Ep.84 検証踏まえた中間考査
高等部に進学したものの、多少環境が変化しただけで、生活が大きく変化することは案外ないものだ。
確かに、高等部から入学してきた同級生たちとの関わり合いの難しさというものは存在するが、せいぜいその程度だ。
今日から中間考査になる。
日頃の学業の成果を発揮する機会となるが、正直なところそこまで心配はない。
そもそも、十分な評価を得るだけの点数を取ることは対して障害には成り得ない。
人生二度目の余裕というものだろうか。地球にいた頃も、このくらい心の余裕があったらどれだけ違ったことだろう、と毎度思ってしまう。
ま、それはさておき、油断せずちゃんと備えれば悪い結果は取らない…というのが、この学園のテストである。
それでも、ちゃんと難易度の高い問題もいい塩梅で出題されるため、最終的にはいい感じにバラけるのだ。
「今回は勝たせてもらう」
そう自信ありげに言うのはガルノラルクだ。ナツトと同じく転生者で人生所謂二周目の彼は、成績はかなり上位に位置している。位置的には四位から六位の間だ。一位から三位はシャックことナツトと、チェルーティア、イアノンが常独占状態であり、その下にガルノラルク、ウルヴァロ、ノアラナチアがトップ5に入るか入らないかの争奪戦を行なっているといった感じである。
そして、今回のガルノラルクの発言の根拠であるが、これは一ヶ月ほど前の「能力訓練」のときに遡る。きっかけはガルノラルクの一言から始まった。
「なぁ、シャックって、テストの時能力使っているのか?」
「…?使ってないけど?」
それは素朴な疑問という風な感じであった。今更説明するのも野暮であるが、ナツトの持つ能力の一つは『権能;記憶』である。自身の記憶を完璧に記憶し、いつでも思い出すことが可能である。また、魔素と絡めると、他者の記憶に干渉できる力にもなる。
しかし、この記憶という力は地味であるが凄まじい。例えば、日常で街中を歩いた時に視界の端に見えていたポスターの文字まで思い返すことができるのだ。例え、それを読んでいなくても一瞬でも視界に映りさえすれば情報として残るのだ。
そのため、教科書など一度でも読めば何度でも簡単に思い出せる。ナツトの場合、パソコン等の様に見知った記憶を系統ごとに脳内でフォルダのような場所にそれぞれ分け、整理している。厄介なのはゴミ箱のようなものがないため、消去は出来ない。ただ延々と記憶が貯まるのみである。
そのため、この力は暗記系のテストで使えば、他を寄せ付けないほど圧倒的な力を発揮することになるだろう。
ただ、ナツトはなんとなくフェアではないような気がするのでテスト中は使わないようにしている。
それでも、他人からすればこの質問は浮かんでくるだろう。寧ろ、今まで聞いてこなかった方が驚きである。
「ほら、さ。使ってないつもりでも、実は無意識に使っていたとか」
なるほど、言われてみれば確かにだ。最早感覚で使っているものとなっているため、ガルノラルクの言う通り、テスト中使っていないつもりでも無意識に使っている可能性は考えられる。
「つまるところ、君が言いたいのは意識的に能力も抑えた状態で、テストに臨めと?」
「そうそう、もしかしたらシャックに勝てるかもだ!」
「ふふ、どうかなぁ?」
ナツトの能力のことは訓練に来ている六人しか知らない。だが、よく考えてみたら、今後能力バレが起きる可能性がないわけではない。その時、「そんな能力不正だ!」みたいな面倒くさいこと言われないためにも、ガルノラルクの言う通り、能力を完全に抑えて臨むのはアリだ。
「それなら、私に考えがあるわよ」
ここで割り込んできたのは、チェルーティアだ。静かにタイミングを狙っていたため、不意をつかれたガルノラルクは盛大に驚いていた。
チェルーティアはそんなガルノラルクに「魔力探知がまだまだね」と言っていた。
「で、考えって?」
