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蛮族、宇宙を行く!  作者: モコ田モコ助
第一章 成り立ち

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8/20

*.パンケーキ


 ああ、マリーマリア女王は、俺を試したいのだな。そして信を置きたいのだな。

 これはベンドの直感である。


 ならば、真摯に答えねばならぬ。

 ベンドはここがエルフの里である事や、天界である事等、余計な物を頭から追い出した。


「我等ガイアに生きる者は、戦の中で生を育んできました。ガイアの歴史が始まってから今までの長い年月、絶えることなくずっと戦い続けてきたのです。戦争、人の命を奪うこと、それが我等の日常なのです。悪いことをしているという概念はございません」


 「なんと!」「酷い!」等と、両脇の評議員から声が上がる。


 女王は片手を挙げただけで、ざわめきを鎮めた。

 もとより、ベンドは気にしていない。正確には気にならなかった、である。

 そんな安い神経だとガイアなんかで生きていけない。


「俺たちにとって、戦いは誉れ。一族を生かす為の殺しは美徳! 女子共を守れぬ男に価値はなし!」

 ベンド側のガイア人、勇者ヴォッシュを始め、ビアンまでが頷いている。


「第一、俺の趣味は長生きする事ですから」

 ひょいと肩をすくめるベンド。

 その剽悍な仕草に、リンナメンナは噴き出しそうになるのを堪えていた。


「俺たちの風習や性格を明日から変えよと仰っても、それは無理です。ネコに明日から馬になれと言ってもなれない。(ガイアのネコはトラやライオンに相当する大型肉食獣である)女王が仰る理想に近づくには、気の遠くなる様な長き年月が必要となりましょう」


「ではエルフの名において、将来の食糧や気候の安定をお約束してもでしょうか?」

「安定までに何年かかりますか?」

 エルフは嘘を吐かない。奇跡さえ起こす。

 ベンドは女王の言葉を疑わなかった。

「その間、今まで通りのペースで戦は開かれ、人は死ぬ。今までのペースでね!」


 女王は、僅かの間だけ考えに耽ったのち、形の良い唇を開いた。


「ベンド陛下、あなたの手によるガイア統一を前提として、良き案はありますか?」

「一瞬で世界を我が支配下に治める事ができれば!」

 即答するベンド。

「ガイアに住む人間は、……ああ、俺たちも含めてですが……、強い相手であればあるほど喜んで戦端を開くバカ共の集まりだと思ってください」


 ここから重い口調に変える。

「ただし、圧倒的に強い相手が、氏族の存続を許す寛容を持っていたなら、戦わず降伏を選ぶでしょう。つまり、死ぬ者が少なくなります」


「では圧倒的戦力を保持できれば、人命の損失はなくなるのでしょうか?」

「全く無くなるとはお約束できません。一度は降伏した連中も、俺がその地を離れたらすぐ反旗を翻します。俺だってそうする。しょせん俺たちは血に飢えた頭の悪い蛮族なのです」


 頭の悪い蛮族。ベンドは長い戦いの中で、ガイアの環境に従ってのみ生存が可能という、その絶望をしばらく前から意識していた。

 もちろん解決策も。途方もない解決策であったが。


「ですが、遠く離れた地上の端で反乱が起こった領地まで、一瞬で移動できますれば、反乱はすぐに鎮圧できる。ゴラオン軍が素早い移動が可能な軍だと知った氏族は、反乱しない。反乱できない。そうなると人命の損失とやらは、最小限で防げましょう」


「それでも統一まで、少なからず人命は失われていくのですね?」

「ええ、その通りです。ですが、このまま放っておくよりも、体を動かす方が人死には少ない。圧倒的に少ない!」


「戦争をこちらから引き起こす代償に、人命の損失が少なくなる。とおっしゃっているのですね? 放置しておく代償は、今まで通りの人命損失。これは我等エルフに与えられた試練なのでしょうか?」


 女王の言葉遣いは、蛮族のベンドにとって難しいものだった。

「思い違いをしておられぬ事を願いますが……」

 ベンドは言葉を句切った。

 ここが分岐点。エルフの方々は何かを持っている! 問題を解決できるナニかとんでもない道具なんかを持ってるっと蛮族のカンが告げていた。


「俺たちは、あなた様方、高貴なるエルフ氏族の御方々の様に、殺し殺されのない平和な世界に憧れているのですよ! どうか、我等にも高貴なるエルフの世界の一片をお与えください!」

 蛮族だって死ぬのは嫌なのだ。……体に悪そうだし。


「あなた方は正直者です」

 女王マリーマリアは目を静かに閉じ、己の思考に沈んだ。

 ベンドは口を閉じた。評議会のメンバーも一言だって口にしない。


 どれほどの時間が過ぎただろうか、女王の額に軽く汗がにじみ出した頃だろうか、やがてエルフの女王が目を開いた。

 澄んだ目だ。決意を済ませた目だ。


 玉座からすっくと立ち上がる。長い髪がはらりと広がった。


「ミュイ=ファン=ガラン指揮官兼任エルフ氏族女王、マリーマリアの名の元。リンアメンナ皇太子並びに、ゲルダゲルマ宰相の提案を全面採用することをここに宣言いたします」


 評議委員のエルフの一部がざわめいている。


「そして――」

 次に放ったマリーマリア女王の一言が、場に衝撃を与えた。


「これより始まる新しきエルフの歴史には新しい女王を! 古き女王であるわたしは女王の座を辞し、皇太子リンナメンナが新しき女王となる事を宣言致します! 女王の言に二言は無し! 以上です」


