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蛮族、宇宙を行く!  作者: モコ田モコ助
第一章 成り立ち

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18/20

*.サイドストーリー 勇者ヴォッシュの恋


 勇者と呼ばれた男がいる。名はヴォッシュ。

 ゴラオン軍の中核を成す戦士として名高い男。

 先のドワーフ空母戦で、鬼神が如き活躍を見せた男。

 その体は、ゴリラの胴とそれに見合う強靱な手足。


 風貌は……、

 世紀末救世主伝説で例えると、縮れロン毛になった海の向こうの最強拳士。

 *注)悪墜ち後


 鬼が四足歩行で走って逃げる。それが勇者ヴォッシュ!


 ……で、その凶悪な勇者殿から相談を受けているベンドの図である。

 内容は恋愛相談。

 どこの地獄絵図だ?


 ベンド、人生最大級の困窮。初陣で裏切りが多発した件に次ぐ困窮具合だったりする。


「で? 相手は?」

「エルフの宰相、ゲルダゲルマ様」


 ゲルダゲルマ。冷たい系美女でエルフ1の人気を誇る(ガイア人の拳による投票)。

 よりによってエルフ政治機構の首長である。


 沈黙するベンド。

 そういや俺、初陣の時、足を骨折したよなー……。懐かしい思い出が右脳から左脳へ通り過ぎていく。


「いやいや……」

 力ずくで現実に戻した。


 これがそこら辺の氏族の姫君だとか、大領主の奥方だったりしたら、話は簡単だ。

 奪ってから追っ手を殺す。

 解決!


 エルフの方々相手にこうはいかない。


 そんな事やってしまおうものなら、全ガイア人から私的に死刑を宣告され、地の果てまで追い詰められる。……ベント自身が先頭になってヴォッシュを斬りに行くだろう。


 それ以前に、高貴なるエルフが蛮族である自分たちを恋愛対象と見ていただけるであろうか?

 答えはあきらかに否である。


 前に、何かの弾みで聞いた記憶があるのだが……、


 エルフの方々とガイア人は種の根源とやらが違う為、子を成すことはできぬらしい。

 要は、エルフの方々と蛮族ガイア人は結ばれぬ、ということだ。

 複雑な気持ちであるが、なんだか安心したのを憶えている。

 俺たちの汚い血が、高貴なエルフの血に混じる事がないのだからな!


 ……うむ、可哀想だが、諦めてもらう方向で話を落とそう。

 そう決めて口を開こうとしたベンドの機先が制された。


「あの虫を見る様な冷たい目で見つめられると、こう、背中がゾクゾクって!」


 思い出したのだろう、プルルと震えるヴォッシュ。

 愛しているのだな。


 ――理解し辛いが。


「叶わぬ恋と知っています。ですが、せめてこの思いだけは伝えたい! 俺はバカだけど、叶わぬ恋だって事くらい理解してます! でも、でも!」


 純愛。

 いいなそれ!

 ベンドは感動した。

 蛮族らしからぬ、否! 蛮族であるが故に儚い恋が輝いて見えた。


「一肌脱いでやろう」




 数日後、ベンドはエルフの里、謁見の間にいた。

 人払いをして頂き、女王リンナメンナと宰相ゲルダゲルマだけの密談である。


「ゲルダゲルマ様、我らがガイアの勇者・ヴォッシュなる男を憶えておられますか?」


 ゲルダゲルマのアイスブルーの目が細められる。貶す色ではない。親しさを憶える優しい目だ。

 

「あの逞しい戦士ですか? ドワーフ戦ではずいぶんとご活躍なされたと記憶しております」


 むっ! 手応え有りか!?

 ベンドは密かに感動していた。


 さすが高貴なエルフのお方。広きお心は全宇宙に及ぶ! これを博愛と呼ぶのだな!


 ならば、ヴォッシュの意を伝えることができよう。困った顔をされるだろうが、お叱りを受けたり卑下されることはあるまいて!


 ベンドは意を決して、ヴォッシュの思いを告げることにした。


「実はゲルダゲルマ様に折り入ってお話が。いえ、お耳に入れるだけで、後はお忘れください」

「なんですか? ずいぶんと持って回った言い様ではありませんか?」


 形の良い眉を僅かに寄せる。その仕草、ミルケル氏族の美人画とは比べものにならない美の芸術である。

 青寄りの金髪。前髪を揃え、後ろ毛は襟にかかる程度の短さ。いわゆる前髪有りのショートヘアー。

 濃い青の目と相まって、ゲルダゲルマの冷たい系美貌を引き立てている。

 いつも背筋を伸ばし、凛としたその姿。知的美女である!


 その知的冷たい系美女が、暖かい系の笑顔でベンドと対面している。

 リンナメンナ一筋だったベンドですらクラッと来る。もう少しでヴォッシュの気持ちが理解できそうだ。


「私とベンド陛下の仲ではありませぬか。お困りごとでしたら相談に乗りますよ」


 冷たい印象とは真逆。ゲルダゲルマ様はお優しい。さすが、エルフの方々を率いる宰相に選ばれるだけある。

 女性の身でありながら(ガイア人は未開人につき、いまだ男尊女卑)、高貴なエルフの方々を率いておられるだけはある!


