Ep.86 先の予定
「王は、じき参ります。それまで少しの間お待ち下さい」
「ありがとう、フィーディースさん」
場所は王城。久しぶりのアルティオの呼び出しでナツトは学校から帰ってすぐに城にやってきていた。勿論秘密裏にだ。
約束には絶対遅れないマンのナツトは約束の時間の十分前に既に来ていた。
呼び出した本人は、ぎりぎりまで執務室で仕事中だ。今日はこの件以外用事はないので、気長に待っているわけだ。
その間、フィーディースの淹れる絶品の紅茶をナツトは満喫していた。
千年以上,アルティオの専属執事として仕えてきたフィーディールのいれたそれは何度飲んでも驚くほど美味い。至高の領域だ。
ナツトはそんな紅茶を飲みながら頭の中で今日のことを少し思い出していた。
それは、中間考査の結果によって以前より関わるようになったロックバードとのやりとりであった。
「大体貴様もあの二人も、王女様や王子様に対して失礼にも程がある。いくらあのお二人が気遣いはいらない、と仰っていても、対等に話そうとするその神経があり得ない」
教室の自席に座って、ぼーっと外を眺めていたら唐突に、ド正論が飛んできた。
そのド正論をいうのは、勿論ロックバード。最近テストで学年五位に入り勢いを増してきた話題沸騰中の貴族の息子である。
いきなりだったが彼の言い分は、世間一般的には正しい。
彼の言う通り、王族に対して敬語も使わず接することなど、とんでもない事だ。考えるまでもなく不敬罪で捕まり処刑されても文句は言えないレベルである、本来ならば。
…しかし、グラル学園においては、それは通用されない。理由は二つだ。
一つは、単純に彼ら二人が、そうしろと過去に言ったことだ。対等の友達が欲しい、そんな願いもあったのだろう。彼らは心置きなく話し合える仲間を探していた。学園を卒業すれば自分たちは上に立つことになる。そうなったら、もう気軽に接することができる相手というものがほとんどいなくなると知っているがこその命令なのだろう。
そしてもう一つ。この学園の頭がミューカであることだ。学園を創設するにあたり、彼女は基本となるルール…つまりは校則を定めた。その中の項目に「すべての生徒は平等である」という内容が明確に定められている。そのため、いかなる生徒とあれど、等しく扱われ、そこに忖度はないのだ。
例え、ここが普通の学校であるならば、貴族たちは無視するのかもしれない。だが、ここは王妃の学校だ。校則に背くということは、それ即ち王妃に逆らうということと同意である。
という、以上の理由により、ナツトたちのチェルーティア達に対する態度というものは正当化されているのだ。
この場でナツトは、今挙げた理由をやんわりとロックバードに伝えた。すると、彼は察したのか。少し言葉に詰まりつつも、その場を去っていた。
相手の言いたいことを察することができる頭はあるようだが、相手を攻めようとするネタの予習が足りないな、彼は。
まぁ、しかし、彼と関わるのはせいぜいこの学園にいる間だけ。卒業すれば。関わり合いというものはほとんど消えてなくなるだろう。彼がどうなろうとあまり興味はないし、知るつもりもない。
「すまないね、ナツト。待たせたね」
ちょうど時間通りだ。フィーディールが言うには急な仕事が入って遅れるかもしれないと聞いていたが、アルティオのことだ、やり終えてきたのだろう。
アルティオが席につくと、すぐに紅茶が置かれる。
「久しぶり、アルティオ。お疲れ様」
「ああ、ありがとう。そうだね、三ヶ月ぶりぐらいかな。最近は仕事が多くてね。なかなか会う機会がなくてすまない。さて、先に本題を済ませておこう」
アルティオは話した。
今から二ヶ月後。アルティオは会議のため、『冒険者ギルド総括管理指令組織』の本部に赴くことになっているそうだ。アルティオは、それにナツトも同行してほしいと言った。
「二ヶ月後と言うと、ちょうど長期休暇に入ったあたりか…」
そう、後一か月と少しすれば、期末テストがありそれが終われば寮生活の生徒たちの多くが実家に帰省する長期休暇に入るのだ。この国は春からではなく秋から授業が開始されるので、時期的には冬休みという感じだ。
特に用事も定めていないし、問題もないのでナツトはその頼みを快諾した。それに『冒険者ギルド総括管理指令組織』の本部には大変興味があった。
「ありがとう。正確な日にちは追々連絡するよ」
「うん……でも、なんでこんな誘いを?」
「それはね。ティアメシアが君に会いたいそうだからだ」
「ティアメシアというと、ギルドの総司令の人だよね?」
「そうだ」
ナツトはティアメシアとは直接会ったことはない。しかし、城の本からアルティオ達との大体の繋がりは知っていた。現在では数少ないエルフの生き残りと言われている者の一人だ。
そんな人物がナツトに会いたいらしい。
…いや、それよりも。
「そのティアメシア、さん?は僕がここにいることを知っているってことでいい?」
「その認識で大丈夫だ。元々、君がナツトであるという証明をするために、色々と協力してもらったしね。その中でもギルドカードで魔力情報を登録するシステムを構築したのはギルドだから、君の情報が登録されたことは彼女は容易に確認可能だ」
成程ね。確かにそれなら知っていても不思議でないか。そういえば、ギルドの本部には高度な管理システムが設置されていたのだったな。納得である。
「折角だ。今日は城で夕食を食べよう。今日を過ぎれば、また忙しくなるからね。お互いの日常を語らい合おう」
アルティオの体感時間というものは、ここ千年で随分と早くなってしまった。長く生きれば生きるほど時間の間隔があいまいとなり。一日、いや一年があっという間に過ぎ去っていく。
だが、ナツトが返ってきてからというものの僅かにそれが遅くなったように感じている。最近は日常が楽しい。ナツトは間違いなくアルティオにどこか単調であったかつての生活に変化をもたらしていた。
ちょっと急ぎ足で書いたので、内容が随分薄かった。
しかし、もう少し学年関連の話をしてからでないとあまりにも高等部が希薄すぎるので、バトル等々話が進むのはお待ちあれ。




