*.サイドストーリー ドワーフのサガ
時間を少しだけ遡る。
先のドワーフ空母戦での一件である。
ゲオル氏族が広大なブリッジ一階で暴れ回っていたとき、ベンド達は二階のメインオーダールームで、ドワーフたちの幹部を追い詰めていた。
ドワーフの死体が何体も転がる中、一人のドワーフがガイアの蛮族共に囲まれていた。
剣や槍、斧などで小突かれ回されている。
「お、お前達は何者だ!?」
「俺たち? 俺たちはガイアの先住民族だ。ああ、これだけじゃ説明になってないな――」
剣の腹でドワーフの頬をピタピタと叩く。
(なお、ドワーフはエルフと同じ言語を使う。ベンドは小型翻訳機を使っている)
「ドワーフはダークエルフの下僕だろ? なら、俺たちは貴きエルフの下僕だな。自主的に立候補した下僕だ。立場的には一緒だ。だからフランクに話そう!」
どこが気に入らなかったのか、ドワーフは目をひん剥く様にしてベンドを睨んだ。
「なんだその目は? もうすぐ死ぬ男はそんな上品な目をしちゃいけない」
最後のドワーフは、恨みを宿した暗い目で、ベンドを睨みあげていた。
「おいドワーフ! エルフの方々に詫びを入れろ。そうしたら助けてやっても良い」
注)助ける気はこれっぽっちもありません。
「我等は正義のドワーフ! 穢れた犯罪者一族に頭を下げる理由など一切無い!」
勇ましくも訳の分からない言い訳をしてくるが、怯えた目をしてるので心の中は丸わかりだ。
ドワーフは、樽の様な体に手足を四つずつ生やした異形の生物。
ベンドはエルフの方々より、「進化」なるものの概念を教えて貰っている。ガイアの血に飢えた蛮族も、恐れ多くもエルフの方々も、猿っぽい原始的な動物から進化していったと聞き及ぶ。――エルフはさぞや綺麗な毛並みの猿だったであろうが。
その知識から鑑みても、ドワーフの元ネタ(進化元)が解らない。どんな姿をした動物だ?
ああ、そうそう、ダークエルフが作ったっておっしゃっていたっけ? 元ネタはないんだ。
危ないところだった。下らぬ事に時間を費やすところだった。
「詫びる気が無いなら、殺すよ? それで良いのかな?」
生かしておく気は毛頭無いので、手にした剣を丁度いい角度に振り上げておく。
「我等ドワーフがナゼ犯罪者エルフ賊に謝らねばならぬ!? 謝罪するのは矮小エルフ賊共ではないか!」
なんだろう? この変な感じ?
ベンドは剣を振り下ろすことを躊躇った。
普段は凛々しい勇者ヴォッシュも、口を半開きにしている。
「エルフ賊共は全宇宙に対し、我等ドワーフの正しき民に対し、屈辱行為を強いていたのだ! だがいつまでも思い通りにはならぬ! 我等は戦う力を持った人種なのだ!」
噛み合わない? 違和感? 気持ち悪い?
スッキリしたいだけの理由でカマを掛けてみた。
「なあ、お前、ダークエルフって知ってるよな?」
お前バカか? って目をしたドワーフが笑った。
無性に殺意をかき立てられる笑い方だ。敵を挑発するのにうってつけだが、真似はしたくない。
「我等ドワーフの中より枝分かれして自然進化した人種だ! そしてダークエルフの中よりさらに枝分かれしたのがエルフ賊だ! 我等ドワーフの民が! 人種すべてが絶えようとも恨みは消えない!」
恨みどうこうと進化の過程は横へ置いておこう。
違和感の正体が分かった。
こいつが3回も口にした”人種”だ。
――こいつら、人じゃねぇし――
「おまえらさぁ……鏡みて解らない? ドワーフってどんな動物から進化したの?」
「なにを!」
そこからドワーフの喋った内容の支離滅裂さはどうだろう?
伝説の八足聖獣から進化したって事だけは解ったが、俺たちガイア人まで作ったとかいった案件は理解が追いつかなかった。
それ以前に、ドワーフからエルフが自然に生まれたって……、どうやったら生まれるのだろう?
俺の頭が悪いから混乱しているのだろうか?
