*.宇宙戦艦
ベンドは怒っていた。
リンナメンナを泣かせやがった!
ブッ殺してやる!
エルフの方々が仰る言葉は難しいからよく解らなかった。
でも、リンナメンナが泣いてしまう事態だ!
ドワーフめ! リンナメンナを泣かせやがって!
ブッ殺してやる! 八つ裂きにして馬で引きずり回してやる!
秘めたる闘志をおくびにも出さず、ベンドはマントを翻した。
大股で謁見の間を出ていく。
止めても無駄だ。彼は怒っている。
その幅広い背に、リンナメンナが声を掛けた。
「ドワーフを退けた暁には、褒美は望むまま」
彼女にできる精一杯の応援と感謝だ。
「それは楽しみ!」
後ろを向いたまま、獰猛な笑みを浮かべるベンドであった。
「さあ、面白くなって来やがったぜ!」
愉悦!
ベンドの体に流れる蛮族の血が、アツく燃え上がる!
エルフが出してくれたドワーフの予想進路に基づいて、ベンドは急遽改装改造した50隻の艦隊を配置した。
ドワーフは、エルフの護衛艦を950隻も沈めた経歴を持つ、屈強な氏族だ。
「あきらかに戦力が不足していますね。兄上、無謀ですよ!」
当然の様に付き従っているのは腹違いの弟、フアンである。無謀と言いつつ、嬉しそうにしているのは何故?
「ここしばらく、戦いらしい戦いがなかったからな。血が滾るぜ! がははは!」
腕を組んで笑っているのは勇者ヴォッシュだ。
「どいつもこいつも! 血に飢えた獣どもはこれだから困る!」
「血に飢えた獣だったら、掃いて捨てるほどいます」
フアンがパネルを操作し、僚艦を映し出す。
そこには、求めもしないのに戦場へ出てきたガイアの各氏族の船がゴロゴロしていた。
ベンドは、今回の戦いをガイアの各氏族へ伝えた。
微に入り細に入り説明した。まず生きて帰れないであろう戦であると。
だのに、我も我もと参戦の意を表明する。自分たちがどれほど役に立つか、勇敢であるかを訴える。全氏族が先陣を求めて喧嘩してしまう始末。
こいつら、戦いがなくなってしまったので、不満の捌け口を求めているだけだ……。
これが最後の大戦になる。この戦を逃すと、もう二度と大きな戦に参加出来ないだろうと。
参加各氏族に作戦と役割を伝えると、すんなり納得してくれた。
実に蛮族向けの作戦だった。
まず、死ぬ。それがウケた。
大多数の氏族が、同様の作戦を考えていたのもある。似通った者同士。みんな考えることは一緒だ。
斯様に楽しげな戦場を与えてくれたエルフの方々に、涙を流しながら感謝するバカもいた。
訳が分からなかった。
装備を調えるまで丸一日。翌日には飛び立った。ここまで2日。会敵予想まであと1日。
とある小惑星群の一つに本陣を構えた。割と近場にある小惑星帯である。
艦隊の中心部に大型艦が鎮座している。やたら目立つ金色の船だ。
火の鳥の紋章が、赤いペイントで派手に描かれている。
これならドワーフに見落とされるとは思えない。
フアンとヴォッシュは、すでに持ち場に配置済みだ。ベンドも細工を終えて旗艦の艦橋へ戻ってきた。
「ドワーフがこの艦隊を見落としませんか? あるいは素通りしませんかよぅ?」
この艦には、エルフの使徒、スキャニキャミーが同乗している。
不測の事態に対するサポートの為、エルフの技術省内武器開発庁より人型代理機械スキャニキャミーが遣わされたのだ。
見た目、動く女性型鎧。
顔面は情報集積装置で埋め尽くされている。
身長175㎝。ピンクと白の色使い。出るとこは出て引っ込むところは引っ込む。グラマラスである。さぞや、本体のキャミーキャミア様はいい女なんだろう!
なんでも、遠く離れたエルフの里より開発庁のキャミーキャミア長官がよく解らない技術で操作してるとか?
