娘を……。


「残念だ」


転移は……失敗した。ゼルトの周囲に結界を張られ、ゼルトの転移を妨害された。その上、ブラフ用の魔法も全て受け止められた。


「ホラ、返すぜ」


「あ……」


受け止められた魔法は全てカミラに向かって反射して来た。ゼルトを助けられなかったことで動揺していたカミラはこれをモロに喰らった。







「まだ、辛うじて生きてんだろ?」


地面に転がる二人に向けてタドラは叫んだ。


「聞きてェんだが、お前らの娘はどこにいる?家か?ダイヤモンド一族だけは確実に滅ぼさねェと行けないからな」


最早、感覚も朧げになっていた二人だが、その言葉で意識が明白に戻された。


「知らねぇと思っていたか?俺がお前らに追い出されたのは九年前だからな。八歳だろ?お前らの娘は。……まあいい。どうせ近くにいるんだろ?止めたきゃかかってこいよ、無理だろうがな。ま、ゆっくり探させてもらうとしよう。あばよ。この魔法はあの世への手向けだ」


タドラはダイアモンドの家の方へ向かって歩き出した。その場には火属性魔法の最上級、「獄炎(インフェルノ)」を残して。




急に重くなるやつ。


一応、番外編は書き終わりました。全7話になります。

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