Ep.95 "者“真似
進行方向から大きな爆発音がする。
もう、すぐ近くだ。
「不味いな…魔の領域で騒ぎすぎると周りの魔物も呼ぶぞ」
爆発音に対し、危機感を募らせるのはシュルベルトであった。魔の領域は、煩くしたり、大きな魔力を使うとそれに釣られた獰猛な魔物が殺到すると言う面倒すぎる特徴がある。魔物が少なくなっているこのエリアは、それが適応されるかは不明であるが、今回は適応されないことに賭けるしかない。
「ここだ」
チェザンが止まった。救援信号が放たれたのはこの地点である。
周囲を探ると、確かに木々が不自然に倒れていたりと、何かがあったことがわかる。
「すぐそこに二人、反応が」
常に魔力探知を行っていたナツトは、ここからすぐの場所に二人分の魔力を発見した。
「よし、警戒を忘れるなよ。行くぞ」
「俺はSランクのチェザンだ。そこに二人いるのだろう?救援信号を受けて来た」
魔力を発見した場所に着くなり、チェザンは端末を見ながら茂みに向かってそう叫んだ。
「Sランク…?ああ!どうかリーダーを、リーダーを助けてください!」
茂みから出てきたのは男性が二人。いずれも若く、二十台ほどと見受けられた。
二人とも目に見えて大怪我をしており、一人は右腕が血を流しながら力無くだらんと下がっている。そしてリーダーと呼ばれたもう一人は、意識を失い服越しだが確かに腹からかなりの出血をしているようだった。二人とも何かに切り裂かれたような傷であった。
「見せろ!」
シュルベルトが駆けつける。意外にもシュルベルトは回復魔法が使えるようで、的確に応急処置を行なった。
「チェザン、この怪我は俺では治せん。応急処置はしたが、恐らく遅効性の毒を貰っている。持ち合わせのものでは完全には解毒できないレベルだ。ほら、お前も見せろ!」
リーダーと呼ばれた男性の方が重症とは言え、もう一人の方もかなりの怪我である。シュルベルトは出来る限りのことをリーダーの男に施した後すぐに、もう一人の治療を始めた。やはり、もう一人の方も毒をもらっているようで、効果が直に現れると予想された。
「あ、あの!まだ二人、二人仲間がいるんです!あいつらもきっと傷を負ってます!早く治療を…!!」
治療を受けていた男は、ふと思い出したかのように叫び出した。
「落ち着け!!…お前らは、確か俺達より二日ほど前に出発した奴らだよな?最近ギルド本部に来たAランクのパーティの。メンバーは四人と記憶していたが、何があった?」
チェザンによって僅かに落ち着きを得た男は、シュルベルトの治療を受けながら答えた。
「つ、ついさっきの事です…地面から急に地竜が出て来て、俺を切り裂こうと…一撃目はこの怪我を負ったものの致命傷は避けられたんですが、二撃目は、その…変な感じで、躱せなくて…リーダーはそれを庇って怪我を…その後、地竜がブレスを放って来て爆発のせいで仲間と分断されちゃって…煙の中リーダーを守れと言われ一目散に逃げてきたんです…」
男は震えながらと言った様子であった。リーダーが自身を庇って大怪我を負ったその瞬間を、語った。無理もない。トラウマレベルで嫌な光景だったことだろう。
「成程…爆発音は地竜のブレスか。一ついいか?地竜の攻撃が変だったとは、どう言う事だ?」
相手の目をまっすぐ見ながら、チェザンは問う。彼らの仲間を救出するためにも、先頭になる可能性が高い敵の情報を知りたかったのだ。
「…その、腕が伸びた…と言うか。一撃目の間合いと全然違って」
「腕が伸びた?シュルベルト、これは…」
「……ああ、不味いな」
二人は何か共通の何かに対する認識があるようで、よくわからないがよくなさそうなことであると容易に想像できる。
しかし、魔の領域初心者のナツトと男達はそれが何かわからず、説明を求めた。
「俺達が考えているのは__ 」
そのときであった。近くの草木がガサガサ、と鳴った。その場にいた全員がその方向に向けて警戒した。
「カール?バオ?そこにいるの?」
女性の声だ。若い声である。
「サハリィ!無事だったか!マトラスは無事か!?」
それに真っ先に反応したのは、当然であるが左腕を治療していた男であった。カールなのかバオなのか果たして知らないが、彼の仲間という冒険者で間違いないだろう。
「バオ、俺は勿論、無事だぜ。…ん?その人達に助けてもらったのか?すまない、二人が世話になった」
暗い茂みから二人目の声がした。今度は低い男性の声だ。ちょうどそのとき、声の主二人は茂みから出てきた。二人とも美形であり、街中を歩いたらそれなりに目線を集めそうだ。女性の方は見たらすぐにわかるが、魔術師の服装であった。そして男の方はガタイのいい剣士であった。二人とも他の二人と同様に二十台ほどとであったが、服も所々破れ、血が出ていた。彼らも爆発の中無傷では済まなかったのだろう。
