Ep.10 激突
「見えた、あそこに魔王がいるんだな」
「情報通りだとね」
全速力で飛行して数時間、一行はついに東の大陸を視界に収めた。
「蛇足かもしれないが全員、油断するなよ、どこにいるかはわからないんだから」
アルティオは一応注意喚起を行った。
全員それを意識の片隅で聞いた。
「到着っと!ねぇ、皆。どこに向かう?やっぱり中心かな?」
「そうだな、かすかに魔力の反応があるし、大陸の中心に向かうでいいんじゃないか?」
「僕もマーヤとオルウェルに賛成。罠の可能性は捨てきれないけど」
「今は仕方ないでしょう。罠でもとりあえずは行かないと始まらないわね」
「よし、じゃあ意見もあっているしそれでいこうか。皆、携帯の魔力薬飲んどいてくれ。飛行で無くした魔力を少しでも回復しておこう」
「うえ、私これ嫌い。不味いもん」
「マーヤ、それはみんな思っている。これがおいしいって言っている人は味覚が壊滅的にオカシイよ」
今全員が飲んでいる、王国を発つ前にもらった魔力薬はマーヤの言う通りとてつもなく不味い。そう、不味いのだ。あらゆるものの不味い要素が一つになったと思ってしまう。しかし、一時的に魔力をグンと回復させる性能を持っているので、今この状況で飲まない選択肢はない。
性能はいいが、製造過程がなかなか大変なので貴重なものである。だが、本来は睡眠などの休息で回復させる魔力を無理矢理回復させているわけなので体にはよくない。定期的に服用するのは大した影響はないが連続で使用すると体調不良等が発生する。
良薬は口に苦しというが、この薬は良薬とは言えないな。
「ナツト…やっぱりそうだよね!」
「ははは…まあ頑張って飲んでくれ」
他のメンバーより幾分かこの薬を飲むのに慣れていたアルティオはマーヤと夏翔の会話を苦笑いで流していた。
一行は再び移動を開始した。
「でも、魔物がわんさかいると思っていたのに全然いないね」
夏翔はついボソッと思ったことを口にした。そう、ここまでかなりの距離を進んできた。が、森にも山にも平地にも草原にも、そして空にも魔物の一匹すらいなかった。小動物はいたのだが魔物だけはいないのだ。
「確かに妙だね」
「もしかすると、元々魔物の数は少なくて噂だけが先行していたとかじゃないか?」
「なるほど、オルウェル一理あるね。…他に考えられるとしたら…」
「他には、実はこの地は前々から誰かに管理されていて魔物を狩っていたが考えられるわね」
管理、か。だとすれば一番有力なのは…。
「…魔王がか。審議は不明だな。でも、この状況は寧ろありがたいんだけどね」
そう、邪魔なく進めるのはこっちにとってメリットである。余計な足止めをいちいち喰らわなくて済む。
「確かにそうね。でも、今はその答えより大事なことを優先させましょう」
「そうだね」
それから間もなく、いよいよ大陸の中心付近に到着するという時であった。
「躱せ!」
赤い熱線らしきものが十ほど夏翔達めがけて飛んできた。流石にこの程度ならば全員難なく躱せた。熱線が直撃したところは完全に融けていた。当たればまぁほぼ確実に絶命するだろう。
そして、夏翔達の目の前数十メートル先に突如禍々しい角の生えた屈強な男が現れた。言われなくてもわかる。魔王だ。魔王ディタロ。随分久々にその名を出したが、なにも名前までいうのが面倒くさかったわけではない、ということだけ言っておこう。決して、魔王っていう単語で事足りるなとは思っていない。
それはさておき、なるほど、モラゾールをはるかに超える威圧感、緊張感を放っている。これは強いな。
それに…。
「ねぇ、今どこから来た?」
マーヤが敵がどうやって来たのか、その疑問を口にする。
「おそらく、モラゾールが使おうとしていた転移魔法だろうね」
それにすぐさま答えるアルティオ。
「ほう、人間がこの魔法を知っているとは…。お前らがモラゾールを倒したやつらか?」
「だったらどうだってんだ?」
オルウェルが喧嘩腰にそれに答える。こういうのは正直に答えるのは得策ではない気がするが、言っちゃったなら仕方ない。
