後日談:フライア視点6
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「えーとですね、フライア嬢。ここにいるのは私も含めて殿下の側近達です。私以外は婚約者も恋人もいません。それで、王太子殿下がフライア嬢の婚約者がいないということで、勝手に側近達とお見合いを企画した次第です。私は見ての通り、この後の進行を丸投げされました」
エリーのお兄さんは疲れた様子で言う。というか側近達は全員疲れた顔をしている。大丈夫なの?これ。
「お嫌でしたら帰って頂いて問題ありません。王太子殿下の単なる思い付きなので。いや、最悪あの方はお酒のお礼とか思っていそうですが」
「はぁ……」
「女侯爵になるフライア嬢のところにはさまざまな家の次男以下から釣書が殺到するに違いありません。その中には既に婚約者のいる令息達もいるでしょう。ウェセクス侯爵家との縁欲しさに婚約を解消してまで取り入ろうとする家も少なくはないと予想しています。そのため早めに婚約者を決めておかれた方が無用な混乱を避けられるかと」
「それはそうですわね」
「元婚約者のストーン侯爵令息からまだお手紙が届くのでしょう?」
「最近は私の目に触れる前に送り返されているみたいなの」
「フライア嬢が侯爵家の後継ぎと正式発表されたらまた面倒なことが起きるかもしれません。王太子殿下は一応そこまで考えておられます」
「私もそれは分かっております。こんなことになったのは意外だけど帰る気はないの。婚約者は早急に決めた方が良いので、丁度良いチャンスだと思っておきますわ」
ハッキリ言って、王太子の懸念は尤もなことだ。それに集団お見合いならチマチマ一人ずつ会う必要が無くて丁度いい。側近なら能力は一定以上なのだし。侯爵家の力で調べれば済むが、その段階を飛ばせるなら話は早い。
「怒られるかと思っていましたが安心しました。妹やゼインくんに聞き込みをしたのですが、フライア嬢はあまり年の差がない方がタイプということしか分からなかったので……ひとまず年のあまり離れていない者を集めています」
そんなこと言ったかしら? 男性のタイプって元婚約者以外なら誰でもOKと思っていた時期もあったものね。
「私にとって最も重視するのは浮気しないことですわ。愛人などもってのほかです」
すると、エリーのお兄さんと側近五人は見事に全員、首を横に振る。しかも方向や速度まで一緒だ。ちょっと面白い。
「フライア嬢……はっきり言います。私達に浮気をする暇などありません」
「確かに皆さん、疲れた顔をしていらっしゃるわね」
「はい。浮気をする気力も労力もありません。そんな時間があったら眠ります」
「休みたい……」
「眠い」
「休み……休暇……キュウカ……」
今度は全員が首を縦に振る。本当に大丈夫なのかしら。この職場。
「現在、第三王子のやらかした案件の余波で殺人的に忙しいのです。段々落ち着いてきてはいますが、みんなこんな状態です。あんな侯爵家やこんな侯爵家の役職替えがあったので」
「なるほど……それは……何て言ったらいいか分からないわ」
エリーのお兄さんは咳払いをしてから令息達の紹介を始めた。
「ええっと、彼はハウゼン伯爵家の三男です。側近の中で一番の目利きですね。伯爵が奥方を亡くされてから詐欺に騙されやすくなり、彼が必死で阻止していました。宝石や骨とう品の偽物も分かります。王太子殿下がわざと偽物の装飾品を付けて学園に行き、周りがほめそやす中で彼だけが偽物に気付き進言してしまったため、不幸なことに側近になってしまいました。第三王子と同じ名前であることを大変気にしているので私どもはアートと呼んでいます」
頼りなさそうな男性がペコリと頭を下げる。それにしても王太子殿下の側近って不幸なことなのかしら。みんな疲れているけど辞めずに働いているわ。
「こちらの彼はウォーカー伯爵家の次男です。ウォーカー伯爵の浮気癖は大変有名なので彼は浮気しないこと間違いなしでしょう。側で見てウンザリしていますからね。彼は最初アシェル殿下の側近になる予定だったのですが、語学のテストで学園史上最高点を叩き出してしまったので不運にも王太子の側近となってしまいました。カエルとヘビが大の苦手であるだけでなく、本当に虫も殺せない男です。ある意味、アシェル殿下の側近にはならなくて良かったのでしょう。データ分析も得意です。名前はナイジェルです」
線が細くて神経質そうな男性が頭を下げる。確かに虫は殺せないだろうな……と想像できる。
「彼はロビンソン子爵家の次男です。名前はポールです。武芸に秀でたロビンソン子爵家らしく彼も武芸は嗜んでいますが、計算と速読の方が得意なので不幸にも学園時代に王太子殿下に目を付けられて側近にされてしまいました。王太子殿下も速読をされるので、書類処理能力が王太子殿下並みなのは彼だけです。剣の腕はゼインくん位あるでしょう」
他に比べて逞しい男性が座ったまま、ギギギっと音がしそうなお辞儀をする。緊張しているのかしら。子爵家なら侯爵家と関わることなんてそんなにないものね。
あとの二人も紹介されたが、男爵家の次男・三男でとんでもなく緊張した様子だった。
まずは話してみないと分からないわね……。




