伝説の設定厨
平凡な男子高校生の妄想だと思って読んでください。
設定厨、という言葉をご存知だろうか。設定厨とはなにか架空のものに対して設定を練るのに全力を尽くす人のことである。設定厨という言葉は現代になってできたわけだが、今からずっと昔、蒸気機関すら完成していなかったころにはそのような人はいなかったのであろうか。否。むしろ、現代のどの設定厨よりも歴史上の設定厨の方がすごかったまである。今回は、歴史上で一番多くの人に自身の設定を浸透させた設定厨を見てみよう。
弥生時代と古墳時代のちょうど境目のあたり、現在の大阪府に大和という子供が産まれた。古墳時代は各地を豪族という権力者が支配していたとされるが、それは間違いであり、古墳時代にはすでに日本は天下統一をされていた。では、なぜそのような間違いが起こってしまっているのか。それは、その子供のせいである。当時日本を支配していた倭という国の王様の長男として産まれた大和という子供は少し変わっていることで有名だった。子供らしく大地を駆け回ることもせず、ずっと考えこんだり急に書き物をしたりしていた。やがて、王様が死んで長男である大和が新しく王冠をかぶるようになった。新しい王様は変わった命令ばかりした。
「やい、貴様」
「はっ」
「我が国全土でこのような形の墓をつくれ。中に入るやつは誰でもいい。とにかくつくるんだ。ていねいにな」
そういって大和が作らせようとしたのは前は四角、後ろは丸の形をした大きな大きな墓だった。後に、前方後円墳と呼ばれる古墳である。
「……王。なぜこのようなことをするのです?」
そういうと、大和はいつも決まって言うのだった。
「未来人を騙すためだ」
大和はその豊かな想像力で今自分が生きている時代が全体でみると初期のころだということを想像した。呪いや術など、根拠のないものが浸透しているのがその証拠である。いずれ技術が発展していったら今生きている時代のことを調査するだろう。そして、今の時代の人間では知り得ないことも知るだろう。
なんか悔しい。
そう思った大和は未来人に意地悪をすることにした。自分で歴史を捏造するのである。というわけで豪族なんていなかったが古墳ができたのである。
「やい、貴様」
「はっ」
大和は大臣の前に自分の背丈と同じくらいの木の板の束をドンとおいて言った。
「この板は西へ、この板は北、この板は東へ、それでこの板は東のさらに北へ持ってゆき、その地に大事に埋めよ」
「……王。これらにはなにが書かれているのですか?」
「各地の権力者や勢力についてだ」
「……王。この国の権力者はあなたただ一人です」
「ああわかっている」
「ではなぜです?」
「未来人を騙すためだ」
大和はその板に蘇我氏や和珥氏、葛城氏という架空の権力者について書いた。これで未来人はこのころ複数の権力者が各地を支配していたと考えるだろう。だんだん大和の設定が日本を染めていった。
「やい、貴様」
「はっ」
「このような人形を粘土でつくり、各地にばらまけ」
「やい、貴様」
「はっ」
「この剣を東の地へ埋めてまいれ」
大和はどんどん家来に命令し、歴史の捏造を行った。約20年かけてその時代の歴史、文化の捏造を終えた。だが、大和はそれでとどまる設定厨ではなかった。これからの設定も考えはじめた。これからどんな風に時代が移行し、技術が発展していくのかを想像した。ある時は物語をかいたり、ある時は日記をかいたり、またある時は歌を集めたものをつくったりした。時が経ち、大和は死にゆく直前、家来に大量の文献を託した。
「これは20年後、東の地へ埋めろ。こっちは100年後、ずっと後ろの子孫まで大事に保管させ、南の地へ埋めろ。あっちは150年後、さらにそのあっちは300年後だ」
「……王。なぜそんなことをするのです?」
「未来人を騙すためだ」
大和が遺した大量の設定は約1000年分あった。毎日毎日家にこもり筆を滑らせ、字体を変えたり書き方を変えたりして同一人物が書いたと思わせないようにした。架空の人物も約10万人作った。ただただひたすら想像し、それを書き記した大和の人生は多くの人に見守られながら幕をとじた。1000年分、しかも1年1年詳細に設定つけた人物はこの大和以外いないだろう。
大和の死後、家来たちは言うとおりに子孫に書物を存続させ、言われたタイミングで埋めた。けれど、大和が考えた1000年分の全てを存続させることは叶わなかった。いつしか、大和の設定は消え失せ、事実と入れ替わってしまった。
この大和、現代に生きていたらすごい物書きになっていただろう。なにしろ、1000年の物語をかいたのだから。我々現代人は今もなおこの大和に騙されている。大和の目論見は成功した。大和の大勝利だ。
いやはや完敗、天晴れだ。