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【書籍発売記念SS】ピュアな王子様

書籍発売記念のSSです。

ゼイン視点です。


アシェルとエリーゼの婚約披露のための夜会がしばらくしたら開催されるという頃。



ゼインはそっと目の前を盗み見る。


「ん?」


ばっちり目が合ってしまった。ご機嫌でヘビの本を読んでいたと思っていたのに。


「ゼン、これ最高だと思わない? グリーンパイソンだって。綺麗なヘビだよね」


いささかどころか、かなり同意できかねることをアシェルは言う。


のぞくと図鑑には確かに綺麗なグリーンのヘビが描かれている。ただ、なんとなく同意してはいけない気がしてゼインは口ごもった。このヘビは絶対に「触るな危険」なやつだ。だって、とぐろの巻き方がえぐい。

でもこの人が飼うと大丈夫なのか。だってこの前まで部屋で飼っていたオランジェットはヘビなのにカエルを食べないし。いや、でもやっぱり同意はできかねる。


ゼインが口ごもったのでしばらく沈黙が下りる。

ヘビの話をする気はないのでこの際、気になっていたことを振ってみる。


「殿下はエリーゼ嬢みたいな方がタイプだったとは意外でした」


「ん? 僕にはタイプはないよ」


「ないんですか?」


「タイプなんて言ってたって叶うわけないんだから。タイプって理想の女性像だろう? 持つだけ無駄だよ」


「なるほど。他人に自分の理想を押し付けたくないと」


そういえば、とゼインは思い出す。アシェルは諦めているようでかなりピュアなのだ。ピュアだから現実の残酷さを前に諦めたとも言える。


「そうだね。父と母や兄を見ても政略結婚なんだ。どこに理想を抱く余地があるんだか。スチュアートもやらかしたしね。父と母もオシドリ夫婦なんて言われているけど、二人きりになると口もほとんど利かないしさ。大体、オシドリって毎年パートナー変えるんだよ? 知ってた? もうそれを知ったらショックでね」


スチュアートがやらかしたのはナディアへの劣等感が発端な気がするが……っていうかオシドリってそうだったのか。ゼインはオシドリまで持ち出すアシェルのピュアさにちょっと感心した。


「どうして婚約者をエリーゼ嬢にされたんですか? 何かお考えがあったんですか?」


「うーん、言葉にするのは難しいな。僕は婚約者が決まっていなかったし、スチュアートがやらかした以上、国内の貴族と結婚するのかなと感じてはいたよ。婚約者は騒動に関係のあるご令嬢達の方が良いのかなとも考えたけど。可能性として考えただけで絶対にそうしようと思ったわけじゃない」


「ナディア嬢には婚約を断られましたからね」


「そりゃ断るよ。なんでスチュアートがやらかしたのに同じ王家の僕との婚約を薦められるのか。父上の考えることはよく分からないよ」


「まぁ普通は嫌がりますね。かなり前にアシェル殿下はヘビと日向ぼっこしているところをナディア嬢に見られていますからね」


「そんなこともあったね。ゴミを見るような目で見られたよね」


アシェルとナディアは小さい頃から面識がある。スチュアートとの交流のために登城していたナディアと「ヘビと日向ぼっこをしたい」という謎の願望でヘビを首に巻き付けて庭に出ていたアシェルが、偶然遭遇したのだ。

その時のナディアの顔と言ったら……悲鳴をあげて逃げ出さなかったところはさすがだが。

ゼインにはあれはゴミを見る目というより、完全な“無”に見えた。


「あれを見て逃げ出さなかったのは……ナディア嬢と現在の侍女長くらいかな」


「懐かしいですね」


現在の侍女長はあの当時はまだまだ新入りのペーペー侍女だった。アシェルが首にヘビを巻いて日向ぼっこと称することをしているところを見た彼女は、王子がヘビに襲われていると思い勇敢にもヘビをひっつかんだわけだ。完全なる勘違いだったわけだが、ヘビをも掴む忠誠心を買われて出世街道を突っ走り、現在は侍女長である。ちなみに、ヘビを掴めなければ侍女長になれないなんていう変なウワサが一時期出回ったのが唯一の弊害だ。


「フライア嬢も悲鳴はあげないと思いますけどね」


「フライア嬢は気が強いからね。正義感に溢れていて情に厚いけど。僕とは合わないよ。お友達ならいいけど」


なるほど。よく見ている。


「ではクロエ嬢は?」


「あの子、弱そうに見えて僕の兄みたいに強かそうじゃないか。ちょっとね。ヘビとか飼わせてもらえないかも」


確かに。というか兄みたいに強かって褒めているんだろうか。


「ブルックリン嬢は婚約者とそのままなので……やっぱりエリーゼ嬢は消去法で決めたんですか?」


「違うよ。仮面舞踏会の時は本当に偶然」


「なるほど……?」


「婚約者が侯爵家出身よりも伯爵家の方が発言力も弱いし、兄の邪魔になりにくいだろうとか。めんどくさい輩が湧きにくいとかってことはそりゃあちょっとは考えてたよ。でも、恋愛って頭でするもんじゃないからね」


これは惚気られているのだろうか。姉達から恋愛小説を無理矢理読まされたゼインでも分からない。


「最初は自分の意見がない子だなって思ったけど。意見がないわけじゃなくて言わない、いや言えないだけだったね」


「そうですね」


なんだか惚気が始まりそうな気がする。そんな予感がする。


「ちゃんと意見があるって良いよね。あとは偏見が少ないところも良い。最近、ヘビ以外は触れるようになってくれて嬉しいな」


この人って好きなもの(ヘビ・カエル・トカゲなど)は共有したいタイプだよな……。今日なんかわざわざエリーゼ嬢と一緒に食べようとマンジュー作らせてたし。ていうかヘビより先にカエルには触れるって令嬢としてどうなんだ。


「剛毛が悩みみたいで、僕の髪を羨ましそうに触ってるとこも可愛いよ」


やばい、だんだん惚気が本格化してきた。

早くエリーゼが王妃殿下とのドレス決め(婚約披露用)から帰ってきてほしいと思うゼインであった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

本日、書籍発売です。加筆や修正で約4万字足してます!


挿絵(By みてみん)

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