*.始祖
時は昔。
お話は、ヴェンツの祖祖父、当時のゴラオン家当主・ベンドが20才の頃よりスタートする。
惑星ガイアの環境は厳しい。
南北両回帰線の外側は永久凍土。内側は高温多湿。重力は地球の1.5倍。
住める土地は狭く、生物は凶暴。
地球型惑星ではあるが、生きている生物には厳しすぎる環境である。
毎年、多くの土地が不作。豊作でも隣人に分けるほどの余剰はない。
食い物が無ければ死ぬ。分けてはもらえない。
ならばどうすれば良い?
お隣さんが僅かに溜め込んだ食糧を奪い取るしかない。隣人の財を奪える力がなければ生きていけない。
生き抜ければ、人が増える。増えれば食料が不足する。この繰り返し。
この世界の生物は、群れ同士の強奪戦から万単位の大戦まで、幾多の殺し合いを有史以前から続けてきた。
現在、ガイアに存在している生物、たとえば、馬や豚、はては青菜や芋までが、過酷な生存競争の勝者達である。
中でも金属武器を作る知識と、身分制による組織力という知恵を獲得した生物。すなわち人間は勝者共の上に君臨する勝者。つまり惑星ガイアの覇者である。
そして、覇者同士も戦う。ただ一つの目的、勝者になる為に。
その過酷な戦いの中、今も生きているベンドは強者と言えよう。
ベンドは、大山脈の麓で一番大きな土地と勢力を持つ一族、ゴラオン家の当主である。
その強者にして、地域の覇者ゴラオン家が滅亡の危機に瀕している。
ベンドの本拠地、ゴラオン城が攻められていた。
10人規模で抱えられた破城槌がゴラオン城の城門へ突撃を敢行。
城壁上から放たれた矢が、雨の様に降り注ぐ。
歩兵が倒れ、軍馬が嘶く。血飛沫が上がり、絶命した人が丸太の様に転がっている。
攻め手は、草原の覇者ゲオル氏族。
彼らが操る軍馬の体重はサラブレッドの2倍。足首の太さは、女性のウエストほどもある。
魔獣と見まごうばかりの巨大馬に朱色の鎧を装備させ、さらに朱色の全身鎧を纏った戦士が跨がる。そのまま上り坂を時速50キロで駆け抜ける足を持つ。
その突破力は、野戦で無敵を誇る。
それは赤い重戦士、またはゲオルの赤備えと呼ばれている。
ゴラオン家は草原を越えない、とこれ以上領土を増やせない。その野望の前に立ちふさがっているのがゲオル氏族だった。
「ヒヤッハーッ! 掛かれ掛かれ掛かれぇーっ!」
攻めるゲオルも、とある理由で後がない。文字通り必死だった。
「引くな! 引くな! 引くなーっ!」
ゲオルの猛攻を防げているのは、ひとえにゲオル氏族の騎馬が攻城戦に役立たなかったこと!
長期戦の様相を呈した攻城戦は、粘りに勝るベンド達の勝利に傾きつつあった。
「今だ! 押し出せーっ!」
ゴラオン城の門が開き、馬に乗った戦士が我先にと飛び出してきた。先頭はベンドだ!
「このっ! このっ! このっ!」
あたるを幸い、長槍を振り回すベンド。近寄る敵歩兵は馬の蹄に掛けて頭を兜ごとかち割る。馬を下りたゲオルの戦士など如何ほどものか!
彼は敵陣の渦中にいた。
秘密の抜け道を通って城よりでた別働隊とタイミングを合わせ、起死回生の反撃をする為、ベンド達ゴラオン軍が城から打って出たのだ。ちょっとした迂回挟撃である。
この程度の小技は、割とよく使う。戦い慣れた蛮族どもの使う戦術・戦略のバリエーシュンは、数百以上にも上る。
「ベンド様ー!」
敵を大根の様にさくさくと斬り捨てながら、ゴラオン軍一番の豪腕、ヴォッシュが走ってくる。
ヴォッシは2メットルを超えの長身。遠くからでも大変よく目立つ。
(ちなみに、1メットルは、ほぼ1メートル。ガイアのキロロメットル大王が決めた単位である。略記号はmとKm)
「何だ! ヴォッシュは別働隊を任せたはずだが? サボりか?」
「バカヤロウ! 敵陣の中央まで入り込んでいるくせに何寝言言ってやがる!」
大将が敵陣のド真ん中まで進出してはいけません。囲まれて討ち取られでもしたら、国が滅びます。
「別働隊の俺がここに来たんだ。作戦が成功したってことだ。敵は壊走しつつありますぜ!」
「そうか!? でかした!」
あの重騎兵軍団相手によく勝てたな……。
「兵を纏めて追撃しますかい?」
「そいつは悪手だ。ゲオルは放っておいても滅ぶ」
そう、滅ぶ。
「全軍をまとめ、城に引き上げろ」
「へぇ、へい」
ヴォッシュの気力が目に見えて消えていく。
「おい、まさか?」
「へい、そうでさ。どうやら流行病にかかっちまった様で。戦が終わったようなんで、張り詰めていた気が緩んだらこの始末でさ……」
歩くのも辛そうだ。
今年に入ってからである。
ゴラオンやゲオル、その他、大山脈地域に居を構える各勢力に、伝染性の死病が流った。新型の病なので、効果的な薬がない。
ベンドは、ヴォッシュに肩を貸した。
「ベンド様、いけません。病がうつります」
「いいさ。早いか遅いかだ。俺もじき後を追うさ」
「面目ねぇ。俺ぁこの戦いで死にたかった。最高にハイの状態で死にたかった。ベッドの上で死ぬなんて。あんまりだぁ」
勝利を掴んだベンド軍。城へ向かって列を成すが、その足取りは敗者の様に重い。
ベンドは、物心つく前から人を殺してきた。
出撃した戦は数知れず。滅ぼした氏族の数は憶えていない。従えた氏族は、大体なら憶えている。
人との戦いで勝つのは容易い。病相手に勝つのは、とても難しい。
――俺も死ぬのか?――
「そのまえにもっと殺してやる。もっと犯してやる。もっと奪ってやる! みんなみんなブッ殺してやる!」
ベンドは、ギラギラと目だけを光らせていた。
「兄上! ご無事でしたか!」
迎えに出てきたのは、腹違いの弟フアン。
生まれつき体が弱く、細身なので(とは言っても地球人から見れば細マッチョ)、後方を任せていた。2桁計算ができるガイア屈指の天才でもあった。
裏切りが多いご時世、このフアンとヴォッシュは不思議と律儀である。
「ベンド様に付いていけば面白いことをさせてくれるからでさぁ」
「僕も同じですね」
フアンとヴォッシュに裏切られればそれまでだな。そんな風にベンドは考えている。
「あれ?」
フアンが斜め上の空を見上げた。
「どうし――」
どうしたと言おうとして、ベンドも気づいた。生まれてこの方、聞いたことのない音が空から聞こえてくる。
音のする方向を見上げると――
「なんだありゃ?」
円盤状のナニカが空を飛んでいる。
――煙を吹き出しながら。