助けをヴォッシュに求めてみた。
「嘘ですな! 高貴なエルフと腐れドワーフ。両者の血が繋がってる。なんてこと信じますか?」
「なんという説得力だ! 見直したぞヴォッシュ!」
「恐れ入ります」
片膝を着いて臣下の礼をするヴォッシュ。これほどの皮肉を言える男だとは思わなかった。
「さ、さあ、きさまら謝れ! 我等ドワーフに謝罪しろ!」
「ベンド様、なんかコイツ喋ってますぜ!」
ああ、こいつらにも口はあるさ。臭い息をするだけの口がな。
「謝罪しろ! 我等ドワーフの民に! 絶対に許さない! 永遠に謝罪し続けろ! 我等ドワーフは永遠に許さない! お前達も解るだろう? 恨みというものを!」
ガイアにも、けして許してはいけない氏族が幾つかあった。
絶対に従わない頭の固い奴らだ。そんな氏族は一部でも討ち漏らすと、あとで大きな災いとなり返ってくる。
ベンドも、ヴォッシュも、そういった面倒くさい氏族への効果的な対処法を知っている。
ベンドは理解した! 先ほどからの疑問が氷解した。
スッキリした!
「解るぞ! 解る! ヴォッシュ、解るな?」
「ははっ!」
「やっと解ったか矮小なる者め! ならば謝――」
そこでドワーフは言葉を切った。
何のことはない。
ヴォッシュに首を落とされたので、喋れなくなっただけだ。
ドチャッ!
首と胴が別々に落下し、湿った音を立てて床で跳ねる。
なんだ?
ゲオル氏族の族長が、振り仰いだ。
ドワーフの死体だ!
「グハハハッ! 大将首はゴラオン家の勇者、ヴォッシュ様が頂いた!」
二階から顔を覗かせたヴォッシュ。実に嫌らしい笑顔だ。
隣には返り血を浴びたベンドが、乾ききった表情で剣を拭っている。
「遅かったな、ゲオル! 大将首は頂いたぜ!」
そして、あの場面に続く……
舞台は転じてゴラオン城内の一室。
時は過ぎて、祝勝会の後。
切り刻まれたドワーフの死体が幾つか転がっていた。
ドワーフと戦うに当たり、ドワーフを知らねばならない。
ドワーフを知るにあたって、エルフの方々の資料だけでは足りない。ああ見えてエルフの方々は、お人好しに天然がプラスされているのだ。今一歩、物的な踏み込みが足りない。
だから、だまって戦場から持ってきた。
こういった血生臭い光景とかお話は、エルフの方々の目や耳に入れない方が良い。
蛮族とはいえ、ベンドの人として最低限のマナーであった。
「どうだ?」
「むう」
鈍色に輝くナイフを手にしているのは初出の男。
エルフに外科医療の初級を学び、自己流でモノにした天才外科医。
名前はリッパー。切り裂き魔だった犯罪者をベンドが更生させたのだ。
……何のことはない。自分の磨いたナイフで綺麗に切りたい。次に、いかにして傷口を綺麗に縫合するか。この2点に快感……もとい、生き甲斐を感じる男だった。
だったら、外科医になれよ。ってことで、エルフの技術を学んだ後、(他人の)血の滲む努力をして名医の称号を得た努力と正義の人だ。
「これをご覧ください」
ズラリと並んだ冷たいテーブル。綺麗に洗浄された肉塊が置かれてあった。
「うん、気持ち悪いね」
「どうして?」
「……」
この辺を議論してしまえば、時間がいくらあっても足りなさそうなので早々に切り上げることにした。
「リッパーの見解を聞こう」
「はっ! こいつら男じゃないんです」
「……これ、女?」
どう見ても男だった。
それも――
頭や顔の形。目の形、鼻の形、口の形、それら顔を構成する部材の造詣が醜かった。
さらに、それらの配置が下手くそだった。
とても女とは思えない。
でもって全部同じ顔。個々の区別が付かない。
「違います。男も女も居ない。男性器も女性器も無い。言うなれば『無性』でしょうかな?」
ベンドの理解という能力を超えた。
「よって、どうやって子どもを作るのか? 或いは仲間を増やすのか? という問題が発生します」
……えーっと、
どうやったらこいつらからダークエルフやエルフの方々が生まれるんだ?