「ならば、わが部下の恥を忍んで――ヴォッシュの想いを伝えさせていただきます」

 さらっと恥をヴォッシュのせいにした。


「我が部下ヴォッシュは、ゲルダゲルマ様を愛しております。恋です。恋愛です」

「……は?」


 ゲルダゲルマ様だってこういう顔をするときがあるんだ……。


「分不相応と存じております。宰相閣下におかれましては、存分に不快を表明していただいて、えーっと、ヴォッシュの思いをお耳汚しで、えー、後は忘れていただいてですね、何言ってんだろ俺?」


 ゲルダゲルマが目を白黒させている。

 やっぱ蛮族からの愛の告白にお怒りであろうか?

 むっちゃ恥ずかしい!

 だが、ここまで言ったからには後に引けない。ええーい! ままよ!


「フラレ覚悟でお聞きします。ヴォッシュをどう御思いで?」


「どうって――」

 ゲルダゲルマは助けを求めるようにリンナメンナ女王を見た。

 ベンドにテレパス能力はないが、「どうしましょうか?」と狼狽えている声が聞こえてきた。 


「えーっと、ベンド陛下――」

 さすが貴きエルフの政治的中枢ゲルダゲルマ様。狼狽えたのも一瞬。すぐ冷静さを取り戻された。


「返事から先に申し上げますと、ヴォッシュ殿の想いに応えることはできません」

「はい! 想定内の御返事です!」


 間髪を入れず答えるベンド。なんで俺がこんな恥ずかしい真似をしなければならないのか?

 ヴォッシュを連れてきて直接告らせれば良かったのではと、今になって気づく。

 あと、ヴォッシュを殴る!


「私には連れ合いがおります」

「そうでしょうそうでしょう。これほど美しくて賢いお方なれば当然至極!」


 脇汗がハンパない。


「間に子供もおります」

「そうでしょうそうでしょう! あいつサクッと殺しておきます!」


 ヴォッシュ、撃沈! 物理的な冥福を心より祈る――ってか、先に夫の有無を聞いてからにすればよかった。


「それ以前に――」

 ゲルダゲルマが恥じらう顔を初めて見た。貴重なことである。


「私は同性愛はちょっと」

「そうでしょうそうで――え?」


 いまなんか聞き逃した?


「男同士の恋愛は、生理的に受け付けられなくて。いえ、そういう恋愛もあると理解いたしますけど……」


「男? 男って? ゲルダゲルマ様?」

「はい、私は男ですが……あれ? ひょっとして?」


 あ、ずるい!

 エルフの方って美しすぎるのずるい!


「まッこと申し訳ありませんっーッ!」


 ベンド。生まれて初めての土下座がジャンピング土下座であった!


『ヴォッシュ、コロス!』






「さて、これを良き機会と捉え、文化文明の齟齬によるお互いの誤解を解いておきましょう」

 リンナメンナがぐちゃぐちゃになった場を仕切ってくれた。冷静な物言いが助かる。


「我らエルフの常識がガイア人の常識と異なっていた。無意識の常識が今回の不幸を招いたのでしょう。我らにとって、エルフの女性と男性は簡単に区別できるものなのですが、それがあまりにも日常であるが故、ガイアの方々も区別しているものだと思いこんでおりました」


 改めてであるが、よく見なくともゲルダゲルマ様の胸って出っ張ってないよねー。

 でも、若干ふくらんでるよねー?


「そこです。エルフは、男女の別なく、乳房が存在するのです」

「え?」


「ただし、男性の乳房は小さく、女性の乳房は大きい。子育てのためです。男女とも、子供に授乳させる事ができます。我らエルフは、ガイア人の男性に授乳機能がない事実に驚いています。これも種の根源が異なる生物故の理でしょう」


 むしろ、エルフがおかしいんじゃないかな? などと、少しは浮かんだが、全体力と精神力を使って頭から追い出した。


「わたし達は顔で男女を区別できますが、ガイアの方々には区別が付かないのでしょう」

 ぱっと見、魚も……いやいやいや! 止めろ俺! 殺すぞ俺自身!


「肉体的には、その辺りの差が最も顕著なのですが……あまり胸をジロジロ見られるのも恥ずかしいですね」

「見ませんとも! そうだ! 目の中央で捕らえることをガイアの第九番目憲法として未来永劫禁止することにいたします!」


「そこまでせずとも……。胸を見ずに男女を見分ける簡単な方法をお教えいたしましょう」

 ゲルダゲルマ様が調子を取り戻したようだ。


「名前に濁点や半濁点、つまり、私の名にある”ゲ”や”ダ”、そして、”パ”や”ピ””が付いていればまず間違いなく男性です」


 そういやいたな! 環境何とかの責任者でプリムプリシラって美人……美男が。

 これで見分けも付く様になったし誤解も解けた。

 解決!




 


 ……なんか忘れてないか?


 あ! 元々ヴォッシュの頼みでこの会談を開いてもらったんだっけ!?


「えーっと。話を元に戻しますが――」


 エルフの女王と宰相、そしてガイア皇帝による最高位三者密談の結果――、


 ヴォッシュの件は無かったことになった。

  

 

   

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― 新着の感想 ―
[一言] 蛮族なのに・・・ なぜ、こんなに親近感がわくんだろう。
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