Ep.83 変わった環境
ここまでのあらすじ
勇者として異世界転移した、ナツトは魔王を倒し、戦いの果てに自身を犠牲に死亡した。千年後、転生を果たしたナツトは再び友と再会する。その後友の国の学園に入学し、王女たちなど様々な人達と交流する。しかし、世界は徐々に不穏な未来へと進んでいくのであった。
はい、123字でここまでの内容をまとめました。
つまりは、ここまでの話はこれだけで語れると言うこと。
街路樹の木々が紅く染まる季節。傾く日がより一層それらを輝かせる。時折流れてくる冷たい風が、直ぐ近くに冬が来ていることを感じさせる。
とある街の、とある人通りの少ない交差点。
一人の高校生の少女が、花束を持ってそこにいた。
少女の立つ場所には他にも花束が置かれていた。
「また来たよ。あれから半年…だね、夏くん」
他の花束と同じところに自信の持っていた花束を置いた少女は、誰もいない場所に向かって話しかけた。
半年前、この場所でとても凄惨な事故が発生した。それにより、その場にいた当時十六歳の少年が巻き込まれ、死亡したのだ。しかし、この事件には不可解な点が多い。半年経った今でも判明していないことがあるのだ。
「今だから言うけど…私さ、結構怒ってるんだよ?本当に。あんなこと言われて、こっちが混乱している間に遠くに行くなんて。ホント、理不尽だよ」
少女は何かを思い出しながら、空に語りかける。
「君は同じ場所に留まり続けるタイプじゃないし、きっともうここにはいないんだろうけど…また来るね。まぁ、次はここじゃなくてお爺さんの家に行くから。……じゃあね」
その場を離れる少女の顔は微笑んでいたが、その頬には陽光を浴びて光る涙が伝っていた。
ナツトは、とある教室で大きなくしゃみをしていた。
「随分と可愛げのあるくしゃみだね」
そう言うのは、すぐ近くに座っていたイアノンだ。
可愛いというのは余計だ…と内心思うナツト。
「ごめん…」
「気にしなくていい、生理現象は誰にでもあることだ」
「ありがとう…」
高等部へ進学したナツトは相変わらず生徒会に所属しており、今は生徒会室にて課された仕事をこなしていた。
内部進学のテストを乗り越え、高等部に進学してから大きく変わったことが一つ。
校舎が変わったのだ。
というのも、中等部で使用していたのは最近できた中等部専用校舎である。以前より使用されていた元々の校舎は改装工事が行われており、ナツトたちが中東部の間ずっと工事中であったというわけだ。この間、高等部生も新校舎側にいたわけだが、ナツトたちが高等部に進学するのと同じタイミングで工事が終わり、高等部の生徒は再び旧校舎に移動することになったのだ。
この旧校舎が、まぁとんでもなく広い。場所がそもそも王都リコア内ではない。リコア近辺にある広大な土地にドンと構える立派で巨大な城…旧校舎が建っているのだ。新校舎は、日本の高校とか大学のような雰囲気がしたが、旧校舎は日本国外の大学のような雰囲気だ。まぁ、城という時点でファンタジーっ気は凄くする。雰囲気は悠然としているというか、そんな印象を受ける。
これではセキュリティに問題ありかと思われそうだが、見たところ城周辺にリコアと同等の結界魔法や、その他セキュリティシステムが働いていることを確認済みである。
つまり、何も問題ないというわけだ。
しかし、こんなに巨大な城の改装工事を数年間で行うとは…魔法と科学の複合技術は恐ろしいものだ。
いや、逆だな。魔法を使えば簡単な建物は比較的容易にできる。最高峰の実力者が集えば、この規模の改装といえどそこまで時間はかからないはずだ。
つまるところ、数年かけて「魔法を仕込んだ」ということなのだろう。国の最新鋭をふんだんに搭載したそれを作るために。
セキュリティで言えば、王城にも引けを取らないレベルかもしれないな。
ちなみに、旧校舎と新校舎は学内に設置された専用の転移魔法陣を使用することで行き来可能である。
そんな校舎の高等部一年生生徒会の教室で、今日はイアノンと二人で黙々と仕事をこなしていたのだ。
「よし、終わり」
ナツトは座りながら背伸びをして、そのまま背もたれに脱力してもたれかかる。
そのまま顔は天井に向かせ、天井の模様をただボーっと見つめていたナツトはふと思い出したかのようにそのままの姿勢で語り出した。
「そうだ、連日続いているあの不毛な争い、どうしようか」
「あれか。時間が経てばいずれ解決すると思うが、確かに生徒会としては対策を講じる必要があるな」
「高等部からのある意味悪い側面かなぁ…ロックバード君もそう悪い子じゃないんだろうけど…」
「なにを呑気なことを。シャック、君もいずれ巻き込まれる可能性が高いだろう?…身分の違いが大変というのは確かにその通りだがね」
「確かに、ね。考えたら面倒なことこの上ないけど…その台詞、君が言う?」
ナツトがこう言う理由を説明すると、こうだ。
高等部になれば中等部組の他に外部進学で新たに入学するものたちがいる。
彼らは、国内問わず海外からも入学者がおり、他国の貴族が入学してくることもそう珍しいことではない。
