*.エルフの里
ベンドは、大急ぎで人選に入った。
こういう時に頼れるのはゴラオン氏族の頭脳にして義弟、フアン。彼は外せない。
護衛としてヴォッシュもリストに挙げた。本人も行く気真満々だ。
文化的な一面もという意味で、愛妾のビアンも連れていく。存分に着飾れと厳命しておく。本人とお付きの女官が腕まくりして体を温め始めた。……よし!
政治面を手伝わせている従兄弟を一人。軍事面でたまに相談する叔父貴を一人。
あと5人だが……
「ベンド陛下、臣従の証に人質を連れて参内致しました」
薬でぶん殴っておいたゲオル氏族の族長と息子が来訪してきた。そういえば、今日辺り来るって言ってたな。よし、ちょうどよい。お前ら2人とも来い。
「ご注文の絵と銅像を納品にまいりました」
芸術一族ミルケル氏族のトップ二人か?
丁度いい所に来た。
後一人だ!
「それでは皆様、どうぞこちらでお休みください」
執事奴隷セバスチャン氏族の執事長、アドルか? お前も良いタイミングできたな。
よしこれで10人揃った!
翌日、おめかしして中庭に整列。
打ち合わせ通りの時間に金の円盤が降りてきた。
「ほほう、これが天上世界への船でございますか」
円盤を初めて見るゲオル氏族の族長が、暢気なことを言っている。
案内人は昨日の官僚型美女。リンナメンナは来なかった。それだけで不安を憶えるベンドであった。戦場で不安なんか感じたことないのに。これから行くところは戦場より死地なのか?
案内されるまま、一様に不安顔を浮かべて乗り込んでいく10人。
円盤の中に座席が設けられていた。それぞれ腰を下ろして準備完了。円盤機が飛び上がった。
流れいく景色もだが、まったく揺れが感じられない。最新式の馬車でもこうはいかない。
まるで窓の外を絵が流れて行くかのよう。
城が遙か下で小さくなっていく。何故足下の城が見えるか?
出発の直前で床が透けたのだ。あと横の壁と天井も。前はもちろん、後ろの壁までもが透けてしまった。案内人は”ぜんてんもにたー”だと説明してくれたが全く解らん。解らんものは考えても仕方ない。ここにいる全員が同じ思考法の持ち主だった。慌てたのはほんの一時だけ。あとは落ち着いたものだ。
やがて大地に霞がかかり、地平線が丸みを帯びて、外が暗くなっていく。
「な、なんだここは!」
ここで初めて、一同が大いに驚いた。
朝だったはずなのに、夜になった。
大変だ! 地面が丸くなった!(勘違い)
知ってる世界と違う世界をこの目で見てしまった。
それと体が軽くなった。どうしたことだ!?
二度目の慌てっぷりだが……
「ま、そんなもんだ」
みんなすぐに落ち着いた。
なにせこれから行くところは天界だからね。地上の常識なんか役に立たない。
そういう事だからそういう事なんだろう。ガイア人は落ち着きを取り戻したのであった。
むしろ、この旅を楽しく思う様になっていた。
「太陽が天にある。だのに、外は夜だ。不思議だな!」
相変わらずぶっきらぼうな言い方のヴォッシュだが、目は子どもの様にキラキラしている。
「あれは? あれは月なのか?」
ゲオル氏族の族長が興奮している。
案内役の官僚型美女がニコニコ顔で現れた。
「簡単にご説明致しましょう」
案内役による説明は難しかった。
どうにか、こうにか、かなり端折って、ベンド達は案内役の意味を理解した。
ベンド達が平らだと思っていた世界は、実は球体であると。
下半球から人がこぼれ落ちないのは、そういう世界の理だと納得して貰わなければ、とても難しい説明(ガイア人の苦手事項)が延々と続く事。
暗い世界は空気のないところ。特殊な服を着ず、この船の外へ出れば窒息して死んでしまう事。
太陽が影響を及ぼす世界の外に、まだ世界があるという事。
そんな世界が何万もあって、一つの大きな世界を形作っている事。
そしてこれから向かう先は、エルフの里と呼ばれる大きな船であること。
「エルフの里はラグランジュ4に存在します」
なるほど。天界の、らぐらんじぇ町4番地に向かうのだな。
――だいたいあってる――
以上、終わり。
「ま、そんなもんだ」
ガイア人の順応力は驚くべき高水準である。
「間もなく、ミュイ=ファン=ガラン、えー、エルフの里船に到着します。よくご覧ください」
連絡船の前方。
暗い夜の中から、それは一瞬で現れた。目を凝らしていたが、今の今までそこには無かった。まるで、そう、暗闇でボールに掛けていた黒い布を一気に取り払った様な……。
「ま、そんなもんだ」
エルフの里船ミュイ=ファン=ガランは、一言で言えば、衛星規模の球体。
地球で言うところのサッカーボール。1番有名なデザインの白と黒の五角形が組み合わさったデザイン。
但し、黒の部分が内部に抜けている。外殻を構成するのは白の五角形部分のみ。
ベンドは、蹴りボールほどの大きさ。……だと最初は思っていた。
近づいていくと、だんだん大きくなる。まだ大きくなる。まだ到着しない。まだ大きくなっていく。
見上げるほど大きくなったエルフの里は、やがて前面の窓いっぱいに広がり、とうとう視界に治めることができなくなった。端っこが見えない。
連絡船が姿勢を変えると箱船が足下へ移動。こうなるともはやエルフの里は船じゃない。
大地だ!
大地の一部が四角く、大きく口を開けている。その中へ入っていく。
ベンド達ガイア人を乗せた連絡船は、エルフの里に”着陸”した。
中はまるで城。
入り口が閉じられると四方が壁だけになる。太陽光がないのにずいぶんと明るい。
振動一つ無く、連絡船の”足”が、床に付く。
「長旅ご苦労様でした。到着です。ご案内に従って順序よく、お降りください」
全然長旅ではない。
後で思えば、陸地の端までの距離の何百倍もの距離を移動したはず。馬よりも、ガイア隼よりも速いのだ、この連絡船とやらは何が動かしているのだ?!
聞いてみた。
「ロ号対消滅ネコ式缶……ですかね?」
……そんなもんだ。
歩き出して、ベンド達は大いに戸惑った。
体が軽い。むしろ、力が増した?
「重力が小さい……そうですね。物や体を地に押さえつける力です。落ちる力でもあります。それが、ここでは弱いのです。大人の力のまま、体重が子どもになった。重さが10分の1になった。そのように理解してください」
注)蛮族に小数点の概念はありません。よって数字は丸め計算です。
ベンドは重力をなんとなく理解した。
連絡船を下りると、高官らしきゴテゴテした服を着た美女達と、儀礼兵っぽい美女達がずらっと並んで出迎えてくれていた。
「ようこそ、ベンド様」
「リンアメンナ!」
リンナメンナも出迎えに来てくれた。
彼女の顔を見るとホッとするのは何故だろう?




