Ep.93 いざ、「魔の領域」へ
「俺の名前はチェザン。すまんな挨拶が遅れて」
チェザンと名乗った男は、身長が百八十ほどの標準的体型であった。髪は若干ボサボサであり、その釣り目から向けられる眼光がちょっと怖いとギルド内では言われている。
しかし、その正体は長年「魔の領域」の調査を行うSランクの信頼ある実力者である。
ナツトはチェザンに返すように自身も軽く自己紹介した。
チェザンは言う。
俺は、出会ったら真っ先に挨拶する冒険者の風潮というか特性というか、そういったものが好ましくないと。
理由として、今後関わるかどうかもわからない相手に馬鹿正直に名乗るのは時間の無駄であるからということらしい。そういった者たちとは、挨拶程度の交流でいいじゃないかと考えているようだ。
確かに、今後も関りがあるかどうかもわからない相手に名乗ってもしょうがないかもしれない。だが、誰が今後も関りがあるかなど、その場その時になどわかりっこないし、その線引きは意外と難しいだろう。
…まぁ、そんなことはさておき。
前にも言ったが、魔の領域に赴くには、最低でも三人パーティである必要がある。
つまり、あと一人必要なわけだが、こちらは既にチェザンが見つけてくれていた。
「紹介しよう。このでっかいオジサンが三人目のメンバー、シュルベルトだ」
「言いたいことはいくつかあるが…まあいい。シュルベルトだ。シャックと言ったか?チェザンの無茶振りに答えてくれてありがとう。よろしく頼む」
「いえ、魔の領域は前々から興味ありましたし、その辺りは問題ありません。よろしくお願いします」
シュルベルトは、二メートルはあるであろう屈強な男性であった。無精髭が何とも言えないイケオジ感を醸し出しているが、年齢は聞けばチェザンと同い年で、今年ようやく三十代になったそうだ。
オジサンちょっと前だね。
聞けばチェザンとよく一緒に魔の領域に行っているらしい。チェザンが前衛でシュルベルトが後衛を張る。これだけでもそこらのパーティより強いらしいが、これに三人目、四人目を合わせてパーティ全体のバランスをより良くしているそうだ。
彼の背中には見るものをそれだけで圧倒する大きな盾がある。きっと、その背中は戦闘中において頼もしいものなのだろう。
お互いに自己紹介も終わり、一行はギルドショップにて最終準備を行うことになった。
「シャック、お前って魔の領域は初めてだよな?」
「はい」
「…なら、もう一度聞いておくぞ。自身を守る程度の結界をどれくらいの間張ることができる?」
そう問うチェザンの顔は真剣そのものだ。ナツトは、これは昨日のようにはぐらかすのは駄目だなと瞬時に悟り、正直に答えることにした。
「防ぐ対象によりますね。ちなみに対象は?」
「魔力だ。ただし魔法にはなっていない」
「…それならば、ずっと出来ますね」
随分と防ぐ対象がマニアックだな。魔法なら話が変わってくるが、魔力のみなら結界を維持する魔力より回復する方が早い。
…魔力か。魔力と魔法の違いは魔素に思い描く魔法のイメージを乗せるエネルギーが「魔力」であり、魔力によってイメージを伝達され魔素がその通りになったものが「魔法」であるのだ。
「やはり俺の目は正しかったようだな。魔の領域にはな、星の魔力が常にどこからか湧き出し充満しているんだ。短時間ならそこまで問題ないが、長時間その場に居続けると、体内に星の魔力が蓄積して体調不良に陥る。そして最悪だと死亡する。よくわからんが致死量?とかいうそうだ」
成程ね、納得だ。言われてみればそうだ。魔の領域は星の魔力が湧き出すフラッドポイントが何個も存在していたな。そのせいで、魔の領域の環境というものは外界からの侵入を拒むと言われている。在来種にとっては最適な環境であるが、外から来た人間のような存在にとっては過酷そのものである。
「そういうわけで、このアイテムは必須だ。ちょっと高いが、命のためだ。五個は買っとけ」
そう言ってチェザンから店に売っていた道具を手渡される。
「それは、魔石を動力源として自身を守る結界を展開してくれる魔道具だ。壊れたとき用のため三個以上はみんな持っている。俺がさっき、結界を張れるかって聞いたのは、万が一こいつが全部ぶっ壊れたとき、魔の領域を抜けきるまで命を守れるかっていう確認だ」
本当に大事な情報だらけだ。少なくとも初心者では聞かないとわからない貴重な話だ。やはり、生半可な場所ではないな魔の領域は。他の場所とは準備の段階からまるで違う。
ナツトは言われた通り、結界装置を五個購入することにし、店を出てその足でギルドの受付へと向かった。
受付自体は、本当にすんなりと終った。チーム人数の確認、そしてティアメシアの推薦状と共にギルドカードを提示した。
そして実感するティアメシアという名前の力。
ナツトのランクを見て少し表情が曇った受付の女性だが、ティアメシアの推薦状を見た途端、元のにこやかな顔に戻った。
受付の女性から一人一つずつスマホのような薄い板状の端末が渡される。
彼女が言うには、これは魔の領域に向かう冒険者に必ず渡されるものだそうだ。いくつかの機能が搭載されており、転移魔法が正常に作動しない魔の領域において冒険者たちの生命線と成り得る重要なものだそう。
機能その一、マップ機能。
特殊な通信手段により、ギルド本部を基準として自身が魔の領域のどのあたりにいるのかというおおよその場所を知ることができる超便利機能。魔の領域は背の高い木々が鬱蒼と生え、またじめじめとした陰湿な場所だそうだ。加えて星の魔力の影響か天候も滅茶苦茶でよく遭難するらしい。それを解消するための機能である。
機能二つ目、生存報告機能。
一つ目で述べた特殊な通信手段により、一から二時間までに一回、冒険者は生存報告をギルド本部に向けてしなければならない。操作は簡単で、画面に表示された「無事」や「負傷中」など押すだけである。また怪我の程度なども一緒に送ることができ、送信時の座標情報も送られる。そのため、仮に行方不明になった場合でも捜索範囲の特定がしやすいのだとか。また、負傷中などの危険がある状態の発信は近くにいる別の冒険者たちにも届き、救助に向かえる。
機能三つ目、サーチ機能。
範囲は半径三キロメートル以内と狭くなるが、周辺の魔物の探知や、他の冒険者が持っている端末を探すことができる。自身で魔力探知できればそこまで重要な機能ではないが、魔力を温存できるので意外と需要はあるのだ。
という感じで、特によく使われる機能を列挙したが他にもちょっとした機能が搭載されている。
便利だ。
「よし、行くぞ」
チェザンが仕切り、パーティはいよいよ「魔の領域」に向けて出発したのだった。
バックアップデータが消し飛んだ時、今週の更新は無理かと思いました。ですが、何とか書き直し完了です!
あ、前置きで終わっちゃいました、今回も笑




