Ep.103 刹那の攻防
光の輪が爆ぜ、その爆発と光が竜を、空を埋め尽くすその本当に僅かな時間の間、ナツトの神経は全て竜に対して向けられていた。
爆発位置により近い竜の方が、先に爆発に巻き込まれる。これは考えるまでもない話である。竜は遥か上空に浮かんでいるが、魔力で視力を強化すれば、対象の観察は容易に出来る。
もしも、自分があの竜であればこの状況どう切り抜けるか。
今、頭の中にあるのはこの事である。相手の挙動や行動を先読みし、それを阻止する手段を模索する。
"手"は、打ってあるが確実に当てるためにも必要な行動である。
今のナツトは、魔力で脳を強化することにより、知覚時間を延長されている。そのため、長々と思考していているように見えても、現実では一秒にも満たないのだ。
だからこそか、竜の挙動に敏感に反応できた。
竜が爆発によって見えなくなるその瞬間、その尻尾が僅かに動くのが見えた。
ほんの僅かな動き。だが、それが大いに引っかかった。
先程考えた、自分があの竜ならばどうするかという思考。自分が出したその答えは、結界で身を守るである。あの光の輪に「補正」の効果が乗っているかは知らないが、あの結界であれば防げることだろう。
そして、これが最も確実な安全策である事は確かだ。
その結界を張ることに尻尾は関係ないはずだ。だが、予備動作の一環として動かすという可能性も僅かにある。
…しかし、そうだとしてとも宙で完全に静止していた竜が真っ先に動かす部位が尻尾なのだろうか。
ナツトのその疑問に対する答えは、竜が爆発で見えなくなるその瞬間にわかることとなる。
ナツトと竜の間に「何かしら」の邪魔があってお互いを視認できないこの状況。
既視感があった。
これ、さっきと同じだ。
「竜息吹」で視界が潰れ、尻尾で串刺しにされた流れと。
…という事は、この爆発に乗じて竜はとどめを指すべく、今いる場所に来るのでは?
直感がそう告げていた。
だがしかし。先程とは異なり、二者間の距離は全くと言っていいほど違う。先程は比較的近い位置関係にあり、すぐに距離を詰めることが出来ていた。一方で今回はかなりの距離がある。
あの竜は、速い。それは間違いない。しかし、この距離を一瞬で詰められるかと言われればそれは恐らく無理だろう。
竜がこの爆発を利用して仕掛けてくるのはほぼ間違いない。勘だが、どこか確信がある。
だとしたら、来るなら爆発後…か?いや、それだと効果が薄くなる。
………いや、待て、焦るな。奴の今の所の最大打点は尻尾での突き刺し。これは間違いない。確実に勝ちを狙うなら、これを選択するだろう。尻尾じゃなくても近接攻撃が安定択な筈だから、詰めてくる。
タイミング云々とかじゃ無く、ただ待って反撃するんだ。だとしたら、取るべき選択は…魔力探知に全神経を注ぐだけだ。
ナツトは目を閉じ、帝を構える。周囲半径十メートル強。今のナツトが何が来ても反応できるギリギリの間合い。
その瞬間をただただ待つ。
そして、その時は訪れる。
後方七メートル程に魔力の揺らぎが発生する。自然ではない。明らかに人為的な揺らぎ。
それが何かと理解すると同時にマジか、と言う感想が湧いてくる。
座標誤差無しの短距離転移だ。
昨日、自身で転移魔法を試した時は座標誤差が酷くて、とても使い物になりそうになかったが、「補正」があれば関係ないということか。
だが、その練度はまだまだお粗末だ。こうして、粗を見つけられたのは有難い。
爆炎が背後に迫る中、転移地点を斬るように帝を滑らせる。ただ、転移してくる竜と自身との距離感が掴めなかったので転移よりワンテンポ遅らせた。
「氷属性魔法付与」
ワンテンポ遅らしたと言えど普通ならば、反応不可な速さの斬撃。いや、反応出来ても対処は間に合わないだろう。