 ざわめきは一瞬で平定された。

 評議員の中には、不快な表情を浮かべる者も若干名居たが、すぐ平静を取り戻し、膝を付いて賛同の意を表した。


 ベンドは、異存有りげなエルフ達の顔を覚えてやろうとしたが――

 それを読んだ者がいた。


「ベンド陛下、ご心配はご無用に」

 評議委員の一人だ。顔をしかめたエルフの一人だった。

 エルフの方は狡い。顔をしかめるだけで絵になるのだから、だれも不快にならない。


「私の名はプリムプリシラ。環境調節の責任者です。確かに私は反対を意思表示したが、それだけです。一度女王陛下が決定した事柄に賛同致します。精一杯意に沿う様、努力しますよ」

 眉をハの字にし、照れた様に笑った。裏のない陽気な笑顔だった。


「失礼致しました」

 ベンドは胸に手を当て頭を下げた。ちょいとばかり恥ずかしかったから、顔を見られたくなかったのもある。


「こう言った事はよくあるのです。ですが決定事項は必ず従う。それがエルフの習慣です。変ですかね?」

「いえ、素晴らしい習慣だと思いますよ」


 エルフ。どこまでも純な種族。


 ならばとベンドは音頭を取った。

「古き女王に千雷の感謝を! 新しき女王に剛剣の祝福を!」






「時間もありません。詳しい事、詰めなければならぬ事は評議会の方々に一任致します。ガイアの方々、これからご一緒に昼食会にご招待致しましょう」


 エルフのお食事会にご招待。


「料理のご希望はございますか?」

「せっかくエルフの里へ足を運んだのですから、エルフ氏族の料理を所望いたします」


 さて、どんな珍しい食い物が出てくるのでしょうか?





 謁見の間に匹敵する大空間。大広間の真ん中に、白いテーブルクロスを掛けた長テーブル。


 はたして、ここは大広間だろうか? 中広間だと言われたらショックを受ける。

 床はふかふかの絨毯が引き詰められ、天井が高い。

 各自の前には、艶々した、真っ白で、しかも薄い皿が一枚。


 フォークと……フォークだろうね? 細い柄と、細い先端。しかも先端は四つに分かれている。ベンド達が日頃使うフォークは、肉を突き刺す二股のでかいのだ。


 ちなみに料理によってはフォークを使わず手づかみで食う。


 ナイフが……ナイフだろうね? 切っ先が丸い。肉を切れる気がしない。

 ベンド達が食事に使うナイフは文字通りナイフ。片刃の木製柄付き。得物(人を含む)の皮を剥いだり、とどめを刺したりするのにも使える便利な逸品。


 華奢な、人も殺せないフォークとナイフが並んでいた。


 主催はマリーマリア女王。テーブルの上座に鎮座する。

 一番近い所にベンド。その向かいにリンナメンナが座る。

 以下、ガイア人が順に座る。


 評議会の皆様は、急ぎ打ち合わせと調整をするので、欠席だ。ベンドとしては、人数が少なくてホッとしている。


「お任せという事ですので、皇太子の好物をお出し致します。では、始めましょう」


 リンナメンナの好物とは――肉じゃない事だけは確かだ。ってか、エルフの皆様が肉を食う姿を想像できない。

 つまらない食事会になりそうだ。


 出されたのは……丸くて平たいキツネ色に焼けた? 2枚重ねで皿に載せられている。料理の上に料理を重ねるのがエルフのマナーなんだろうか?

 ちなみに、ガイアの狐には尻尾が複数あったりする。おまけに幻覚のスキル持ちだッ!


 そんなもんだろう。と、納得した。空気を読むのに長けた一族である。 


「パンケーキです。お好みにより、添えた蜂蜜かバターをおつかいください」


 どうやって食べるのか? 無様な食べ方は許されない。

 何より、ガイアのみんながベンドを見ている。手本にされる模様。これは命に関わる。


 ベンドは、リンナメンナの食べ方を見る。

 彼女は何もつけず、ナイフで小さく切り分けて口に運ぶ。美味しそうに口を動かしている。


「うむ」

 真似してフォークでパンケーキを串刺しにし、ナイフで一口大に切り分ける。

 落とさない様そっと口に運んで咀嚼。


「むっ!」

 目を見開く!


 なんだこれは!

 甘いぞ!


 ガイアにも未開地といえど甘みはある。蜂蜜と水飴の二つだけだが。

 でも蜂蜜の様に尖ってない。水飴の様に頼りなくない。

 甘さをしっかり主張していて、それでいて優しいうんぬんかんぬんッ!

 生地は柔らかい。火で熱した獣脂と同じか? いや、歯がフワッと生地に食い込みうんぬんかんぬん!


「これがエルフの文化か!」


 ヴォッシュはバターを塗りたくってかっ喰らっていた。

 ビアンは蜂蜜だ。彼女、蜂蜜が好物だった。あと、目の色が変わってた。

 フアンは蜂蜜とバターを二つとも塗っている。その方法があったか!

 残りの皆も、それぞれ好みの食べ方で喰らっている。

 たちまち皿が空になった。


「ベンド様方では足りないでしょうと思い、沢山作ってあります。遠慮せずにおかわりしてくださいな」


 エルフ的には不作法にあたるのだろうと思いつつも、食べる手を止められないベンド達ガイア人であった。




次話「ダークエルフ」


おたのしみに

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