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お読みいただきありがとうございます!
これにて完結ですが、ナディアのその後やら、後日談・補足的なものを番外編でアップ予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
扉は大きく開けてあるが、ナディア様とフライア様は出て行ってしまった。
もちろん殿下の護衛の方々は残っているけど、空気の様に気配を消している。
「ヘビの名前はクッキーというのはどうだろうか?」
指を顎にかけて私の方を見ていたアシェル殿下はなぜか、この期に及んで、ヘビの名前を持ち出してきた。
「食べ物以外の選択肢はないのでしょうか?」
「ヘビにネコなんて名前を付けるわけにはいかないだろう? 紛らわしいし」
そんな話はしていないのだが、まぁいいか……。さっきまでは呆然としていた頭が段々クリアになってきたが、今度は脱力感に襲われる。
「以前、ゼイン様が案を出していたマンジューが面白いかもしれません。オランジェットとマンジュー……呼びやすいと思います」
「オランジェットとマンジューか。こうして呼んでみると案外、良いものだ。そうしよう」
ふんふんと嬉しそうに頷き、アシェル殿下は書類に目を落とす。
「それで、婚約についてはどうしたい?」
ヘビの名付けの流れで聞くのか……と、さらに脱力したが、書類に目を向けているアシェル殿下の頬が、ほんの少し赤くなっていることに私は気付いた。
「私で良いのですか?」
白い肌にさす赤にわずかな期待をかけながら、私は質問した。若干声が震えてしまった。
「君としかヘビの名付けの話などできないだろう。それに私で、などと言わない方がいい」
アシェル殿下は書類から目を上げた。ナディア様とは少し異なる青い瞳。
「バイロン公爵家で会った時から面白いと思っていた。色々話してみて、これから先、一緒に生きていくとしたら君がいいと思った。そうしたら、兄が君の元婚約者に不穏な動きがあると言っていたから書類を準備して今日ここに来たんだ。まさか、元婚約者が来ているとは思わなかったが」
アシェル殿下はまた書類に目を落とすと、さらさらと自分の名前を書いた。
さっきよりも殿下の頬は、気のせいではないくらいには赤くなっていた。
マイペースでロマンチックの欠片もない。しかもここに来る途中でヘビまで捕まえてくる。
でも、すべて殿下らしくて私は思わず声を出さずに笑ってしまった。
アシェル殿下の不器用な言葉の中には優しさが宿っていた。
「我儘を申しても良いでしょうか?」
「良いが……ダメと言われてもマンジューは連れて帰るから」
なぜそこでヘビの話になるのやら。
「ヘビのことでどうこう言う気はありません」
またも笑いそうになりながら私は答える。
「もう一度、目を見て言って欲しいのです。先ほどの言葉を」
「どの言葉だ?」
「一緒に生きていくとしたら……という言葉です」
アシェル殿下は、はぁとため息のような息を吐く。
「結構勇気がいるのだが」
しばらくアシェル殿下は黙ってから、私に再度、言葉を紡いでくれた。
彼の頬は赤かったが、私の頬も熱を持っていたはずだ。
震える手で書類にサインをし終えると、フライア様が「おめでとう」と泣きながら部屋に飛び込んできた。
ナディア様とゼイン様も苦笑しながら入ってくる様子を見ながら、もうグリーンの瞳のことは私の頭の中から消えていた。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
【書籍・コミック配信情報】
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「憧れの公爵令嬢と王子に溺愛されています⁉婚約者に裏切られた傷心令嬢は困惑中」
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