だが、竜ならば間に合うらしい。
転移した竜は、ナツトの斬撃に気付くと攻撃用に用意していた尻尾を反射で防御に回した。ぶつかり合う剣と尻尾。だが、竜は安定しない体制で受けたためか、思った程の力は込められていなかった。
そして、ここで生きるのが直前に付与した氷属性魔法である。帝から冷気が放たれ、竜の尻尾を巻き込みながら氷の柱を作る。
つまり、これにより竜を固定するのだ。まぁ、簡単に抜け出せないように帝ごと凍らしちゃうので、こっちの攻撃力も低下しちゃうが。
だが、これでいいのだ。と言うより、ナツトの斬撃に対して反応してくれると信じた上での氷属性魔法なのだから。元より、こんな急ぎで準備した攻撃で決定打を与えられるとは思っていない。
氷で拘束したとは言え、この竜ならば数秒とかからず力任せで抜け出せることだろう。しかし、仕掛けた"手"を持ってくる時間を稼げればいいのだ。
「誘印直鎖」
攻撃魔法でもなければ、防御魔法でもない。ただ、この魔法は「誘導」により、一直線に何かしらの対象を引っ張ってくるだけのもの。
そして、引っ張ってきたものは先程光の輪と竜を斬って見せた「太虚斬拓」である。
実は、これを二発放っていたのだ。抜刀時の斬り上げで一発、返す刀でもう一発。前者は光の輪を斬るときに、後者はわざとずらして上空に取っておいた。
これを誘導し、今この場に降り落とす。
爆炎に包まれる結界内にて竜の悲痛に呻く声が響く。
尻尾を半分ぐらい切断した。流石に今の意識外からの攻撃は効いたようだ。
だが、結界を派手に斬ってしまった。安全確保のためにも急いで修復する。そして、同時並行でとどめを刺しに、今度はこちらが詰める。氷に刺さった帝を身体強化に物を言わせて、引き抜く。
狙うは頭か首。心臓は純魔だからない、それにあったとしても鱗が邪魔で確実に到達出来るとは言えない。
……首だな。
突っ込む。距離など一瞬で無くなる。怯んでいる今が好機…。
「ヤバっ!!?」
突っ込んだその瞬間、竜は口から小さく輝く光玉が飛び出した。その光は、今結界外を包み込んでいる爆炎の元となった、光の輪と同じ輝きであった。ナツトも同じく、竜も温存していたのだ。
そして、それの危険性は、考えるまでもなかった。
小さい光玉の爆発は結界内を埋め尽くすのに十分であった。
外部の誘導に優れた結界であったが、内部からの攻撃には弱い。結界は薄氷が如く砕け散り、内部の爆発は外部の爆発と混ざり合い、何もかもを埋め尽くした。
「二重にしていたのが正解だったな…」
爆発による煙がマシになり、ようやく視界が戻ってきたナツトは安堵の溜息をついていた。爆発により吹き飛んだ結界とは別に自身を守るためだけに展開していた結界により、ナツトは無事であった。
白き竜はもうここにはいない。竜の魔力の跡がパッタリと無くなっているので、転移魔法で逃げたようだ。
ナツトのそばには、切断した竜の尻尾だけが残っていた。唯一の戦利品とも言えるので収納魔法で仕舞っておいた。
ふと周囲を見渡すと、一面焼け野原。草木一つ残らず無くなっていた。
凄まじい威力であったのだと肌で感じる。
「……あ、れ?」
気が付いたら地面に倒れていた。
そうだった。腹貫かれてたのか。よく動いてくれたなぁ。
意識が遠くなるのを感じる。
こんな場所で意識を失うのは不味い。
そんな事はわかっているのだが、体が言うことを聞かない。
うつ伏せで倒れたナツトは、一人焦土の上で意識を手放した。
今でも書き方は、変えてみたりしてます。
どう言う書き方が一番いいかなんてないとは思いますが、書きやすくてかつ読みやすい書き方を模索していかないと。
来週からは番外編を数話挟む予定です。