ラーテル王国にいると感覚が麻痺してくるが、海外にはまだまだ貴族制度というものが根強く残っているのだ。
同じ技術が発展した世界でも、このことは地球とかなり大きな違いと言えるだろう。
というのも、魔法がある、ということがこの貴族制度が残っている一番大きな理由であるのだ。
前々から言われてはいたが、近年の研究で確定したことがある。それは魔力量についてだ。個人の魔力の総量…つまりは魔力量というものは、親の遺伝を受けやすいものである、という研究結果が公表されたのだ。
したがって、まだまだ魔法主義なところのあるこの世界では、魔力量の高い家系が、国を牛耳るという構図がなかなか無くならないというのが現状である。
かくいう、このラーテル王国も魔力量が圧倒的に多いアルティオたちが統治する国という点では他国とそう相違はないのだ。ただ、貴族制を廃止しているため、この国にある身分というものは、王族か、国民か、というこの二つだけである。
話を戻そう。
高等部になり、外部から新たな同級生たちが入学してきた。基本的にクラスは内部生、外部生で分けられるが、一番優秀なクラスだけは混合となる。したがって、ナツトたちのクラスというものは内部生と外部生の混合クラス、ということだ。
なぜ、そこだけ混ぜるのか、そう突っ込みたいが、生徒にはわからない事情というものがあるのだろう。
当然、内部と外部同士で負けないぞ、という競争心が湧く。それでお互いが切磋琢磨できるのならいいことに越したことはないのだが、当然現実はそうもいかない。
国こそ違うが、チェルーティアやイアノンという「王族」がいるため、外部生の貴族たちはこの二人に対して強く出ることはない、が、彼らは内部生、外部生の所謂平民と言う身分の者に強く当たる傾向にある。どうにも、舐めて上から目線で接するのだ。
仕方ないと言えば仕方がない。そういう環境で生きてきた彼らは必然的にそういう態度になるのだろう。
タチが悪いのは、彼らは自分の実力以下のものに対してそういうマウントを取っていることである。つまり、現状そういった者たちより上の結果を残しているナツトには彼らの面倒なイベントはやって来ていないのだ。言っても、「…でも君たち、僕より成績低いよね?」の一言で黙るしかないからだ。
でも、そんな嫌味ったらしいことナツトは言いたくないため、内心来るな来るなと念じている日々である。
それでも、生徒会という立場に立つ以上、それを快く思っていない輩は必ずいるはずだ。いつかは面倒に巻き込まれることになる。
寧ろ、ここまで突っ掛かられない事の方が珍しいだろう。
というここまでの事情を背景にして、今問題になっているのは、実力以下の者に対して強く当たる外部生の貴族たちに真っ向から止めに入るノアラやウルたちの対立である。
元々中等部で学級委員をしていた二人は正義感も強く、かつナツトたちの影響もあって成績優秀。そんな二人に勝てていない貴族組は激昂するが、実力も成績も向こうが上。しかし、平民ということで大層不愉快という感じである。
最初こそそれはもう見るに耐えないものであったが、王族組がこれを一喝。以後は彼らに隠れて睨み合うという、結局見苦しい対立と化している。
生徒会ももうすぐ入れ替え…選挙の時期である。今は中等部組が引き継ぎで執り仕切っているが、いずれ貴族組も参入してくるはずだ。生徒会というものは生徒の中でも権力…いや発言権というものが高く、当然学歴に箔が付く。それに今ならなんと他国の王族といい関係になることができるかもしれないというお釣りが来るほどのおまけ付きだ。
外部の貴族たちが立候補するのは必至だろう。
ただ、本音を言えば、遥々この学園に来た以上、そういう環境であることは余程の阿呆でない限り知っているはずである。
まさか、親に言われるままに来たなんてことは……………あるな。
普段の生活態度を見ていたら、そうかもしれないな。
折角、少なくとも平民より恵まれた環境にあるのだから、その培った頭に柔軟性を身につけて欲しいものだ。
まぁ、貴族たちに強く当たられる影響で、内部生と外部生の平民階級の者たちは意外とすぐに打ち解けることが出来たといういい面の弊害もあったが。
「近くに中間考査があるし、そこでノアラたちが黙らせても、禍根は残るだろうし、どうするかな…」
直接的な被害はまだ出ていない。そういう点ではまだ可愛い部類に入るが、展開次第では風紀を乱す可能性もある。
まったく、面倒だなと感じるナツトであった。
さてさて、始まりました第6章。
一応、章タイトルは4章に次ぐ形となりますが、内容は4章同様学園内の話はそこまで多く語らないと思います。
逐一話していたら、それこそ終わりませんしね。
このお話の目的は学園モノではないので、重要度で言えば中の下程度です。
既に4章であらかた話し終えてますし、同じような内容を繰り返すのは蛇足と言うものですしね。
正直な話、私の頭の中の学園の話のネタが尽きたら話が大きく動くことになるかな、と。
ではでは。