「そこで考えられるのが、貴きエルフの方々が仰っていた――」
リッパーは、「エルフ」という名称を口に出すと同時に、手を胸に当て、頭を下げて礼をとった。「エルフ」の単語を耳にしたベンドも、無条件で頭を垂れ、礼をとる。
もはや宗教!
「『ダークエルフ』が造りし『人造生命体』。このお言葉です」
記憶している、ベンドは強烈に記憶している。
私の推測ですが――という言葉をリッパーは枕において、話を始める。
「貴きエルフの偉大なる科学力であらば、どこぞの獣を元にして、いえ、泥水に湧くボウフラの糞を元にしてでも、どのような姿形の生物をも創りだせると私は確信しております。ならば、一歩劣るとは言えダークエルフの科学力もほぼ同程度。結論を言います!」
ずいぶんと間を持たせてくれる。
「ドワーフの肉塊を元にして、ドワーフを創る。充分可能でしょう」
今度は理解できた。
「つまりこういうことか? むっちゃスゴイ機械を使って、芋や大根を作る様にドワーフを造り増やしていく?」
「ご慧眼、お見事でございまする!」
「よせやい!」
ベンドはゴマすりに弱かった。
「あれ? ちょっと待てよ?」
「はい、待ちましょう」
リッパーはドワーフを切り刻もうとした大型ナイフ(メスじゃない)を止めた。
「するってーと? どこかにドワーフの農場が有るってことだよな?」
「……同意致します」
リッパーもちょっと考えてから、ベンドの推測に賛同した。
これは――何となくだけど、大きな問題の核心に迫る問題に思える。
フワッとだけど。
「あと、なんで連中、ドワーフからダークエルフや貴きエルフ、そんでもってガイア人まで生まれた――なんて嘘付くんだろう?」
「推測致しますに――」
推測できるのか? リッパーって頭良いのな!
どっか切れてる人間は、どっかが代わりに繋がってるんだろう。
「貴きエルフのお方々を抹殺する為だけに生み出された人工の生物。私に言わせれば怪物ですな。その怪物が主体性、自己同一性、自分は何者なのかということを求めた結果でしょう。自分の存在意義を肯定しなければならない。その為に歴史を捏造したのでしょう」
産み落とされてから千年の歳月が流れた。哲学の一つや二つ、作り上げても不思議はない。
……要約すればそういう事だが、蛮族は総じて頭が悪い。ベンドにはフワッとしか解らない。
「難しい言葉が並ぶんでいまいち理解しにくいが、要は連中に歴史だとか文化が無いって事だな。可哀想な氏族だという事が解った」
「可哀想で済ます事など、私にはできませんが?」
リッパーは性格異常者で犯罪者だ。そんな彼でもドワーフの異常性は看過できないのだ。
ダークエルフも御酷い。自分たちの美しさを写せば良いのにわざと醜くした。それこそ顔を背けたくなるほどにわざと醜い人工生物を作ったのだから。
……その理由も、頭の悪い俺たちに解るワケ無いか……。
難しい話は考えるだけ無駄である。ベンドは思考を切り替えた。
「農場を潰さない限り、ドワーフは永遠にやってくる」
「御意」
「連中は停戦を求めない」
「御意」
「いつまでもいつまでも恨みとやらを忘れない」
「御意!」
人を恨むは穴二つ。必ず己が元へ返ってくる呪詛の言葉。それを体験で知るガイア人は、敵を恨むことも沢山あるが長続きしない。本人を殺せばそれで終わる。
死にたくない遺族は勝者に従う。たとえ親を殺した男であってもだ!
だが、ドワーフに限らずしつこい氏族を沢山見てきた。災いでしかない連中だった。
そんな災いを断つ方法。それをベンド達ガイアの蛮族は経験として知っている。
それは根切り。
解決策は単純にしてただ一つ。ドワーフを悉く、最後の一匹まで殺し尽くし根絶やしにする事。
「エルフの方々は滅びに美意識を持つという危ない傾向にある。よって、この事、他言無用!」
「御意」
ベンドは、決意した。
ドワーフ氏族の絶滅を。
それを成就するには、自分の寿命だけじゃ足りない。幾代かの子孫にまで引き継がせなければならない、と。




