後日談:フライア視点3
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書籍化が決定しました。
さて、困った。
何が困ったかって? お母様は意気揚々と実家に帰って行ったし。うちの侍女たちは甲斐甲斐しく私のお世話をしてくれるし。元婚約者が押しかけてくることはないし。
困ったことはない、平和なように見えるけど……問題はアレだ。アレ、ほんとアレ。
父が城から帰ってこないことだ。
お母様は遣いを出したから数日中に帰宅するはずって言っていたのに、あれから1週間以上経っても父が帰ってこないのだ。
私も数回手紙は出したが、そこはスルーされている。普段通りに仕事をしているのは遣いに出した使用人の目撃情報で分かっているのだが。
「お父様ってこんなにヘタレだったのね」
「いえ、まぁそんなことは……」
「だって後継ぎの変更には諸々の手続きが必要なのに。帰ってこないなんてあり得ないでしょう」
私がグチグチと愚痴っている相手は我が家の執事であるオーウェンだ。ちなみにオーウェンはベッドの上で丸まって身動きが取れない。困惑した表情で、時々痛みに顔をしかめている。
オーウェンは代々うちに仕えてくれている使用人の一族で、父と幼馴染の様に育った。お母様に父の浮気やお酒コレクションの場所を詰め寄られ、暴走するお母様を止めようとしてこちらもぎっくり腰になってしまったのだ。
しかし、デキル執事なオーウェンは痛みに耐えて数日間普段通りに仕事をしていたのだ。そしてぎっくり腰が悪化し動けなくなって今に至る。
「そんなに浮気がバレてお母様が怖いのかしらねぇ。だったら最初っから愛人なんて作らなければいいのに」
いまさらこんなことを言っても後の祭りなんだけどね。
「ふがいないことに私も気づきませんでした……怪しいなとは思ったことはあるのですが決定的な証拠はなく……」
デキル執事のオーウェンでも父の浮気には気付かなかった。なぜなら父が領地の仕事をうまいこと押し付けて感づかれないようにしていたらしい。それにしても愛人の存在にほんとによく気付いたな私。
ちなみにオーウェンはお酒コレクションの場所は知っていた。でもお母様に口は割らなかったのだ。あの剣幕のお母様相手に、だ。お母様もそこは大変評価しており「彼は信頼できる!」と太鼓判を押して実家に帰って行った。口を割らなかったからぎっくり腰になった気がしなくもない。
「帰ってこないならお父様のところに乗り込むしかないわね」
以前、後継者ではないのに後継者になろうと偽造書類を提出した人がいたせいで変更手続きは煩雑なのだ。まず当主が書類を出しに行って、次に変更される後継者が出しに行って……なんていろいろある。
でも乗り込むと言っても逃げられる可能性があるし、城の父の仕事部屋に入るのも私では難しいわね。
「お嬢様、その件ですが」
「いやいやオーウェンはちゃんと安静にしててよ。ぎっくり腰って繰り返すんだから」
「1つ案がございます。お嬢様は第2王子の婚約者様と親しくなっておられましたね?」
「エリー? 前の婚約者と婚約してた時から親しくしてるわよ」
オーウェンの案を聞いた私は考え込んだ。友人を利用するようで気が引けるが、父を逃がさないためには確実だ。持つべきは権力のある友人なのかしら。エリーとはそんなつもりで仲良くなったんじゃないけど、近々会いに行こうと思っていたから相談だけしてみよう。
執事の名前が他キャラと紛らわしかったため、オーウェンに変更しました。




