表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族、宇宙を行く!  作者: モコ田モコ助
第一章 成り立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/20

*.月


 さて、それからは怒濤の行軍。


 エルフ氏族より、特効薬は元より、予防薬(ワクチン)まで無償提供してもらった。

 この薬は戦略兵器として使える。これがあれば、辺り一帯の氏族を戦わず従えることができる。10万人の戦力に匹敵する戦力となろう。


 なぜ重要な薬をタダで与えようとするのか?

 リンアメンナは、命の恩人に対するただの礼だという。礼には礼を。それがエルフ氏族の掟らしい。


 ベンド達の掟は、エルフ氏族とちょっとちがう。

 情けをかけてきた者は甘いヤツ。甘いヤツはチョロイやつ。それが常識だった。

 

 ベンドはこの薬を使い、まずは領内を再統合。人心を完全掌握。

 続いて、敵対する戦上手のゲオル氏族や、戦うにはめんどくさいフェリス氏族を皮切りに、周囲の国を支配下に置いていく。


 ゴラオン王国の領土が一気に大きくなった。まさに日の出の勢い。

 あまりのとんとん拍子に気分が悪いというか、こそばゆく感じ始めたベンドは、リンアメンナと面会の機会を設けて貰った。


「何か礼をしたい」

 教養とモラルに欠如する蛮族であるが、あまりにも大きすぎる実入である。さすがに何かお礼をしたいと思ったのだ。


 その件に関し、リンナメンナの回答は肩すかしなものであった。


「薬の件は、命を助けて頂いたお礼ですので、何ら見返りは必要ありません」


 会見の場にはヴォッシュもフアンも同席していた。三人の蛮族が、豆鉄砲を喰らった鳩(ガイアの鳩はクルミを嘴でかみ砕く)みたいな顔をするという珍しい現場に出くわした。


「むしろ、多くの人がわたし達の薬で救済されたのです。優しき王、ベンド様に治められた各国も、より良き生活が営めるでしょう。我等エルフ氏族は、その事が嬉しくてたまらないのです」


 柔らかな笑みを浮かべるリンナメンナである。


「優しき王だって……」

 フアンがベンドを見やる目は半眼であった。


「何を今更。俺は賢王なのだ。……三日前からね」

 

 いつもリンナメンナにくっついてくる冷たい美女、ゲルダゲルマまで、暖かみを感じさせる表情になっていた。


「未開の者なりに、ベンド殿の政治手腕は他領より頭一つ分飛び出していますな」


 ゲルダゲルマは皮肉屋で自己中だ。むしろその思考法はベンド達蛮族に近しいのだが。


 リンナメンナの綺麗な目がより一層輝きだした。ベンドの目にはそう映った。

「我等が訴求してきた平和な世界をここガイアで実現できるように思います」


「はぁ?」

 ベントは間抜けな声を出さざるを得なかった。


 平和な世界を訴求? お人好しにも程がある。

 きっとエルフ氏族は、悪い心を一切合切母の体内へ置き忘れて生まれてきたのだろう。

 この辺の考え方が蛮族と文化人の差であるのだが。


 蛮族三人は、エルフ氏族が混じりっけ無しの善人であると確信した。そして、このままガイアの地にいると、騙された後、滅ぼされる確実な未来を予感した。


「あー、……そのことが御心苦しいと言われるなら、一つだけ」

「なんなりと仰ってください」

 ベンド、精一杯の敬語である。


「衛星……いえ、月を貸して頂きたいのです」


 ベンドは、立ち上がって大きく窓を開けた。壊れた城壁は元通りになっている。金色の円盤もリンナメンナ達が引き上げていったから殺風景な中庭が広がっている。

 ベンドは開け放たれた窓から、空を見上げた。中天には昼間の月が上がっていた。


「あの月……ですか?」

 

 意味が解らない。リンナメンナの中に悪意は存在しないから、裏はないだろう。

 文字通り、月を租借したいと申し出ているのだ。

 あれは見張り塔から竿を伸ばしても届かない高みにある。……あの時、梯子を使えば届いたかもしれない。


 ……月なんか借りて何するの? ポケットにゃ入らないぞ?


