Ep.9 疑問
さて、勇者一行はサタナル王国へと帰還していた。城内は体裁も気にせず人々が慌ただしく行き来していた。夏翔達は帰ってすぐまたもや会議に出席していた。
会議には、王、夏翔達勇者一行、第二王子そして国の重鎮達が参加した。
会議の内容自体はやはり今後の対策であった。夏翔達が移動している間に、敵軍に動きがあった。エルフを掃討していた敵主力部隊が人族陣営方向に向けて進軍を開始しだした。このまま進めば、一週間後には戦闘が始まるとのことだ。また、行軍中の主力部隊の中に幹部を確認したが、魔王は発見できなかったとのことだ。魔王城へいったん戻ったのかは不明である。
追加の情報で一部の部隊も主力部隊に合流する動きを見せていることも併せて知らされた。この二つの情報はどうやら王と一部の上層部しか知らなかったらしく、知らなかった重鎮があちこちで騒いでいた。
また、魔王軍とは少し話が逸れるが気になる話があった。それはここサタナル王国王城襲撃事件であった。襲撃というが、犯人はまったくもって不明であり、ただ王と第二王子がいた部屋がどこからともなく強力な魔法と思われるもので吹き飛ばされたのである。幸い運よく外れ二人は無事であった。
この話を聞き、以前にもこれと同様の事件があったことを夏翔は思い出していた。あれはちょうど夏翔がこの世界に来て少ししてからのことだった。今回と同様、謎の攻撃が第二王子のいた部屋を破壊した。王族を狙った重大な事件として捜査されたが、犯人は見つからず迷宮入りとなった。その後は音沙汰なしの状況が続き、魔王軍との戦闘が激化していったのも相まって人々の記憶の隅へと置かれたいた。
犯人は魔王軍であるのではないかと言われているが、王族だけを狙うのはどうも腑に落ちない。敵の思想的にはそんなチマチマ排除していくよりも国ごと亡ぼすはずだ。王族だけに固執するのは変である。
とすれば、もし犯人がいれば犯人は別にいる、となるが見当がつかないのでどのみちこの話はここから進まない訳である。
一週間が経ち、勇者一行は再び戦場に身を投じていた。主力というだけあって個々の兵士が他の部隊より強い。しかし、こちら側も負けてはいなかった。敵の主力が来ると分かっている以上出し惜しみはなしと、人族各国が温存戦力をかなり出してくれた。各国に残っている戦力は最早、国を守るための最低限の戦力しか残っていないのではないかと思うぐらいだ。質では完全に相手に軍配が上がるが、数の有利は常にこちらが取り続け、全体的には有利に進んでいた。
最初は夏翔達もそれに協力していたが、敵幹部の情報が入るとすぐさまそれの対応にあたった。
数の有利をぶち壊しうる可能性を持つ存在である敵幹部がこの戦場には二人いた。
結果を先に言おう、敵幹部達はそこまで大したことはなかった。確かに幹部は他の兵よりずっと魔力も多く、力も強く強力な存在であった。当初、戦闘が始まったとき敵幹部は二人同じ場にいて、五対二の戦いが始まった。先に戦った幹部がモラゾールだったこともあり、夏翔達は敵の戦力を過大評価しすぎていた。分断すべきかなどいろいろと慎重に立ち回っていたが、あるとき気付いた。幹部たちは、それぞれが自分ファーストな奴らであるということに。幹部同士で協力プレイなんて頭の中には一切なく連携もくそもないひどい立ち回りであった。
これに気付いた夏翔達は変に分断せず、このまま戦った方が逆にいいと結論付けた。事実その通りで、長く協力して戦う練習を重ねてきた夏翔達が終始上手く立ち回り、実にあっさり一人を討ち取れた。残ったもう一人は自身のことを魔王軍第三番だ、と豪語していたが力だけの脳筋で魔力の扱いもお粗末だった。魔法も魔力を無駄に多く使っているだけの燃費の悪いものだった。当然、そんな魔法はミューカの魔法の前に蠟燭の火のごとく簡単に消し飛ばされた。それを見てすぐさま近接にシフトした判断は素晴らしかったが、さっきも言ったように力任せだったため、全員に挑むも見事返り討ちにあっていた。
