【紙コミックス発売記念SS】謁見の間カエルだらけ事件3
いつもお読みいただきありがとうございます!
これで完結です。
あまりにアホっぽい内容になってしまったので他のSSもアップしようかな……。もうちょいほら、恋愛をね……。
窓を開けるとまたカエルが入ってくる可能性があるので、窓を閉めた状態で行う。もちろん、カエルの捕獲を。
捕まえたらケースに入れて何匹か集まると、池へと放しに行く。その繰り返し。一体、何往復しただろうか。
「殿下、カエルが増えすぎです。また学園にでも」
「学園も当直の教師が夜眠れないって。カエルの鳴き声で」
「どこの都会出身ですか。王都から少し離れたらカエルの合唱など日常の騒音の一部」
「じゃあどこがいいかな。あぁ、バイロン公爵家ならここから近いし噴水も池もあるし。カエルたちにとって環境はいいね」
「やめてください。これ以上バイロン公爵の心象を害するわけには!」
「じゃあゼンのところにする?」
「母が発狂するのでやめてください」
総勢四十匹のカエルを庭と池に放して、王太子殿下の側近たちは疲労困憊だった。
「まさかカエルを追って駆けずり回る日が来るとは」
「特別手当欲しい」
「カエル手当」
「カエル捕獲手当」
「殿下の尻ぬぐい手当」
「それにしてもさ、子供ができたらカエル捕まえられるな」
「その前に奥さんも婚約者もいないけどな」
「おい、現実突き付けんなよ」
カエルを追いかけて捕まえて、を繰り返して疲れた。足がガクガクしている。
子爵様に疑問を抱かせないために踵のある靴を普段通り履いていたのは良くなかった。いかにもカエル捕獲します!って恰好で行くと怪しいものね。途中で脱ぎはしたんだけど。
ゼインも心なしか疲れた顔をしている。満足げな表情なのはアシェルのみ、といったところだ。
「うまくいったね」
「悲しいことにうまくいきましたね」
「エリーゼもカエル捕まえるの上手くなったね」
「殿下、それ誉め言葉じゃありません」
「動作の予測がしやすくなりました」
「ほら!」
「そんなに目をキラキラさせないでください。二匹しか捕まえられなかった自分が情けなくなるじゃないですか」
「エリーゼは十匹も捕まえてたぞ」
「捕まえるのに必死で。そうでしたっけ?」
「環境適応能力ですね」
クリストファーから、宰相と王妃が話を聞いて子爵は満足して宿に帰ったと報告を受けて全員で安堵する。
「では、謁見の間はこれから掃除が入りますので」
「あれだけバタバタしたもんな」
「ついでに調度品も動かしたから埃がな」
「明日のことは……もう明日考えよう」
「明日のエリアス殿下に期待だな」
「お疲れさまでした~」
「溜まってる仕事片付けなきゃ」
「おい現実に戻すなよ」
王太子殿下の側近たちは兄も含め、ワイワイ言いながら出て行った。
「僕たちもそろそろ戻ろうか」
「あ、はい」
座り込んでいたアシェルとゼインが立ち上がったので、私も立ち上がろうとしたがよろけてしまう。
「大丈夫?」
「あ、えっと。足が……」
足に力が入らない。残念ながら日頃の運動不足とヒールのせいだ。
「あぁ、そっか! 走り回ったからね」
アシェルは分かったと言わんばかりの顔で側にかがんだ。体が宙に浮く、不安定な感覚。
「え?」
「歩けないんだろう?」
「いえ、歩けます!」
「大丈夫、大丈夫」
アシェルに抱えあげられている。これはいわゆる……お姫様抱っこだ。
「重いので大丈夫です!」
「落としちゃうかもしれないからじっとしててね」
「ほ、ほんとに重いので!」
お姫様抱っこされて重いなんて感想を持たれたら羞恥心で死んでしまう。
ゼインに止めてもらおうと思ったが、なぜだか明後日の方向を向いていた。
「どうした? ゼン?」
「たった今、首をひねってしまいました」
ひねってないでしょう! さっきまで普通に前向いてたのに!
「大丈夫? 医者に診せる?」
「大丈夫です。あとそうですね、十五分ほどでもとに戻ります」
「すごいな」
だからそれはひねったって言わないから!
グラグラして危ないので、観念してアシェルの腕と胸に身を預ける。動き回ったせいかアシェルの汗と体温をじんわり肌に感じた。
いや、その前に目のやり場に困る。お姫様抱っこってどこを見ればいいの。上を見たらアシェルの顔が見えてしまう。進行方向を見ていたらすれ違う城の使用人たちの驚愕の表情がありありと見える。
だんだんアシェルの体温が自分を侵食してくる。恥ずかしくてアシェルの胸に顔をうずめた。
自分ばかりドキドキして、アシェルはいつも飄々としている。どうしてこんなに平気でお姫様抱っこができるの。いつも平気で予想というかハードルを易々と超えて来る。それがずるく感じてしまった。
「お嬢様。起きてください。お嬢様!」
遠くでメリーの声がする。
「お嬢様! 今日はお城でアシェル殿下と会うのでしょう!」
え、ここは? 視界が明るい。
「うなされておいででしたよ? 嫌な夢でも見ましたか?」
「嫌な夢というか……」
夢というにはとてもリアルだった。カエルが謁見の間で跳ね回るところなんて鮮明に覚えている。あのお姫様抱っこも。体温も。
「私、昨日お城に行ったわよね?」
「いいえ。昨日は一日家にいらっしゃいました。あら、お顔が赤いですが体調が悪いですか?」
「ちょっと暑いだけ」
やけに鮮明なあの事件は夢? 夢だったのかしら?
寝ぼけているのかとメリーに聞かれながらぼんやり支度をして、城に向かう。
「エリアス王太子殿下と国王陛下が発熱です」
夢の中と同じシチュエーションが繰り返され、まさか予知夢だったのかと混乱したのだった。




