*.会見
「エルフの里は武器の持ち込みを禁止しております。念のため、チェック致しますので、この戸をくぐってください」
金属製? 人が余裕でくぐれる縦長の輪っかだ。
先頭を切ってベンドがくぐる。
”ピンポーン”
おや? 何処かで軽やかな音色が?
「ベンド様。何処かに武器を隠し持っておられませんか?」
リンナメンナの柳眉が些か吊り上がる。
「いつもの癖だ、許されよ」
そう言って、ベンドは左の懐から2本のナイフを取りだした。
「お預かり致します」
女官が捧げ持つ金属製のトレイにそれを納めた。
女官は頭を下げ、下がろうとして……。
「まて、まだだ」
右の懐から、襟首から、袖から、ブーツから、会わせて10本の各種ナイフを取りだし、金属製のトレイに並べた。
俺も俺もと、ガイア人達はそれぞれの服に仕込んだ武器を取り出し、トレイに放り込んでいく
ビアンですら、5本の隠し武器を持ち込んでいた。
女官達は、ハイライトを無くした目でガイア人を見つめている。
「では、エルフ氏族の長、マリーアリア女王と評議会の方々に面会して頂きます。謁見の間へ皆様をご案内致しましょう。こちらへどうぞ」
さて、……謁見の間に向かう道中の騒動(例えば馬無し馬車だとか、動く階段だとか、上下する箱部屋だとか、窓から見える外の世界だとか、高層建築群だとか、それこそ道路の材質、発光広告板、道標から各種デザインまで)は、いちいち列記していると日が暮れてしまうので残念ながら割愛させていただく。
「ここが謁見の間です。女王と、評議委員がお待ち申し上げます」
巨人が通るのか? と思われる程、背の高い扉の前に立つベンド達。見上げると首が痛くなる。
扉にはシンプルだが、手の込んだ模様が入っていた。ミルケルの芸術家二人が唸るほどに洗練されたデザインだ。
音もなく、扉が内側へ開いていく。内側に開く扉は防御力が弱いぞ。何故? と、ベンドは眉をひそめるが、エルフだからね、と思い立って納得した。
謁見の間は、ベンドが知ってる謁見の間ではなかった。ベンドが知る謁見の間と、根本的に種類が違う。
荘厳だった。
そして広い。
ゴラオン城の中庭より広いんじゃなかろうか? 端っこが霞んでないか?
天井が高い。
優雅な曲面で構成されている。そこに幾何学模様(ベンド達が知らない模様)が描かれていた。
床が綺麗。
ピカピカに磨き上げた大理石だ。おぼろげながら、ベンド達の姿を映していた。水の上に立っている様だ。
そして、照明。
広大な部屋のそこかしこに、六角柱が”浮い”ている。
水晶の結晶そっくり。水晶より透明だ。
最も目を引いたのは、その大きさ。
巨漢ヴォッシュを二人束ね、二人立てに積んだかさに相当する。
その大きな水晶の内部から、柔らかな明かりが漏れている。その明かりが広大な謁見の間を厳かな雰囲気に照らしているのだ。
ここに比べたらゴラオン城の謁見の間なんてせせこましい便所みたいなもんだ。あの時自慢していたのが恥ずかし。
遙か奥に、入り組んだ塔が鎮座している。ゆりかごにも見える塔だ。
ドアから塔まで、10人は並んで歩ける幅の長方形が描かれている。ここを歩いて行くと塔に到着する。ベンド達がつかう絨毯の代わりであろう。
『惑星ガイア。ゴラオン王国国王ベンド・ゴラオン陛下ご一行様。ご到着です』
部屋全体に通る澄んだ声が、どこからか聞こえてきた。
歩を進める。
ゆりかごに見える塔の基部に女王を視認した。
長方形の両側に、エルフが並んでいる。やっぱり美女ばかりだ。
最も女王に近い場所にリンナメンナが立った。
宰相のゲルダゲルマがリンナメンナの対面に立っている。
彼女たちが評議会であろう。
今までのエルフと同じく、上下一体となった体に張り付く服を着ている。違いと言えば、上着の有無であろう。
肩にパットが入った、腰までの長さのがっしりしたロングコートを羽織る者。パットは無しで、足首までの長い、風に揺れそうな薄いガウンを羽織る者。
それぞれ上質な生地で作られている。さすが、エルフ! 種類は2つだけだが、役職か地位で分かれているのだろうか?
ベンドは、そんな思いを頭から振り払い、女王の前に立つ。
女王は席から立ち上がった。
「ようこそエルフの里へ。わたしはエルフの里の女王、マリーアリア」
腰まである長い髪は薄い金色。瞳の色は薄紫。
女王はリンナメンナによく似ていた。彼女にさらなる落ち着きと、さらなる気品と、さらなる人望と、そしてさらなる年月を与えれば、女王マリーアリアになる。
厚かましく、物怖じしないはずのベンドが硬直した。
言い表せない何かに心を打たれたのだ。
「兄上」
フアンは使える義弟だ。ベンドの機能停止にいち早く気づいたのだ。
どうにかベンドの脳が動き出す。
「我が名はベンド。ゴラオンの王・ベンド。よろしく頼む」
自然と胸に手を置き、膝を折って腰をかがめる。ベンドらしからぬ行動である。
神々しさ。
ガイア人に神の意識は薄い。彼らが信心深かったら、このように表現するだろう。
この後は、お互い従者の紹介をし合う。
両脇にズラリと並ぶエルフの方々は、やはり評議会のメンバー。
宰相以外に、厚生だとか、航海だとか、法務、教育、環境、等々聞き覚えの無い役職の大臣ばかり。
ベンドも紹介した。
人選に対し、ユニークだと評された。エルフの方々の頭に悪意は存在しないって事は信じて疑ってない。単に興味が勝った故の評であろうと理解した。
褒め言葉と同一なので、ファーストコンタクトの印象は良好である。
女王が涼しげな笑みを浮かべる。
「どうぞおかけになってください」
座ると言っても?
ベンドの疑問に答えたかの様に。切れ目も何もなかった床から、椅子がせり上がってきた。
華奢な造りだけど、優雅なデザインだ。いかにもエルフらしい手の込んだ椅子である。
「ベンド陛下」
女王の話が始まる。
「我等エルフ氏族は、平和を愛する氏族。最も忌み嫌う言葉は”戦争”。次に嫌う言葉は”人命の損失”です。その事を踏まえ――」
女王の目がスッと細くなる。
「貴殿はガイアの統一に関し、戦争は必須。人命の損失は避けられぬとおっしゃられたが、それは真でございますか?」
エルフの言う「女王」というワード。
実は蛮族のボキャブラリーに適正な言葉が無いのです。
翻訳機が無理やり訳して女王というワードを当てがったのです。
本来の意味はー
アメリカの大統領と遺伝子工学を足して歴史で割ってください。
次話、「パンケーキ」
おたのしみに。