「べつに断りを入れる必要はないでしょう? 消えて無くなりさえしなければ、黙って借りておけばいいんじゃないの?」

「そんな訳にはまいりません!」


 リンアメンナが言うには、月はこの地に住まいする者に所有権がある、との事。

 所有権を有する者の許可を得ない限り、勝手に借りる訳にはいかない、との事。


 律儀だな……。


 何とかか応えてやりたいが……。応えるとすれば……。


「俺は実力があって強くて、でもって大国ゴラオンの王ですが、この地上の一地方の王に過ぎません。仮にですよ、地上全部を領土にすれば、この地は俺の物と言えるでしょう。だったら、月だって俺の物と言えるでしょう。でも、俺は地上の覇者じゃない」


 これは前置きだ。


「ならば、ベンド様の慈愛の力で地上を統べればよろしかろう?」

 ゲルダゲルマの提案は予想の範疇だ。だが、そうはいかない。


「地上を制覇できたといたしましょう。ですが、戦はなくならない。この世に戦はつきもの。なぜだか知ってますか?」


 ゲルダゲルマに向かって問いを放つ。頭の良いエルフ氏族なら簡単に答えてくれるだろう。


「食糧難ですね」

 間髪を入れず答えてくれた。


「そうだ。だから俺たちは奪う。奪われたくないから敵を殺す。死にたくないから殺して奪う」


「ベンド殿は平和に治めようとしておられます」

「俺が治めても食糧は増えない。平和になれば子を産む。人が増える。余計に食い物が足りなくなる。だから戦は無くならない」


「お言葉を返すようですが、世が平和になれば畑も増えましょう。肉になる益獣も増えましょう」


「ガイアの天候は厳しい。戦を止めなければならないほど大きな嵐が頻繁に来ます。今年は日照り続きでした。去年は大雨で畑が水浸し。どんなに畑を増やそうと、森に豚を放とうと、毎年ひっくり返される。誰を殺せば日照りがなくなる? 水害を起こす敵はどこにいるというのか?」


 結論を叩きつけた。あまりな無理を言われると腹が立つのが人だ。

 ゲルマゲルダは押し黙った。いや、虐めるつもりは全くないんだが。


「それは、知らなかった。我等の無知を許されよ。エルフ氏族はこの地に来たばかりなのだ。この惑星(ガイア)のことをよく知らないでいる」


 この地に来たばかり? 彼女らの本拠地は空のもっと上の方じゃないのか?

 ベンドは会話に齟齬を感じていた。


「ならばこうしましょう!」

 リンナメンナがポンと手を打った。


「この星の……地上の環境は、わたし達が何とかしましょう」

「なんとかって……いや、疑う訳ではありませんけどね?」

 ベンド、精一杯の忖度であった。気候をどうにかする? どうやって?


「わたし達エルフ氏族はエルフフォーミング……いえ、気候を変える技術を持っています。詳しくは帰ってから検討しなければなりませんが、10年とかからないはずです」


 気候を変えられるだって? 


「魔法……ですか?」

「いいえ、人がもつ技術です。魔法はおとぎ話の中だけです」


 気候を変える技術とやらも、充分おとぎ話の世界である。


「だから、ベンド様はこの惑星、地上を平和に治めてください」


 簡単に言ってくれる。

 ベンドは溜息をつきそうになった。


 世界の制覇は魅力的だ。男だったら誰しも一度は夢見る。

 だが、世界制覇は夢のおとぎ話だ。


「厳しいお話をします」

 ベンドは一言前置きを述べておく。


「地上は広い。世界のすべてだからな。統一するまで何十年とかかる。俺が死ぬまでに終わるだろうか? 仮に、統一できたとしよう。気候が良くなって食べ物が増えるまで、絶え間なく各地で反乱が起こるだろう。世界の端から端へ軍を移動させるだけで何年かかるだろうか? 統一は難しい。維持はもっと難しい……難しいのです」