「…いや、別に聞いただけだ。ただの興味だ」
「質問だけど、あなたは戦争に勝つ気あるの?」
「ナツト!?」
「戦争に勝つ気、か。もちろんあるに決まってるだろ?ここまで来た土産に少し話してやろう。少々不祥事があってな、その対応をしてたわけだ。実に腹立たしい。もっとも、この戦争の目的は既にほとんど達成されているがな」
「なっ!?じゃあ、やっぱり目的はエルフ!?」
「さぁな。それに、だ。人間どもの最大の戦力は現状お前らだろう?潰せばいくらでもやりようはあるわけだ。部下の敵討ちっていう訳ではねぇが、まぁ、せいぜい俺の鬱憤晴らしに付き合えよ!」
魔王のその一声がきっかけで今後の未来を左右する戦いの火蓋が切られた。互いの生死をかけた決戦が、彼ら以外他に誰もいない大陸で始まったのである。
魔王の戦闘スタイルは素手での格闘だった。夏翔達はそれぞれ武器を所持しているため魔王との身長差こそあれども、リーチはこちらの方が長い。
しかし、戦ってすぐにわかった。モラゾールをはるかに凌ぐ身体能力。パワーもスピードも比べるまでもない。強靭な肉体から繰り出される数々の速く、鋭く、重い一撃。一撃でもまともに被弾すれば原形も保てず体が大変なことになってしまうのが容易に想像できる。
現状は人数差を活かして取り囲むように対処しているため、魔王も誰かに付きっきりで攻撃できないようにしてはいるが、少しでもヘルプが遅れれば一気に全滅まで一直線になるかもしれない。
そして、魔王は近接戦闘の心得だけではなく魔法の腕も高かった。彼自身の膨大な魔力にものを言わせた雑な魔法は一切なく精密な無駄のない魔力操作を行い、夏翔達を追い詰める。
よく考えたら、転移魔法が発動できる人物が下手な魔法を撃つわけがないなんてわかるというのに、そんな思考をする余裕は夏翔にはなかった。
魔王が距離を取った。夏翔達も警戒しながら体制を整える。
離れたところで魔王が夏翔達には聞こえない声量でなにやら呟いている。
「エルフ共より数倍楽しいじゃねぇか。モラゾールをやったのにも納得だぜ。エルフ共には使わなかった能力を使ってもいいかもしれんな。まとまっていて簡単に魔法で終わらせられそうなものだが魔法の対処の連弩を見るにエルフを上回っているかもしれないな。さて、どうやって攻めようか」
その間、夏翔達はアルティオの共有で話あっていた。
(強いな、モラゾール戦の経験がなかったらまずかったかもしれないな。)
(確かに。次もやっぱり僕が盾役になるよ。援護は頼むよ。)
(無論だ。でも無理はしすぎるなよ。)
(もちろんッ!?)
夏翔達の会話に横やりが入ったことで会話は中断し、回避を行った。魔王が夏翔の真横にいきなり現れたのである。かなりの距離があいていたので普通に詰めてきたら流石に気付く。つまり、これは。
「あっぶない。…転移か」
追撃に来た魔王の攻撃を凌ぎながらボソッと口にする。
「よく対応できたな。これを初見で対応できた奴はモラゾール以外でお前が二人目だ。…おっと」
再び転移でその場から消える魔王。次の瞬間にはその場にオルウェルの剣が過ぎ去る。
魔王の転移は精錬されているせいか、発動が一瞬で予備動作が全くない。
どうやら、転移魔法は極めれば相当便利なものになるみたいだ。
もう一つ収穫があった。今度は目の前で実際に転移魔法が使用されたので一瞬だけだが展開された魔法陣を見ることができた。
そしてその魔法陣は記憶にあるモラゾールが使おうとしていたものと完全に一致していた。つまり、あの魔法陣は正しく転移魔法の魔法陣であることになる。一度試したとき、発動しなかった。だが、魔王は発動できていたことから、魔王から転移できる条件を知ることができるかもしれない。
相手が本気ではない今のうちに少しでもそのヒントを見つけられることができれば…。
忙しくて全然執筆進まない…。
戦いの描写って書くのマジで難しい。
一章の呪縛から抜けだせん…。