そんなこんなでいつしか夏翔達は勝利をおさめていた。
戦い終わってわかった。モラゾールが突出して幹部の中で強かっただけであった。二番目と三番目の格差がそれほどまでにかけ離れていた。
幹部が打倒されたことで戦場に大きな変化がもたらされた。魔王軍の士気が下がり、人族の士気は上がった。不思議なものでこういった頭が討ち取られた等の話は一瞬で広がった。
そして、確かに犠牲は出たが、この場は勝利を勝ち取ったのだった。
疑問だ。謎だ。理解不能だ。なぜこの戦争の勝敗を決するかもしれないここの戦いを魔王は放棄したんだ?もしも魔王が夏翔達が幹部と戦っている最中にでも参戦していたらどうだっただろうか。魔王の強さがモラゾールと同等と仮定しても、負けていた可能性が十分あった。もしそうなっていたら、今この状況は訪れていなかったはずである。モラゾールが転移魔法なるものをチラつかせていたから、魔王もできると考えていたが、参戦はなかった。
じゃあ、別の戦場に赴いたのかと考えるが、そうでもない。魔王はどこにも姿を見せなかった。
ゲームならば完全に戦犯である。ネットに晒されても文句は言えないレベルで。
魔王はこの戦争に勝つ気はあるのだろうか。それとも一人で十分と考えているのか。だとすれば傲慢甚だしいが、魔王の実力が不明な以上何とも言えないのは確かであった。
それから数日の日が経った時であった。火急の知らせが入った。
「魔王が今東の大陸にいると!?確かか!?」
「はっ!目撃情報も信頼できるところからであり、確かかと」
王と伝令のやり取りを皆が黙って聞いていた。なんと魔王は本当に見方を捨てていた。エルフは殲滅したのに、人族は無視。だったら、魔王の目的は全種族の滅亡ではなくエルフの滅亡だったのか?しかし、それならわざわざ全種族に戦争を吹っ掛ける必要はないはず。何を思って戦争を始めたのか本当にわからない。
…いや、今はそれよりも、東の大陸だ。東の大陸___今夏翔達がいる大きな大陸から東の海洋を超えた先にある大陸だ。大きさは夏翔達がいる方がはるかに大きい。イメージするならば、ユーラシア大陸とオーストラリア大陸を思い浮かべるのがいいだろう。あれぐらいの大きさ関係だ。形はもちろん違うが。
東の大陸は全種族未開の地であり、多くの凶暴な魔物が蔓延る魔の巣窟であるとされている。そんな地に魔王がいる。何のために?考えられるとするならば…何かその地でやらなければならないことがあるとかだろうか。…戦争を捨ててまでして。
とすれば、何かの準備であろうか。もし、魔王が戦いに勝てると考えているとすれば、それを可能だと思わせるような魔法、もしくは兵器があるということになる。そしてそれは、魔王軍の戦力を上回る破壊力を秘めているのかもしれない。
待てよ、もしミサイルのような兵器が東の大陸にあったら、かなりまずい。東の大陸には飛んでいくしか方法はない。しかし、相当な距離があるので到達できるものは限られる。もちろん時間もそれなりにかかる。なすすべもなく一方的に焼き尽くされる結果となるだろう。
会議の末、東の大陸に向かえるのは勇者一行だけだとされ、東の大陸ですべての決着をつけることになり、手遅れになる前にすぐ出発することとなった。
「アルティオ兄さま!どうかお気をつけて!」
「ティート、心配は不要だ。国を頼んだぞ」
「…はい。どうか皆さんご無事で」
「では、皆行くぞ」
アルティオたち兄弟の絆を見届けて、夏翔達は決着をつけるべく東の大陸へと向かいだした。
Q.あれ?この作品の主人公って誰ですか?
A.夏翔、です…。
Q.アルティオのほうが主人公してませんか?
A.気のせいです。




