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本丸御殿で緑茶と芋羊羹タイム~戦う川越娘とマネージャー男子~


「やれやれ、今日の襲撃も終わったようだな……」


 雁田道也(かりたみちや)は、小江戸川越で最も高い『富士見櫓』から、戦場となった北方上空を見守っていた。


 川越娘の三人は、押し寄せてくる百を超えるモンスターたちを抜群の連繋で倒していき、本日も市民への被害を0に防ぐことができた。


 この戦いが始まって、すでに三か月――。


 最初はうまく連携がとれずにモンスターの市街地への侵入を許してしまったり、彼女たち自身も負傷することもあったが、今日もノーダメージだ。


 とはいっても、三時間ほど戦い続けた彼女たちに疲労がないわけがない。

 モンスターの襲撃が始まってから、彼女たちに一日として休息はないのだから。


 なお、小江戸川越防衛隊『川越娘』の詰所は『富士見櫓』の近くにある『本丸御殿』に置かれている。そして、付近にある『川越市立博物館』が後方支援施設兼武器庫になっていた。


「さて、茶でも淹れるか」


 異世界に転移したばかりの時はもうお茶を飲めなくなると大人たちは嘆いていたらしいが、すぐに自生している茶の木が発見されて、郊外で栽培されるようになっていた。


 しかも、元の世界で、川越市民にも飲まれていた狭山茶に似た品質らしい。

 もっとも、異世界生まれの道也には元いた世界のことは想像できないのだが。


 なお、異世界で様々な作物が見つかり食料自給率が上がってからは和菓子などの趣向品も作られるようになっていた。サツマイモのようなものも自生していたおかげで、芋羊羹も復活することができたのだ。


 彼女たちは小江戸川越の住民たちから敬愛されているので、日々、様々な食べ物が提供されている。そう言うものの受取も道也の仕事だ。


 異能力の顕現していない道也は、ほぼ彼女たちのマネージャー状態であった。

 お茶の用意をするのも大事な仕事のひとつである。


「今日は芋羊羹が差し入れできてるし、喜ぶだろうな」


 道也は富士見櫓の石段を下りていき、「とおりゃんせの唄」の由来とも言われている三芳野神社の裏の小道をとおり、本丸御殿前へと到着。


 かつて駐車場だった場所に掘られた井戸から水を汲み、その傍に設置されている竈でお湯を沸かす。


 電気がないので、炊事も洗濯も江戸時代並なのだ(わずかながら太陽光発電と非常用の発電機はあるが、市役所のみ使っている状況だ)。

 なので、火を起こして使うことが当たりまえとなっている。


 おかげで、転移この方、ボヤ騒ぎが何度があったが――どうにか大事に至らずに済んできた。


(……そもそも『蔵造りの街並み』だって、明治時代の大規模火災のあとに防火対策の面から作られたらしいしな……)


 蔵というものは非常に耐火性が高い。

 そういう意味で、川越と火は切っても切れない関係なのである。


 ともかくも、道也はお湯を沸かし、お茶を入れる準備を続ける。


 川越娘たちは戦闘のあとは川で水浴びをして汗を流してジャージ姿になってから本丸御殿に来るのが常であった。


 戦闘用の服は、それぞれ慣れた格好ということで、剣道・弓道・柔道の稽古着だ。

 その上に異能の力で守護武装をまとうことになる。いずれも、それぞれの稽古着を発展させたような装備になっているので、イメージが装備に影響するらしい。


「俺も早く戦えるようになればなぁ……」


 いくら体術が向上しても、異能力がなければ彼女たちのように自由自在に空を翔んで戦うことができない。戦うことはもちろんだが、早く空を自由に翔けてみたい。


「ああ、早く誕生日にならないかな」


 なんでほかの三人は四月産まれなのに、自分だけ三月生まれなのか。


 そのことに不満を覚えつつも、こればかりはどうしようもない。そもそも、誕生日になったら彼女たち同様に異能が発現するのか未知数ではあるのだが――。


 やがて、空中に三人の姿が現れ、本丸御殿前に着地した。

 それぞれ、ジャージ姿だ。


「お疲れ様。いま、茶を淹れるから。ちなみに、今日のおやつは芋羊羹だ」


「それは素晴らしいですね! 今日のおやつが芋羊羹だったらいいなと思っていました!」


 まずはリーダーである霧城初音(きりしろはつね)が、笑みを弾けさせた。

 戦闘中は後ろで結わえていた髪を解いていて、水浴び後ということで瑞々しい。


「……それは朗報……茶菓も……今日は芋羊羹の気分だった……」


 続いて、日本人形を連想させる無表情の茶菓が、ぼそりとつぶやく。


「やったー! あたしも今日は芋羊羹って気分だったんだよねぇ~!」


 最後に、ショートカットの明朗快活を絵に描いたような芋子が破顔した。

 

 いずれも、アイドルが務まりそうなほどの美少女たちである。

 ルックスもスタイルも性格も抜群で、なおかつ戦闘力も高い。


 彼女たちは小江戸川越防衛のために欠かせない存在であり、この街の精神的支柱であった。

 ほぼ毎日モンスターに襲撃されても市民が恐慌状態に陥らないのは、彼女たちのおかげである。

 というよりも街全体が彼女たちのファンみたいなものだ。


 ゆえに、もっとも彼女たちと接する機会の多いマネージャーの道也は市民たちから嫉妬されたりもしていたが……。


(……まぁ、これだけ美人だとなぁ……)


 全員と幼なじみで長い付き合いとはいえ道也も年頃の男なのでドキッとしてしまうことはあるが、極力、恋愛感情を持たないように気をつけていた。


 彼女たちは、ただの女子高生ではない。

 文字どおり、三人に小江戸川越の命運がかかっているのだ。


 道也は沸かした湯の入った薬缶を手に、靴を脱ぎ、一緒に本丸御殿へと移動する。

 正面にある畳敷きの広間が休憩室兼作戦会議室兼教室だ。

 ほかにも奥のほうに小さな部屋があるが、そこは倉庫や食糧庫代わりとなっている。


 三人は、畳に腰を下ろすと、足を延ばしたリラックスした姿勢になった。

 さすがに三時間もぶっ通しで戦ったのだ、疲労はあるだろう。


(……いまの俺にできるのは、三人にお茶を淹れることぐらいだからなぁ……)


 女子たちを戦わせて安全地帯にいることに引け目を感じるが、いまできることをやるしかない。


 道也は急須に茶葉を入れて、それぞれの湯飲みにお茶を注ぐ。そして、棚から芋羊羹を取りだして、包丁で均等に切っていった。


 毎日、お茶と茶菓子ばかり出しているので、お茶の淹れ方もだいぶ向上していた。

 どれぐらいの熱さが好みなのかも把握できている。


 初音は熱いほうが好きで、芋子はぬるめ、茶菓はその中間といったところだ。

 なので、お茶も初音、茶菓、芋子の順番で少し時間を空けてから注いでゆく。


「どうぞ」


 道也が促して、三人は「いただきます!」と声を合わせて、それぞれお茶を飲んだり、芋羊羹を口に運んでいった。


「はふぅ……♪ 雁田くんの淹れてくれたお茶、やっぱりおいしいです♪」

「……ん。……また一段と、技に磨きがかかった……」

「芋羊羹うまい! 茶も最高ー!」


 異世界は娯楽が少ない。なので、食べることがなによりの楽しみとなる。

 三人は戦闘後のお茶の時間を思いっきり楽しんでいた。


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