「能力封じの魔道具が城に確か置いてあったわ」
「成程。それでシャックの能力を使えなくするってことか」
「良さそうな案だけど、バレたら不正を疑われそうだな」
チェルーティアの発想は恐らく考え得る案の中で一番確証が高いだろう。あの飛んでいる城の中に置いてある魔道具なんて、きっとろくでもない性能をしていそうなものだ。ただ、ナツトの懸念通り、付けているのをばれたら色々と説明が面倒になりそうなのは確かだ。
「ま、その辺りは後々考えるでいいんじゃないか?」
ガルノラルクの意見で、確かに、そうだなとなり、まずはチェルーティアにその魔道具がどのようなものか持ってきてもらうことになった。
「お~、マジで使えん!というか、魔法も使えねえ!」
翌日、早速と言わんばかりにガルノラルクが魔道具を試していた。すでに昨日の件は能力練習組に話しており、皆興味津々と言った様子で集合していた。
チェルーティアが持ってきた魔道具は拳に収まる程度の小さなものであった。これならば、服の下など隠しようはいくらでもある。
ちなみに、魔道具を持っていくにあたり、アルティオと話したそうだが二つ返事で許可が下りたそうだ。普通に考えたら能力も魔法も封じるような魔道具を持ち歩かせるのはかなり危ないが、すんなり許可が下りたのはナツトがいるからだろう。
まぁ、かなり密着させないと効果は発生しないようだし、魔道具自体、思い切り投げたら簡単に壊せそうだ。万が一奪われ悪用されるのであれば、迷いなく壊すつもりである。
「はい、シャック」
ガルノラルクから魔道具を渡された。ペンダントのようにされていたので、とりあえず首から下げてみる。
直ぐにその効果を感じた。
確かに、能力も魔法も発動しない。なんていうか、体内の魔力に対する何かしらの阻害がなされているようだ。
久々に地球にいたころを思い出す、そんな感じであった。
そこからというものの、普段の生活では基本的にその魔道具を付けたままでナツトは日常を過ごすことになった。
街中で危なくなったら守ってやるよ、とみんなに言われたのはなんだか少し面白かった。
ナツトも随分と久しぶりに、魔法のない生活を堪能できた。地球にいたころはこんなにも不便な生活をしていたのだなと不覚にも思ってしまった。いつの間にか魔法がある生活というものが日常と化していたので、その有難みを再度認識させてくれる実に良い機会であった。
そんなこんなで、中間考査に挑んだわけだが、結果は…。
「ダァァァァ!負けたァ!というか点数落ちてねェッ!」
どこかから負け犬の遠吠えが聞こえるな。
結果は相変わらずナツトの勝利となっていた。チェルーティアやイアノンは、まぁ予想通りだな、という顔をしている。
「能力と脳との関係に迫れる実験としてはいい着眼かもしれないね」
ナツトはそう言って魔道具をチェルーティアに返す。
「そうね、能力についてはまだまだわからないことが多いし、楽しかったわ」
結局、能力がなくても成績が変わらないということが証明されてしまったので、魔道具の必要性はなくなった。ただ、ナツトとしても、今回の結果は実証出来てよかったと思っている。検証結果は一回と信憑性なんて全くないのだが、少なくとも仲間内には能力あるなしでも意味がないということを理解してもらうことができた。
さてと、ここまでが楽しい話で、これで終わればよかったのだが面倒なことが起きていた。
今回の中間考査、ナツト、チェルーティア、イアノンが同列で、次いでガルノラルクが四位だった。だが、いつもはその下にノアラナチアもしくはウルヴァロが続くのだが、今回彼らは六位、七位であった。
僅差であるが五位には、高等部から入学してきた、ロックバードが入っていた。
そう、貴族意識が高く問題になっていた彼である。
危ない、危ない。
更新遅れるところでした。
ちなみに、上位三人はたまにケアレスミスで順位が落ちたりしています。
また、来週!




