*.蛮族
「むちゃですよぅ!」
スキャニキャミーが悲鳴を上げた。
「文句は帰ってから聞こう。ヴォッシュとゲオルに精確な位置を伝えろ! 続けぇー!」
全滅した50隻の戦艦と金の指揮艦は全部無人。オートパイロットだ。
ドワーフの母艦をあぶり出し、正確な位置を特定する為、全艦隊を囮にしたのだ。
敵が如何に強くとも、大軍であろうとも、頭を潰せば瓦解する。キモは、如何にして敵の本陣を知り得るか。
小軍を犠牲にして大軍を生かす。
ベント達ガイアの蛮族が、少数で大軍を相手に戦うときの常套手段だ。
ドワーフの母艦の位置、つまり頭の位置が判明すれば、そこを全軍で一気に攻める。
幸いにも、ジャンプ航法という、超便利な移動法をエルフの方が持っていた。
ただ、武装や推進装置だとか、外に出ている大部分がオシャカになるという、ちょっとした欠点があるそうだが――。まあ、沈むワケじゃないし。ってことで採用した。
エルフの里に格納してあった200メットル級指揮護衛艦を引っ張り出し、目立たぬよう黒く塗装し、遙か彼方の後方で息をひそめて待っていた。
ご丁寧にも、かろうじて稼働していたインビジビリティ装置を持ち出してまで、ひっそりと隠れていた。
「第2陣、ジャンプ・サーフェスですよぅ!」
派手に爆発炎とショート電光を纏わせながら、フアン乗艦の指揮護衛艦が亜空間より出現!
ベンドと反対側。ドワーフ母船の右横っ腹へ、ハデに突き刺さる!
「やるな! フアン!」
両側に戦闘艦が突き刺さってしまった!
「勇みすぎですよぅ! 缶切りですよぅ!」
キャミーキャミアの表現は的を得ていた。右から突っ込んだ指揮護衛艦は、突き刺さっただけでは止まらず、スラスターを噴かしながら、ジャックナイフよろしく缶切りの要領で、横方向へ穴を広げた!
「第3陣、第4陣、続いてジャンプ・サーフェスですよぅ!」
表面を爆発光で飾りながら出現したのは2隻の400メットル級、兵員輸送艦だ。
それぞれ左右から、ベンド艦とフアン艦が開けた穴に、頭から突っ込んだ!
ドワーフたちは混乱していた。こんなこと初めてだ。
空母の心臓部の一つである機関室が、衝突の衝撃により被害を受けていたのだ。
大勢のドワーフたちが、ダメージコントロールの為、忙しく動き回っている。
「何が起こった!」
「隔壁緊急閉鎖! 気密を保て!」
重金属音をたて、耐圧隔壁が降りていく。各ブロックが独立し、気密が保たれた。
ダメージコントロール要員のドワーフが、ホッと一息をつく。
「これで安心――」
ズドン!
遠くで腹に響く重低音がした。
「なんだ?」
ズドン!
また同じ音が聞こえる。
音は、先ほどより近くで起きた。
「か、隔壁が破られています」
「なんだと!?」
ズドン! ズドン!
何度も聞こえてくる。都度近づいて来る。
ズドン!
「ギャーッ!」
目の前の隔壁が、ドワーフを巻き込んで吹き飛んだ。
壊れた隔壁の向こうから煙が勢いよく流れ込んでくるのも束の間。どこかで気密が破られたのだろう、空気の流れで煙が晴れる。
煙の向こうから現れたのは――
パイルバンカー式破壊槌を抱えた生物が後ろへ下がる。慣れた仕草だった。
代わって前に出てきたのは、弓隊。
幾十の矢が放たれた!
次々とドワーフに突き刺さっていく。
「敵か?」
壁にへばりつき矢を逃れたドワーフが、目を見張る。
弓隊が左右に分かれ、道を開く。
中央から何十本もの槍が突き出された。
「かかれぇーッ!」
「ウオォォーッ!」
密集した槍衾が突進してきた。
流れる様な敵の連携に、手も足も出ない。
片っ端から串刺しになっていくドワーフ。
「ヤロウ共! これが歴史上最後の大戦だ! 敵を殺しまくれぇーっ!」
大男が大剣を振るう。
防刃宇宙服の上から愛用の金属鎧を纏ったベンドだ!
「オラオラッ! 手応えのある者はいねぇのか!」
出合う尻から一撃で屠っていく大男がいる。こやつも全身鎧だ。
「我が命の恩人であるエルフの方々に報いる為! ヴォッシュ参上! どんどんこーい! ウワハハハハッ!」
豪腕から繰り出される剛剣。ヴォッシュの一振りで、二人分の血肉が宙を飛ぶ!
「てめぇ! 恩に報いるとか言ってるが、本当のところは憂さ晴らしだろうが!」
「ちげぇねぇ! ウワハハハハッ!」
ベンドは各氏族選抜隊に命令を発した。
「一人も逃すなっ! 皆殺しにしろッ!」
長槍を構えた重装歩兵密集隊形がドワーフを踏みつぶしていく!