 リンナメンナが身を乗り出した。

「戦を早く終わらせるには、何が必要なのでしょう?」


「皇太子殿下! それは戦争協力です!」

 ゲルダゲルマがリンナメンナの言を諫めようとした。


「ゲルダゲルマ。あなたは大勢の人が、ただ死んでいく様を見続けていくおつもりですか? それこそ、エルフの憲章に反する行いではありませんか?」

「それは……」

 ゲルダゲルマを黙らせたリンナメンナは、ベンドに向き直る。


「わたし達エルフは戦い方を知りません。戦える者もおりません。だから教えてください。戦を早く終わらせる為には! 最も人死にを少なくする為には何が必要なのでしょうか?」


 リンナメンナ。その覚悟、ただの貴婦人ではないな!


 ベンドは考えを改めた。リンナメンナが求める最適の解をじっくりと考える。

 エルフはベンド達が持ち得ない不思議な道具を持っている。不思議な知恵を持っている。

 ならば、荒唐無稽な道具を求めても、何とかしてくれるだろう。14歳の時、考えた「ぼくのさいきょうへいき」の封印を解く時は今なのかも知れない!


 そこまでベンドの考えが及んだとき、彼は腹を括った。


「1つめは、移動手段。地上の端まで3日以内で大量の兵を運びたい。あの金色の円盤に兵と物資を積めないか?」


上陸船(ソルデビジア)……、いえ、あの機種の大型があります。それを多数用意できれば可能です」

 答えが返ってきた。


「もう1つ。一番厄介なのは城攻め。例えば、円盤の小さいので敵城の中まで兵を運んでくれれば、後は何とかなる」

「円盤機は貴重な存在なので、戦場の直中(ただなか)への投入はできません。困りました」


「ならば城門を一発で破壊できる兵器が欲しい。いつも使ってる戦法の延長です。こっちの方が手慣れています」

「残念ながら、地上用の兵器は持ち合わせておりません」


 リンナメンナは柳眉を寄せて考え込みだした。戦争を知らないエルフ氏族に攻城兵器を求めるのが間違いだったか?

 ベンドも困ってしまった。


「それなら!」

 ゲルダゲルマが、”私にアイデアがあります”と申し出てきた。


「殿下、削岩機、あるいは掘削機を利用できませんか? 重機ですが、ガイア人なら数人もいれば持って走れるでしょう? 小惑星用なら使い捨てできますし」

「それは良いアイデアです! ゲルダゲルマ、褒めてあげましょう」

「ははっ、有り難き幸せ」


 ベンドには理解しかねる難しい単語が並んだ。でも何とかなりそうだ。


 ゲルダゲルマが言うには、これら案件は戦争協力法(よくわからんナニか)とやらに抵触する可能性がある、とのことで、評議会だとか陛下だとかを説得しなければならないらしい。


 ゲルダゲルマが、説得のほうは任せておいてくれ、と、自信満々で請け負ってくれた。

 一国の皇太子と宰相が手を取り合うのだ。発言力は強大なものとなるであろう。


 

 早速とばかりに円盤機に乗って帰って行った。




 翌日、エルフ氏族より使いの者(これまた官僚的な美女)が現れた。


 明日の朝、先日の件で話がある。迎えに来るのでエルフ氏族の里を訪問して欲しいと申し出てきた。


 エルフの首脳部はもとより、大勢のエルフが面会するとのことで、ベンド側も不公平にならない様、10人揃えて欲しいとの事。ただし武器は持ち込まないこと。


 言うだけ言って使者は帰った。



 明日か……

 取り敢えず、一月ぶりに風呂に入ろうか……。


 ベンドは惚けた顔でそんなことを考えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