後日談:フライア視点1
お読みいただきありがとうございます!
どうも。ご無沙汰しております。フライア・ウェセクスです。
ずっとエリーの所にいるわけにいかないのは分かっていたんだけど、さすがに実家から手紙(帰還命令)がきたので仕方なく……とっても仕方なく馬車に揺られて帰っております。
虚空に話しかけるくらい憂鬱だけど、仕方がない。田舎でスローライフ、超良かった。もうずっとあそこにいたいわ。アシェル殿下がいなかったら私はエリーとあそこで暮らすわ。はぁ……。
馬車が屋敷に到着して、思わず「よっこいしょ」なんて言いたくなる。エリーの家の領地ではこれまであまり話してこなかった平民たちといっぱい話したから。これは農作業をお遊び程度に手伝った所のおかみさんがよく出していた掛け声だ。
ちなみにその農作業、アシェル殿下も喜々として手伝っていた。というか、あの2人、大丈夫なのかしら。
いや、仲が険悪とかそういうんじゃないのよ。ほっこりした雰囲気を2人で醸しだしてるけど。けどさ~、手くらい早く繋ぎなさいよ!あんたら何歳児よ!って言いたくなるわ。いつまで2人でオタマジャクシやカエルの話しながら、領民たちに生温かく見守られて農作業手伝ってんの!もう、熟年夫婦みたいじゃないの!って感じ。
私がいなくなって進展してるといいんだけどね。とりあえず手を繋いでデートくらいは行って欲しい。なんだか私、小姑みたいだわ。
「おわっ……」
屋敷に入ると令嬢らしからぬ声が出てしまった。もう小姑かもしれない。
屋敷は出てくる前よりかなり殺風景……シンプルになっていた。
いつも屋敷に入ると脇に活けてある花々の良い香りがしたものだが、今はその花瓶がどこかへ出かけている……いやこれ絶対、お母様が割ったのよね。切り裂かれた肖像画も壁から撤去されており、異様に屋敷が広く感じる。
そして、階段の前ではお母様がこちらに背を向けて仁王立ちしている。
またも令嬢らしからぬ声を上げそうになるのを耐える。完璧に小姑になるわけにはいかない。
「あら、早かったのね」
お母様が振り向いた。なぜか片手に細身の剣を持っている。やばい、また変な声出そう。
「ただいま戻りました」
「早く戻ってくれて良かったわ。じゃあ、あとはよろしくね。私は実家に帰るから」
「え?」
とうとう離縁か? 離縁なのか?? という疑問が頭を駆け巡る。
そのとき侍女頭が荷物を持ってやってきた。
「奥様。準備は整いましたが……お嬢様が驚いておいでです」
なぜか侍女頭のエテルがお母様を見る目には尊敬どころか崇拝が混じっている。
「あ、そうね。手紙にはしっかり書かなかったものね。えーと……そうそう。あなたが突き止めてくれた愛人は追い出したわ。ヘタレな旦那様にも土下座をさせたけど、愛人宅を取り壊してから私が怖いのか仕事で王宮に泊まり込んで帰ってこないのよね。まぁそれはいいんだけど」
いや、いいんかい。愛人宅を取り壊したとか突っ込みたいところはあるけど、口は挟まないでおく。なぜか侍女頭エテルをはじめ集まってきた女性使用人達はお母様に崇拝の目を向けている。なんじゃこりゃ。
「そうそう。ロナウドがあっちで婿入りするから。うちはあなたが継ぐことになったのよ」
今日はいい天気ですね。紅茶が美味しいですねのノリでお母様は言う。
「ほぇ??」
あ、ついに変な声が出てしまった。ロナウドとは他国に留学している私の兄ロナウド・ウェセクスである。鉱物大好きオタクで念願の留学をして研究しまくっていると聞いていたが……。帰ってきて家を継ぐもんだと思ってたよ、お兄様。私が元婚約者と結婚していたら、私は領地の一部を運営する話になってたのに。