一方、ドワーフ艦の反対側はもっと悲惨だった。
もう一つの心臓部、広大な中央格納庫の隔壁が破られた。
大きな影が、一人のドワーフを覆う。
「へ?」
ドワーフが見上げると――
血走った目の魔獣が見下ろしていた。
太いドワーフの胴ほどもある足が四本。自重だけで1トン(サラブレッドで4-500㎏)を越えている。
全身を真っ赤な金属鎧で覆った「馬」という動物だ。
重装戦闘馬に跨がる真っ赤な全身鎧の巨人。馬と巨人の目が共に狂気の色を帯びていた。
ゲオル氏族の赤備えである。
それを目にしたドワーフに新しい感情が浮かんだ。その名は「恐怖」。
「蹴散らせェーッ!」
「ヒャッハーッ!」
ドガガガガッ!
ゴラオン家を散々に苦しめた、ゲオル氏族が誇る重装騎兵団が一気に駆けた!
ドワーフが四本足なのは重厚な胴体を支える為。とは言っても、所詮は0.15Gの世界。惑星ガイアの生物は、1.5Gの世界を生き抜いてきた者。
ガイアの生物が、10分の1の重力下に置かれた。ただでさえ有り余る蛮族共の体力は(相対的に)増幅され、超人的な活躍を見せる!
ドワーフたちは蹄に掛けられ、大剣で頭をブチ砕かれ、片っ端から肉片となって飛び散っていく!
ドワーフも手をこまねいて蹂躙されてはいない。バリケードを築き、重火器を撃つ。
たしかに何発か、騎兵および馬に命中しているのだが、一向に突進が止まらない。
血だらけになった騎兵が、馬ごとバリケードにブチ当たる。時速50キロで、1トン超の重量物が!
ドワーフを巻き込み、もんどり打ってから止まる。
誤って戦闘機へぶつかる重装騎兵もいた。転けたり凹んだりしたの方は戦闘機の方だった!
「かかれぇー! かかれぇーッ!」
「遠慮をすンなー! ここを逃したら、もう暴れるところはねぇぞー!」
「ヒャッハー!」
ドガガガガッ!
1500メットルの船を揺らしながら400騎の重装騎兵軍団が駆けていくッ!
「なんだ! 一体何が起こっている!」
ここはブリッジの二階部分・メインオーダールーム。ドワーフ幹部は混乱していた。
艦内各所よりの連絡が、次々と途絶えていく。
ドワーフ達に、白兵戦で追い詰められるという概念が無い。想定が欠如していた。
なので、まさか! である。予想はされても理解が付いてこない。
そして混乱は最高潮を迎えた。
サッカーコートほどの広さを誇るブリッジ一階に、邪悪な生物が躍り込んできたのだ。
一番乗りはゲオル氏族の重装騎馬軍団!
「殺せ殺せぇーぇっ!」
重戦闘馬が、ブリッジをグルグルと走りまくる。騎兵は長剣を巧みに操り、ドワーフの頭をかち割っていく!
「ヒーィヤッハァーッ!」
目が完全に逝ってる。口から泡を吹いている。
血に飢えた狂人の集団だ。
こうなったガイア人は疲れと理性を忘れてしまう。
ブリッジに血と汚物の匂いが充満していった。
「敵の大将はどこだぁーっ! 出てこーい!」
声の限りに叫びまくり走りまくるゲオル氏族族長。脳内麻薬に酔っている!
「そこかぁー!」
族長が見つけた。10メットル上で張り出したテラス状の二階部分。
そこへ至る道はどこだ! 階段は無いのか!
ドチャッ!
首と胴が別々に落下し、湿った音を立てて床で跳ねる。
なんだ?
ドワーフの死体だ!
「グハハハッ! 大将首はゴラオン家の勇者、ヴォッシュ様が頂いた!」
二階から顔を覗かせたヴォッシュ。実に嫌らしい笑顔だ。
隣には返り血を浴びたベンドが、乾ききった表情で剣を拭っている。
「遅かったな、ゲオル。大将首は頂いたぜ!」
「ちっ! 賭は俺の負けだ。潔く負け分を支払うぜ!」
金を賭けていたのではない。
頭を制圧した後、残党を探し出し燻り出し、チマチマと殺していく面倒くせぇ戦後処理の役割だ。
「ドワーフの船は制圧した! 者共! 勝ち鬨の声をあげよー!」
「うぉぉぉーっ!」
ベンドの音頭で、雄叫びが上がった!
「連中、やりやがったですよぅ! 初めてエルフが勝ったのですよぅ! ドワーフの宇宙空母を拿捕したのですよぅ! ダークエルフとドワーフの情報がごっそり手に入るのですよぅ!」
間もなくスキャニキャミーの絶叫が、エルフの里でも知れることとなろう。




