*.ドワーフ
「ダークエルフは、用意周到で執拗です。自分たちが滅んだ後も、取りこぼしがないようにと、次の手を討っておりました」
「……追っ手ですか?」
ベンドなら必ず追撃戦を指示するだろう。
「その通り。かの者達は、エルフだけを狩る狩人を『造り』ました。戦闘だけに生きる人造命体、その名も『ドワーフ』」
「ドワーフ?」
変な生き物の立体画像が浮かび出てきた。
「胴体は樽の様な円柱。四本腕の四本足。意図的に醜く作られた顔の造作。異形の戦闘生物兵器ドワーフ」
ははぁー!
ベンドはダーク・エルフ共の醜い一面を察知し、嫌悪感をあらわにした。
エルフは皆美しい。反面として、自分たちが作る奴隷共は醜く作らねば気が済まない。 なんという高慢な選民思想。気持ち悪い。ダーク・エルフ共に獣臭を感じ、鼻に皺を寄せる。
「ここに辿り着くまでに、幾つか候補になる大地を見つけたとおっしゃったが、もしやドワーフに邪魔された?」
「その通りです。ミュイ=ファン=ガランを警護する護衛艦の多くを失いました。追ってくるドワーフの艦隊の目から逃れる為、姿を隠し、そのため、候補地に手を出せなかったのです」
「さらに追い打ちを掛ける出来事があるのです」
「なんですか?」
「ミュイ=ファン=ガランに寿命が来てしまいました。今まで修理に次ぐ修理で耐え忍んできましたが、千年の時は過酷すぎました。月をエルフが住めるまでに作り直すことは簡単です。ですが機材の在庫数に限りが有り、改造できるのは一回だけ。失敗は許されないのです」
つまるところ――
「後がないのです。我等エルフは、これ以上旅を続けることができないのです」
各種航行機材や、ミュイ=ファン=ガランの構造材、全情報遮蔽化機材、その他機器に寿命が来たというのだ。
「もはやエルフは隠れることも逃げることもできません。残された手段は、ミュイ=ファン=ガランの設備を移設し、新たな土地で隠棲する事のみ。実のところ、リンナメンナが地上で遭難したちょうどその時、ドワーフの無人偵察艇がガイア近辺に出没しておりました。遭難して5日の間も救援を出さなかったのはそのためです」
出さなかった……か。女王として、皇太子の捜索を控えよと命じたのだな。
「おかげでドワーフの目から逃れる事が出来ました。諦めていたリンナメンナも帰ってきました」
エルフの方々でさえ、逃げ回ることしかできなかった。
ドワーフは脅威だな……。
……一度戦ってみたいな。
ベンドの心の深いところで、静かに炎が灯る。決して気づかれぬ小さな炎だが、極炎の熱を持っていた。
「このような事をお話しできるのは、ベンド陛下だけでしょう。我等エルフはベンド陛下のガイア人と共に生きることを決めました。それもこれも、リンナメンナの勧めによるもの。これからは新しい女王リンナメンナと共に歩まんことを願います」
――女王の、長い話は終わった。
ばらけてエルフの里を見学していた使節団の面々も帰ってきた。
フアンと従兄弟は、思案顔で。
ヴォッシュとゲオル氏族と叔父は、青い顔をして。
ミルケル氏族は、やたらハイテンションで。
アドルは知恵熱を出して。
ビアンは……「おまえ、だれだ?」「ビアンよ! ビアン!」艶々とした肌と、流れる水の如き髪。エルフ氏族特有の一体化した服に、長いコートを羽織ってる。まるで別人だ。
(後日、この服を元にした服装がガイア人上流女性の公的な行事における正装となる)
「少し早いですが、晩餐に致しましょう」
晩飯と聞いて、浮かれ立つガイア人親善使節団。昼であそこまでの美味しい料理。
晩餐であればどれだけ豪華な料理が出るのだろう。
そう楽観していた時期がベンド達にもありました。
出てきた料理は至高の逸品ばかりだった。
白磁の食器。金やコバルトブルーが食器の縁を彩る。
野菜が甘い。口に入れるだけで溶ける肉。薫り高き透明なスープ。真っ白なパン。
どれもこれも、エルフの方々は音を立てず、優雅に食べていく。
それに比べ、ガイア人と来たら……といっても、エルフの誰もが誹らない。招待客のことを第一に考える優しい姿勢。
それが痛かった。そして有り難かった。
食べ方やマナーが分からなかったので、リンナメンナの真似をして食っていくのが精一杯。
ひとり、執事長のアドルだけが、貪欲に知識を吸収していった。
今後、エルフの方々の接待はこいつに任せよう。ベンドは固く、固くご先祖様に誓った。
日が沈んだ頃、ゴラオン城へ帰ってきた。
大地に下り立ち、ガイアの重力の力とやらを再確認すると、いままで浮かれていた気分が吹き飛んだ。
これから、大事業が待っている。
弟フアン、従兄弟、叔父、ゲオル氏族の王と跡継ぎ、ミルケル氏族2名、執事アドル、愛妾ビアン。
彼らが、ゴラオン王ベンドを中心に、新しきガイアの時代を作っていくのだ。
ベンド達の戦いは始まったばかりである。
「ベンド様、わたし、沢山子供を産みますわよ」
「え?」
ビアンがベンドの腕をとってきた。
「新しい次代を担う新しい人材。信用がおけるのは、陛下の子供だけです」
ビアンなりに未来を見据えているのだろう。
「そうそう、わたし以外にもう5~6人ばかり、側室をお作りあそばせ。そうね、沢山子供が産める女が良いわね!」
「…………え?」
ベンドの戦いはこれから始まるのであるッ!




