Ep.87 学園祭に向けて
シャック・クルシャウトは、真面目な生徒である。
これは、私、イアノン・ネララバーグの彼に対する印象であるが、他の人からしてもおそらく同じであろう。
あまり好きではない言い方であるが、平民の生徒たちからは大きな信頼が寄せられている。中等部を共にした生徒からは特にだ。
教職員からしても、優秀な生徒である、というのが共通認識である。
彼は自分と対等に接してくれる数少ない者の一人だ。チェルーティアに半ば強制的に生徒会に入れられ、最初こそ距離感というものに戸惑っていたが、生徒会に入ったことで簡単に把握することができたと言っていた。
適応度が高いのだろう。場所、状況を俯瞰して自身の振る舞い方を決め、その通り実行する。公私の切り替えが上手く、与えられた仕事はきちんとこなし、終われば周りのアシスト等を行う。真面目か、と言われたら確かにそうだが、遊ぶ時は目一杯楽しむと言う風に融通が効く。
彼の振る舞い方は参考になる。積極的に話しかける性格ではないが、気付けば周りに人がいる。ひとえに彼の人間性と言うものだろうか。
だが、同時に彼は表すのが難しい怪しさを持っている。
どこか、何かを隠し、振る舞っているような気がする。
普段彼は、生徒会の活動がなければ、彼は所属する倶楽部で物作りを楽しむ。魔法陣が大好きな彼からしたらとても楽しい時間であろう。
「よし、イアノン、データまとめ終わったよ。ここに置いとくね」
「ありがとう」
今日もイアノンはシャックことナツトと事務作業を行なっていた。
イアノンとナツトはよく一緒に作業をする。生徒会長たるチェルーティアは今は他の生徒会のメンバーを連れて学内を回っている。近々学園祭が行われるとあって、学園は活気付いていた。
ナツトは生徒会では会計として仕事をしている。彼の持つ能力『権能;記憶』をフルに使い、データをまとめ、処理する。
副会長のイアノンは、ナツトの仕上げたデータ及びその他の確認を行う。これがいつもの流れである。ただ、彼の能力ゆえに会計の仕事を逸脱した仕事を与えられることもしばしばである。
生徒会は生徒の組織の中では最大規模で、各学年にそれぞれ学年担当として、設置されている。生徒会は最高学年である高等部三年が以下全ての各学年の生徒会を牛耳っている。
生徒会の選出方法は、生徒が立候補し、規定人数以下ならそのまま入ることが出来る。規定人数以上なら投票となる。
高等部一年の生徒会では、生徒会長、副生徒会長であるチェルーティア、イアノンはそのまま任を続行した。
高等部で、ナツトは人を続けるかどうかと言うことに対して、どちらでもいいという考えであったので、当然ナツトの有用性を知っているチェルーティアによって続けるように会長命令を下された。
今年は定員割れしたので、投票形式になったが、平民階級生徒の圧倒的支持の元、ナツトは生徒会を続けることとなった。
反対に貴族階級の生徒の支持で生徒会入りを果たしたのはロックバードである。まとめるのが上手いので、議長として任されている。
その他何人かいるが、平民、貴族、王族と意外にもバランスが取れた構成となっている。
「問題なしだ。お疲れ様」
「お疲れ〜」
確認が済んだイアノンは、その書類に自身のサインをする。日もすっかりと傾き、部屋には橙色の眩しい陽光が差し込む。
静かな部屋だ。室内を流れる音はイアノンがペンを動かす音のみである。
今日の仕事はイアノンが今確認した書類で最後である。後は、見回りに行っているチェルーティア達が帰ってくるのを待ち、簡単な報告会を済ませれば終わりである。
という訳で、二人は残りの面子が戻ってくるまでお茶をしていた。
ナツトは菓子が好きなので、収納魔法内にいつでも食べられるようにストックをしている。今日は、駅前の有名店のシュークリームをイアノンの国から持ってきた紅茶と共に食べている。
先程までの真面目な静かさから一転、生徒会室は和やかな雰囲気になっていた。
「文化祭が終わればすぐに期末テストだ。勉強を怠らないように注意喚起する必要があるな」
「確かにね…でも、今は学園祭に全力を尽くしたいからテストのことは忘れたいって人も多いかな」
「なるほど、水を差すのも良くないな。時期をちゃんと考えるべきだな」
たまに世間話も含めるが、あくまで話す内容は事務的な内容だ。
それでも、数字ばかり見ているナツトからすれば気分転換になるし、何よりイアノンとのんびり話し合う時間は好きだ。
人が違えば考えは違う。それは勿論のことであるが、育った環境で考えに自分なりの理由というものができる。
話すということはお互いにそう言ったことを共有し合う機会である。
だから、この時間は好きだし、楽しいのだ。
ナツトたちがシュークリームを食べ終わり、片付けを済ましたその時、ちょうど生徒会室の入り口たる重い扉が開かれた。
「たっだいま!む!この香り、さては一服していたわね!?」
帰って来て早々そんなことを言う者の正体は,長く美しい金髪が特徴的な生徒会長のチェルーティアだ.
普段教室では、大層猫をかぶり、その様から完璧王女と言われているが、素では結構砕けた人物であるのだ。
何というか、言動が子どもっぽいっというか。親しみやすいという点では彼女のいい面である。ただ、普段からそんな態度では他人から舐められてしまうので、模範となるような振る舞いをしているのだとか。
と言っても、素で接するのは本当に一部の人間に対してなので、生徒会でもナツト、イアノンだけしかいないときに限り素を開放するのだ。
「他は?」
という訳で、今素であるということは他のメンバーは一緒ではないということである。
「後で来るよ。もうすぐ各々のやることが終わるかな」
「じゃあ、一緒にお茶の準備をしても問題ないか」
「お!さっすがシャック!わかってる~!」
時間があればナツトがお茶を準備する。これが生徒会のいつもの流れである。
全員が揃うまで、今日は何にする?という風な簡単な会話を交わす。
それから再び生徒会室の扉が開かれるまで十分も時を要さなかった。
「よし全員揃ったか。皆、各自の席へ。いつも通りシャックの淹れたお茶を飲みながら報告会を行いましょう」
いつの間に座ったのか。扉が開かれたときには、チェルーティアは会長席に深く座り、支配者たるオーラを漂わせながら、指示を出していた。
言動も王女モードに戻っている。このギャップが毎度凄まじいと感じる。
生徒会は今日も明日も忙しい。さて、今日は何から話し合おうか。
先週はすみませんでした。
用事が立て込み、更新が間に合いませんでした。
さて、次週から学園祭のお話でもしましょう。数話程度で〆る予定です。