「二人とも傷が!さっきのやつは毒を持っているらしいんだ!早く治療をしないと!」
「そうなの!それは大変!?サハリィ、急ぎましょう!」
「ああ」
「止まれ」
こちらに駆け寄ってこようとした二人を、チェザンは止める。そして逆に向こうの二人に駆け寄ろうとしたバオをシュルベルトが止めた。
「え?」
バオは困惑顔であった。
「どうしたのですか?」
サハリィと呼ばれた女性は顔を横に倒しながらチェザンに尋ねる。
「端末を持っているか?」
「端末…?これですよね?」
二人は言われた通りに冒険者全員に渡される端末を服のポケットから取り出し、こちらから見えるようにした。
チェザンは黙って自身の端末を見る。そして、「やはりか…」と小さく呟いた。
「シャック、お前も端末を見てみろ。他の端末を探す機能だ」
言われるままにナツトは自身も端末を取り出し、言われた通り他の端末を探す機能を起動した。
「……え?」
口から溢れたのは困惑の言葉であった。端末には四つ他の端末の反応があった。
おかしい。
この場にいるのはナツトを除いて六人である。そして全員端末は持っている。
そして、端末の反応が確認されないのはナツト達の前方にいるサハリィとマトラスの二人であった。
「こういう事だ」
チェザンは腰に下げた剣を瞬時に抜刀し、風魔法による斬撃により、サハリィの右手を切断した。
「な!?貴方、何しているんですか!??」
それに激昂するのはバオである。当然だ。仲間を急に斬られて冷静な者などいやしないだろう。
そんなバオをシュルベルトが全力で抑える。
「よく見ろ!!」
一際大きくチェザンが叫ぶ。それに釣られて、全員の視線がサハリィに向けられる。
「え…?サハリィ……?」
バオが信じられないというような顔をしながら、目の前の光景に戦慄する。
切断された彼女の腕は地に落ちることはなく、腕の切断面から出た透明な液体のようなものに繋ぎ止められ、何事もなかったかのように腕は繋がったのだ。一緒に斬られた服も同様に。
「酷なことを言うが、お前の知るあの二人はもうこの世には居ない。アレは喰ったものに擬態して、こちらを油断させようとしているに過ぎない」
「女性を傷つけるなんて酷いですね?…それにしても、もうバレちゃってるの?」
「みたいだ」
サハリィとマトラスは怪しく笑う。思わず身震いしてしまいそうな嫌な笑い方だ。
「アレの正体は、粘性魔物。そして、特にあの個体は喰った対象の記憶、性格、見た目すべてを真似ることから、通称『者真似』と呼ばれている」
者真似_____。
それは魔の領域において稀に現れる無色透明のトラウマ級の純魔である。チェザンの説明の通り、食べたもののすべてを知り、そして擬態する。何でも食べる雑食性であり、先程端末が映らなかったのは端末も食べた上で、自身の体で端末に擬態したからである。故に先程二人が見せた端末はスライムの一部であり、それに端末としての機能はなかったのである。
そして、このスライムは脱核している。つまり、通常のスライムの唯一の弱点である核を捨て去ることで、事実上の弱点無しを体現しているのだ。
通常のスライムは純魔であるが危険度で言うならば星一もしくは星二と、警戒さえ怠らなければ冒険者は誰でも狩れるレベルであるが、脱核したスライムは危険度が跳ね上がり、単体で星四に相当する危険な純魔となる。更に、人を食べそれに擬態する目の前の個体はそれを更に超えてくるだろう。
「まったく、本当胸糞悪いぜ」
吐き捨てるように言ったチェザンのその台詞が全員の気持ちを代弁していた。
危険度ランクは☆(★)の数で示され、危険度は全八段階である。
1.☆☆☆☆☆☆→星零。危険度極小。子どもでも倒せる。逆にほとんどいない。
2.★☆☆☆☆☆→星一。危険度小。Eランクでも勝てる。
3.★★☆☆☆☆→星二。危険度中。Dランクなら問題なく対処できる。
4.★★★☆☆☆→星三。危険度中の上。Cランク以上推奨。
5.★★★★☆☆→星四。危険度大。Bランク以上推奨。
6.★★★★★☆→星五。危険度特大。Aランク以上推奨。
7.★★★★★★→星六。危険度超特大。Sランクを呼べ。
8.★★★★★★+→星六+。危険度未知数。世界中で協力し、その総力をもって戦うレベル。実際に分類された魔物はいない。一応形上存在。
Ep.20より抜粋。使わな過ぎて自分でも忘れる笑
久方ぶりの戦闘ですね。のんびり始めていきましょうか。
あ、そういえば今年最後の更新ですね!皆様よいお年を!