「魂が乗り移った入れ物とでも思っておけば良いのですよぅ」
――とだけ説明を受けた。
エルフの方々の技術は魔法みたいなものだから、そんなものであろうとベンド達は納得した。
万が一があったとしても、ただの入れ物だから心は痛まない。良きかな。
「素通りしてくれたら、喜んで後ろから襲撃させてもらうさ。わざわざ挟み撃ちにされる戦上手はいない。周辺の敵から討っていく。だから見逃されることはない。安心しろ」
「それは安心ですよぅ。……いや、安心じゃないですよぅ!」
翻訳機に不具合があるらしい。語尾が訛りっぽく訳されていた。
エルフから、ドワーフ艦発見の連絡が入ったのは4日目。予定より1日遅い。
アテン恒星圏外――、ヘリオポーズ外に超時空間アウト(いわゆるワープ・アウト)。高速でこちらに向かっている。との事。どうやってドワーフを探知したのか解らない。エルフの不思議な力だ。ってことで納得しておく。もはや魔法の領域。
念を押すが……、
超時空航法は、恒星圏内で使いものにならない。
恒星風だとか、各惑星の配置や重力、微少なデブリなどが邪魔になる。そういったのに影響されると、自艦が損傷する可能性が大きい。まず間違いなく重大な損傷が発生するのだ。
やってやれないことはないが、戦闘前に自爆したらどうするのって話。
派遣艦は1隻。
1,500メットル級。顎門が張り出した黒いカゲロウ型。
補助艦は1隻も連れていない。嘗めてくれる。
過去の戦闘経験から、これでも過剰戦力と判断したのだろう。
「1日早いが、何とかなるだろう。全艦に連絡だ! 繋いでくれ!」
「はいですよぅ!」
ベンドの指示により、蛮族共の船すべてにベンドの画像と音声が流れた。
「野郎共! 戦いの時は来た!」
「オーッ!」
威勢が良い。
「これが最後の大戦だ。もう二度と戦は無いと思え! 思いを残す様な戦はするな!」
「オオーッ!!」
どんどんと足踏み。
皆、血がはやる!
「俺が死んでも戦は止めるな! 俺の屍を盾に使え!」
「オオオーッ!!!」
ボルテージはガンガン上がって行く!
「タイミングを間違えるなよ! 間違ったら戦えねぇぞ!」
「おっ、おおー!」
何人かは抜け駆けを狙っていた様だが、戦えないと聞いて自重した。
「戦闘機、多数確認! ほんとに来たですよぅ!」
暇だという理由で、スキャニキャミーが探査を受け持ってくれた。
「敵母艦の位置は!?」
「バッチリですよぅ。ゼスタの昼面を背にして接近中ですよぅ!」
「太陽を背にした者が有利。やるな!」
ベンドはやたら嬉しそうに唇を嘗めていた。
ゼスタとはアテン太陽系第5惑星。巨大なガス惑星だ。(エルフが命名)
「呆気ないですよぅ。敵を見つけるのに、もっと時間がかかると思っていたですよぅ」
「姿を見せることで俺たちを焦らせるとか、作戦の急な変更を誘う……こともできる。子供騙しだな。可愛い連中じゃないか!」
「そんな優しい相手じゃないのですよぅ!」
「あっちがウブなガキなら、こっちは馬鹿の集まり。バランス取れてるぜ、ガハハハ!」
焦っているのは、素人のスキャニキャミーの中にいるキャミーキャミアだけのようだ。
「まもなく我が先鋒艦隊と敵戦闘機が会敵します!」
「ドワーフ共の相手は、エルフの方々とは違う。俺たちだってことを思い知ることとなろう」
ベンド、並びにガイアの蛮族共は、そろって嫌らしい笑みを浮かべるのだった。
「さあ、お遊びの時間が始まったぜ!」
割烹にも上げましたが――
体調不良につき(コロ助じゃないよ)、しばらくお休みを頂きます。
第一章は書き上がってましたので、戦いの趨勢は最後までお届けできます。
あと、間話的なのが何話か。
すべて投稿予約しておきます。
皆様、ご了承の程を。




