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帰り道と菓子屋横丁

 放課後は完全に自由時間である。ただし、緊急時に即応できるように基本的には四人行動での帰宅が義務づけられている。


 初音の家は蓮馨寺付近、茶菓は蔵造りの街並み(一番街)の和菓子屋兼住宅、芋子は喜多院付近、道也は大正浪漫夢通り沿いだ。


 道也たち四人は、本丸御殿を出て、市役所方面へ歩き始めた。


 通常の帰宅ルートは、スカラ座(レトロな映画館。いまは集会所として使われている)と太陽軒(老舗の洋食屋。転移前はテレビドラマや映画のロケで使われることのあったお店)のある小道を通り、時の鐘へ向かう。


 寄り道するときは、スカラ座から稲荷小路を通り蔵造りの街並みに出る。

 そして、蔵造りの街並みのお店で買い食いをするのだ。


 あるいは、大正浪漫夢通り沿いの喫茶店に行ったり、菓子屋横丁まで行ってお菓子を買うこともあった。


 異世界転移後は営業どころじゃなかったお店も、いまは異世界で手に入る食材を使ってそれぞれの名物を提供している。


 元々あった名物を復活させた例もあるし、新たに作りだしたものもある。スマホもパソコンもない生活なので、かなり素朴なスローライフになるのだ。


 だから、この年齢になっても駄菓子を買って食べるのが娯楽だった。

 あとは寺社を巡るのも市民にとっては娯楽だ。


 そういう意味では、江戸時代的とも言える。小江戸川越といっても江戸時代以前から続いている城下町なので、寺社も多いのだ。


 そもそも小江戸川越のシンボルとも言える時の鐘は薬師神社の境内に建てられている。

 だから、信仰とかそういうものを抜きにして、四人は寺や神社に寄ることも多かった。


 それはそれとして――。


「わー、川越娘のおねーちゃんたちだー!」

「きょうも川越を守ってくれて、ありがとー!」


 川越娘たちが帰り道を歩いているだけで、市民のみんなから感謝の言葉をかけられる。

 特に、子どもたちにとってはヒロインのような存在だ。


「ふふ♪ ありがとうございます♪ みなさん、ちゃんとお勉強がんばってますか?」

「……少年少女たち……あなたたちに川越の未来がかかっている……」

「早く大きくなって、あたしたちが楽できるよう強くなれよー!」


 そんな子どもたちに対しても、三人は優しく接する。

 なお、下校時はそれぞれ制服姿だが、緊急時に即応できるように武器は装備していた。


(本当に完璧なアイドルだよな……)


 ただ強いだけでなく、ファンサービスもバッチリだ。


(というよりも、三人とも性格がいいからなぁ……)


 そんな三人の姿を間近で見ていると、早く自分も戦力になりたいという思いは強まるばかりだった。


 子どもたちと会話をかわして別れを告げ(子どもたちも疲れている川越娘たちを長時間引き留めないように親から言われているのだろう)、四人は再び歩き始める。

 そして、市役所の前の交差点に来たところで、初音が遠慮がちに切り出した。


「菓子屋横丁に寄って駄菓子を買って帰ろうと思うのですが……」


 有事に備えて四人行動が基本だが、厳格というほどではない。ただ、それぞれがどこにいるかが戦略上重要になるので(誰がどのモンスターに対応するかなど)、行き先は常に明かしている。


「……茶菓も行く……」

「あたしもー!」

「俺も行くぞ」


 道也たちはそれぞれ同行の意を示した。


「皆さん、お疲れのところ、すみません……」

「……茶菓は特に疲れていない……ふたりに比べて弓矢は運動量が少なくて済むし……」

「あたしも余裕余裕! 体力には自信があるからね!」

「気にすることないぞ。俺も暇だし」


 初音は遠慮がちというか周りに常に気をつかうタイプなので、少々堅苦しいところがある。

 だが、そんなところが美点でもあった。


 ともあれ、四人は市役所前の交差点をそのまま真っすぐ進み、札の辻の交差点を過ぎ、元町(もとまち)休憩所の前を過ぎて左の石畳の小道へ入る。

 その石畳の道を少し進んでから右の通りへ入れば菓子屋横丁である。


 ここには様々な駄菓子が売られている。さすがに元いた世界のような種類は揃えられていないが、この世界の食材と技術で作れるものが売っていた。


 元いた世界ではほとんど観光客のお土産を買うためのエリアだったが、いまでは川越市民たちのための買い物の場所だ。


「あら、初音ちゃん、茶菓ちゃん、芋子ちゃん、道也くん! いらっしゃい!」

「今日もお疲れ様! いっぱいサービスするわよ~!」


 子どもの頃から菓子屋横丁には通っているので、みんなすっかり顔なじみだ。

 そもそも、狭い町なのでほとんどが知りあいといってもよい。


 特に、モンスターたちと戦うようになってからは、川越娘たちの認知度は百パーセントになった。裏方の道也も川越娘たちのサポート役として紹介されたりしているので、かなり顔を知られている。


 そのことに対して窮屈だと感じる道也だが、川越娘たちはそんな生活に対して愚痴をこぼすこともない。自然体で市民と接し、日々、好感度が上がっていた。


 初音たちは菓子屋横丁のおばちゃんたちとも和気藹々と会話し、買い物を楽しんでいる。


(俺にはここまで自然に触れあえないよなぁ……)


 町を守る異能力者は戦うだけではいけないと川越娘たちを見ていると痛感させられる。

 差し入れが絶えないのも、彼女たちが市民たちから愛されている証拠だとも言えるだろう。


(俺も、もっと町の人たちとコミュニケーションをとらないとな……)


 もともと絵を描くのが好きで内向的な道也は彼女たちと比べて、対人スキルに大きな開きがあるのだ。マネージャーとしても、もっと頑張らねばという気持ちになった。

 そして、買い物をし始めてから十分ほど経った頃―ー。


 ――カンカンカンカン!


 富士見櫓から急を知らせる半鐘がけたたましく打ち鳴らされた。道也がいないときは、小江戸見廻組の大人が富士見櫓に詰めてモンスターの出現を監視しているのだ。


「敵襲ですか!?」

「……水をさされた……」

「ぎゃーっ! 連続出撃ぃ!?」


 会計をしようとしていた初音たちが、一斉に空を仰いだ。

 モンスターたちは、基本的に空から現れる。


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